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開館10周年記念展 第2部 『歌麿と北斎 ―時代を作った浮世絵師―』 岡田美術館 「きものでミュージアム」vol.25

開館10周年記念展 第2部 『歌麿と北斎 ―時代を作った浮世絵師―』 岡田美術館 「きものでミュージアム」vol.25

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今回は、箱根の岡田美術館 『歌麿と北斎 ―時代を作った浮世絵師―』へ。浮世絵界二大スター喜多川歌麿と葛飾北斎。ふたりの肉筆美人画対決や北斎の代表作《冨嶽三十六景》に、歌麿の幻の大作《深川の雪》も!恒例の招待券プレゼントも。お見逃しなく!

2023.07.28

よみもの

『和のあかり×百段階段2023~極彩色の百鬼夜行~』 ホテル雅叙園東京「きものでミュージアム」vol.24

今回は「箱根でミュージアム!」

今回は、箱根の岡田美術館で開催中の開館10周年記念展 第2部 『歌麿と北斎 ―時代を作った浮世絵師―』をご紹介します。

※本コラム内の美術作品の写真につきまして、各美術館プレスより撮影および掲載の許諾を得て使用しております。
岡田美術館エントランス

岡田美術館エントランス

岡田美術館は、箱根の美しい自然の中、全5階の広いフロアに、日本・中国・韓国を中心とする古代から現代までの美術品を展示しています。箱根の地に2013年10月に開館し、今年開館10周年を迎えます。

これまでの展覧会で特に人気が高かったのは、伊藤若冲、田中一村、喜多川歌麿、葛飾北斎の4人の画家。開館10周年記念展として、このうちふたりずつ、 2部に分けて記念展が開催されています。

岡田美術館エントランス

現在開催中の第2部は、浮世絵師の喜多川歌麿(?-1806)と葛飾北斎(1760-1849)。

浮世絵界のスターであるふたりはほぼ同時期にデビューし、大衆の心をつかみました。歌麿は美人画で大成功を収め、北斎は美人画にとどまらず、風俗画、風景画、花鳥画、武者絵など多岐にわたる作品を生み出しました。

本展では、歌麿の3件と北斎の10件の貴重な肉筆画を中心に、北斎の代表作《冨嶽三十六景》、歌麿の幻の大作《深川の雪》も展示されます。このほか勝川春章や近代日本画の上村松園、鏑木清方の美人画も展示されます。豪華共演をじっくりご覧ください。

※作品はすべて岡田美術館蔵

歌麿 vs. 北斎!美人画対決

こちらの展示室には美人画がずらりと並び、見ごたえ抜群!

歌麿と北斎の美人画の肉筆画が並びます。

展示風景

展示風景

歌麿の肉筆画は世界に約40件とも言われていますが、岡田美術館は3件を収蔵しており、今回は《三美人図》と《芸妓図》と2012年に再発見された幻の大作《深川の雪》(次章参照)の3件を全て鑑賞できる貴重な機会です。

歌麿は錦絵(多色摺りの木版画)で人気を得ましたが、こちらの2点は筆で1点ずつ描いた肉筆画。歌麿は「青楼(遊郭)の画家」と呼ばれ、遊郭の遊女たちを生き生きと描きました。

喜多川歌麿 《三美人図》

喜多川歌麿 《三美人図》 江戸時代中期 18世紀 岡田美術館蔵

喜多川歌麿 《芸妓図》

喜多川歌麿 《芸妓図》 江戸時代中期 18~19世紀 岡田美術館蔵

《三美人図》は、遊郭の昼間のくつろいだ様子を描いています。手紙を書いている遊女は、まだ髪も乱れ、孔雀模様の豪華打掛を衣桁に掛け身支度前。部屋を訪れたふたりとなにやら話しているようです。衣桁の蒔絵や打掛の孔雀の羽、手紙の裏から透ける筆跡、遊女たちの表情と姿勢などが丁寧に描かれています。

