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『国宝 雪松図と能面×能の意匠』 三井記念美術館 「きものでミュージアム」vol.30

『国宝 雪松図と能面×能の意匠』 三井記念美術館 「きものでミュージアム」vol.30

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年末年始恒例、円山応挙の国宝《雪松図屏風》が三井記念美術館で展示中。「能面と能の意匠」をテーマに、所蔵する能面や能装束なども展示されています。

23.12.06

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『ゴッホと静物画―伝統から革新へ』 SOMPO美術館 「きものでミュージアム」vol.29

円山応挙の国宝《雪松図屏風》を能面や能装束とともに

今回は、三井記念美術館で開催中の『国宝 雪松図と能面×能の意匠』 をご紹介します。

※本コラム内の美術作品の写真につきまして、各美術館プレスより撮影および掲載の許諾を得て使用しております。

展示風景

円山応挙(まるやま おうきょ/1733-1795)の代表作である国宝《雪松図屏風》は、三井記念美術館で毎年年末年始に展示するのが恒例となっている作品(大規模改築などの期間を除く)。

今回は「能面×能の意匠」に注目し、同館が所蔵する能面や能装束とともに展示されています。

2023.11.08

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能面アルバム ~女流能面師・宇髙景子さんに聞く~ 「気になるお能」vol.7

能楽と密接な結びつきがあった三井家。江戸時代には京都の自邸内に常設の能舞台、また明治期には麻布今井町の自邸内にも能舞台を建てています。

展示風景

展示室に入るとすぐに、ずらりと並ぶ能面。《雪松図屏風》を煌びやかな能装束が囲み、実に華やかな演出となっています。

能面は重要文化財に指定されている金剛宗家由来のものと、能面作家の橋岡一路氏より新たに寄贈を受けたものと新旧のものが展示されています。

出展作品はすべて三井記念美術館所蔵。円山応挙《雪松図屏風》と能の雅な世界を堪能できます。

国宝 雪松図と能面×能の意匠

能面の豊かな表情

最初の展示室に入ると、能面が一斉にこちらを向いています!

金剛宗家から三井家に寄贈され、2008年(平成20年)「旧金剛宗家伝来能面」として一括して重要文化財に指定された54面のうち、今回は34面が展示されています。

展示風景

ほとんどが室町から桃山時代(14〜17世紀)に制作されたもので、それぞれに歴史の重みが伝わってきます。周囲がしんと静まり返るような静寂が感じられます。

多種多様にある能面には細かく分けると約200種類があり、主に、翁(おきな)・尉(じょう)・鬼神・男・女の5種類に分類されます。能面のバラエティ豊かな「表情」に着目し、一部はアクリル板のスタンドに展示され、裏側からも見ることができます。

重要文化財《孫次郎(ヲモカゲ)》

重要文化財 《孫次郎(ヲモカゲ)》 伝孫次郎作 室町時代・14~16世紀

金剛流の若い女面の代表《孫次郎(ヲモカゲ)》は、孫次郎が若くして亡くなった妻の面影を能面に写したという伝承があります。

重要文化財《翁(白色尉)》

重要文化財《翁(白色尉)》伝春日作 室町〜桃山時代・14~17世紀

重要文化財《三番叟(黒色尉)》

重要文化財《三番叟(黒色尉)》伝春日作 室町時代・14~16世紀

重要文化財 中将(鼻まがり)

重要文化財 中将(鼻まがり)伝福来作 室町時代・14~16世紀

重要文化財 《老女》

重要文化財 《老女》 伝目氷作 室町時代・14~16世紀

人間には、喜び・嫌悪・驚き・悲しみ・怒り・恐れの6つの感情があり、それにともない様々な表情が顔に現れます。

それを動かない能面で表現するのは、とても難しいことのように思います。

重要文化財《般若》

重要文化財《般若》伝龍右衛門作 桃山時代・16~17世紀

能面をいろいろな角度から眺めてみると、微妙な陰影により表情が変わるのがわかります

また、能面の左右で微妙に表情が違います。能舞台では演者が微妙な動きや顔の角度により演じ分け、豊かな感情が観客に伝わるのですね。

能面の裏

能面の裏

展示室のキャプションには、どんな役に使うものか解説がありますのでぜひご覧ください。

展示風景

2023.08.07

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神聖なる能面 ~女流能楽師・田中春奈さんに聞く~ 「気になるお能」vol.4

