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特別展『燕子花図屏風の茶会-昭和12年5月の取り合わせ-』根津美術館 「きものでミュージアム」vol.10

特別展『燕子花図屏風の茶会-昭和12年5月の取り合わせ-』根津美術館 「きものでミュージアム」vol.10

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根津美術館でこの時期に公開される尾形光琳の国宝《燕子花図屏風》。今年は昭和12年5月に根津嘉一郎が開催した、ひときわ荘厳にして豪華な茶会で取り合わせた茶道具の名品とともに拝見できます。恒例の招待券プレゼントもお見逃しなく!

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尾形光琳の傑作をたずねて

今回は、根津美術館で開催中の特別展『燕子花図屏風の茶会-昭和12年5月の取り合わせ-』をご紹介します。

※本コラム内の美術作品の写真につきまして、各美術館プレスより撮影および掲載の許諾を得て使用しております。
根津美術館

根津美術館は、東武鉄道の社長などを務めた実業家・初代根津嘉一郎(1860〜1940)が蒐集した日本・東洋の古美術品コレクションを保存し、展示するために1940年につくられた美術館です。本館は隈研吾氏の設計により、2009年に新装開館しました。

嘉一郎が尾形光琳による国宝《燕子花図屏風》を購入したのは大正3年(1914)。以降、嘉一郎は展覧会や茶会で、惜しみなく披露しました。

特別展「燕子花図屏風の茶会-昭和12年5月の取り合わせ-」ポスター画像

この展覧会は、昭和12年(1937)5月の茶会で取り合わされた茶道具の名品と共に国宝《燕子花図屏風》をご覧いただくものです。

この茶会は、政財界の友人5、6名ずつを招き、数日間にわたって東京・青山の自邸で催されました。《燕子花図屏風》をはじめ、円山応挙筆《藤花図屏風》、《鼠志野茶碗 銘 山の端》など、名品が次々に披露されました。

この会の取り合わせは、数ある嘉一郎の茶会のうち、ひときわ荘厳にして豪華といえるものです。 堂々たる布陣をご堪能ください。

この時期のお楽しみ、国宝《燕子花図屏風》

根津美術館といえばまず、尾形光琳(1658〜1716)の《燕子花図屏風》を思い浮かべる方も多いことでしょう。光琳の最高傑作のひとつです。

尾形光琳《燕子花図屏風》展示風景
国宝 尾形光琳《燕子花図屏風》展示風景

光琳は、京都の高級呉服商「雁金屋」の次男に生まれました。何不自由なく生活していましたが、30歳のころ父親が他界したのをきっかけに、生活のために絵を描くように。スタートは遅かったものの、芸術のセンスと才能は幼いころからの生活の中で培われており、絵師としてすぐに頭角をあらわしました。

《燕子花図屏風》は、『伊勢物語(著者不明)』の第九段「東下り」の中の「八橋」の場面を描いた作品です。

背景の金地、花の群青、葉の緑青の対比が美しく、余計なものを極限まで排除したシンプルな構成です。当時の高級画材だった群青(アズライト)、緑青(マラカイト)で作られた顔料を惜しみなく使って描かれています。

よく見ると、同じパターンの繰り返しが見られます。

これは、光琳が呉服屋に生まれたことと密接に関連していると言われ、型紙を用いて描いたとも言われています。そして庭園の実物と比べるとよくわかるのですが、花が葉に比べてかなり大きく描かれています。

国宝《燕子花図屏風》(左隻)尾形光琳筆
国宝《燕子花図屏風》(左隻)尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵
国宝《燕子花図屏風》(右隻)尾形光琳筆
国宝《燕子花図屏風》(右隻)尾形光琳筆 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵

右隻と左隻の構図はバランスが絶妙。光琳は計算し尽くして燕子花を描き、それが観る者の胸を打つのです。

《燕子花図屏風》(部分)落款は法橋光琳
《燕子花図屏風》(部分)落款は法橋光琳

平らにした図屏風と折り曲げて自立するように飾る形にした図屏風。見比べてみるといかがでしょう。折り曲げて飾られているほうが立体的に見えるように思います。そのあたりも光琳は計算していたのではないでしょうか。

ここでは、離れて観たり、近寄って観たり、角度を変えて観たり…ぜひ存分に味わい尽くしましょう。

《燕子花図屏風》の前で
《燕子花図屏風》の前で

大広間に飾られた屏風

昭和12年の茶会では、50畳の大広間に《燕子花図屏風》のほか、円山応挙筆《藤花図屏風》、《吉野図屏風》をずらりと並べ、客人を驚嘆させたそう。

展示室では3つの屏風を同室に展示して、当時の雰囲気を出しています。

円山応挙筆《藤花図屏風》展示風景
重要文化財 円山応挙筆《藤花図屏風》6曲1双紙本金地着色日本・江戸時代 安永5年(1776)展示風景

ガラスケースに収まっているとはいえ、それらは実に素晴らしく、迫力があります。ぜひご堪能ください!

