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『ゲルハルト・リヒター展』東京国立近代美術館 「きものでミュージアム」vol.14

『ゲルハルト・リヒター展』東京国立近代美術館 「きものでミュージアム」vol.14

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今回は『ゲルハルト・リヒター展』東京国立近代美術館。ドイツ出身、現代美術の巨匠リヒターの日本の美術館では16年ぶりの個展。多岐にわたる素材を用い、抽象と具象を行き来するさまざまな表現の作品。見ることについて深く考えさせられます。恒例の招待券プレゼントもお見逃しなく!

9月25日まで!

2022.08.23

よみもの

特別展『日本美術をひも解くー皇室、美の玉手箱』東京藝術大学大学美術館「きものでミュージアム」vol.13

現代美術の巨匠、ゲルハルト・リヒター待望の個展

今回は、東京国立近代美術館で開催中の『ゲルハルト・リヒター展』をご紹介します。

※本コラム内の美術作品の写真につきまして、各美術館プレスより撮影および掲載の許諾を得て使用しております。
※本コラムトップ画像クレジット: © Gerhard Richter 2022(07062022)

東京国立近代美術館

ゲルハルト・リヒター展 会場入口にて

ドイツ・ドレスデン(旧東ドイツ)出身の現代美術の巨匠、ゲルハルト・リヒター(1932-)。今年90歳を迎えた、世界で最も注目を浴びる芸術家のひとりです。

リヒターのポートレート

ゲルハルト・リヒター ポートレート Photo: Dietmar Elger, courtesy of the Gerhard Richter Archive Dresden
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

油彩画、写真、デジタルプリント、ガラス、鏡など多岐にわたる素材を用い、具象表現や抽象表現を行き来しながら、”人がものを見ること”について問い続けてきました。

本展では画家が手元に置いてきた初期の作品から最新のドローイングまでを含む122点によって、60年の画業をたどります。日本の美術館では16年ぶりの個展となります。

会場展示風景

会場展示風景
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

会場では、初期のフォト・ペインティングからカラーチャート、グレイ・ペインティング、アブストラクト・ペインティング、オイル・オン・フォト、そして最新作のドローイングまで、リヒターがこれまで取り組んできた多種多様な作品が紹介されています。

《ビルケナウ》の衝撃

展示室に入り左手の区画に《ビルケナウ》が展示されています。今回のメインともいうべき作品が最初にお出迎えです。

《ビルケナウ》展示風景

左から:ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ》 2014年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス 
右奥:1944年夏にアウシュヴィッツ強制収容所で(ゾンダーコマンド特別労務班)によって撮影された写真
ゲルハルト・リヒター財団蔵、元の画像の所蔵は国立アウシュヴィッツ・ビルケナウ博物館アーカイブコレクション
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

4点の巨大な抽象画からなる作品《ビルケナウ》。

本展では、絵画と全く同寸の4点の複製写真の《ビルケナウ(写真ヴァージョン)》、大きな横長の鏡《グレイの鏡》、1944年にアウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所で特別労務班によって密かに撮影された写真(白黒写真4枚)が、ひとつの空間に展示されています。

《ビルケナウ》展示風景

左から:ゲルハルト・リヒター《グレイの鏡》 2019年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 エナメル、4枚のフロートガラス
ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ》 2014年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

《ビルケナウ》は抽象絵画ですが、その下には、アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所で囚人が隠し撮りした写真を描き写したイメージが隠れています。

《グレイの鏡》を見ると、そこに映る《ビルケナウ》は一見どちらが油彩でどちらが写真かわかりません。写真ヴァージョンは4つに区分けされており、肉眼ではすぐ区別がつくのですが。

《ビルケナウ(写真ヴァージョン)》を観覧中
《ビルケナウ(写真ヴァージョン)》を観覧中

ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ(写真ヴァージョン)》 2015~2019年 ゲルハルト・リヒター財団蔵  ジクレープリント、アクリル(ディアセック) © Gerhard Richter 2022(07062022)
《ビルケナウ(写真ヴァージョン)》は、直に見ると(右)1点が4枚のパネルで構成されており、そのパネルの間に隙間をあけて展示しているため、十字の線が入っているように見えます。左は《グレイの鏡》に映り込んだ《ビルケナウ(写真ヴァージョン)》で、区分けがあいまいになっています。そのため、グレイの鏡に映り込む《ビルケナウ》は油彩か写真か区別がつきません。