《雪松図屏風》は雪の表現に注目

三井家は円山応挙と交流があり、国宝《雪松図屏風》は三井家の依頼で描かれたと考えられています。今回は両サイドに能装束を従え、華やかに展示されています。

国宝 《雪松図屏風》円山応挙筆

国宝 《雪松図屏風》円山応挙筆 江戸時代・18世紀

応挙は、江戸時代中期から後期に京都で活躍した絵師で、写生を重視した画風が特色です。また、近現代の京都画壇にまで続く「円山派」の創始者です。

《雪松図屏風》は、墨・金泥・金砂子を用いて、雪に覆われる松と土坡を描いています。

松は常緑樹で雪の中でも青々と茂り、長寿を象徴するおめでたい意匠です。輪郭線を用いない没骨技法で描かれています。

国宝 《雪松図屏風》(部分)円山応挙筆

国宝 《雪松図屏風》(部分)円山応挙筆 江戸時代・18世紀

多くの屏風は継ぎ合わせた紙に描かれていますが、《雪松図屏風》には継ぎ目のない大型の紙が用いられています。

雪は紙の白、つまり「塗り残す」ことによって表現されています。にもかかわらず雪は美しく煌めいて……松葉の間の雪、うっすらと積もる部分とこんもりと積もる部分など、とても立体的です。

とても静かで、冴えわたるような空気感。

これだけ金が使われているにもかかわらず、華美さはなく厳かな空気を感じさせるのは、さすが応挙です。ぜひお近くでじっくりご覧ください。

能装束は華やかに

国宝《雪松図屏風》の両脇を華やかに飾るのは三井家に伝わる能装束の数々です。

「これだけ華やかなものを一度に飾るのは初めてかもしれない」と担当学芸員の方がおっしゃっていました。

展示風景

能舞台を彩る能装束は、組み合わせや着方によって配役の性格をあらわします

また、能装束には次のような種類があります。

唐織(からおり)

能装束 唐織

左:《紅白萌黄段扇面秋草観世水模様唐草》明治~大正時代・20世紀、右:《紅白段草花虫籠模様唐織》明治時代・19世紀

女性専用の表着。
能装束の中で最も豪華絢爛で、様々な文様を刺繡のように織り込む。紅色の有無で役柄の午齢をあらわし、紅色が入る(=紅入/いろいり)と若い女性、入らない(=紅無/いろなし)と中年女性を意味する。

厚板(あついた)

能装束 厚板

左:《紅地毘沙門亀甲鳳凰丸獅子模様厚板》明治時代・19~20世紀、右:《紅地青海波波丸模樣厚板》明治時代・19~20世紀

厚みのある装束で、主に男性役の着付として用いられる。強いデザインのものが多い。

厚板唐織(あついたからおり)

能装束 厚板唐織

《紫地檜垣菊折枝模樣厚板唐織》明治~大正時代・20世紀

唐織と厚板の複合型で、華やかさと強さが感じられ、女性や公達役に用いられる。

縫箔(ぬいはく)

能装束 縫箔

左:《赤糯子地亀甲幔幕大太鼓模様縫箔》明治~大正時代・20世紀、右:《紅繻子地観世水扇面散模様縫箔》明治時代・19世紀

生地に刺繍と摺箔(すりはく、金・銀箔を貼り付ける技法)を施した装束。主に女性や公達、童子役に用いられる。

今回はとりわけ華麗な衣裳が展示されていますので、刺繡や織、配色、文様の組み合わせなど、きものファンのみなさまにはぜひ細かいところまでじっくりとご覧いただければと思います。

橋岡一路氏の写しの能面

能面作家の橋岡一路氏より、新たに寄贈を受けたものも展示されています。

展示風景

橋岡一氏(1931-2023)は観世流の名門である橋岡家に生まれ、戦後は能楽の衰退により能面作家の道へ進みました。能面の制作だけでなく修理にも携わり、「旧金剛宗家伝来能面」の修理も橋岡氏によって行われました。