円山応挙筆《藤花図屏風》展示風景(部分)
円山応挙筆《藤花図屏風》展示風景(部分)
吉野図屏風(吉野龍田図屏風のうち)
吉野図屏風(吉野龍田図屏風のうち) 6曲1隻紙本金地着色日本・江戸時代 17世紀 展示風景

茶事の流れ、使われた茶道具

茶事(正式な茶会)の流れ

当時のお茶事は、こちらの流れでおこなわれました。4時間以上にわたって続いたそうです。

ここからは、茶事に使われた名品の数々をご覧ください。

書状 伝 片桐石州筆
書状 伝 片桐石州筆 紙本墨書 日本・江戸時代 17世紀
正法寺椀 佐野長寛作
正法寺椀 佐野長寛作を観る
阿蘭陀藍絵花鳥文四方向付
阿蘭陀藍絵花鳥文四方向付 6口のうち オランダ 17世紀
鉄仙葡萄漆絵提重 付・若衆徳利 木胎漆塗
鉄仙葡萄漆絵提重 付・若衆徳利 木胎漆塗 日本・江戸時代 19世紀
茶杓 銘 時鳥 共筒 片桐石州作
茶杓 銘 時鳥 共筒 片桐石州作 竹 日本・江戸時代 17世紀
膳所耳付茶入 銘 大江 膳所
膳所耳付茶入 銘「大江」の付属品。箱の文字は、大名茶人 遠州、不昧によるもの。
重要文化財 鼠志野茶碗 銘 山の端
重要文化財 《鼠志野茶碗 銘 山の端》 美濃 日本・桃山~江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

記録写真によると、当日は鉄線と白百合が入れられました。

砂張釣舟花入
砂張釣舟花入 銘 艜 1 口 響銅 東南アジア 15 世紀
業平蒔絵硯箱 伝尾形光琳作
《業平蒔絵硯箱》 伝尾形光琳作 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵

『伊勢物語』の主人公のモデルとされる在原業平があらわされた、光琳作とされる硯箱。最後の席で飾られ、「茶会のしんがりを務めた」と評されました。

2階の展示室も名品ぞろい

展示室4の展示風景
展示室4の展示風景

2階の展示室では、「古代中国の青銅器」「 画賛の楽しみ色々」「 立夏の茶事 ─初風炉─」が展示されています。これらも素晴らしいので、ぜひご覧ください。

展示室6の展示風景
展示室6の展示風景
ホールの展示風景
ホールの展示風景

最後に

根津美術館では毎年、4月半ばから約1か月の間だけ《燕子花図屏風》が公開され、また年ごとにテーマを変えて関連の他作品が出展されます。

私は毎年桜が散るころになると、「そろそろ《燕子花図屏風》の時期だな…」と思います。

しかしコロナ禍で2020年は中止、2021年は1週間で途中閉幕となっていました。今年こそ無事会期終了を迎えられますように。

さて、昭和12年5月の根津嘉一郎の茶会の取り合わせは本当に素晴らしいコレクションの結晶でした。でもこんな名品ぞろいのお茶会に招かれたら、手が震えてお粗相してしまいそうな…

50畳の大広間に尾形光琳《燕子花図屏風》、円山応挙《藤花図屏風》、《吉野図屏風(吉野龍田図屏風のうち)》がずらりとならんでいるさまを思い浮かべると、ものすごく胸が躍ります。ガラスケースもないのですよ!そんなところで開かれる酒宴…こっそり陰から覗いてみたいものですね。

アフターミュージアムは庭園の燕子花を

展覧会の後は、根津家私邸時代のおもかげを残す17,000㎡の庭園を散策できます。

ここが東京・青山のど真ん中ということを忘れそうになる、深山幽谷の趣のある本格的な庭園です。

庭園をバックに撮影
この日は残念ながら雨でしたが、庭園に撮影スポットがたくさん
庭園から本館を望む
庭園から本館を望む

会期中、燕子花の池を見おろす茶室「披錦斎(ひきんさい)」で、お抹茶と季節のお菓子をお楽しみいただけます。

また、庭園内のカフェNEZUCAFÉでは、ガラス越しの四季の景色を背景に、ビーフシチューをはじめデザートやドリンクを楽しめます。

庭園内のカフェNEZUCAFÉ
庭園内のカフェNEZUCAFÉ

そして何より、庭園内の池には燕子花が生息しています。私が訪問した4月15日にはまだ咲いていませんでしたが、4月末から5月上旬には花が咲き、光琳の燕子花と庭園の燕子花を観比べることができる貴重な機会が訪れます。