鏡の色によって現実よりも 暗い世界がそこには広がります。そして、それを見る自分も暗さに取り込まれています。目に見える世界より暗い世界が存在し、そこでは子細な違いは区別がつかず、自分もいつその暗い世界に取り込まれるかわからないのだ…そんな風に感じてしまいます。

《ビルケナウ(写真ヴァージョン)》を観覧中

右:ゲルハルト・リヒター《ビルケナウ(写真ヴァージョン)》 2015~2019年 ゲルハルト・リヒター財団蔵  ジクレープリント、アクリル(ディアセック)
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

ハブとなる《8枚のガラス》

エントランスを入るとメインの展示室は5つに分かれ、その中心に《8枚のガラス》が設置されています。

《8枚のガラス》は、8枚のアンテリオ・ガラスが微妙な角度でスチールの枠で固定された作品。少し不安定に見えるのですが、かなりしっかり上下で留められています。見る角度によって向こう側の作品が表情を変えたり、ガラスの重なりで歪んで見えたります。

《8枚のガラス》

ゲルハルト・リヒター《8枚のガラス》 2012年 8枚のアンテリオ・ガラス、スチール ワコウ・ワークス・オブ・アート蔵
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

それぞれの展示エリアに行くためには、この作品のそばを通らなければなりません。すべての作品を鑑賞するには、この作品をあらゆる角度から見ることになります。

この作品を通して見ると周囲の作品も表情を変えますが、この《8枚のガラス》自体が一番表情を変えます。そして、そこに映る自分も角度によってとても変化するのです。

《8枚のガラス》の周りをぐるぐる歩く

《8枚のガラス》の周りをぐるぐる歩く
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

この周りを2周ほどしてみましたが、展示室をこのような構成にしたのは、あらゆる角度からこの作品を、ひいては自分自身を見てほしいというリヒターの仕掛けのような気がしてきました。

《8人の女性見習看護師》から伝わるもの

《8人の女性見習看護師(写真ヴァージョン)》

右:ゲルハルト・リヒター《8人の女性見習看護師(写真ヴァージョン)》 1966/1971年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 8枚の写真
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

このエリアに来た時、数メートル前から重苦しい気配を感じました。《8人の女性見習看護師(写真ヴァージョン)》は、シカゴで起こった殺人事件の報道写真をもとに制作した作品です。

写真を忠実に描くことで絵画を描く上での主観性を避け、写真の客観性を獲得する「フォト・ペインティング」。その手法によって制作された作品をさらに写真撮影したという、少々複雑な作品です。

《8人の女性見習看護師(写真ヴァージョン)》

ゲルハルト・リヒター《8人の女性見習看護師(写真ヴァージョン)》 1966/1971年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 8枚の写真
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

一見写真なのですが、近くで見ると筆の跡やぼかしも確認できます。写真より、リアルに伝わるものがあるように感じました。この作品の前であなたは何を感じるでしょうか?

さまざまな技法の作品

さてここで、初期のフォト・ペインティングからアブストラクト・ペインティングまで、リヒターのさまざまな技法の作品をご紹介します。

フォト・ペインティング

ゲルハルト・リヒター《モーターボート(第1ヴァージョン)(CR: 79a)》

左:ゲルハルト・リヒター《モーターボート(第1ヴァージョン)》 1965年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 油彩、キャンバス
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

一見モノクロ写真に見えますが、新聞や雑誌の写真、家族などの写真を、できるだけ正確に写し取った作品です。

肖像画

作品を鑑賞

左:ゲルハルト・リヒター 《モーリッツ》 2000/2001/2019年 作家蔵 油彩、キャンバス
中:ゲルハルト・リヒター 《エラ》 2007年 作家蔵 油彩、キャンバス
右:ゲルハルト・リヒター 《トルソ》 1997年 作家蔵 油彩、アルコボンド
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

家族を描いた作品。リヒターの子どもたちを描いた《モーリッツ》と《エラ》、《トルソ》は奥さまです。

カラーチャート

ゲルハルト・リヒター《4900の色彩》

ゲルハルト・リヒター《4900の色彩》 2007年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 ラッカー、アルディボンド、196枚のパネル
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

既製品の色見本をの色彩を偶然にしたがって配するカラーチャート作品に由来する作品で、25色で構成されたパネルを196枚組み合わせて成立させた《4900の色彩》。空間に合わせてパネルの組み合わせ方は異なる形で展開します。

アブストラクト・ペインティング

《アブストラクト・ペインティング》展示風景

《アブストラクト・ペインティング》展示風景
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

「スキージ」と呼ばれる自作の大きく長細いへらを用いて、キャンバス上で絵具を引きずるように延ばしたり、削り取ったりした独特な手法で制作された絵画です。
《アブストラクト・ペインティング》と題された作品が20点ほどあります。