今回展示されているのは橋岡氏の手による「古面」、すなわち宗家が所有する「本面」や将筆家、諸大名が所有した由緒ある面(現在美術館・博物館の所蔵品も含める)の写しです。

《大癋見》

《大癋見》橋岡一路作 昭和25年(1950)
《大癋見》は橋岡氏19歳の時の作

写しの制作では、本面の傷や塗料のはがれも特徴のひとつとし、忠実に再現します

冒頭に展示されていた《孫次郎(ヲモカゲ)》の写しも展示されていますので、ぜひ比べてみてください。

2023.10.02

まなぶ

能面師という仕事(前編)~女流能面師・宇髙景子さんに聞く~ 「気になるお能」vol.5

新年の”美術館はじめ”はきもので

今展では《雪松図屏風》が能装束とともに華やかに展示され、また新旧の能面を一挙に鑑賞することができ厳かな気持ちになります

無表情のことを「能面のような顔」といいますが、実際にこれだけ多くの能面を目にすると実に表情豊かであることがわかります。

新年最初の美術館巡りに大変ふさわしい展覧会です。ぜひきものでお出かけくださいね。

国宝茶室「如庵」展示風景

館内に再現されている国宝茶室「如庵」には、能に関連する銘が付く茶道具と《高砂図》伝狩野元信筆 桃山~江戸時代・16~17世紀が展示

2023.05.31

まなぶ

能楽のいろは ~女流能楽師・田中春奈さんに聞く~ 「気になるお能」vol.1

この日の装い

この日の装い1

今回は新年にふさわしいフォーマルな雰囲気で。

四季の花が描かれた京友禅の訪問着帯は《雪松図屏風》にちなんで川島織物の老松の帯を合わせました。

この日の装い 帯回り
裾模様

帯締めは道明の亀甲組、帯揚げは金銀箔散らしで華やかに。簪にも松をあしらって。

簪

撮影/五十川満

今回ご紹介の展覧会情報

三井記念美術館ポスター画像

国宝 雪松図と能面×能の意匠 

三井記念美術館
https://www.mitsui-museum.jp/

日 時:2023年12月8日(金)〜2024年1月27日(土)
    10:00-17:00※入館は閉館の30分前まで

休館日:月曜日(但し1月8日は開館 )、年末年始 12月25日(月)〜1月3日(水)、1月9日(火)

※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

その他、おすすめの美術展

※日時など変更になる場合があります。おでかけ前に公式サイトなどで最新情報を確認してください。

山種美術館ポスター画像

【特別展】癒やしの日本美術 ―ほのぼの若冲・なごみの土牛―

山種美術館
https://www.yamatane-museum.jp/

日 時:2023年12月2日(土)~2024年2月4日(日)
    10:00-17:00
    ※入館は閉館の30分前まで

休館日:月曜日(1/8(月・祝)は開館、1/9(火)は休館、12/29(金)~1/2(火)は年末年始休館)

※きもの特典:きものでご来館のお客様は、一般200円引きの料金となります。
※複数の割引・特典の併用はできません。

静嘉堂文庫美術館ポスター画像

「ハッピー龍 リュウ イヤー!~絵画・工芸の龍を楽しむ~」展

静嘉堂文庫美術館(明治生命館 1 階)
https://www.seikado.or.jp/

日 時:2024年1月2日(火)〜2024年2月3日(土)
    10:00-17:00※入館は閉館の30分前まで

休館日:月曜日(ただし 1/8(月・祝)、1/29(月)は開館、1/9(火)休館)

◆ 読者プレゼント ◆

三井記念美術館ポスター画像

さて、恒例の招待券プレゼント!
今回は『国宝 雪松図と能面×能の意匠 』三井記念美術館の招待券を5組10名の方にプレゼント!
ぜひ、きものでお出かけくださいね!

下記リンクより、お使いのSNS経由にてご応募くださいませ。

◆インスタグラム
https://www.instagram.com/kimonoichiba/?hl=ja
◆Twitter
https://twitter.com/Kimono_ichiba

※応募期間:2024年1月4日(木)まで

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