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「”KIMONO”商標登録にNo!」署名運動について 「WORLD KIMONO SNAPS」 – FRANCE –

「”KIMONO”商標登録にNo!」署名運動について 「WORLD KIMONO SNAPS」 – FRANCE –

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昨年、キム・カーダシアン・ウェストが、彼女の下着ブランドに”KIMONO”という名前をつけて商品登録することをSNSで発表しました。それに対して「”KIMONO”商標登録にNo!」署名運動をはじめたのですが…それによって様々なことが起こりました。

日本のみなさま、いかがお過ごしでしょうか。
今回は、去年起きました、着物にまつわる大事件についてお伝えしたいと思います。

ご存知の方も多いかと思いますが、昨年6月、キム・カーダシアン・ウェストが彼女の下着ブランドに”KIMONO”という名前をつけ商品登録することをSNSで発表しました。
それに対して私が「”KIMONO”商標登録にNo!」の署名運動をはじめたことによって、実に様々なことが起こりました。
もう1年以上が経ったのだなぁと思うと、なかなか感慨深いです。

署名運動を開始した際のサイトの様子

*6月27日 
友人のSNSで事態を知り、「#KimOhNo」のハッシュタグで抗議されていることを発見。
しかしながらSNS上の意見だけでは実際の抑止力に欠けると思い、署名運動がないかどうか調べたところみつからず、「Say No to Kim Kardashian’s “KIMONO” #KimOhNo」と名付けた署名運動を、Change.orgのサイトにて英語でスタートいたしました。
(当初サイトの使い方に慣れておらず署名宛先を和装振興協議会宛にしており、数時間後にキム宛に変更しました。)

*6月28日
なんと一晩で署名が2万人超に。
Change.orgの日本運営側より、日仏語での展開を勧められました。
日本語のタイトルは「着物は日本の文化。キム・カーダシアン・ウェストの”KIMONO”商標登録にNo! #KimOhNo」。
「登録された商標に対して、対抗するには商標登録の異議申し立てをしなければなりません。黙っているのではなく、まずは少なくともどれだけの人が反対しているのか、数として見せるところから始めましょう。」と謳って日本語での署名運動もスタート。

*6月30日
英語圏の方々からの勧めが多くあり、商標登録の決定権を持つ米国特許商標庁(USPTO)を署名宛先に追加。

*7月1日
Change.org運営から、署名の発起人である私の背景を書いてほしいと言われ、進捗報告フォームに私が副会長を務めるNPO法人のことを記入。

*7月2日
キムがSNS上で”KIMONO”の名前変更を発表。
Change.org運営の勧めにより署名運動を終了&扉写真をさしかえ。
その際の締めの文として、「どのようにすれば着物を守れるのか考える良い機会になりました。ユネスコの無形文化遺産登録も考えているので、その際はお声がけするかもしれません」と記載。

ここで丸くおさまれば良かったのですが…

その深夜にinstagramで「まだ何もなさってない」と言うコメントを見てしまいました。

米国特許商標庁(USPTO)に書類を送るのは当然としてさらにその先も考えていましたので「ユネスコ無形文化遺産登録につなげている」という返事をし、さらに同じような文をTwitterにてツイートしました。

その時はパリの深夜=日本の早朝。
私が起きたころにはすでに「署名の流用だ!」とSNS上で炎上していました。
生まれてはじめての署名運動で、Change.orgサイトの意見交換欄も使い方がわからないまま…手探りで3ヶ国語を使って無償で署名運動を行なって疲労困憊のところに、とんでもない量のSNS上の誹謗中傷の集中砲火がはじまってしまいました。

*7月3日 
米国特許商標庁(USPTO)に署名と抗議文をメール。

*7月4日
事態収束のため、私が副会長を務めるNPO法人からも正式声明文を掲載。
「KIMONO抗議署名、別目的に「流用」? 発起人発言でリスク浮き彫りに」と言うタイトルでネット記事が出され、「集まった署名を別のプロジェクトに「流用」する計画があると明かした」と書かれたため、本当に悪用したかのように捉える人がさらに増加。

*7月5日
SNSのコメントを削除し、SNSでの応対はしないと決定。
署名サイト、ダイレクトメールのみで対応。

私自身に署名を悪用しようという意思はなく、またそもそも「ユネスコに宛てていない署名をユネスコに宛てる」という発想もなかった(無効であり意味がない)ため、うがった見方をする方々への理解がなかなかついていかず、完全に遅れをとってしまいました。
ネット記事においてもSNSの切り取り方が絶妙で、こうやって私にとっての事実は改竄されて行くのだな…とも実感しました。

自体の収束を一番に考えれなかった自分の甘さ、そしてネット記事やSNSの情報を見てパニックになった方々に「誤解させて申し訳ない」と真摯に伝わる言葉をすぐに返せなかった自身の未熟さを知り、いろいろな意味でとても勉強になりました。
はじめたからにはきちんとするしかない、そしてする。
またそれをきちんと伝えることも大切だと学びました。

損得勘定でも売名行為でもなかったのですが、自身の紹介をそっちのけで署名運動をはじめたため、後から「金髪でデニム着物」の私の写真を見て驚いた方もいらっしゃったようです。

たくさんの方々から、私は署名運動を起こすにふさわしくない、という抗議が寄せられました。

その一方で、真剣に考えてメッセージを送ってくださる方や、Twitterだったらこうしたほうがいいとアドバイスをくださる方、また、みなの疑問点をまとめてメールで送ってくださる方などもいらっしゃいました。誤解が解けたのちには「むしろ大変だったでしょう…」と労りの言葉をいただいたりもしました。

