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『大吉原展』 東京藝術大学大学美術館 「きものでミュージアム」vol.33

『大吉原展』 東京藝術大学大学美術館 「きものでミュージアム」vol.33

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東京藝術大学大学美術館で『大吉原展』開催中! 250年以上も続いた江戸時代の遊廓・吉原の文化と芸術を名品を通じて紹介し、その歴史を検証します。

2024.02.27

よみもの

『岩﨑家のお雛さま』 静嘉堂文庫美術館 「きものでミュージアム」vol.32

初めての、吉原を正面からテーマとする展覧会

今回は、東京藝術大学大学美術館で開催中の『大吉原展』をご紹介します。

※本コラム内の美術作品の写真につきまして、各美術館プレスより撮影および掲載の許諾を得て使用しております。

「大吉原展」エントランス

「大吉原展」第一会場

江戸の吉原は、約250年続いた幕府公認の遊廓でした。

ですが、吉原を正面からテーマにした展覧会は今までにありませんでした。なぜなら……吉原の基盤は売春だったから

吉原の遊女は借金の返済のために働き、その責任から逃れることができませんでした。一方で、吉原は文化の集積地でもあり、多くの文化人が集い、絵画や浮世絵、文学などを生み出しました

開幕にあたり本展学術顧問の田中優子氏は「『大吉原展』開催にあたって:吉原と女性の人権」という文書を発表しました。その中で以下のように述べています。

遊廓を考えるにあたっては、このような日本文化の集積地、発信地としての性格と、それが売春を基盤としていたという事実の、その両方を同時に理解しなければならない、と思っています。そのどちらか一方の理由によって、もう一方の事実が覆い隠されてはならない、と思います。本展覧会は、その両方を直視するための展覧会です。

私たちもそのことを理解した上で展覧会を鑑賞することにいたしましょう。

第一会場の展示風景

会場は大きく分けて4つの展示室で構成されており、喜多川歌麿、鳥文斎英之ちょうぶんさいえいし、葛飾北斎、歌川広重、酒井抱一らの吉原に関する絵画や錦絵に、工芸品を加えた約230点が展示されています(ワズワース・アテネウム美術館、大英博物館からの里帰り作品含む)。

歌川国貞(三代)《官許 博覧会開業ノ図 新吉原営》

歌川国貞(三代)《官許 博覧会開業ノ図 新吉原営》明治8 年(1875)たばこと塩の博物館 前期展示

※クレジットに記載がないものは通期展示

吉原を知る

歌川広重 《東都名所新吉原五丁町弥生花盛全図》は、天保期(1830〜44)の吉原を俯瞰したものです。これにより当時の吉原の全体像がわかります。

歌川広重 《東都名所新吉原五丁町弥生花盛全図》

歌川広重 《東都名所新吉原五丁町弥生花盛全図》天保(1830~44)頃 東京都江戸東京博物館 前期展示

入口には、こう書かれています。

「医師の外何者によらず、乗物一切無用たるべし。つけたり鑓薙刀やりなぎなた、門内へ堅停止たるべき者也」

つまり、武士が刀を持って入場することも禁止されていたのです。

大門をくぐると仲之町と呼ばれる、道幅18mのまっすぐなメインストリートがあり、両側には茶屋が軒を連ねます。広さは東京ドーム約2個分でした。

歌川国貞《青楼二階之図》には妓楼ぎろうの2階の全体像が描かれています。

第一会場の展示風景

歌川国貞《青楼二階之図》文化10年(1813) 大英博物館

歌川国貞《青楼二階之図》

歌川国貞《青楼二階之図》文化10年(1813) 大英博物館

実際の妓楼ぎろうを描いているのかは不明ですが、内部で繰り広げられる状況が事細かに描かれています。室内も丁寧に描写されていますので、じっくりと見入ってしまいます。

喜多川歌麿《青楼十二時 続》は、吉原の遊女の1日を12の時刻に分けて12枚に描いたもの

右:喜多川歌麿《青楼十二時 続 子の刻》寛政6(1794)頃 大英博物館

右:喜多川歌麿《青楼十二時 続 子の刻》寛政6(1794)頃 大英博物館

帰る客に羽織を着せるところ、起床、入浴、身支度、昼見世開始……など、12の場面が描かれています。12枚を観ると1日の流れがわかりますが、一体何時間寝ているのだろう、と心配になります。

