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銀幕スター・北川景子の浴衣姿に学ぶ美 『キネマの神様』「きもの de シネマ」vol.4

銀幕スター・北川景子の浴衣姿に学ぶ美 『キネマの神様』「きもの de シネマ」vol.4

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。連載4回目は、松竹映画100周年記念作品として早くも話題を集める『キネマの神様』をご紹介します。

映画の神様は、きっといる

ごきげんよう。
7月末に京都にあるブルワリーを見学させていただき大興奮してきた、映画大好きのんべぇライター椿屋です。わたくしがコメンテーターを務めているKBS京都「週末ライブ キモイリ!」の担当コーナー「のんべぇライターの行きつけごはん」のロケで、クラフトビールの取材でした。

残念ながら……、急遽決まった京都市内における酒類提供禁止を受けて、VTRの放送は延期となってしまいました。

取材で伺った「SPRING VALLEY BREWERY KYOTO」さんでは、クラフトビールをテイクアウトすることが可能です。また、身近な缶ビールで「SPRING VALLEY 豊潤496」が今春から発売されていますので、少し贅沢な「おうち時間」を愉しめるのではないでしょうか。

それはそうと、映画のお話をいたしましょう。

今回ご紹介する『キネマの神様』は、1920年の松竹キネマ合名社設立および鎌田撮影所の開所から100周年を迎えたことを記念して製作された作品。
その100年間の間には、日本映画初のカラー劇映画『カルメン故郷に帰る』をはじめ、いまなお海外からの評価も高い小津安二郎監督の代表作『東京物語』や、第50回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品『うなぎ』(今村昌平監督)、第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『おくりびと』といった名作が生み出されてきました。

その100年の歩みを次の100年へと伝えるべく、メガホンを取ったのは『男はつらいよ』など多くの作品で日本映画界を牽引してこられた山田洋次監督。近年絶大なる人気を誇る作家・原田マハの同名小説を原作とし、‟映画の神様“を信じたくなる「奇跡の物語」は完成しました。

Ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会
Ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会

その道のりは困難を極め、このコロナ禍において最も影響を受けた映画と言っても過言ではないでしょう。なぜなら、2020年3月1日のクランクイン後、半分を取り終えた3月末に、ダブル主演のひとりである志村けんさんの急なご逝去で、撮影の長期中断を余儀なくされたからです。

日本政府による緊急事態宣言が発令され、日本列島のみならず全世界が未曾有の感染症の威力に慄き、その行く末を見守るしかないなか――再考された脚本をもとに新たなキャストを迎えて、感染症対策を万全にした上で山田組の撮影は再開されました。

Ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会
Ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会

主人公ゴウを演じるはずだった志村けんさんの遺志を継いだのは、親交が深かった沢田研二さん。またその若かりし頃を熱演したのは菅田将暉さん。
そしてゴウの妻である淑子に、名女優・宮本信子さんと若手人気女優の永野芽郁さんが扮し、その娘として寺島しのぶさんが登場します。さらには、主題歌も担当したRADWIMPS野田洋次郎さんに、彼が扮する映写技師テラシンの50年後を小林稔侍さんが……と、個性的な顔ぶれが揃うキャストたち。

中でも、キーパーソンとなったのが、銀幕女優として眩しいばかりの美しさと気品をただよわせる北川景子さんです。

Ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会
Ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会

キモノだからこそ、の佇まい

物語の舞台は、50年前と現代を行き来します。
50年前、銀幕スターとして人気を誇り、撮影所の誰からも慕われている女優・桂園子を、見事に演じ切った彼女。劇中作品における旅館のシーンで、桔梗柄の浴衣に朱色の丹前を羽織って登場します。

映画をかけるのは、テラシンの営む名画座「テアトル銀幕」。スクリーンに流れる作品を観ながらゴウはテラシンに、主演である園子の瞳に自分が映り込んでいるのだと力説します。ぐぐっとクローズアップされていく彼女の瞳に吸い寄せられ――たかと思うと、一気に物語は50年前の撮影風景へと時をかけていくのです。

映し出されていたモノクロの世界が一瞬にしてフルカラーに変化し、わたしたちの目の前には華やかな銀幕スターが生身のように立ち現れます。そっと襟を合わせる仕草ひとつとってもなんとも淑やかで、それなのに強烈なまでの存在感を放つ。そんな大女優が見せる朗らかな笑顔に、心を射抜かれない人などいないのでは。

この時空を超えるカットは、山田監督が絶対に実現させたいと熱望していたシーンだったというだけあって、この映画の一番の見どころとなっています。

Ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会
Ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会

すっと立ち上がり、静かに座るだけでも、その人の在り様が透けて見えるというもの。
和服ならなおさらです。丁寧にお茶を淹れ、茶托に乗せた茶碗を差し出すだけの何気ない所作に、思わず息を呑む。そんな美しさが、劇中作品の北川景子さんには満ち満ちていました。

Ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会
Ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会

彼女と交流を育む若き日のゴウ・淑子・テラシンや、ゴウの師匠である巨匠・出水監督(リリー・フランキー)らが描き出す「映画黄金時代」である撮影所の風景に表れている穏やかさと対を成す、コロナ禍の状況。

志村けんさんをイメージして描いたダメ男を演じる沢田研二さんが歌う「東村山音頭」など、現在パートに反映された数々の現在の映像が、この作品に奥行きを加えていることは間違いありません。

そして、昔ゴウが書いて幻と化した脚本を甦らせようと奮起する孫の勇太(前田旺志郎)も、現在パートでは欠かせない存在。酒とギャンブルにまみれるダメじいちゃんが、勇太と居るときはチャーミングに見えてくるから不思議です。

どうしようもないダメ親父をギリギリのところで突き放せない娘の苛立ち、どうしようもないダメ夫をやっぱりギリギリのところで見捨てられない妻の諦め、どうしようもないけど才能があると信じている孫と親友がギリギリのところで救いとなるのも、「奇跡」のひとつかもしれません。

Ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会
Ⓒ2021「キネマの神様」製作委員会

映画の神様が起こす「奇跡」を、ぜひ劇場でお確かめください。

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