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落涙のラスト!題名がすべてを物語る 『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』 「きもの de シネマ」vol.39

落涙のラスト!題名がすべてを物語る 『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』 「きもの de シネマ」vol.39

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。今回注目するのは、話題の小説『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』を実写化した作品。時を超えた愛が“共に生きることの大切さ”を教えてくれる新しい戦争映画です。

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特攻の歴史をいまに留める物語

早くも師走でございますね。ごきげんよう、椿屋です。

ちょうど一年前の『ラーゲリより愛をこめて』がついこないだみたいな感じがするなか、今年も感涙必至の戦中作品『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』をご紹介いたします。

2022.12.08

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©2023「あの花が咲く丘で、また君と出会えたら。」製作委員会

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

テレビCMやインターネットで、印象的なナレーションによる予告をご覧になった方も少なくないと思います。

「初めて愛した人は、特攻隊員でした――」

©2023「あの花が咲く丘で、また君と出会えたら。」製作委員会

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

1945年の日本にタイムスリップしてしまう主人公・加納百合を演じるのは、NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』のヒロインを射止めた福原遥さん。儚げな透明感の中にも芯の強さが透けて見えるひた向きな女子高校生を体現しています。

そんな百合が恋をする佐久間彰を、現在放送中のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』にも出演している水上恒司さんが演じます。

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

彼のキャスティングに関して、

「何があっても動じないし、媚びない。ちょっと武士っぽい精悍な雰囲気も彰にピッタリでした。何より年齢に不釣り合いなほど、どこか達観しているような静かな目の力。あの瞳と佇まいで、特攻隊としての自分の運命を受け入れている彰を素晴らしく演じてくれるだろうという予感がありました」

と、プロデューサーが絶賛された言葉通り、そこには優しくも逞しい特攻隊員の青年がいました。

©2023「あの花が咲く丘で、また君と出会えたら。」製作委員会

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

原作者である汐見夏衛さんが、彼の姿を初めてご覧になったときに「彰そのものだ!」と思われたというのも納得です。

©2023「あの花が咲く丘で、また君と出会えたら。」製作委員会

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

「目が覚めたら、1945年の日本だった。」

という、トンデモ設定にリアリティをもたらす最も大きな要因が、彰をはじめとする特攻隊員たちなのは、言うまでもありません。

それぞれに家族がいて、守りたいものがある——彼らの価値観や行動が、否応なく観客を敗戦間近の日本へと引き込んでいくのです。

©2023「あの花が咲く丘で、また君と出会えたら。」製作委員会

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

所懐ながら、本作で最も胸に迫るのは、ツル(松坂慶子)が営む軍指定食堂「鶴屋食堂」の手伝いをする千代(出口夏希)が、想いを寄せる石丸(伊藤健太郎)にお守り人形を手渡すシーン。出撃前に食堂を訪れた特攻隊の面々と別れを惜しみながら、平和な時代に生まれた百合と戦時中を生きる千代の感覚の違いを痛感させる場面となっています。

※お守り人形……特攻出撃の際、女学生から兵士に贈られた人形。首から提げた袋には兵士を思って書かれた手紙が入っていることもあった。

『舞妓さんちのまかないさん』での成長っぷりが記憶に新しい出口さん。あふれんばかりの本音を何とか堪えて気持ちを伝えようとする表情や仕草に見惚れるしかない感涙ポイントです。

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モンペに見る乙女のオシャレ心

和服と洋装の間にあったモンペは古臭く、戦時下の女性の服装に相応しいのはエプロン(割烹着)だったといいます。そのモンペが脚光を浴びるきっかけとなったのが日中戦争でした。

©2023「あの花が咲く丘で、また君と出会えたら。」製作委員会

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

戦時下であっても洋装に身を包んだ上流階級の女性たちが銀座の街を闊歩していた世の中で、女性の服装を画一化することは困難を極めます。

そこで政府によって設置された服装改善委員会は、新しい国民服によって平準化することを目的とし、戦時服としてモンペの持つ機能性を再評価しました。それでも、なかなかモンペの普及は進まなかったのです。

タイムスリップしてきたときは制服を着ていた百合も、ツルさんの食堂を手伝うことになり、モンペを着用します。

©2023「あの花が咲く丘で、また君と出会えたら。」製作委員会

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

百合のモンペ姿は、3パターン。

空色や朱赤などかわいらしい色と落ち着いたグレーを上手に組み合わせた装いは、機能性にお洒落心をプラスした絶妙なコーディネートです。

作中、モンペを着るようになった百合が、その動きやすさを痛感するシーンもお見逃しなく!

©2023「あの花が咲く丘で、また君と出会えたら。」製作委員会

©2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

1937(昭和12)年11月号の『ホーム・ライフ』のエッセイにおいて、画家・藤田嗣治氏はエプロン(割烹着)を批判し、モンペを推奨。彼の提言の影響はさておき、愛国婦人会はモンペを制服として採用しました。

同号の別記事においても、女学生の国防服としての「モンペ式夫人国防服」が非常時下における経済と国防を兼ねたものとして歓迎されていると記されています。

※『ホーム・ライフ』……1935(昭和10)年8月~1940(昭和15)年12月まで発行された“美しい写真を主とした家庭雑誌”をキャッチコピーとする高級グラフ誌。2007(平成19)年には、柏書房から完全復刻版が発刊された。

こうしてモンペは進化しながら、銃後を守る女性たちに親しまれていき、戦時下の国民服となったのでした。

©2023「あの花が咲く丘で、また君と出会えたら。」製作委員会

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最後に。

冒頭でふれた『ラーゲリより愛をこめて』同様に、本作でも手紙がとても重要なアイテムとなっています。

兵士の手紙は、家族や友人、恋人宛のものであっても軍からの検閲が入り、相手に届かないことも珍しくありませんでした。そこで、地域の人に預け、代わりに出してもらうこともあり、そうして検閲を免れた手紙がいくつもいまに残っています。作中、ツルが特攻隊員らからの手紙を投函しにいく様子も描かれています。

その手紙がいったいどんな役割を果たすのか——どうぞご自身の目でお確かめください。

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