また、今回唯一展示されていた着物がこちら。

左:《白綸子地石畳将棋模様小袖》17世紀 根津美術館 3月26日〜4月7日

左:《白綸子地石畳将棋模様小袖》江戸時代17世紀 根津美術館 3月26日〜4月7日

1932年の大東京展覧会に、根津嘉一郎所蔵の《花魁衣裳(将棋刺繡)》として出展されたものです。

実際に吉原の花魁が身に着けたものと断定するのは難しいものの、装束関連は現存するものが少なく、大変貴重なのだとか。

左:《白綸子地石畳将棋模様小袖》17世紀 根津美術館 3月26日〜4月7日

左:《白綸子地石畳将棋模様小袖》江戸時代17世紀 根津美術館 3月26日〜4月7日

江戸時代前期に流行した寛文小袖と呼ばれる柄付けで、絞り染めで石畳文をつくったその上に大きな将棋の駒が散らされ、文字は刺繡技法にて。金糸も使われています。

錦絵に描かれた吉原

右:鳥文斎栄之《畧六花撰 喜撰法師》

右:鳥文斎栄之《畧六花撰 喜撰法師》 寛政8-10年(1796-98)頃 大英博物館

鳥文斎栄之ちょうぶんさいえいしは、歌麿と同時代に活躍した旗本出身の絵師楚々とした長身の女性を多く描きました。

作品の多くが明治時代に海外に流出したため、国内での知名度は歌麿ほど高くありません。

《畧六花撰 喜撰法師》のような大首絵は珍しいです。淡い色彩ですが非常に色香を感じますね。

鳥文斎栄之《畧六花撰 喜撰法師》

鳥文斎栄之《畧六花撰 喜撰法師》 寛政8-10年(1796-98)頃 大英博物館 ©The Trustees of the British Museum

※大首絵(おおくびえ)…… 浮世絵版画の一形式。人物の上半身を大きく、またその表情を特に強調して描く。

展示風景

勝川春章《遊里風俗図》 天明7~8年(1787~88)頃 出光美術館 前期展示

勝川春章《遊里風俗図》の右図は、蚊帳の中の2人を非常に緻密に描いています。御簾よりも細かい蚊帳の中で、2人が大変幻想的に見えます。

高橋由一《花魁》[重要文化財]

高橋由一《花魁》[重要文化財] 明治5年(1872) 東京藝術大学

高橋由一の重要文化財《花魁》は今回、古いニスを取り除くなどの修復を実施して非常にきれいになりました。他の多くが錦絵の中、写実的な油絵が展示されていると、ドキッとします。

透明感があり艶めかしく、とても美しい肌の質感。簪は半透明で髪が透けており、髪に結んだ手絡の鹿の子絞りや着物の文様までくっきりしています。

モデルは当時全盛の花魁の女性ですが、完成作を観た彼女は「私はそんな顔じゃない」と泣いたそう。確かに……錦絵のような絵を想像していたのに、こんなにも写実的な油絵ができあがってきたら驚くでしょうね。

吉原の街並みが出現!

3階の展示室に再現された吉原の街並み

3階の展示室に再現された吉原の街並み

3階の展示室には、吉原の街並みが再現されています。順路に従って作品を鑑賞すると、四季の行事を感じることができるように展示されています。

喜多川歌麿《吉原の花》

右:喜多川歌麿《吉原の花》 寛政5年(1793)頃 ワズワース・アテネウム美術館

喜多川歌麿が描いた肉筆画の大作《吉原の花》は、《深川の雪》(岡田美術館)、《品川の月》(フリーア美術館)とともに《雪月花》三部作と呼ばれます。

3点とも遊廓を描いた作品で、《深川の雪》は、「きものでミュージアム」vol.25『歌麿と北斎 ―時代を作った浮世絵師―』 岡田美術館で展示されていましたので、ご記憶にある方もいらっしゃるかもしれません。