《芸妓図》は、腰板に白菊が描かれた衝立の横に華やかな装いの芸妓が立っています。鼻筋の通った瓜実顔は後述の歌麿後期の典型で《深川の雪》の描写と似通っています。櫛や簪、衣裳も贅沢なもので、手の仕草や少し振り返るポーズも美しいですね。

葛飾北斎 《夏の朝》

葛飾北斎 《夏の朝》 江戸時代後期 19世紀初頭 岡田美術館蔵

葛飾北斎《傾城図》

葛飾北斎 《傾城図》 江戸時代後期 19世紀前半 岡田美術館蔵

北斎の《夏の朝》。手鏡を手に身支度を整える女性は遊女や芸者ではなく一般家庭の女性です。釣衣桁には男物の着物がかかり、夫より早く起きて身支度を整えている様子を描いています。

後ろ姿で鏡に映った顔を描く構図が美しく、下に置かれた水盤の金魚や鏡の蓋、その上に置かれた房楊枝(歯ブラシ)、器の朝顔など質感もそれぞれ描き分け、夏の季節や時間も朝と分かるように巧みに描かれています。

《傾城図》では、松の模様の豪華な打掛に龍や宝珠などの吉祥模様の帯とおめでたい柄を纏った豪華ないでたちが描かれて、髪には櫛や簪をいくつも挿し、最上位の太夫の風格がうかがえます。また、唇は緑色。これは当時流行の「笹紅」といい、高価な紅を重ね塗りして玉虫色に発色させたものだそう。次章の《深川の雪》に登場する女性たちも「笹紅」をしています。

傾城(けいせい)とは、美人が国や城を傾け滅ぼすことから、美しい女性のこと。特に最上位の太夫を表す言葉として使われました。

歌麿と北斎に加え、同時代およびその前後の画家や上村松園、鏑木清方などの魅力的な作品も並びます。動物好きなので勝川春章《美人に犬図》と河鍋暁斎《美人愛猫図》をほほえましく鑑賞いたしました。

勝川春章《美人に犬図》

勝川春章《美人に犬図》江戸時代中期 18世紀後半 岡田美術館蔵

河鍋暁斎《美人愛猫図》

河鍋暁斎《美人愛猫図》明治時代  19世紀後半 岡田美術館蔵

歌麿《深川の雪》

歌麿の《深川の雪》は、《品川の月》(アメリカ フリーア美術館蔵)と《吉原の花》(アメリカ ワズワース・アセーニアム美術館蔵)とともに《雪月花》三部作と呼ばれます。

喜多川歌麿《深川の雪》(複製)

喜多川歌麿《深川の雪》 原本:江戸時代 享和2~文化3年(1802~06)頃 岡田美術館蔵 ※原本の展示期間:9/8~12/10 左記期間外は高精細複製画を展示

吉原、深川、品川といえば、当時の三大遊郭。

《深川の雪》はかつて栃木の豪商善野家が所蔵し、昭和27年(1952年)の展示を最後に60年以上も行方不明でしたが、2012年に再発見され岡田美術館の収蔵となりました。

江戸時代に繁栄した芸者の町、深川の大きな料亭の2階座敷を舞台に、26名の女性と1名の男児が描かれた作品。手前から奥に廊下でつながり、画面全体を巧みにまとめた構図が見事です。松に積もる雪や開花した梅で冬の寒さと春の予感が共存する季節を描いています。

制作背景には不明な部分が多いうえ、画中の青い雲の意味や、これほどの大作に署名がない理由など、いまだ数々の謎が残されています。

会場では絵に隠された意味や作品の謎について、さまざまな解説がついていますので、大変興味深く鑑賞することができます。

なかでも私が大変興味を持ったのが、右上の大きな荷物を背負った女性。

喜多川歌麿《深川の雪》(複製)(部分)

喜多川歌麿《深川の雪》(部分)

