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『没後50年 鏑木清方展』東京国立近代美術館「きものでミュージアム」vol.9

『没後50年 鏑木清方展』東京国立近代美術館「きものでミュージアム」vol.9

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きもの好き必見!鏑木清方没後50年の大規模な回顧展が東京国立近代美術館で開催されています。2018年に再発見された《築地明石町》《新富町》《浜町河岸》の三部作をはじめとする109件の日本画作品が出展。恒例の招待券プレゼントもお見逃しなく!

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没後50年の回顧展

今回は、東京国立近代美術館で開催中の『没後50年 鏑木清方展』をご紹介します。

※本コラム内の美術作品の写真につきまして、各美術館プレスより撮影および掲載の許諾を得て使用しております。
ポスタービジュアル

「なんでもない一瞬が、なによりも美しい」

清方の没後50年に、三部作をはじめとする109件の日本画作品で構成する清方の大規模な回顧展です。

鏑木清方の代表作として知られ《築地明石町》(I927年)と、合わせて三部作となる《新富町》《浜町河岸》(どちらも1930年)は、2018年に再発見され、翌年東京国立近代美術館のコレクションに加わりました。まずは三部作にご注目ください。

“需(もと)められて画く場合いはゆる美人画が多いけれども、自分の興味を置くところは生活にある。それも中層以下の階級の生活に最も惹かるる”
「そぞろごと」1935年『鏑木清方文集 一』

清方は、上村松園と並び美人画家として評価が高いのですが、市井の人々の生活や人生の機微を描いた作品も多く、本展ではそれらにも注目しています。

ポートレート 鏑木清方
ポートレート 鏑木清方(1956年)鎌倉市鏑木清方記念美術館

また、一部の作品に清方が残した制作控帳に記された3段階の自己採点を☆の数で紹介しています。(展示作品のキャプションに☆記載。)

 ☆☆☆(会心の作)、☆☆(やや会心の作)、☆(まあまあ)の採点

どの作品が自己評価が高いのか、その点にもご注目ください。

東京会場は時代順ではなくテーマで区切った3章で構成されます。

 第1章 生活をえがく
 第2章 物語をえがく
 第3章 小さくえがく

京都会場では全体を通して年代順に構成されます。

ハイライトは三部作

《築地明石町》《新富町》《浜町河岸》の三部作が並ぶ一角が、今回のハイライトです。

三部作が並ぶ
三部作が並ぶ展示風景。中央が《築地明石町》(東京国立近代美術館)

44年もの間行方不明だった三部作は、再発見されたときひとつの外箱に収まり、内箱の蓋にはそれぞれ清方の筆でタイトルが書かれていました。これまで何度持ち主が変わろうと、3点がいつも一緒に大事にされていたことが明らかになったそう。

再発見当時大変話題になり、2019年『鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開』として公開されました。実は私はこの時はじめて三部作を観たのですが、美しさと繊細さと迫力(思ったよりサイズが大きかった)に感動したのを覚えています。

それぞれの作品もすばらしいのですが、三作品並ぶことによる相乗効果は必見。この三部作を再び目にできると思い、今回もとても楽しみにしていました。

《築地明石町》

《築地明石町》※広報画像
鏑木清方 《築地明石町》 1927(昭和2)年、東京国立近代美術館、通期展示、ⒸNemoto Akio

《築地明石町》の女性は、 浅葱色の細かい柄の単衣の小紋を、襦袢(半衿)なしで着てます。裸足に畳表の千両下駄ですが羽織には家紋が入っていて、今の感覚だと少し不思議な取り合わせ。きものは遠目だと無地に見えますが、近づくと模様が細かく描きこまれているのがわかります。

下駄の畳表、鼻緒の柄と布目、指輪の彫金までもが丁寧に描かれています。
赤い羽裏がほんの少し見えるのがなんとも艶っぽく、細くやわらかそうな後れ毛、光が描きこまれた瞳が印象的。少し愁いを帯びた表情に見えるのは、目のまわりに描きこまれた細い線のせいでしょうか。

朝顔が咲き、葉が少し枯れかかっていますので、夏の終わりの朝の情景とわかります。

清方は明治30年代半ばの情景として描いたそうです。当時の築地は英国調の異国情緒豊かな町でした。背景にはうっすらと佃の入り江に停泊する帆船が描かれています。

この女性はどんな素性の方なんだろうと考えながら、細かいところまでじっくり拝見しました。…でもあまり長くみつめていると、睨みかえされそうでそっと目をそらしました。

《新富町》と《浜町河岸》

《築地明石町》の左には《浜町河岸》、右には《新富町》が並びます。この2点は《築地明石町》の3年後に描かれたもの。もちろんのことこの2点は脇役などではなく、それぞれにすばらしい作品です。

