着物・和・京都に関する情報ならきものと

大一番の舞台に、師匠の帯で挑む 『絶唱浪曲ストーリー』 「きもの de シネマ」vol.31

大一番の舞台に、師匠の帯で挑む 『絶唱浪曲ストーリー』 「きもの de シネマ」vol.31

記事を共有する

銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。今回は当コラム初のドキュメンタリー作品をピックアップ!浪曲の世界に飛び込んだ港家小そめを追った『絶唱浪曲ストーリー』です。

こちらも公開中!

2023.06.23

よみもの

衣装が決め手!遊び心満載な軽快時代劇『大名倒産』 「きもの de シネマ」vol.30

いざ、エモーショナルな浪曲の世界へ

今年も半ば。みなさまの上半期は、いかがだったでしょうか。

ごきげんよう、椿屋です。

わたくしの2023年鑑賞リストは『ファミリア』(2022年/キノフィルムズ)に始まり、現在114本を数えます。このペースで後半戦も気張ってまいります。

さて。きものが衣裳となれば、誰だって時代劇を思い浮かべることでしょう。事実、当コラムでもたくさんの時代劇作品を紹介してきました。

2023.03.06

よみもの

主演・豊川悦司さん&河毛俊作監督インタビュー! 『仕掛人・藤枝梅安』『仕掛人・藤枝梅安2』 「きもの de シネマ」番外編

2023.06.09

よみもの

10名のレギュラー陣が勢揃い!『鬼平犯科帳』SEASON1 「きもの de シネマ」番外編

ですが、きものは令和の時代にも健在で、きものを不断着とする人だって少なくありません。きものと読者なら、なおさら。

加えて、歌舞伎や能楽に代表されるようにきものが仕事着というジャンルもあります。

今回注目した『絶唱浪曲ストーリー』に登場する浪曲師・曲師(三味線弾き)も、また然り。落語・講談と並ぶ日本三大話芸のひとつである「浪曲」という寄席演芸の世界が凝縮した111分を、劇場でとくとご覧ください。

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

本作は、川上アチカ監督初の長編作品。

ちんどん屋として活動していた港家小そめさんが、師となる港家小柳さんの浪曲に感銘を受けて入門した1年後から、晴れて名披露目を果たすまでの日々を記録しています。

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

浪曲師と曲師の二人三脚で語られる浪曲は、元は浪花節と呼ばれ、一世を風靡した芸能です。

浪曲師・玉川奈々福さんの言葉を借りれば、「昭和22年の芸能人長者番付ではトップ10のうち7人が浪曲師」だったほど。最盛期には東西で3000人もいた浪曲師も現在では100人に満たなくなったものの、近年、続々と若手がその門戸を叩いているといいます。

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

独特の唸り声や節回しに、キレのよい啖呵。三味線のしなやかな音色が浪曲師の発する声と掛け合いながら、情感たっぷりに語られる物語は、想像以上にスリリングで驚かされます。その迫力に気圧されながら、これが生の舞台なら如何ばかりか……と感じ入ってしまう口演シーンは、必見です。

本番や稽古といった「浪曲」の場面だけでなく、この物語の魅力はその芸を支える日常生活を描いた風景にあります。

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

師弟が祖母と孫のように過ごす時間。

「お腹を空かせて弟子を帰さない」という浪曲界の鉄則の通り食卓を共にし、健康を気遣い、猫のあんちゃんの手を取って歌ったり、茶の間で昔話に花を咲かせたり――

そういう何気ない日常が、「浪曲はただの芸ではなく、人生そのもの」と教えてくれるのです。

パンクでファンキーな浪曲師の生き様

前半は師匠・小柳さんの晩年を見事に捉え、新たに小そめさんの後見人となった曲師・玉川祐子さんとの日々を追う後半へと物語は思わぬ展開を見せます。

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

圧倒的なのは、小柳さんの口演。
曲師との丁々発止のインタープレイはもちろん、細かな仕草でも客を魅了します。

例えば、女のセリフを言うときに衿元にそっと手をやって色気を表現するのは、きものならでは。

加えて、黒いきものに濃いオレンジ色の八掛、帯揚げ、帯締めを合わせたコーディネートは、上品なのに婀娜っぽい艶を感じさせます。

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

また、前出の長者番付話など浪曲の今昔を語る奈々福さんと、それを見守る曲師・沢村豊子さんの渋いお召し物も恰好いい!

師匠たちの着こなしは至極ナチュラルで、マフラーの巻き方ひとつとっても、楽屋入りする際の出で立ちに惚れ惚れすること必至です。

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

そして、物語最大の見せ場は、小そめさんの名披露目会。

若手が準備に走り回り、会場となる木馬亭の前では「ちんどん月島宣伝社」の仲間が呼び込みに精を出します。ちんどん屋らしい派手なきものがまた、その場の雰囲気を演出してくれるから、衣装の力は偉大です。

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

姉弟子・小ゆきさんの、大学時代にロックバンドでボーカルを担当していた経歴が垣間見える粋な着こなしも、人柄が表れていて好感が持てます。

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

口上では、浪曲協会会長・東家三楽氏をはじめ、師匠たちがずらり。客席も大入り。

後ろ盾がない小そめさんの一人立ちを応援する木馬亭常連の心意気に胸が熱くなるシーンも。

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

お目出度い舞台。本来であれば、師匠が弟子のために晴れ着を用意するところですが、小柳師匠の代わりに周りの方々が尽力されました。浪曲師・天中軒雲月さんが仕立てられた着物もそのひとつ。

この日のために誂えられた着物に袖を通し、師匠から譲り受けた帯を締めて彼女が選んだ演目は、晩年の小柳さんが好んでかけていた『水戸黄門漫遊記 尼崎の巻』。

肝心の口演ははじまりの「水戸で三十五万石~」を見せるだけで、その編み方にも心が震えます。続きは、ぜひ生で。いつか聴いてみたいものです。

個人的には、埠頭でひとり、小そめさんが太鼓を叩いている冒頭シーンと、ラストで彼女が着ているペンギン柄のシャツが印象に残っています。

みなさまには、どのシーンが響くでしょうか。いつかお聞かせいただきたいものです。

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

© Passo Passo + Atiqa Kawakami

シェア

BACK NUMBERバックナンバー

LATEST最新記事

すべての記事

RANKINGランキング

CATEGORYカテゴリー

記事を共有する