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『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』東京都美術館 「きものでミュージアム」vol.20

『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』東京都美術館 「きものでミュージアム」vol.20

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世紀末のウィーンで波乱に満ちた28年の生涯を駆け抜けたシーレ。夭折の画家の作品50点が30年ぶりに日本に集結しています。同時代の作家クリムト、ココシュなどの作品も合わせた約120点、どうぞお見逃しなく!

2023.01.31

よみもの

『クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ展』 東京都現代美術館「きものでミュージアム」vol.19

エゴン・シーレ展へ

展示室エントランスにて

今回は、東京都美術館で開催中の『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』をご紹介します。

※本コラム内の美術作品の写真につきまして、各美術館プレスより撮影および掲載の許諾を得て使用しております。

短い人生を駆け抜けたシーレ

エゴン・シーレ(1890-1918)は、19世紀末から20世紀初頭のウィーンに生き、わずか28歳で短い生涯を終えました。

第1章の展示風景

16歳のときに最年少でウィーンの美術学校に入学しますが、保守的な教育に満足せず退学。若い仲間たちと新たな芸術集団を立ち上げ、早い時期から才能を認められ天才と称されました。幼児誘拐罪で逮捕されるなど波乱もありましたが、画家としては、パトロンや支援者に恵まれオーストリア画壇の中でも重要なポジションを確立します。

ナルシストで、自分の世界をとことん追求。
独特で鮮烈な色彩と線描で、短い生涯のうちに331点の油彩画と数千点のドローイングを残しました。

エゴン・シーレ 《 レオポルト・ツィハチェックの肖像 》

エントランス近くの作品(エゴン・シーレ 《 レオポルト・ツィハチェックの肖像 》 1907年 豊田市美術館蔵)

本展は、シーレ作品を多くコレクションするウィーンのレオポルド美術館の所蔵作品を中心に、シーレの油彩画、水彩画、ドローイングなど合わせて50点が出展されています。

また同時代に活躍した、クリムト、ココシュカ、ゲルストルをはじめとする作家たちの作品もあわせて約120点の作品も紹介されており、夭折の画家エゴン・シーレと、ウィーン世紀末の美術を展観する大規模展です。

クリムトに才能を認められ

展示風景:シーレの写真とことばが描かれている

章のはじめには、シーレの言葉が掲げられて

シーレはクリムトに、わずか17歳にしてその才能を認められました。

シーレ「僕には才能がありますか?」

クリムト「才能がある?それどころか、ありすぎる。」

シーレはクリムトを慕い、初期の作品にはクリムトの影響が認められます。

特に顕著なのはこちらの《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》。正方形のカンヴァスや金と銀の背景はクリムトが好んで用いたもの。「銀のクリムト」と呼ぶ人もいたそうです。

エゴン・シーレ《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》

エゴン・シーレ 《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》 1908年 レオポルド美術館蔵

金と銀の背景に紫の葉とオレンジの花が美しいこの絵は、初期の傑作です。花弁にも見える紫の部分は葉。背景から葉と花が浮き出ているように見えます。クリムトの明らかな影響が認められますが、シーレらしい色彩も感じます。

その2年後に描かれた《菊》では、黒い背景に浮かぶシーレ独特の色遣いが濃くなります。並んで展示されている2点を比べると興味深いですね。

エゴン・シーレ《菊》

エゴン・シーレ 《菊》 1910年 レオポルド美術館蔵

1912年に描かれた板絵3点の類似性

今回のポスタービジュアルに採用されている、シーレの 《ほおずきの実のある自画像》と《母と子》、それに《悲しみの女》の3点を展示室で間近に見ると、肌の質感や色遣いがとても似ていると感じます。

それもそのはず、これら3点はともに同じ年に板に描かれた油彩(板絵)でした。

エゴン・シーレ 《 ほおずきの実のある自画像》

エゴン・シーレ 《 ほおずきの実のある自画像》1912年 レオポルド美術館蔵

今回出展されているシーレの作品の中で板絵はこの3点だけ。そのためか、《ほおずきの実のある自画像》は別の区画に展示されていましたが、ほかの2点と同じ空気を感じました。