2023.08.16

よみもの

開館10周年記念展 第2部 『歌麿と北斎 ―時代を作った浮世絵師―』 岡田美術館 「きものでミュージアム」vol.25

《吉原の花》には、桜の季節の引手茶屋の1階と2階が描かれています。桜の季節にだけ桜が移植され、贅沢に花見を楽しんだという吉原。

画中には女性だけが描かれ、現実にはありえないシーンだということがわかります。

喜多川歌麿《吉原の花》(部分)

喜多川歌麿《吉原の花》(部分) 寛政5年(1793)頃 ワズワース・アテネウム美術館
Wadsworth Atheneum Museum of Art, Hartford. The Ella Gallup Sumner and Mary Catlin Sumner Collection Fund

衣裳の描写も細やかに、花見の宴が華やかに描かれています。遊女たちの髪型や表情、室内の設えや屏風、庭の様子までもが丹念に描かれています。

喜多川歌麿《吉原の花》

右:喜多川歌麿《吉原の花》 寛政5年(1793)頃 ワズワース・アテネウム美術館

きもの好きなら、当時の衣裳の美しさやコーディネートに興味を引かれることでしょう。ぜひお近くでじっくりご覧いただきたい作品です。

《角たまや内 こむらさき 花むらさき 若むらさき》では、3人の花魁が、禿かむろ(遊女に仕える少女)新造しんぞ(若い遊女)を連れて、菖蒲が咲く水辺の八橋を歩いています

鳥高斎栄昌《角たまや内 こむらさき 花むらさき 若むらさき》寛政10 年(1798)頃 川崎・砂子の里資料館 前期

鳥高斎栄昌《角たまや内 こむらさき 花むらさき 若むらさき》寛政10 年(1798)頃 川崎・砂子の里資料館 前期展示

頭上には藤と鶴丸の提灯、花魁の名前を記した短冊が描かれています。桜から少し進んだ初夏の時季の作品です。

酒井抱一《大文字屋市兵衛像》は、 吉原の大見世の有名な妓楼主を描いています。

酒井抱一《大文字屋市兵衛像》

酒井抱一《大文字屋市兵衛像》 江戸時代(18~19世紀) 板橋区立美術館 撮影:akemi

1825年(文政8年)に刊行された大田南畝『仮名世説』の挿絵を原画とする作品。絹本に写し、丹念に彩色、手にした扇子には金泥も使われています。

工芸品や江戸風俗人形も

《伝 玉菊使用三味線》江戸時代 18 世紀 早稲田大学演劇博物館

《伝 玉菊使用三味線》江戸時代 18 世紀 早稲田大学演劇博物館

絵画以外の工芸品も展示されています。たばこ盆や三味線、鬘など、吉原の日常を垣間見ることができましょう。

右:吉原門鑑六枚つなぎたばこ盆 制作年不明 たばこと塩の博物館、左:月に蝙蝠透し彫り提げたばこ盆 制作年不明 たばこと塩の博物館

左:吉原門鑑六枚つなぎたばこ盆 制作年不明 たばこと塩の博物館、右:月に蝙蝠透し彫り提げたばこ盆 制作年不明 たばこと塩の博物館

右は結髪雛形の展示

右は結髪雛形の展示

《江戸風俗人形》 は、江戸を中心に文化・文政時代(1804〜30年頃)の妓楼を再現しています。

人形・辻村寿三郎《江戸風俗人形》 (部分)

人形・辻村寿三郎、建物・三浦宏、小物細工・服部一郎《江戸風俗人形》 (部分)昭和56年(1981) 台東区立下町風俗資料館 唇は緑の笹紅に彩られている

人形師・辻村寿三郎氏、檜細工師・三浦宏氏、小物細工師・服部一郎氏の3人の職人技で制作されたもの。

20㎝にも満たない人形なのですが大変精巧に作られており、衣裳や結髪もみごととしか言いようのない仕上がり。一部の人形の唇は緑色で、当時流行した化粧法の笹紅が施されています

