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作家・宮城麻里江さん (沖縄県島尻郡南風原町・南風原花織、琉球絣)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.5

作家・宮城麻里江さん (沖縄県島尻郡南風原町・南風原花織、琉球絣)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.5

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京都きもの市場の名物バイヤー・野瀬の買い付け現場に密着する沖縄編最終回は、抜群のセンスにファンの方の多い南風原花織・琉球絣作家・宮城麻里江さん。アトリエ『TEORI WORKS OKINAWA』を訪ねます。

2023.03.21

まなぶ

城間びんがた工房(沖縄県那覇市・琉球紅型)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡りvol.4

沖縄染織の現地取材、最終回は若手作家・宮城麻里江さん

気候や風土、そして異国との交易から培った文化の影響で、本州とは異なる歴史を持つ南国、沖縄。

鮮やかな色彩や、芭蕉布など希少な糸から生まれる琉球の染織の世界には、全国各地、世代を問わずに根強いファンが多く、きもの愛好家から圧倒的な支持を得ています。

シリーズ5回に渡って、京都きもの市場の名物バイヤーである野瀬達朗に同行し、沖縄の染織工房の様子をお伝えしてまいりました。

宮城麻里江作

沖縄編最終回は、南風原花織・琉球絣の作家、宮城麻里江さんを訪ねて。

南風原の閑静な住宅街にあるアトリエ『TEORI WORKS OKINAWA』にお邪魔しました。

麻里江さんのアトリエ『TEORI WORKS OKINAWA』

きもの雑誌掲載の作品が大反響

南風原花織・琉球絣作家・宮城麻里江さん

今回ご紹介するのは、バイヤー野瀬も注目している若手作家、宮城麻里江さんです。

京都きもの市場、バイヤー・野瀬達郎

バイヤー野瀬達朗(以下、バイヤー野瀬):以前、京都きもの市場でオーダーした宮城麻里江さんの着尺をきもの雑誌にてご紹介していただきました。

雑誌掲載のお品物は、大抵、何件かお問い合わせをいただくんです。

この時も掲載品に関してのお問い合わせをいただきましたが、とりわけ麻里江さんのこの着物には20件近くのお問い合わせをいただきました。こんなに多いことは滅多にありません。

麻里江さんの作品を女優 吉田羊さんが着用したページ。お問い合わせはいつもの数倍に

麻里江さんの作品を女優 吉田羊さんが着用したページ。お問い合わせはいつもの数倍に

織の世界との出会いは、結婚

アトリエは民家をアレンジした二階建て。

一階には機場と琉球絣の作業場が、そして二階にはこれまでの作品ファイルや資料、作業スペースのある麻里江さんのパーソナルスペースと、糸の染め場や染めた糸を干すバルコニーがあります。

アトリエの一階にある機場の風景

アトリエの一階にある機場の風景

まずは一階から。

取材当日は30〜60代の織り手さんたちが、心地よい機音を奏でながら高機4台をフル稼働で作業されていました。

手花織

機織りの様子を見学させていただきながら、宮城麻里江さんにお話を伺います。

バイヤー野瀬:麻里江さんは、義理のお母さんであり南風原花織の作家である宮城竹子さんの元で修行してこの世界に入ったと聞きました。

宮城麻里江さん(以下、麻里江さん):はい。結婚するまでは、東京のアパレルメーカーに勤めていました。

結婚を機に沖縄に戻ったのですが、彼の実家にご挨拶へ伺った時に初めてお義母さん(竹子さん)にお会いし、そこで南風原花織をされていることを知りました。

もともとファッションや布、きものが好きだったこともあり、織物の世界に興味を持ったので、「今度見に行ってもいいですか?」とお願いしたのがきっかけです。

色鮮やかな綜絖

色鮮やかな綜絖

麻里江さん:遊びに行くうちに、染めのお手伝いを始めたんです。そして次第に、織りや絣の技法などさまざまなことを教えてもらうようになりました。

バイヤー野瀬:結婚が織りとの出会いももたらしたとは。竹子さんの指導はスパルタでしたか?(笑)

麻里江さん:いえ、むしろ放置です。図案を渡されて「やってみて〜」って(笑)。のびのびと育ててもらいました。

バイヤー野瀬:それでできるのがすごい!