3点とも複雑な色遣いの肌、やせこけて血色の悪い顔、バストアップの構図など共通点が認められます。

エゴン・シーレ 《母と子》

エゴン・シーレ 《母と子》1912年 レオポルド美術館蔵

こちらが《母と子》。

母子像を描いてこれほど不穏な空気が流れる絵は少ないでしょう。子は何をそんなに驚いているのでしょうか?亡霊でも見たかのような顔をしています。

エゴン・シーレ 《悲しみの女》

エゴン・シーレ 《悲しみの女》1912年 レオポルド美術館蔵

《悲しみの女》は、瞳が大きく美しい光をたたえていますが、涙がこぼれる寸前です。赤い唇が印象的。当時の恋人ワリーを描いたものです。

背後に隠れるように描かれている人物はシーレだと言われていますが、不吉な背後霊のように見えます。その後シーレはエーディトと出会い、ワリーを捨て結婚します。そんな未来を予兆するような絵です。

この時代のシーレの多くの絵には暗い影があり、不穏で、死のにおいがします。そこに強く惹かれてしまうのですが……

幸せそうなシーレの妻エーディト

シーレとエーディト

シーレとエーディト

シーレの妻を描いた《縞模様のドレスを着て座るエーディト・シーレ》は、前述の3点に比べ、とても穏やかで幸せそうに見えます。

ドレスの襟の赤いラインと頬と唇の赤がかわいらしいですね。

エゴン・シーレ 《縞模様のドレスを着て座るエーディト・シーレ》

エゴン・シーレ 《縞模様のドレスを着て座るエーディト・シーレ》 1915年 レオポルド美術館蔵

皮膚の筆致からはそれまでの作品と同じ質感が感じられるのですが、使用している色が明るいせいで、全く違う雰囲気をまとっています。顔の皮膚にもペンダントと同じエメラルドグリーンが使われていますが、華やかな印象となっていますね。

また、ドローイングにもシーレの独特の筆致があらわれています。

エゴン・シーレ 《リボンをつけた横たわる少女》 1918年 レオポルド美術館蔵

エゴン・シーレ 《リボンをつけた横たわる少女》 1918年 レオポルド美術館蔵

黒チョークだけで描いたにもかかわらず、油彩同様の質感が表現されて。そして何より、構図がシーレらしいのです。

シーレの風景画や裸体も

今回、シーレの風景画も展示されています。

エゴンシーレ《モルダウ河畔のクルマウ(小さな街 IV)》

エゴン・シーレ 《モルダウ河畔のクルマウ(小さな街 IV)》1914 レオポルド美術館蔵

《モルダウ河畔のクルマウ(小さな街 IV)》の家々は、明るい色彩が使われているのに、なんだか暗い印象。実はこの絵の下に、「自らの裸体と街を組み合わせた絵」が隠されていることが1960年代の調査で分かりました。

