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いざ!可笑しくも愛おしい春画ワールドへ『春の画 SHUNGA』 「きもの de シネマ」vol.38

いざ!可笑しくも愛おしい春画ワールドへ『春の画 SHUNGA』 「きもの de シネマ」vol.38

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。絶賛上映中の『春画先生』に続き、春画の奥深さを追求するドキュメンタリー『春の画 SHUNGA』が公開。平田潤子監督のインタビューとともに、めくるめく春画ワールドにお連れします。

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©2023『春の画 SUNGA』製作委員会「袖の巻」鳥居清長・画(浦上蒼穹堂)

©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会「袖の巻」鳥居清長・画(浦上蒼穹堂)

江戸時代に隆盛を極めた春画は、明治時代になると“猥褻物”として禁じられてしまい、秘した文化となります。表の浮世絵は残り、裏の春画はいつしか人々から忘れ去られてしまいました。

性別を問わず愉しめるアートとして再び評価されるようになったのは、2013年にロンドン・大英博物館で開催された世界初となる大規模な春画展がきっかけだったことは、『春画先生』のご紹介でも記したとおり。

©2023『春の画 SUNGA』製作委員会

©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会

葛飾北斎喜多川歌麿歌川国貞ら江戸の名立たる浮世絵師たちが情熱を注ぎ、いくつもの傑作を残した春画。

単なるエロ本には留まらない春画の奥にあるものを知れば、現代人が知らない「日本の姿」が見えてくるのでは――そんな想いでつくられた本作は、春画が西洋定義のポルノには当てはまらない芸術性と精神性を秘めていると教えてくれます。

ときにユーモラスに、ときにシビアかつシニカルに、春画は驚くほど表情豊かな「性」と「生」を描き出していて、じっと眺めていると誇張された性器がすべてではないと感じさせてくれるから不思議です。

©2023『春の画 SUNGA』製作委員会

©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会

いまだ知られざる部分が多い春画の世界にあらゆる角度からアプローチした本作には、総数100点以上もの春画が無修正で登場し、その奥深い魅力を解き明かそうと試みます。

北斎の有名な“蛸と海女”の絵をはじめ錚々たる面子が手掛けた超一級品はもちろん、大名家への嫁入り道具と伝わる肉筆巻物、ヨーロッパのコレクターが秘蔵する春画幽霊図など、多彩な表現や技巧の春画が一堂に会する貴重なドキュメンタリーです。

そこには、性愛だけでなく興奮や歓喜、情熱、悲哀、嫉妬に駆け引きといった現代にも通ずる人間味あふれるドラマがあります。「笑い絵」とも称される春画がもつドラマチックさをとくとご覧あれ。

現代サブカルジャンルを網羅する春画

近代以降、性を描くことはタブー視され、性行為や性癖について語ることは避けられてきましたが、江戸時代の人々は大らかに、健康的な営みとして性を捉えていました。セックスは生きる歓びであり、ごく普通の日常だと。

性をギャグにするセンス、オノマトペを使った愉快な詞書(説明)や漫画的な書入れ(セリフ)、有名作品をパロディにする着眼点、角度や光で立体感を出す高度なテクニック、男女だけではなく男男や女女といった自由な交歓……春画は世界のエロティックアートの中でもピカイチだといいます。

「性を描くという枷のなか、絵師たちが職人魂および芸術家魂を発揮して、持てるかぎりの技術を注ぎ込んだ春画は、いまのアニメ、映画、テレビ、小説といったもので描かれるあらゆるジャンルを網羅している豊潤な世界」と評するのは、本作でメガホンを取った平田潤子監督。