麻里江さん:できませんよ!お義母さんが織っている様子を隣で眺め、見よう見まねで織っていたんです。

はじめはそれでもよかったんですが、次第に基礎から学びたいと思うようになりました。それで竹子さんのお手伝いの他に、織物組合の研修やテキスタイルスクールへ行って学び始めました

糸を手に

その後、独立した麻里江さん。

2020年にアトリエ『TEORI WORKS OKINAWA』を設立し、現在は麻里江さんを含めた7名で活動をしています。

麻里江さん:私の役割は、図案の制作、糸の染色と絣括り、整経です。

これ以上は時間も足りないので、他の作業はスタッフと連携をとりながらチームで創作活動をしています。

南風原の技法を使った絣染め

次は機場の隣にある絣染めの作業場へ。実際に作業風景を見せていただきました。

絣染めの作業をする麻里江さん

麻里江さん:ここでは絣染めの作業をしています。野瀬さん、“真芯(ましん)”という技法をご存じですか?

絣糸を染める段階で、糸をずらして防染括りをします。染色した後に、ずらした糸をそろえると、数種類の柄がでるんです。南風原では昔から行われてきた効率的な経糸(たていと)の技法なんですよ。

真芯という効率的な技法で絣染めを施していく

バイヤー野瀬:なるほど、おもしろいなぁ。

望んだ色と、生まれる色

染めた糸をすぐに干せるよう、染め場はベランダに隣接した二階に。

草木染め、化学染料の特性を生かし、色を染めていく

麻里江さん:使用する糸はすべてアトリエで染めています。

あらかじめ出したい色が決まっている場合は、化学染料を使います。望み通りの色が出るので、ちょっとしたニュアンスにこだわることができるんですよね。

沖縄でとれる実

麻里江さん:ただ、糸として綺麗な色でも、反物になった時によい表情のままとは限りません。

例えば経糸(たていと)を黒にしたいけど、緯糸(よこいと)の色を効かせるために、少し明るめに染めるなどして、糸を染める段階から、常に織り上がりをイメージしています。

織物はやはり、経糸と緯糸の組み合わせなんです。

沖縄でとれる実

沖縄でとれる実を染料に用いて

麻里江さん:一方、草木染めの場合は、季節やその年の気候によって発色が変わります。だから実際に染めてみないと、どんな色になるかわからない。

でも、だからこそ楽しい。こんな色で染まったんだ、さぁこの色をどう表現しよう、他に使う糸はどうしよう、と考えるととてもワクワクするんです。

その時々によって、染色の技法を使い分けて糸を染めています。

ベランダで染めた糸を干す麻里江さん

ベランダで染めた糸を干す麻里江さん。青い空に白い建物が映える、沖縄らしい開放的な空間

色糸を大切そうに

糸玉を愛おしげに手にする麻里江さん

「好きにやりなさい」

パーソナルルーム

二階には、麻里江さんがデザインワークをするパーソナルルームがあります。

大きな窓から自然光が降り注ぐその場所で、バイヤー野瀬がすぐさま目を留めたのは、キリリとした印象の濃紺の布地でした。

バイヤー野瀬:あれ、これは? 細い織り上がりですね。

余った糸を使用して完成した角帯

麻里江さん:余っている糸で角帯を織ってもらっています。普段、必要な色糸しか染めないように心がけていますが、それでも余ってしまうことも。その時は、角帯を作るなどして使い切っているんです。

バイヤー野瀬:すごくかっこいいじゃないですか!どなたかのオーダー品でなければ僕がほしいです。

麻里江さん:オーダー品ではありませんのでぜひ。イベントなどでもお締めいただいて、宣伝してください(笑)。

バイヤー野瀬:カジュアルなのに艶感があるから、少しきちんとした場所でも使えそう。いや、うれしいなぁ。

立体的な奥行きを感じる角帯に一目惚れ。バイヤー野瀬、我慢しきれず即決です!

作品ファイルには、これまでの作品の裂も保管されている

作品ファイルには、これまでの作品の裂も保管されている

バイヤー野瀬:麻里江さんの作品は、南風原花織で織っていても、どこかスタイリッシュでモダンな雰囲気があるんですよね。だから都会の街並みにも溶け込みやすいんやと思います。