シーレがなぜ元の絵を隠したのか、理由は分かっていません。

シーレは裸体の絵も多く描いています。第13章には裸体の絵がまとめて展示されています。こちらもまたシーレらしい作品が並び見どころとなっています。

裸体の絵が並ぶ

裸体の絵が並ぶ

シーレ以外の作品も見ごたえ抜群

アルビン・エッガー㽍リンツ 《祈る少女 聖なる墓、断片 II 》 1900/01年1 油彩/カンヴァス Oil on canvas レオポルド美術館蔵

アルビン・エッガー=リッツ 《祈る少女 聖なる墓、断片 II 》 1900/01年1 油彩/カンヴァス Oil on canvas レオポルド美術館蔵

シーレと同時代に活躍した画家たちの作品も、秀作が並び見ごたえ抜群です。

グスタフ・クリムト 《赤い背景の前のケープと帽子をかぶった婦人》1897/98年 クリムト財団蔵

グスタフ・クリムト 《赤い背景の前のケープと帽子をかぶった婦人》1897/98年 クリムト財団蔵

コロマン・モーザー 《キンセンカ》

右:コロマン・モーザー 《キンセンカ》 1909年 レオポルド美術館蔵

展示風景
展示風景

最後に

それまで特に病弱だったわけでもないのに、スペイン風邪が原因で、同じ病気で3日前に亡くなった妊娠中の妻を追うように28歳で突然亡くなったシーレ。

なぜ、死を予感していたかのような作品が多いのでしょう。

展示風景

展示風景

「戦争が終わったのだから、僕は行かねばならない。僕の絵は世界中の美術館に展示されるだろう。」

シーレ最後の言葉です。

これからという時期に、どれだけ無念だったことでしょう。もし彼が60歳まで生きていたらどうだったでしょうか?とはいえ、少し丸くなったシーレなどまったく想像できません。

エゴン・シーレ最後のことば

最後の言葉通り、現在彼の絵は、世界中の美術館に展示されています。

彼は早すぎる死と引き換えに、自分の絵に永遠の魂を吹き込んだのかもしれません。

そんな風に思える展覧会でした。

この日の装い

この日の装い1

今回のコーディネートは、陶芸家 貴和皓山の曜変天目茶碗の色を写した訪問着と、セットの帯。

随分以前に求めたもので一度も着ていませんでしたが、色遣いがエゴン・シーレと似ています。

この日の装いお太鼓

大きな螺鈿の帯留を合わせ、帯揚げには差し色になるものをセレクトしました。

この日の装い 帯回り

撮影/五十川満

今回ご紹介の展覧会情報

レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才

東京都美術館
https://www.egonschiele2023.jp/

日 時:2023年1月26日(木)~4月9日(日)
    9:30~17:30 金曜日は20:00まで(入室は閉室の30分前まで)

休室日:月曜日

※本展は日時指定予約制です。

※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

その他、おすすめの美術展

※日時など変更になる場合があります。おでかけ前に公式サイトなどで最新情報を確認してください。

ジャン=オノレ・フラゴナール 《かんぬき》 1777-1778年頃 油彩/カンヴァス  74 x 94 cm パリ、ルーヴル美術館 Photo © RMN-Grand Palais (musée du Louvre) / Michel Urtado / distributed by AMF-DNPartcom

ルーヴル美術館展 愛を描く

国立新美術館 企画展示室1E
https://www.ntv.co.jp/love_louvre/

日 時:2023年3月1日(水)~6月12日(月)
    10:00~18:00 金・土曜日は20:00まで(最終入場は閉館時間の30分前)

休館日:火曜日
    ※ただし3月21日(火・祝)・5月2日(火)は開館、3月22日(水)は休館

■巡回予定
京都市京セラ美術館
2023年6月27日(火)~9月24日(日)

「美しい人びと 松園からローランサンまで」ポスター

美しい人びと 松園からローランサンまで

松岡美術館 展示室5、6
https://www.matsuoka-museum.jp/contents/7542/

日 時:2023年2月21日(火)〜6月4日(日)
前期 2月21日(火) ~ 4月16日(日)
後期 4月18日(火)~ 6月4日(日)
10:00~17:00 
※第一金曜日のみ10:00~19:00
※入館は閉館時間の30分前

休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌平日)

※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

◆ 読者プレゼント ◆

「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」ポスター
『ルーヴル美術館展 愛を描く』ポスター

今回はなんと、豪華ふたつの展覧会のご招待券をプレゼント!

『レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才』東京都美術館の招待券を、1組2名様に。
『ルーヴル美術館展 愛を描く』国立新美術館の招待券を、5組10名様に。

ぜひ、きものでお出かけくださいね!

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※応募期間:2023年2月26日(日)まで

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