*2019年7月11日
①キム・カーダシアン・ウェストによる「KIMONO」関連の商標登録の棄却
②「KIMONO」を日本のシンボルとしてUSPTOが認知し商標登録させないようにする
の2点を目的に署名運動を再開。

その後、米国特許商標庁(USPTO)から求められた正式抗議文(Lettre of Protest)を作成をしなければ、署名以前に異議申し立てにならないということが判明。

さすがに専門知識が必要なためSNSなどを通して協力者を探したところ、ボランティアの学生さんと、東京で知的財産及びエンターテインメント法を専門とするニューヨーク州弁護士の方(アーロン・モリン氏)が名乗りをあげてくれました。

日本の文化をより多くの人々に伝えるためビンテージ着物を使用したサスティナブルなアクセサリーブランドである『Ichijiku』をはじめた方で、彼の法的専門知識と着物に対する敬意は本キャンペーンにふさわしく、プロボノ(社会公共的な目的のための、職業上のスキルや専門知識を活かしたボランティア活動)でのリーガルサポートを提供していただけることになりました。

彼が必要な書類を用意し、代表として米国特許商標庁(USPTO)に正式抗議文を提出。
キムの下着会社の専門弁護士にも連絡してくれました。

ニューヨーク州弁護士の方が名乗りをあげてくれました

私もメールや電話はしたのですが、不在という秘書の返事しかないまま時が過ぎ、このままもしこっそり”KIMONO”という名前で商標登録が済んでしまったらどうしよう…と思っていたところ、8月26日に、キム・カーダシアンがインスタグラム上で、新ブランド名が「SKIMS」になったことを発表しました。

米国特許商標庁(USPTO)に出願されていたKIMONO関係の商標登録出願も8月21日付けですべて放棄されてた事も判明。法律上、商標登録なしでブランド立ち上げが可能とはいえ、「やっぱり”KIMONO”にします」ということはないと考え、「キム・カーダシアンの”KIMONO”商標登録にNo!」と言うこの署名運動の目的が果たされたとみなし、署名運動を終了させていただきました。

この一連の署名運動を通して知った事実を、ここでシェアしておきたいと思います。

海外の方からも驚かれたのですが、実は「着物」という文化を守る法律が日本には存在しません。
結城紬などの一部が日本の重要無形文化財という形で認定されていますが、着物自体を守る、あるいは定義する法律がないのです。

例えばフランスであれば AOC(原産地統制呼称)という法律があり、『シャンパーニュ』は同地方で作られた、定められた方法で作られたものにのみ使って良い名称です。
有名な件ですと、1993年、イヴ・サンローランが発売した『シャンパーニュ』という名の香水に対してシャンパーニュ地方が訴訟を起こし勝訴しています。

この原産地統制呼称に当たる日本の地理的表示保護制度(GI)はありますが、食品に限られる上、反対する人たちもいて、実際に作り手などを保護するようにはなっていないようです。

もし万が一、米国特許商標庁が”KIMONO”の商標登録を認めた場合、逆に我々の文化であるはずの”KIMONO”という名前は、キムだけが使用して良い下着ブランドの名称になってしまいます。
彼女の影響力を考えると、少なくともネット上での”Kimono”は下着ブランドになってしまう…ただでさえ生産者が年々減るなか”Kimono”という名前が奪われてしまうのは避けなければいけないと思ったのです。

いろいろ調べたなかで対抗できる可能性がある制度が「ユネスコの無形文化遺産登録」だったのですが、この道のりは数年でできるようなものではなく、とても長いのです。

まず、各国から登録したい案件を提案するしくみになっており、日本は2年に1回しか提案のチャンスがありません。また日本国内で何をエントリーするのかという国民的議論が必要です。
日本ではそもそも、文化財保護法に基づくものをエントリーし登録されてきた経過があり、文化財保護法との関連が薄い「着物」は、現時点で提案案件になるまでかなり遠いのが事実です。

去年「文化芸術基本法」に「生活文化」という枠組みが明記され、「茶道」や「華道」「書道」などとともに「着物」も「生活文化」のひとつとして、やっとこれからの可能性が出てきたという状況だそうです。

現在、その登録に向けては京都和装産業振興財団(https://www.wasou.or.jp/)がユネスコ登録に向けて中心的な役割を果たしているそうです。
その団体を、京都市・京都府・商工会議所が支援する形でのようですが、京都のきもの産業部門だけの事案ではありませんので、きものの全国組織を巻き込んだ形式で進められているそうです(https://www.wasou.or.jp/wasou/about/w_heritage.html)。

今回の署名運動は英語・フランス語・日本語の3サイトで展開されましたが、一番署名が多かったのは英語サイトでした。

もしかすると英語サイトにて署名された日本人の方がいらっしゃったのかもしれませんし、逆に外国人の方でも日本語サイトにて日本語で署名された方もいらっしゃったかもしれませんが、日本語サイトでの署名は全体の3分の1以下でした。

もしかするとこれは、日本人の「着物」への関心の薄さが影響しているのかもしれません。
逆に海外の人の方が、日本という国をイメージする際に「着物」は切っても切り離せないもののようです。

私はちょうど着物文化を拡めるべく総合店の企画に本腰を入れていた矢先だったので、とりわけ人ごとではなく…
実際、お店を開けて半年が経ちますが、お客様の大半はフランス人。とても喜んでもらっています(『パリの着物屋、その後』参照)。

フランスはコロナの影響で再び緊迫した状況になっておりますが、早くもとどおりの平和な日常が戻ってくることを願いつつ…
引き続き、きもの文化が世界で親しんでもらえるようにがんばりたいと思います

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