なおほとばしる創作意欲

リヒターは、2020年《トーライのための3つの窓》(2019年)を「作品番号を付ける最後の作品にする」と述べました。その後も、ドローイングは描き続けているそう。

ドローイングの展示風景

ドローイングの展示風景
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

大作をもう作らないのは残念ですが、ドローイングは、美しさと強い意志とがあふれるとても素晴らしい作品の数々でした。90歳の今なおほとばしるものがある、そんな風に見受けられました。

ドローイングの展示風景

ドローイングの展示風景
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

本当に微妙で繊細なタッチで描かれているものが多く、恐らくこれらは、直に見ないと伝わらない種類のものではないか、そんな気がしました。ぜひ会場にてお楽しみください。

ドローイングの展示風景

ドローイングの展示風景
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

最後に

ゲルハルト・リヒター《4900の色彩》

ゲルハルト・リヒター《4900の色彩》 2007年 ゲルハルト・リヒター財団蔵 ラッカー、アルディボンド、196枚のパネル
© Gerhard Richter 2022 (07062022)

リヒターの作品を鑑賞中、ふと展示室内にあるガラスや鏡の作品に映る自分を、否応なく意識させられることが何度もありました。

これは自分がリヒターの作品を見ていると同時に、どこかからリヒターに見られているのではないか、自分の意志で見ているつもりが、実はリヒターに操られているのではないか…リヒターの作品と展示室のレイアウトに込められた意志をとても強く感じました。

1点1点の作品を鑑賞するだけでなく、会場を俯瞰してみたり、作品をさまざまな方向から見たりすると、思わぬ発見があるかもしれません。

また、会場で配布される冊子(作品リスト)に「リヒター作品を読み解くためのキーワード」として13のキーワードが解説されています。鑑賞しながら、または帰宅後ゆっくり読むと、理解が深まると思います。是非お手に取ってみてください。

この日の装い

この日の装い

この日はゲルハルト・リヒターの作品の前に立った時、釣り合うように強めの色柄を選びました。
『ROBE JAPONICA(ローブ ジャポニカ)』の片身替りの浴衣を着物風に。

この日の装い2
この日の装い3

羅の八寸名古屋帯をしめて、道明の唐組・幡垂飾(ばんすいしょく)を合わせわせました

この日の装い3
個性的なコーディネートで

撮影/五十川満

今回ご紹介の展覧会情報

『ゲルハルト・リヒター展』

東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
https://richter.exhibit.jp/

日 時:2022年6月7日(火)~2022年10月2日(日)
    10:00-17:00(金曜・土曜は10:00-20:00)
    ※9月25日(日)~10月1日(土)は10:00-20:00で開館します。
    *入館は閉館30分前まで

休館日:月曜日(ただし9月19日、26日は開館)、9月27日(火)

※日時指定予約制。美術館窓口でも当日券を販売しますが、お待ちいただく場合がございます。

※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

▪️巡回予定
豊田市美術館へ巡回 
2022年10月15日(土)~2023年1月29日(日)

その他、おすすめの美術展

※日時など変更になる場合があります。おでかけ前に公式サイトなどで最新情報を確認してください。

東京国立博物館創立150年記念
特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」

東京国立博物館  平成館 特別展示室
https://tohaku150th.jp/

日 時:2022年10月18日(火)〜2022年12月11日(日)
    9時30分~17時00分
    金曜・土曜日は20時00分まで開館
    ※最終入場は閉館時間の30分前

    ※本展は事前予約制(日時指定)です。    

    ※展示替えのスケジュールを事前に確認してください。

国立新美術館開館15周年記念 李禹煥

国立新美術館
https://leeufan.exhibit.jp/

日 時:2022年8月10日(水)~11月7日(月)
    10:00〜18:00 (金・土曜日は20:00まで)
    ※最終入場は閉館の30分前

休館日:火曜日

◆ 読者プレゼント ◆

さて、ここでうれしいお知らせです。
今回は『ゲルハルト・リヒター展』の招待券を5組10名の方にプレゼント!
ぜひ、きものでお出かけくださいね!

下記リンクより、お使いのSNS経由にてご応募くださいませ。

◆Facebook
https://www.facebook.com/kimonoichiba/
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◆Twitter
https://twitter.com/Kimono_ichiba

※応募期間:2022年9月14日(水)まで

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