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清濁併せ呑む人間の業を知る『仕掛人・藤枝梅安』 「きもの de シネマ」vol.25

清濁併せ呑む人間の業を知る『仕掛人・藤枝梅安』 「きもの de シネマ」vol.25

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。今回注目するのは、池波正太郎生誕100年企画で誕生した新たなる『仕掛人・藤枝梅安』です。

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今回ご紹介する新生『仕掛人・藤枝梅安』では、苦み走ったいい男の代表格・豊川悦司さんと端整な二枚目・片岡愛之助さん、ふたつの異なる色気を全身に浴びることができます。

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

原作は、言わずと知れた池波正太郎氏の同名時代小説シリーズ。累計発行部数600万部超えのベストセラーで、今日までに幾度も映像化されてきた不朽の名作です。

軽くおさらいしておきますと……

主人公・藤枝梅安(豊川悦司)は、腕のよい鍼医者でありながら、その腕をもって悪を葬る仕掛人という裏の顔を持つ男。いわゆる、ダークヒーローでございます。過去には、萬屋錦之介さん、緒形拳さん、渡辺謙さんなどなど、多くの男前たちがさまざまな梅安を見せてくれました。

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

池波正太郎生誕100年という記念すべき年に『仕掛人・藤枝梅安』の新作を世に送り出すため立ち上げられた映像化プロジェクトには、テレビ各局をはじめ、新聞社や出版社など多くのパートナーズの方々が賛同し、魅力的で安定感抜群のキャスティングが実現しました。

先述のおふたりを筆頭に、梅安が唯一心を許すおもん役に菅野美穂さん、梅安の身の周りの世話をするおせき役には高畑淳子さん、鍼の師匠に扮する小林薫さんといったレギュラー陣に加えて、第一作では柳葉敏郎さんに天海祐希さん、続く第二作では椎名桔平さんや佐藤浩市さんら豪華ゲストが物語の肝となるクセのある役どころを見事に果たしておられます。

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

時にあっけないほど簡単に奪われる命。江戸の市井で人々の苦しみに寄り添いながら命を救い、と同時に、“蔓”と呼ばれる裏家業の元締めから大金を受け取って人の命を奪う。生かしておいては為にならない奴らも、誰かの親であり、誰かの子。果たしてその仕掛は正しいのか否か……

ある依頼を請け、梅安は仕掛人の掟に反すると知りつつも殺しの起り(依頼人)の身元を探ろうと動き始めます。その先に待ち受けている思わぬ出会いとは何か、ぜひ劇場でお確かめください。

日々の営みに宿る、人生賛歌

戦後を代表する時代小説家である池波正太郎氏は、普遍的な人々の営みを丁寧に掬い上げることに長けた作家だと思います。また、昭和グルメのご意見番として名高く、彼が愛した老舗も多いことはよく知られたお話。グルメエッセイも多数上梓されていますが、なにより『鬼平犯科帳』や『剣客商売』といった作中に登場する食事シーンは垂涎ものとして多くのファンを唸らせてきました。

本作でも、世話焼きのおせき(高畑淳子)が朝餉や夕餉の支度をする様子が実直に描かれ、相棒・彦次郎(片岡愛之助)が腕を揮う夜食も実に美味しそう。当たり前の営みに欠かせない衣食住のひとつです。

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

とくに、料理屋「万七」の女中・おもん(菅野美穂)との差しつ差されつの一幕は、緊迫感ただよう本作において、心穏やかなひととき。〇〇ハラスメントがどんどんと新しく登場する昨今、お酌もアルハラだと言われかねませんが……酒を酌み交わすだけで、多くを語らずとも、薫り立つものが確かにあるのです。

盃を重ねながら、ゆるりと心がほぐれ、自ずと互いの距離も近づいていく——そういった時間や空間を味わうのもまた、オツなものではないでしょうか。

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

一方、町の酒場でだらしなく安酒をあおる男たちもいます。何気ない風景が現実味を色濃くするのは、京都の撮影所が持つ底力があってこそ。東映京都俳優部の面々の協力も欠かせないピースです。

本作においてはとくに、早乙女太一さんの最大の見せ場となる美しい殺陣を、東映剣会の殺陣師・清家三彦氏が担当されています。瞬きどころか息をするのも覚束なくなるほどの迫力シーン、お見逃しなく。

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

そして誰よりも妖艶さで魅せてくださる天海祐希さんの存在感たるや

感嘆を通り越して、もはや背筋に冷たいものが走るほど。実の母親と、一人二役を演じておられますが、その変貌ぶりも見どころです。

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

なかでも印象的だったのが、菫色の半衿に紫紺の羽織を合わせ紫系で統一したコーディネート。

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

©「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社

重ね衿の深みある赤が効いていて粋です。これを婀娜(あだ)になりすぎないよう着こなしておられる姿に、天海さんの本領を見ました。

ハレではなくケの、日常着をいかに自然に、素敵に表現するか……時代劇の俳優たちの力量が試されるところではないでしょうか。

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