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東京下町が舞台の人情ラプソディ 『こんにちは、母さん』「きもの de シネマ」vol.33

東京下町が舞台の人情ラプソディ 『こんにちは、母さん』「きもの de シネマ」vol.33

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。夏が過ぎゆくいま、東京下町で繰り広げられる家族の絆を描く山田洋次監督の最新作をクローズアップします。

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2023.08.11

よみもの

和と洋が織り成すフィルム・ノワール 『リボルバー・リリー』 「きもの de シネマ」vol.32

母と息子が見つめ直す「家族」の絆の物語

残暑お見舞い申し上げます。
ごきげんよう、椿屋です。

朝夕の風に秋の匂いを感じる今日この頃。
今回ご紹介する作品は、『母べえ』(2008年)『母と暮らせば』(2015年)に続く『母』三部作の集大成ともいえる『こんにちは、母さん』です。

メガホンを取ったのは、『男はつらいよ』シリーズをはじめ、長きにわたり「家族と人情の松竹映画」を支え続けてきた山田洋次監督。御年91歳にして、90本目の作品となります。

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

『母』である神崎福江役はもちろん、吉永小百合さん。山田監督とはかれこれ50年ものお付き合いで、本作で映画出演123作目を数えます。

彼女の息子・昭夫を、NHK紅白歌合戦の司会や大河ドラマ『鎌倉殿の13人』における好演で国民的人気俳優の座を確たるものとした大泉洋さんが演じます。

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

役が決まった際、大泉さんが出されたコメントが「吉永小百合から大泉洋は生まれない(笑)」でした。

その言葉に思わず笑ってしまうのは否めませんが、スクリーンの中で食卓を囲んだり、一緒に花火を眺めたりしている姿を拝見していると、「いや、吉永小百合は大泉洋を生めたな!」と思わされるから不思議です。山田組ミラクル☆

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

とくに印象的だったのは、劇中で登場する大泉さんの子どもの頃の写真についてのエピソード。

使用されているのは実物で、役づくりのために吉永さんが大泉さんに対して「貸してほしい」とお願いされたものだったといいます。事務所を通して渡された写真の内容については大泉さん自身もご存じなく、映像を見て驚いたとのこと。

そんな出来事について吉永さんは、完成報告会見で「とくにお風呂上がりのお写真がとっても可愛くて、素敵でした」と、話されていました。

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

わたくしとしましては、苦み走った二大イケオジ——寺尾聰さんと田中泯さんの、共演にキュン死寸前!

寺尾さんにとって山田監督は、「映画の世界に入って初めて主演に抜擢してくださった監督」。牧師という役柄に対して躊躇もあったそうですが、穏やかで懐の深い在り様は、絶大なる信頼のおける牧師以外の何者でもありませんでした。

そんな彼と福江が気に掛けるイノさん(田中泯)は、空き缶を集めて糊口を凌ぐその日暮らしの老人。施しを受けることを頑なに拒み、自らの足で立つ気概を体現する重要なキャラクターです。田中さん以上にこの役を生きることができる役者はいないと言っても過言ではないでしょう。

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

彼らの他にも、本作では魅力的な登場人物が和気藹々と下町情緒を奏でます。そのリズミカルでハートフルな掛け合いこそ、100年にわたって大切に受け継がれてきた“松竹映画たる要素”のひとつなのです。

恋する母のデートファッションにご注目!

©2023「こんにちは、母さん」製作委員会

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一流企業の人事部長として、神経をすり減らす毎日。妻とは別居、大学生の娘・舞(永野芽郁)とも上手くコミュニケーションが取れずにいる昭夫(大泉洋)が実家である足袋屋を訪れるところから、この物語は始まります。

久しぶりに会った母・福江(吉永小百合)が、割烹着ではなくオシャレな恰好で活き活きとしている様子に、昭夫は戸惑いを隠せません。近隣の友人たちとボランティア活動に勤しみ、孫娘とも友だちのように楽しそうに暮らす母は、彼にとって見たことのない姿だったからです。

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

母と娘、学生時代からの友人(宮藤官九郎)、近所の世話焼きな面々(YOU、枝元萌)とぶつかったり寄り添ったりしながら、懸命に日々を生きる昭夫の目を通して、わたしたちは「家族」の在り方について、しばし考えることになります。

ここで、押さえておきたいのは、職人である夫に先立たれ、一人で足袋屋を切り盛りしている福江が何度か口にする「足袋屋の女房」というセリフ

そこには、職人気質だった亡き夫への敬意と、彼を支える役割を全うし、店を継ぎ、いまなお商いを続けていることへの自負が感じられます。好意を抱く牧師・荻生(寺尾聰)のために、夫が遺したミシンでスリッパを縫うのも「足袋屋の女房」だから出来ること。

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

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そして、この物語最大の見せ場が、福江と牧師の初デートです。

コンサートに行って、帰りに水上バスに乗る——

そんな特別な一日を、より素敵にしてくれる涼しげな水色の単衣小紋。白の帯に青系の帯締めで、すっきりと上品にまとめているのはさすがです。ここぞ!というときの勝負服に和服をチョイスできるのは、「足袋屋の女房」の強みでしょう。

そんな彼女を、孫である舞は「女子高生みたいでかわいい」と、大絶賛。福江と舞の恋バナシーンも必見です。

また、恋する祖母の最大の味方である舞のイマドキさが昭夫の価値観を揺さ振るのも、微笑ましい限りでございます。

© 2023「こんにちは、母さん」製作委員会

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彼女の恋の行方は、どうぞ劇場でご確認くださいませ。

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