《新富町》※広報画像
鏑木清方 《新富町》1930(昭和5)年、東京国立近代美術館、通期展示、ⒸNemoto Akio

《新富町》では、新富芸者が描かれます。

新富町には古くから劇場があり、花街としても知られていました。女性の頬や髪の生え際、瞼の下、耳たぶ、指先などがほんのり赤く染まり色香を感じます。

粋な縞のきものに利休色の羽織、こちらもチラリとのぞく赤い羽裏と襦袢の裏地、菊と紅葉の柄も効いて。簪の櫛の歯、蛇の目の骨組み、雨下駄の爪皮までもが細かく描かれています。

羽織紐は冠組でしょうか。組紐教室に通う私はつい注視してしまいます。

《浜町河岸》※広報画像
鏑木清方《浜町河岸》 1930(昭和5)年、東京国立近代美術館、通期展示、ⒸNemoto Akio

《浜町河岸》は、踊りの稽古帰りの町娘を描いています。

この街には歌舞伎舞踊の振り付け師で一時代を築いた二代目藤間勘右衛門が家を構えていました。習ったばかりの所作を思い返している姿が愛らしいです。

きものの半衿、帯揚げ、襦袢、下駄の鼻緒などにやはり赤が効果的に使われています。おはしょりの下にはちらりと赤いしごき帯。当時はこれがお洒落とされていたそう。帯のお太鼓に見える裏地の模様や簪の絞り、舞扇の骨まで細やかに描きこまれています。

きものは紫地に小さな松竹梅。画像ではわかりにくいのですが、松竹梅の中に細かい疋田が描かれています。

こんな色柄の小紋が欲しいなあ…日本画の中に素敵なきものをみつけると、悪い癖ですぐそんなことを思ってしまいます。でもそんなことを思いながら絵を観るのも楽しいひととき。こうして細かいところまで目を向けていると、時間が経つのを忘れてしまいます。

この絵の前でやりたかった、《築地明石町》ポーズ!

なりきり《築地明石町》

描くきものの美しさ

清方は、本当に細かなところまで人物やきもの・小物を描き込んでいます。ここからは「描かれるきもの」に注目して観て行きましょう。

《ためさるゝ日》
左:鏑木清方 《ためさるゝ日》 大正7(1918)年、個人蔵、 3月18日〜4月17日展示
右:鏑木清方 《ためさるゝ日》 大正7(1918)年、鎌倉市鏑木清方記念美術館、 3月18日〜4月3日展示

《ためさるゝ日》と題された2幅が並びます。長崎で毎年行われていた遊女の宗門改め(絵踏み)の様子です。

左幅には、清方の自己評価最高の☆3つがついています。当初右幅とあわせて双幅でしたが、展覧会出品の際には友人の助言もあり左幅のみ出品したそうです。

2幅とも衣裳も櫛や簪も豪華。
最高評価の左幅を見ると、黒地に帆船が描かれた打掛に更紗模様の帯が長崎らしい異国情緒を醸し出していて、ここでも赤が効いています。

《道成寺 鷺娘》
鏑木清方 《道成寺 鷺娘》 昭和4(1929)年、大谷コレクション、3月18日〜4月3日展示

《道成寺 鷺娘》では、歌舞伎舞踊の演目『京鹿子娘道成寺』と『鷺娘』を描いています。

紅白の対比も鮮やかな2幅。衣裳のすばらしさもさることながら、背景の雪景色と桜や遠山も細密に描かれています。

清方の作品の数々に見入る
清方の作品に見入る
《道成寺(山づくし)鷺娘》※広報画像
鏑木清方 《道成寺(山づくし)鷺娘》 1920(大正9)年、福富太郎コレクション資料室、4月5日~5月8日展示

この日は展示されていなかったのですが、二曲一双の屏風《道成寺(山づくし)鷺娘》がこちら。

左双には白い打掛、右双は紅葉賀(『源氏物語』が題材の紅葉に幔幕と大太鼓の模様)の鮮やかな衣裳とともに大変美しいです。展示される期間にまた行かなければ!

