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夏は、目にも心にも〝ひんやり〟を 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.8

夏は、目にも心にも〝ひんやり〟を 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.8

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8月は歌舞伎座の「八月花形歌舞伎」(8月3~28日、10・19日は休演)で〝涼しい〟気分を味わいましょう。第一部から第三部まで、首筋から背中がヒヤッとするような演目が並びます。

8月は歌舞伎座で涼を楽しむ

夏到来!

ようやく梅雨明け、本格的な夏の到来です。年々、暑さが厳しくなるように思いますが、夏ならではの装いの楽しみもありますね。

8月は歌舞伎座の「八月花形歌舞伎」(8月3~28日、10・19日は休演)で〝涼しい〟気分を味わいましょう。第一部から第三部まで、首筋から背中がヒヤッとするような演目が並びます。

第一部は『加賀見山再岩藤(かがみやまごにちのいわふじ)』。『加賀見山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)』の後日譚です。
局・岩藤が亡くなって1年後、うち捨てられた岩藤の骨がひゅるひゅると寄り、骸骨、そして亡霊に…という岩藤怪異篇。市川猿之助が岩藤の霊など、6役の早替りを華麗に演じます。

第二部の『真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)』は、三遊亭円朝の落語をもとにした怪談。若い男に執着する女の哀れと凄みにあふれる「豊志賀の死」を上演します。もう一つの『仇ゆめ』は島原の太夫に恋した狸が、人に化けて太夫のもとへやって来ます。

第三部は『源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき)』から、『義賢最期(よしかたさいご)』。権勢を誇る平氏に追い詰められた源氏・木曽義賢の壮絶な最期を描きます。
後に源頼朝とともに平氏打倒に立ち上がる木曽義仲の父の物語。劇中、義賢は平氏への忠誠のあかしとして異母兄・義朝の髑髏(どくろ)を踏むことを強要されます。義朝は平氏に敗れ、無念の死を遂げていました。ほかに『伊達競曲輪鞘當(だてくらべくるわのさやあて)』と『三社祭(さんじゃまつり)』。

「八月花形歌舞伎」は、お化け、骸骨、髑髏、怪談…と、暑さ厳しき折に、涼しくなるようなラインナップです。観劇の装いにも、ひんやりするものを加えてみませんか。。

幽霊画は縁起物

幽霊やお化けなど、きものの柄にはどうなのかしら?と思う方もいらっしゃることでしょう。

幽霊画は江戸時代から人気で、意外なことに縁起物でもありました。中でも円山応挙が描いた幽霊画は有名です(幽霊に足がないのは応挙が足を描かなかったから、とも言われているそうですよ)。

幽霊のきもの、といえば、大相撲の石浦関です。背中一面に幽霊が描かれ、上前には血まみれの生首が。思わずギョッとするインパクト満点なきもので場所入りしていました。ご覧になった方もあるかもしれません。石浦関のまねはできませんが、長襦袢なら…?

胸元に灯籠、背中に幽霊を描いた長襦袢が登場する小説を読んだことがあります。歌舞伎にもなっている怪談『牡丹燈籠』の世界です。かなわぬ恋に相手を憎んで、恨んで、その長襦袢からはすすり泣きが聞こえる…。縁起がよくても、これはちょっと怖いですね。

髑髏で〝カッコイイ〟を追求

そして、髑髏や骸骨。こちらも江戸時代からよく用いられていたようです。

髑髏もまた縁起のいい柄といわれています。小さく図案化されたものからリアルなものまで、浴衣や帯、長襦袢などに見られます。
最近では髑髏をかたどったアクセサリーなどが人気で、ロックだとか、カッコイイというイメージがあるようです。しかし、日本での〝カッコイイ〟のいわれは江戸時代にあります。

髑髏柄はかっこいい?
染の岡重・京染長襦袢「髑髏」
ホネホネロック
正絹帯揚げ「ガイコツダンス」

山東京伝の読本『本朝酔菩提全伝(ほんちょうすいぼだいぜんでん)』に、髑髏柄のきものを着た男が描かれています。男はかつて一休禅師の弟子だったのですが、自らの粗暴さを悔い、月の半分は仏道修行をし、あとの半分は俠客として人助けをしていました。髑髏柄を着ているのは、絶世の美女、小野小町の落魄(らくはく)伝説に由来するのだとか。

放浪の果てに亡くなり、野に晒(さら)された小町の髑髏の目の穴からススキが生えます。男が、「ススキを抜くように人のわざわいを取った」ことから、髑髏におとこだて、人助け、俠客、カッコイイ、というイメージが見いだされたようです。やがて、髑髏と俠客は切っても切れない間柄になっていきました。その男こそ、野晒悟助(のざらしごすけ)。彼の物語は歌舞伎にもなっています。

浮世絵師・歌川国芳の描いた野晒悟助も、髑髏柄(なんと!猫が集まって出来ている)のきものに、ススキを描いた袈裟をまとっています。国芳には、骸骨がリアルに描かれた『相馬の古内裏』という作品もあって、江戸の人々には幽霊画だけでなく、髑髏や骸骨も身近なものだったことがうかがえます。

一見グロテスクにも思える幽霊や髑髏ですが、きものの内側や小物に取り入れたり、キュートな柄を選んだりして、心浮き立つ、カッコイイ装いを楽しんでください。

野ざらしの髑髏
正絹京染め小紋着尺「ガイコツ」

目で涼を感じる

ちなみに、この読本には、第三部『伊達競曲輪鞘當』の不破伴左衛門と名古屋山三のふたりも登場します。舞台で不破は雲に稲妻、名古屋は雨に濡れ燕の柄の衣裳ですが、これも読本に描かれています。本の中からとび出してきたような役者の姿に、皆熱狂したことでしょうね。
夏の夕立を思わせる稲妻の文様は、この季節にもぴったりです。

少々怪異な世界をお届けしましたが、雅な、涼を演出する文様や色もご紹介しておきましょう。

冬のものである雪をモチーフにした雪輪、雪の結晶などは、「目で涼を感じる」ので、夏きものにも用いられ、人気があります。特に雪輪は季節を超えて、さまざまな植物と組み合わされたり、文様の境界にもなったりして一年を通して見られます。

さらに、浴衣の柄でもおなじみの千鳥。古くから好まれ、多くのバリエーションがある定番の文様ですが、実は千鳥は冬の季語なのだとか。暑いときに冬をまとうーーきものならではの楽しみですね。

そして、色は銀色。ほっこりした感じを与える金色と対照的に、銀色には、ひんやりとした夜のイメージがあります。銀糸を織り込んだ絽綴れの帯はとても涼やか。きものも、銀が一筋入ることでワンランク上の装いになります。

「浴衣で歌舞伎座はOKか?」

最後に、よく話題にのぼる「浴衣で歌舞伎座はOKか?」です。

いろいろなお考えがあるようですが、思うところを一言申し上げます。
浴衣ならば、その中でも夏きものとして通用する絹紅梅をお召しになり、足袋をはいて、お太鼓を締めていただきたい。おしゃれしてくださいませ。

なぜなら、「歌舞伎座は江戸の粋を見せる場所」だと思うからです。

監修:大久保信子
文:時田綾子

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