2022/4/15現在、燕子花はまだ咲いていない
2022年4月15日現在、燕子花はまだ咲いていませんでした

どんなに美しく描かれた花の絵でも本物にはかなわないと思うのですが、ここ根津美術館に限っては、館内の燕子花のほうが美しいように私は感じてしまいます。

さすが光琳というべきでしょうか。みなさまはいかがでしょう。ぜひお出かけして比べてみてくださいね。

燕子花の咲く庭園。2019/5/9に訪問した時撮影。
燕子花の咲く庭園。2019/5/9訪問時に撮影。

会期内、燕子花が咲くころにまた出かけ、お茶席もカフェも味わいたいです。

この日の装い

今回は《燕子花図屏風》を意識して、金と紫、緑でコーディネート。

紫の暈しに金糸で縞文様が描かれた訪問着に、西陣・じゅらくの光琳模様の袋帯を合わせました。たれと手先に燕子花が描かれています。

この日の装い後姿
この日の装い 帯回り

帯締めは道明の唐組・春秋。

帯揚げは緑に金糸が入ったもので、根付は自作のコットンパールのタッセルです。

あいにくのお天気でしたので、草履はカレンブロッソに爪先カバーをつけて。

この日の装い。戸室美奈さんと。
「きものでミュージアム」コラム内の写真は、美術館側からご提供いただくものと、内覧会にて自分で撮影しているものがあります。私が映っている写真は、友人の戸室美奈さんに撮ってもらっています(vol.1を除く)。この日はきもので来てくれたので一緒に♪ 今日もありがとう!

今回ご紹介の展覧会情報

燕子花図屏風の茶会展ポスター

特別展「燕子花図屏風の茶会-昭和12年5月の取り合わせ-」

根津美術館
https://www.nezu-muse.or.jp/

日 時:
2022年4月16日(土)~5月15日(日)
10:00~17:00
ただし、5月10日(火)から5月15日(日)は19:00まで開館
(ともに入室は閉館の30分前まで)

休館日:
月曜日  ただし5月2日(月)は開館

※本展はオンライン日時指定予約制です。詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

その他、おすすめの美術展

※日時など変更になる場合があります。おでかけ前に公式サイトなどで最新情報を確認してください。

『大英博物館 北斎―国内の肉筆画の名品とともに―』ポスタ-

大英博物館 北斎―国内の肉筆画の名品とともに―

サントリー美術館
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2022_2/

日 時:
2022年4月16日(土)~6月12日(日)
10:00~18:00
※金・土および5月2日(月)~4日(水・祝)は20:00まで開館
※いずれも入館は閉館の30分前まで

休館日:火曜日(5月3日、6月7日は開館)

※作品保護のため、会期中展示替を行います。
※本展は《為朝図》《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》のみ撮影可能です。
※会期は変更の場合があります。最新情報は公式サイトでご確認ください。

『イスラエル博物館所蔵ピカソ― ひらめきの原点 ―』ポスター

イスラエル博物館所蔵ピカソ― ひらめきの原点 ―

パナソニック汐留美術館
https://panasonic.co.jp/ew/museum/

日 時:
2022年4月9日(土)~6月19日(日)
10:00~18:00(入館は閉館の30分前まで)
※5月6日(金)、6月3日(金)は夜間開館 20:00まで開館
(入館は閉館の30分前まで)

休館日:水曜日
ただし5月4日と5月18日(国際博物館の日)は開館

パブロ・ピカソ《夜、少女に導かれる盲目のミノタウロス》
パブロ・ピカソ《夜、少女に導かれる盲目のミノタウロス》 〈ヴォラール連作〉 エッチング、ドライポイント、アクアチント 1934年、イスラエル博物館(エルサレム)蔵
Gift of Isidore M. Cohen, New York, to American Friends of the Israel Museum Photo © The Israel Museum, Jerusalem by Elie Posner © 2022 Succession Pablo Picasso BCF (JAPAN)

◆ 読者プレゼント ◆

さて、ここでうれしいお知らせです。
今回はパナソニック汐留美術館で開催中の『イスラエル博物館所蔵ピカソ― ひらめきの原点 ―』の招待券を5組10名の方にプレゼント!
ぜひ、きものでお出かけくださいね!

下記リンクより、お使いのSNS経由にてご応募くださいませ。

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※応募期間:2022年5月8日(日)まで

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