人形・辻村寿三郎《江戸風俗人形》

人形・辻村寿三郎、建物・三浦宏、小物細工・服部一郎《江戸風俗人形》 昭和56年(1981) 台東区立下町風俗資料館

最後に

あらためて、「初めて吉原を正面からテーマにした展覧会である」ということの意味に思いを馳せます。

福田美蘭《大吉原展》

福田美蘭《大吉原展》 2024年 作家蔵

作品リストを見ると、実に多くの美術館・博物館、そして個人が所蔵している作品までもが展示されており、国内外から多くの作品が集められていることが分かります。

構想から5年、吉原を知るための大変貴重な機会となることでしょう。

文化の集積地としての吉原を鑑賞するとともに、人権について深く考えてみたいと思います。

この日の装い

季節に合わせ、桜柄のコーディネートにて。

総柄の小紋には四季の花々が描かれていますが、主役は桜。帯は銀通しの綴れ織で、桜が散っています。

この日の装い1
この日の装い 帯回り
この日の装い_お太鼓

道明の丸胡蝶の帯締めに、桜色の帯揚げを合わせました。

3月25日の内覧会当日、残念ながら上野の桜はまだまだでした。

この日の装い_生地アップ

2022.03.18

よみもの

日本の国花は桜? それとも菊? 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.48

撮影/五十川満

今回ご紹介の展覧会情報

ポスター画像

大吉原展

東京藝術大学大学美術館(台東区・上野公園)
https://daiyoshiwara2024.jp/

日 時:2024年3月26日(火)~5月19日(日)
    ※会期中、展示替えがあります。
    前期:3月26日(火)~4月21日(日)
    後期:4月23日(火)~5月19日(日)

    10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)

休館日:月曜日(ただし4月29日(月・祝)、5月6日(月・振休)は開館)、5月7日(火)

※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

その他、おすすめの美術展

※日時など変更になる場合があります。おでかけ前に公式サイトなどで最新情報を確認してください。

ポスター画像

特別展 国宝・燕子花図屏風 デザインの日本美術

根津美術館
https://www.nezu-muse.or.jp/
オンライン日時指定予約がお勧め。詳細は同館ホームページで。
日 時:2024年4月13日(土)〜5月12日(日)10:00~17:00 
    ただし、5月8日(水)から5月12日(日)は19:00まで開館
    (入館はいずれも閉館30分前まで)

休館日:毎週月曜日(ただし4月29日(月・祝)、5月6日(月・振休)は開館)、5月7日(火)

ポスター画像

テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本

パナソニック汐留美術館
https://thermae-ten.exhibit.jp/

日 時:2024年4月6日(土)~6月9日(日)
    ※会期中、一部作品を展示替え
    前期:4月6日(土)〜5月7日(火)
    後期:5月9日(木)〜6月9日(日)

    10:00~18:00
    ※5月10日(金)、6月7日(金)、6月8日(土)は夜間開館 20:00まで開館
    (入館はいずれも閉館30分前まで)

休館日:水曜日(ただし6月5日は開館)

■巡回予定

神戸市立博物館
https://www.kobecitymuseum.jp/
2024年6月22日(土)~8月25日(日)

ポスター画像

北欧の神秘―ノルウェー・スウェーデン・フィンランドの絵画

SOMPO美術館
https://www.sompo-museum.org/

日 時:2024年3月23日(土)~ 6月9日(日)
    10:00 - 18:00(金曜日は20:00まで)
    (入館はいずれも閉館30分前まで)

休館日:月曜日※ただし4月29日、5月6日は開館

◆ 読者プレゼント ◆

ポスター画像

さて、恒例の招待券プレゼント!
今回は東京藝術大学大学美術館『大吉原展』の招待券を5組10名の方にプレゼント!
ぜひ、きものでお出かけくださいね!

下記リンクより、お使いのSNS経由にてご応募くださいませ。

◆インスタグラム
https://www.instagram.com/kimonoichiba/
◆Twitter
https://twitter.com/Kimono_ichiba

※応募期間:2024年4月21日(日)まで

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