これは「通い夜具」といい、料亭に呼ばれた芸者が夜具を運ばせて通う深川独特の風習だそう。

女性たちは表情、姿勢、服装も様々に生き生きと描かれています。そして、きもの好きとしては、絵の中の女性たちの衣裳にも注目です。

当時は外側に着ている打掛より襦袢の袖が長く、みな袖口から襦袢が見えていますね。それぞれの衣裳の文様も細かく描かれています。

《深川の雪》を観る

手前中央の女性の衣裳も気になりました。藍色に細い縞のきものに立涌の帯。桜と橘文様の赤い襦袢が効いています。このまま着たいような好みのコーディネートです。

《深川の雪》は、歌麿最晩年の渾身の肉筆画の作品。取材時に展示されていたのは高精細複製画ですので、実際の作品が展示される期間にぜひ再訪したいと思います。

北斎の《冨嶽三十六景》や風景、花鳥も

北斎は美人画にとどまらず、風景や花鳥など多彩な題材を描きました。

《冨嶽三十六景》から著名な3作品《凱風快晴》《神奈川沖浪裏》《山下白雨》が展示期間を3つに分け交互に展示されます。

葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》

葛飾北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》江戸時代 天保2~4年(1831~33) 岡田美術館蔵 ※展示期間:6/11~8/7

取材時は通称”赤富士”、《凱風快晴》が展示されていました。

空のベルリンブルーと、雪がわずかに残る赤茶色の富士山の対比が見事です。富士山の威風堂々とした様子にやはり圧倒されます。

展示パネル

展示パネル。葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》展示期間:8/8~10/10、葛飾北斎《冨嶽三十六景 山下白雨》展示期間10/11~12/10

《冨嶽三十六景》のシリーズのなかでも「三役」と称される3作品。いつかこれらが並んだところを観てみたいと思いながら鑑賞いたしました。

ほかにもすばらしい作品が豊富に並び、岡田美術館の収蔵作品の多彩な魅力を感じる展覧会でした。

葛飾北斎《遊鯉図》

葛飾北斎《遊鯉図》 江戸時代 天保10年(1839)岡田美術館蔵

《誰ヶ袖図屏風》

《誰ヶ袖図屏風》 江戸時代初期 17世紀 岡田美術館蔵

鈴木基一《富士・筑波図》

鈴木基一《富士・筑波図》 江戸時代後期 19世紀中頃 岡田美術館蔵

1日中楽しめる!広い館内

充実の展示

《五彩百蝠文壺》 景徳鎮窯

《五彩百蝠文壺》 景徳鎮窯 中国・明時代 万暦年間(1573~1620) 岡田美術館蔵、画像提供:岡田美術館 ※画像写真の無断転載禁止

岡田美術館は、そのほか全5フロアの広い館内に美術品を常時約450点展示しています。

日本と東洋の絵画とやきものや、漆工品、仏教美術などを展示。現在、特集展示「五彩 ―明の景徳鎮窯を中心に―」も同時開催している。

お子様向けの解説など楽しく鑑賞できるよう工夫されています。

鑑賞後は足湯カフェへ

美術館鑑賞後は、疲れた足を癒しに足湯カフェへ。

風神・雷神の大壁画《風・刻(かぜ・とき)》を眺めながら足湯カフェに

風神・雷神の大壁画《風・刻(かぜ・とき)》を眺めながら

100%源泉かけ流し(加水・加温なし)アルカリ性の泉質の本格派。風神・雷神の大壁画《風・刻(かぜ・とき)》を眺めながら、お飲み物やスイーツを楽しみ、箱根の自然も存分に味わえます。

