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実は縁起がいい!?着物の“怖い“柄 「3兄弟母、時々きもの」vol..22

実は縁起がいい!?着物の“怖い“柄 「3兄弟母、時々きもの」vol.22

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現代の私たちから見るとちょっと縁起が悪そうだったり、おどろおどろしい着物の文様。実は調べてみると……!?

2023.07.24

まなぶ

“ふだん浴衣”デビュー!にチャレンジ 「3兄弟母、時々きもの」vol.21

8月も終わりに近づき少しずつ秋らしさが感じられるといいのですが……まだまだ暑いですね。

こんな時はやっぱり、ちょっとひんやりするお話を……?

なんてね。

実は私、怪談は大の苦手なもので、百鬼夜行図を見て怖ほっこり(?)したり、京極夏彦先生のミステリーホラー小説をぞくぞくしながら読むので精一杯です。

その代わりに今回は、現代の私たちから見るとちょっと縁起が悪そうだったりおどろおどろしい着物の図案、文様の意味を調べてみたいと思います。

まずは蜘蛛の巣。

こちらは比較的ライトで、現代の着物や帯にもよく見かける文様ではないでしょうか。

蜘蛛の巣の柄

私がはじめて蜘蛛の巣柄の着物を見たのは、明治の女流画家・上村松園が描いた『焔』

『源氏物語』の登場人物のなかでもとりわけ有名な”生き霊となってしまった女性”、六条御息所の恨みと哀しみがあらわされた姿です。

幼少期にこの絵を見たため、私のなかで蜘蛛の巣柄には「執着」とか「束縛」といった、六条御息所の人物像から勝手に補完された悪いイメージがついてしまいました。

でも実際に調べてみると……

古くから中国では蜘蛛は”天から地へと幸せを運ぶ使者”とされ、縁起の良い虫なのだそう。

そして蜘蛛は糸を出して巣を張り獲物を捕らえるため、”幸せや夢を掴む” “物やお客さんを集める”といった縁起の良い柄だったのです!

そういえば筆者の若い頃に流行ってみんな車につけてたドリームキャッチャーなるハワイのオーナメントも蜘蛛の巣みたいな形でしたね。

江戸時代には蜘蛛の待ち伏せ式の狩から、芸者や遊女たちが”待ち人(なじみ客)がくる”と縁起を担いでよく着物に使用したことで、あだっぽいイメージがついていったこともあるようです。

そういう意味では松園が描いた六条御息所もおそらく、恨みというより(他の女性に夢中になって)自分のところに来なくなった光源氏に「今夜は来てくれますように」と着物の柄に願いを込めた切なさをあらわしていたのかもしれませんね。

次に、これはなかなか現代の着物では見かけないかと思います。

髑髏(どくろ)です。

髑髏の柄

柄の名前としては「野曝し(野晒し:のざらし)」なんてちょっと穏やかではないですね。つまり死んだ肉体が自然の風雨によって白骨化していく様子です。

こんなの直球で怖いの着てる人がいたら目が合わないように道の反対側歩いてしまうかも……

でもこれも、実は縁起の良い柄なんです!

髑髏には、日本では魔除け・厄除けの意味が。

また、「たとえ骨になっても」という”決死の思い”、骨になった後は蘇る”再生”の意味もあるのだそうです。

さらには「人間なんて死んだらどうせ同じ骨になるのだから身分で差別するのは馬鹿らしい」といった仏教の『色即是空』に近い意味もあるという説も。

いずれも西洋とは違う輪廻転生の思想がベースになっているため、死を連想させる柄も悪く捉えられないんですね。

2021.07.16

よみもの

夏は、目にも心にも〝ひんやり〟を 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.8

そして極め付けは幽霊や鬼、妖怪の柄!

こんなの良い意味があるわけない!でしょ?

幽霊や鬼、妖怪の柄

実際アンティーク着物のコレクションなどでたまーに見かけることがあるのですが、なんでこんなの柄にしたの?と製作者の意図が図りきれず戸惑います。

でもこちらも……やはり厄除け・魔除けの意味があるのだそうです。

以前「おしゃれは誰のもの?」というテーマで、日本のファッションは着ている自分自身よりも他人の目を意識しがち、という説を書きましたが、こういう怖い柄はどう捉えたらいいんでしょうね?

2022.05.23

まなぶ

おしゃれは誰のもの? 「のんびり楽しむイラスト服飾史」vol.2

自分の身を守るために、あえてより怖い存在を身に纏うという発想。

霊や鬼がどう考えるかは分かりませんが、生きてる人間側の感想としてはこんなおどろおどろしい見た目をした人には気軽に近づけないな……と感じるので、結界のような役割をしてるのかも。

ところで、これまで挙げてきたようなちょっと恐ろしい絵柄を好んで着ていた人たちがいるんですよ。

それは…

江戸っ子のヒーロー、火消し

image credit:Wikimedia Commons 土蜘蛛 鯉 張順

そう、粋でいなせな江戸っ子のヒーロー、火消したち。

普段の着物に使うというより、火消しの仕事に着ていく刺子半纏の裏地に、幽霊や鬼、髑髏といった恐ろしいモチーフを描いていたのです。

理由はやはり魔除け、死の危険や恐怖にも負けない心意気をあらわしていたのではないかと言われています。

この刺子半纏、水をしっかりかぶって着ることで防火服となります。そして決死の消化活動が無事に終わり生還する時には、汗と煤にまみれた体にこの半纏を裏返して柄の方を表にして着て帰る姿の格好良いこと!!

常に死と隣り合わせの火消しは、潔くパッと散るのを美徳とした武士の思想にも通ずるものがあり、生き急ぎがちな江戸っ子たちの憧れ、スターのような存在だったんですね。

このように、日本における“怖い“柄を身につけることがむしろ良い意味とされたのは、仏教と武士の独特な死生観が根強く浸透していたからなのでしょう。

昔からやんちゃな若者が髑髏や悪魔的な悪っぽいもの、怖いモチーフを使いたがるのはどちらかというとヨーロッパ的思想(邪悪なものに自ら近づいていく)に近いように見えますが、根底には最後に紹介した火消しのような恐れを知らぬ豪胆な職業に就く大人に憧れる部分もあるのかもしれませんね。

……そんなわけで、怖く見えるけど実は良い意味のある着物の文様を紹介してみました!

美しい草花や蝶の柄に少しマンネリを感じたら、髑髏や蜘蛛の巣柄をさりげなく半衿や帯留めあたりから始めてみるのも良いかもしれませんね!

2023.07.28

よみもの

『和のあかり×百段階段2023~極彩色の百鬼夜行~』 ホテル雅叙園東京「きものでミュージアム」vol.24

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