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衣装が決め手!遊び心満載な軽快時代劇『大名倒産』 「きもの de シネマ」vol.30

衣装が決め手!遊び心満載な軽快時代劇『大名倒産』 「きもの de シネマ」vol.30

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。いまなら、梅雨の鬱屈を晴らしてくれる抱腹絶倒な人生逆転☆エンターテインメント『大名倒産』なんて、いかがでしょう?

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笑いあり、涙あり!痛快マネーエンタメ

ごきげんよう、椿屋です。

長雨特有のじめっとまとわりつく空気がもたらす気怠さを、せめて心だけでもスカッと晴れやかに!という願いを込めて――

今回ご紹介するのは、絶対絶命のマネーピンチをあの手この手で切り抜ける節約エンターテインメント『大名倒産』でございます。

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

主人公は、庶民から一国(越後丹生山藩:えちごにぶやまはん)の若殿様になっちゃう松平小四郎。演じているのは、キャリア四半世紀を越える愛すべき国民的俳優・神木隆之介さんです。

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

シンデレラならぬプリンスストーリーかと思いきや、実は25万両(現在の価値で100億円)もの借金を抱えるビンボー藩の行く末を押しつけられるという苦難の物語

問題を丸投げしてきたのは、先代藩主の一狐斎(佐藤浩市)で、彼曰く、藩を救う手立ては計画的な藩の倒産=大名倒産とのこと。

借金を返済できなければ、殿には切腹が待っています。なんたる流れ弾!

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

「マジで~⁉ 聞いてないよ~!!」とどんなに叫んだところで、100億もの借金は消えてなくなったりしません。

というわけで、“巻き込まれ系プリンス”の小四郎は、幼馴染のさよ(杉咲花)兄である新次郎(松山ケンイチ)&喜三郎(桜田通)、家臣の平八郎(浅野忠信)らと一緒に、節約プロジェクトに乗り出すことになるのです。

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

原作は、ベストセラー作家・浅田次郎先生の傑作小説

『鉄道員 ぽっぽや』(1999年/東映)、『壬生義士伝』(2003年/松竹)、『輪違屋糸里 京女たちの幕末』(2018年/アークエンタテインメント)など数多くの映像化で知られる浅田作品のなかでも、痛快さにかけては群を抜いているストーリーです。

それを、笑いと涙のバランスに絶妙なセンスをお持ちの前田哲監督が実写化。『ロストケア』(3月公開/東京テアトル、日活)、『水は海に向かって流れる』(6月公開/ハピネットファントム・スタジオ)に続く今年3本目の新作映画で時代劇デビューを果たされました。

個人的見解で大変恐縮ですが……わたくしが「この監督さん、くる!」と確信を得たのは、2008年公開の『ブタがいた教室』(日活)でございました。

実際にブタを飼育しながら撮影を行い、クライマックスとなるシーンでは台本なしで話し合う子どもたちの迫真の演技が話題となりました。未見の方は、ぜひ一度ご覧くださいませ。

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

江戸流SDGsで目指せ!借金返済。

リサイクルやシェアハウスといった知恵と工夫で藩の財政を立て直そうとする小四郎の、若きリーダーとしての葛藤と成長はもちろん、最たる観どころは神木さんの愛嬌あふれる変顔の数々!

現在放送中のNHK朝の連続テレビ小説「らんまん」とは違ったキュートさが全開です。

三兄弟がまとう「勝虫」に光る遊び心

撮影は2022年8月下旬から10月上旬にかけて、松竹撮影所をベースとして京都周辺で行われました。西本願寺の国宝「鴻の間」や詩仙堂方丈寺、建仁寺霊源院などの貴重なロケーションは、時代劇ファンならずとも見逃せません。

また、「きものと」読者必見!の遊び心に富んだ衣装も魅力的です。

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

クセが強めな一狐斎のお召し物は、「ちょっとした怪しさというか、キャラクターとしての魅力を加えるために、西部劇へのオマージュを込めた装いにしてみた」と前田監督。

派手さでいえば、大阪の豪商・両替商「天元屋」の女主人タツ(キムラ緑子)の存在感に優る者はおりますまい。さすが、緑子さん!あの衣装を着こなせる人はそうそういません。

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

小四郎の母・間垣なつ(宮崎あおい)のグラデーションがかった朱色の着物は、朗らかな彼女の笑顔を一層引き立てる装い。対して、町娘であるさよの衣装は、原色の赤に黄とかなりポップなコーディネートです。

勘定方・橋爪佐平次(小手伸也)の妻・しの(ヒコロヒー)の武家の女ならではの質素倹約な恰好、新次郎と惹かれ合うお初(藤間爽子)の若い娘さんらしい華やかな出で立ちと、比べながら愉しむのも一興ではないでしょうか。

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

作中、何よりもときめいたポイントが、三兄弟の仲睦まじさを象徴するかのような「蜻蛉」の柄でした。

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

©2023 映画『大名倒産』製作委員会

お分かりいただけるでしょうか。それぞれの着物に蜻蛉が飛んでいるのが!

蜻蛉は、別名「秋津」とも呼ばれ、弥生時代の銅鐸にも文様として描かれているほど古くから親しまれてきた昆虫です。

前にしか飛べないこと、目玉が大きく強さを感じさせることから、「勝虫」という縁起のいい名前ももっています。そのためモチーフとして武士たちに好まれ、刀の鍔や陣羽織といった武具に用いられるようになります。さらには、物の頭(先端)にしかとまらない性質から、男児の産着の柄として出世への願いが込められることも。

まさに、思わぬ出世で藩を率いていく幸四郎と、彼を傍で支えるふたりの兄に相応しい柄なのです。

押し寄せるピンチを物ともせず、逞しく奮闘する彼らの生き生きとした姿に声を出して笑って、じっとり気分を吹っ飛ばしましょう!

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