夏なら麻や上布の着物や浴衣、多少濡れても安心なものを着ていくとよいかもしれません。

◇ 足湯入湯料

美術館ご利用の方は無料
足湯のみご利用の方は500円

足湯カフェのドリンク

足湯カフェ 画像提供:岡田美術館 ※画像写真の無断転載禁止

この日の装い

この日の装い

今回の展覧会に合わせたコーディネートは、夏の温泉旅行をイメージして、竺仙の松煙染の浴衣(奥州小紋)に素描の麻帯をコーディネート。

この日の装い 帯回り
この日の装い・お太鼓

長襦袢を着て、足袋もはいて着物風に。美術館鑑賞後、足湯カフェでくつろぐために多少濡れても大丈夫なコーディネートです。

この日の装い

撮影/五十川満

今回ご紹介の展覧会情報

「歌麿と北斎 ―時代を作った浮世絵師―」ポスター画像

開館10周年記念展 第2部「歌麿と北斎 ―時代を作った浮世絵師―」

岡田美術館 (神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1)
https://www.okada-museum.com/

日 時:2023年6月11日(日)〜12月10日(日)
    9:00〜17:00(入館は16:30まで)

休館日:会期中無休

駐車場台数:80台(うち身障者用2台)美術館ご利用の方は無料

※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

その他、おすすめの美術展

※日時など変更になる場合があります。おでかけ前に公式サイトなどで最新情報を確認してください。

あの世の探検―地獄の十王勢ぞろい

あの世の探検―地獄の十王勢ぞろい

静嘉堂文庫美術館
https://www.seikado.or.jp/

日 時: 2023年8月11日(金・祝)~9月24日(日)
    10:00~17:00 、金曜日は18:00 (入館は閉館時間の30 分前まで)

休館日:月曜日 、 9月19日(火)、 9月18日(月・祝)は開館

※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

「柚木沙弥郎と仲間たち」メインビジュアル

《型染爪文帯地》 柚木沙弥郎 1991年 501.0×36.5cm (部分) 日本民藝館蔵 展覧会題字:柚木沙弥郎(2023年)

柚木沙弥郎と仲間たち

特設サイト
https://www.takashimaya.co.jp/store/special/yunokisamiro/

◇髙島屋大阪店

会期:2023年8月23日(水)~9月3日(日)

会場:大阪髙島屋7階グランドホール

入場時間:10:00〜18:30(19:00閉場)※ 最終日9月3日(日)は15:30まで(16:00閉場)

◇髙島屋日本橋店

会期:2023年9月6日(水)~25日(月)

会場:日本橋髙島屋S.C.本館8階ホール

入場時間:10:30〜19:00 (19:30閉場)※ 最終日9月25日(月)は17:30まで(18:00閉場)

※詳細は展覧会特設サイトをご覧ください。

『中川 衛 美しき金工とデザイン』ポスター

開館20周年記念展『中川 衛 美しき金工とデザイン』

パナソニック汐留美術館
https://panasonic.co.jp/ew/museum/

日 時:2023年7月15日(土)~9月18日(月・祝)
    10:00~18:00
※9月1日(金)、9月15日(金)、9月16日(土)は夜間開館を実施いたします。 午後8時まで開館
※入館は閉館時間の30分前

休館日:水曜日(ただし9月13日(水)は開館)、8月13日(日)~17日(木)

※予約は不要になりました。混雑時には、15分毎の「入館時間整理券」を発行いたします。

※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

◆ 読者プレゼント ◆

「歌麿と北斎 ―時代を作った浮世絵師―」ポスター画像

さて、恒例の招待券プレゼント!
今回は『歌麿と北斎』の岡田美術館の招待券を3組6名の方にプレゼント!
ぜひ、きものでお出かけくださいね!

下記リンクより、お使いのSNS経由にてご応募くださいませ。

◆Facebook
https://www.facebook.com/kimonoichiba/
◆インスタグラム
https://www.instagram.com/kimonoichiba/?hl=ja
◆Twitter
https://twitter.com/Kimono_ichiba

※応募期間:2023年8月27日(日)まで

まなぶ

浮世絵きほんのき!

2022.11.29

まなぶ

袖についての、ちょっとした考察 〜小説の中の着物〜 河治和香『国芳一門浮世絵草紙3ー鬼振袖ー』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第十九夜

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