琉球絣も、紬の節感があるのにシャキッとしていて。本当に良い表情なんですよね。

麻里江さん:教わった先生方には、「まず伝統柄をきちんと織れるようにしなさい」と言われました。

基礎を学ぶために通っていたので、私ももちろんそのつもりで。

でも毎回、「なんか違う」と言われていて……

結局、先生方も途中から諦めてしまい、「好きにやりなさい」って(笑)。

伝統的な花織の技法を使いつつも、モダンな雰囲気のある名古屋帯

伝統的な花織の技法を使いつつも、モダンな雰囲気のある名古屋帯

バイヤー野瀬:この帯もまた雰囲気があっていいですね。

麻里江さん:大抵、”ティーバナ”は太い糸で織りますが、この帯は都会的な雰囲気にしたかったので、細い糸を使ってすっきりと見せました。

真剣な表情の野瀬

バイイングは真剣勝負

バイヤー野瀬:麻里江さんの作品は、どれも花織や絣が控えめで。それが今っぽさを感じさせてくれるんでしょうね。

琉球染織ならではの魅力と、ファッションとしての魅力がうまくミックスされているなと思います。

麻里江さん:色も柄も、最初は「これだけ?」とよく言われました。

でも、私はそれが好きなんです(笑)。

バイヤー野瀬:麻里江さんの作風ですね。

アトリエの窓際には麻里江さんの染めた糸で作ったタッセルが

アトリエの窓際には麻里江さんの染めた糸で作ったタッセルが

南風原花織の技術と、都会的センス

作品ファイルに保管されていた裂

麻里江さん:デザインソースは、日々の日常のなかで目に入ったものからも取り入れています。

買い物の途中で見かけた壁をみて、「ああこのグレーのグラデーションがすごく綺麗だな」ということが作品に繋がることもあります。

染織品

麻里江さん:沖縄で育ったので、色鮮やかな海を泳ぐ魚も、道端に咲くビビッドな色の花も身近にありました。それはとても美しい景色です。

けれど、好みの色かと言われるとそうではありません。私はもともと、明るい色よりも落ち着いた色が好きなんです。

染織品についても同様で、伝統的な花織や琉球絣はどれも本当にすばらしいと思います。でも実際に着たいかというと……私の普段のファッションとは、ずいぶんかけ離れているんですよね。

それで、例えばこの色を変えて柄も小さくしたら、自分らしさを損なわずに着れるかもしれない、という発想で作るようになったんです。

ヤシラミ織

リクエストゼロの買い付け

作品ファイルを見ながらバイイングスタート

アトリエを見せていただき、モノづくりに対する想いを伺った後は、いよいよ買い付けです。

バイヤー野瀬:まずは一階で見せてもらった八寸帯をお願いします。あと他にもいくつかお願いしたいですね。

作品ファイルをめくる麻里江さん

麻里江さん:ありがとうございます。これまでの作品ファイルがあるのでお出ししますね。

バイヤー野瀬:図案だけでもすでに魅力が伝わってきます。絶対に良いものができるやろうなってリアルにイメージできます。

この柄もお願いできますか。急ぎませんから。

それから…… わ、これ最高じゃないですか!

トゥイグワーを南風原花織で大胆にデザインした帯

それは、琉球絣の伝統的な柄であるトゥイグワー(鳥柄)を、南風原花織で表現した帯地でした。

バイヤー野瀬:大きさと表現方法が変わるだけでこんなにも新鮮になるんですね!ぜひお願いします。

あとは…… この着尺もいいですね。

手機風景

色合いの異なる二本の糸を使って織られた縞の紬

麻里江さん:これははじめに緯糸(よこいと)を青、白、青、白と交互にして何段か織ります。次は順番を白、青、白、青と入れ替えて織ると市松模様が現れるヤシラミ織の着尺です。

シルバーのように光って見えるのは、手紡ぎ糸の光沢感と、経糸(たていと)にも青と白の色糸が入っているので、その対比で光って見えるんだと思います。

分厚い作品ファイルをめくりながら説明をする麻里江さん

バイヤー野瀬:ぜひお願いします。

それと、小柄な方が着られるような着尺もほしいです。あとは八寸帯を5本くらい。それから……魚をモチーフにした着尺か帯も作ってほしいな。

麻里江さん:挑戦してみますね!

野瀬から麻里江さんへのオーダーに、細かな色や柄の指定はほとんどありませんでした。

バイヤー野瀬:細かくリクエストをしないほうが、麻里江さんの感性で新しい作品が生まれるんです。感動をもらえる可能性が高いんですよ。だから色も柄もすべてお任せしています。

とにかく「宮城麻里江の作品がほしい」というお客さまが多い。年齢層も幅広くとても人気があるんです。

これから

これまで手がけてきた作品の裂

これまで手がけてきた作品の裂

麻里江さん:少し前に、はじめて呉服の展示販売会にお邪魔しました。

お客さまと直接お話できる機会をいただいたのもはじめてだったんですが、本当にさまざまな世代の女性がお手にとってくださっている様子を拝見できて、とてもとてもうれしかったです。今後の作品づくりの参考にもなりました。

宮城麻里江さん

麻里江さん:今後の挑戦のひとつに、布のクオリティをあげたい、ということがあります。

一枚の布として、高品質な美しい作品を作りたいと思っています。

「自分が好き」という作品が、果たして正解かはわかりません。でもひとつひとつ、お嫁に出す気持ちで大切に創っていることは確かです。これからも、自分自身が納得のいくものにこだわって作り続けたいと思っています。

宮城麻里江さんの過去の作品

構成・文/笹本絵里
撮影/田里弐裸衣 @niraiphotostudio

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