©2023『春の画 SUNGA』製作委員会

©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会

技術的な面ではとくに、彫り師・摺り師の腕が試される「陰毛」の表現は圧巻です。

「西川美和監督がコメントで書いて下さった『神が陰毛に宿る』という言葉がすべてを言い表しているな、と。もはや狂気ですよね(笑)」と、平田監督は言います。

「春画は、人間そのものです。隠すものもなければ、格好良くすることもなく。描かれている人は皆、性を謳歌しています。花火の代わりに精液を飛ばす絵に表れているような、あのユーモア! 今回の春画をめぐる3年間の旅は、セックス観だけではなく人生観や人間観まで変えてくれました

©2023『春の画 SUNGA』製作委員会「艶本美女競」渓斎英泉・画(浦上蒼穹堂)

©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会「艶本美女競」渓斎英泉・画(浦上蒼穹堂)

「自分が面白い!と思うものを、精査せずに詰め込んだ稚拙なドキュメンタリーです。何が撮れるかも分からなかったので、構成ありきではなく、まさに行き当たりばったり(苦笑)。今となっては入れすぎたかな?と思います」と、平田監督。

なるほど、彼女と春画の出合いを観る者が追体験することになるのは必定だな、と納得した一言です。

「素晴らしい作品は残っているけど、安価なものや粗悪なものほど見つけるのが難しかった」という言葉どおり、作中、ミュージアムに展示されることがない素朴な春画を発見したのは、京都・北野天満宮の天神市だったのです。

やっぱり京都だったんだな、と思いました。見つける過程をもっとちゃんと撮っておけばよかったと反省しています」

©2023『春の画 SUNGA』製作委員会「四季画巻」月岡雪鼎・画(Michael Forniz)

©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会「四季画巻」月岡雪鼎・画(Michael Forniz)

「春画がもつ多様さや奥深さにふれるほどに、自分たちのご先祖様のバカバカしいほどたくましい想像力や、ギャグセンスが愛おしくなりました。春画には、人間が本来もつ哀愁や滑稽味など、ありとあらゆる人間らしさがあふれています。

四つの季節に重ねて性の歓びを知っていく女性を描いた月岡雪鼎(つきおかせってい)の『四季画巻』には、リアルな“女の人生”を感じます。雪鼎は、本当に女性のことをよく解った画家。とくに、恍惚とした表情がキュートです。春画では、いろんな立場の人々が同じようにまぐわっていて、閨の中では対等なのもいい。平和ですよね」

©2023『春の画 SUNGA』製作委員会「好色図会十二候」勝川春潮・画(浦上蒼穹堂)

©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会「好色図会十二候」勝川春潮・画(浦上蒼穹堂)

「陰毛と同じくらい覚悟と気合いを感じた」と平田監督が称するのが、絵師たちの衣装に対する想い。

「二次元の紙の上で、あそこまで立体感をリアルに表現しようとしますか?! でもそれが浮世絵なんですよね。(喜多川)歌麿の『会本小町引(えほんこまちびき)』の色使いもとにかくオシャレ!

春画は性の指南役でもあり、「笑い絵」として娯楽ツールでもあり、現代のファッション誌の役割も担っていたと考えられます。当時の女性たちもまた、春画を観ながら、憧れの柄と同じ着物を買ったり、コーディネートの見本にしたりしたはず。

平田監督曰く「描かれている着物から、季節感や女性の立場などを紐解きながら観るのも面白いですね」。

©2023『春の画 SUNGA』製作委員会「春情肉婦寿満」歌川国貞・画(春画ール)

©2023『春の画 SHUNGA』製作委員会「春情肉婦寿満」歌川国貞・画(春画ール)

観る人の分だけ魅力があり、どう愉しむかは人それぞれ。あなたは、春画のどこに惹かれますか?
エロスだけではない春画の面白さを、着物を入口にして探ってみるのもいいのでは。

「銀座の小さな春画展」

銀座の小さな春画展

10月21日(土)~12月17 日(日)開催

『春画先生』『春の画 SHUNGA』の作中に登場する不滅の春画アイコン、葛飾北斎「喜能会之故真通」“蛸と海女”実物を銀座「ギャラリーアートハウス」で!

詳細はこちら https://culture-pub.jp/ginzashunga/

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