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信じることが引き起こした奇跡 『ラーゲリより愛をこめて』「きもの de シネマ」vol.21

信じることが引き起こした奇跡 『ラーゲリより愛をこめて』「きもの de シネマ」vol.21

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。今回ご紹介するのは、年末映画の中でもとくに注目を集めている実話を元にした『ラーゲリより愛を込めて』です。

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信じることを諦めない、愛こそが力

迫り来る歳の瀬に、気忙しい日々をお過ごしのことと存じます。
ごきげんよう、椿屋です。

戦争映画がお好きな方も、苦手な方もいらっしゃると思いますが、『ラーゲリより愛を込めて』は、たしかに戦争に翻弄された人々を描いてはいるものの、歴とした人間賛歌の物語でございます。

再会を願い続けた主人公・山本幡男(二宮和也)とその妻・モジミ(北川景子)の、11年にも及ぶ愛の「実話」なのです。

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

タイトルにある「ラーゲリ」とは、強制収容所のこと。第二次世界大戦終了後、約60万人の日本人がシベリアのラーゲリに不当に抑留されていたことをご存じでしょうか。

零下40度の極寒の地におけるあまりにも残酷な日々。劣悪な環境下、わずかな食糧のみで過酷な労働を強いられた彼らの一縷の望みは、祖国へ帰国(ダモイ)することだけ。けれど、栄養失調で命を落とす者や自ら命を絶つ者が絶えない毎日で、彼らの心は疲弊していきます。

そんななか、生きる希望を抱き続け、抑留者たちの心に温かな光を灯したひとりの男が、山本幡男さんです。

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

身に覚えのないスパイ容疑でラーゲリに収容された山本は、日本にいる妻と4人の子どもたちと一緒に過ごす未来を信じ、とにかく耐えます。旧日本軍の階級が幅を利かすなか、分け隔てなく周囲の人々を励まし、元漁師の青年には学問を教え、同郷の先輩に寄り添い続けるのです。

彼の強い信念と仲間想いの行動は、少しずつ抑留者たちの凍りついた心を溶かしていきます。

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

ラーゲリ内で野球に興じる若者たちの姿は、とても印象的です。敵国のスポーツが慰めになるのは皮肉ではありますが、束の間の安らぎが鬱屈した毎日を明るくしてくれるという「希望」を体現している沁み入るシーンだと思います。

死と隣り合わせの厳冬の地で、家族を想い、仲間を支え、懸命に生きた実在の男の存在は、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などによって、息苦しさや生きづらさを肌で感じている現代の人々にとっても、きっと「希望」になるのではないでしょうか。

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

原作は、発行部数25万部(2022年8月現在)の辺見じゅん著『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(文春文庫刊)。1989年には本作で第11回講談社ノンフィクション賞を、翌年には第21回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した名作です。

実はこの作品、1993年にテレビドラマ化されています。その際に山本幡男を演じた寺尾聡さんが山本家の長男・顕一の壮年期を演じてらっしゃるのも、見どころのひとつ。
年末年始のお休みにぜひともご覧いただきたい感動の物語です。

服が映し出す、時代とキャラクター

戦時下から終戦後が舞台となる本作。軍服や作業着はもちろん、登場人物たちの衣装も当時の世相を表しています。キモノという観点から見れば、やはりモジミ演じる北川景子さんのお召し物に注目せずにはいられません。

当連載では3度目のご登場となる北川さんの着こなしは、もはやお手の物。割烹着を身につけて庭で魚を焼く姿もなんとも可愛らしく、何の違和感もなく、そこにモジミが生きていることを体現しておられます。

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©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

4人の子どもを女手ひとつで育て上げるしっかり者のモジミは、若かりし頃も凛々しく、海辺でのデートにおいては、美しい袴姿を見ることができます。まだ結婚前のふたりの初々しい様子に、華やかなお着物がよく似合っていました。

キモノは年代や時代を問わず受け継げるものではありますが、やはり流行りや「らしさ」はあると思います。そういった意味では、写真のコーディネートは髪を下ろした妙齢の女性だからこその美しさを際立たせているのではないでしょうか。二宮さんの白い背広とのバランスも良く、晴れやかなシーンになっています。

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

とはいえ、華やかな装いばかりではなく、教師に復職するときはシンプルなシャツとスカート姿ですし、もんぺだって穿きこなされています。どんな格好であっても、夫の帰国を信じて待つ芯の強い女性の在りようが映し出されているのは、女優・北川景子の魅力だと言えるでしょう。

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

また、服は着ておりませんが、クロの存在も忘れてはなりません。労働作業中の抑留者たちの前に現れた黒毛の犬は、ラーゲリで共に暮らすことになります。食べるものにも困る状況下で動物を飼うということがどういうことか、彼らだって無論承知の上。だからこそ、クロもまたラーゲリでの暮らしの癒しとなっていくのです。

希望を未来へと繋ぐ、感動のラストは涙なしには観られません。
劇場でご覧の際には、ハンカチ(手拭いでも足りないくらいです!)とティッシュをどうぞお忘れなく。

©2022映画「ラーゲリより愛をこめて」製作委員会 ©1989 清水香子

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