《清泉》
鏑木清方《清泉》 大正11(1922)年、霊友会 妙一コレクション、3月18日〜3月31日展示

《清泉》には、白地に萩やすすき・瑞雲が描かれたきものが登場します。

一見あっさりした模様ですが、尾形光琳が描いたかの有名な《冬木小袖》(正式名称《小袖 白綾地秋草模様》)に通ずるものを感じ、魅かれました。手巾をくわえ髪を直すしぐさが美しいです。

《一葉女史の墓》※広報画像
鏑木清方《一葉女史の墓》1902(明治35)年、 鎌倉市鏑木清方記念美術館、3月18日~4月3日展示 ⒸNemoto Akio

清方は樋口一葉のファンで、泉鏡花の短文『一葉の墓』を読みその墓を訪ねたときに、線香の煙の向こうに『たけくらべ』のヒロイン美登里の幻を見たといいます。

その体験をもとに描いたのが《一葉女史の墓》。

落ち葉が散り、線香の煙がなびく、幽玄な情景が描かれています。縞に格子、とんぼの取り合わせが絶妙です。

清方はこの作品を「私生涯の制作の水上となるのではあるまいか」(『こしかたの記』)と語っています。

《遊女》
鏑木清方 《遊女》 大正7(1918)年、横浜美術館 、 3/18~3/31

《遊女》は、泉鏡花の小説『通夜物語』の遊女・丁山を描いた作品。

白梅と水仙の打掛が見事です。こちらは自己評価最高の☆3つがついています。

鏑木清方《七夕》に見入る
《七夕》に見入る 鏑木清方《七夕》 昭和4(1929)年 大倉集古館、3/18〜4/10展示

ひとつひとつ見ていくと、この時代のコーディネートはとても粋で格好よく、清方は襦袢や小物も細かいところまで丁寧に描きこんでいます。

他にもきもの好きなら気になる作品がたくさんありますので、ぜひ会場にて、お気に入りをみつけてくださいね。

市井の人々を描く

《明治風俗十二ヶ月》
鏑木清方《明治風俗十二ヶ月》 昭和10(1935)年、東京国立近代美術館、通期展示

《明治風俗十二ヶ月》は、明治の情景を1月ごとに1幅描いた12幅からなる作品。全体としてはもちろん、一点一点がとても興味深いのです。

2月《梅屋敷》の衿元と裾に見える重ね着の妙。
3月《けいこ》は、後ろ姿のお太鼓の帯揚げや帯締めまで丁寧に描かれて。
4月《花見》のふたり。それぞれの模様と赤い襦袢。
7月《盆燈篭》の浴衣姿。ゆったりと着てくつろぐさま。
10月《長夜》の庶民の普段着の姿。

季節や人物によって服装が描きわけられているのです。

服装以外も、かるたや金魚屋、氷店、頭巾をかぶり人力車に乗った女性と車夫など、明治当時の風俗や生活を垣間見ることができます。細部まで描きこまれ、ひとつひとつが味わい深く感じました。

鏑木清方《鰯》
鏑木清方《鰯》 1937(昭和12)年頃、東京国立近代美術館、通期展示、ⒸNemoto Akio

《鰯》は、明治時代を回想して描いた作品。こちらもあらためて、本当に細かいところまでが丁寧に描かれています。

鰯を売りに来た少年を長屋の女性が呼び止めている情景。すだれ越しや木戸越しに中の様子が透け見え、隣の荒物屋の店先の品々も細緻にあらわされています。

清方が庶民の生活に惹かれていたのがよくわかる作品です。

《雨月物語》
鏑木清方《雨月物語》大正10(1921)年、霊友会 妙一コレクション蔵、 3/18~3/31展示
8図からなる《雨月物語》を観る。美人画以外も魅力的な作品がたくさん。 

最後に

「美術の社会に対へる一面」『鏑木清方文集 七 画壇時事』
「美術の社会に対へる一面」『鏑木清方文集 七 画壇時事』

きもの好きにとって、これほど魅力的な回顧展はなかなかありませんね。

明治から大正期にかけてのレトロでノスタルジックなきものや豪華なきもの、粋でシックなきもの、庶民のきものなどが描かれる清方の作品。それぞれのコーディネートもとても魅力的で、自身のきものコーディネートにも取り入れたい!とリアルに参考になります。

きものだけでなくもちろん、その表情やしぐさ、髪の毛1本1本、爪の先までもが美しく、ため息まじりに鑑賞してまいりました。
当時の生活が生き生きと描かれている様子には、清方の優しい視線を感じます。

そしてなんと言っても三部作のすばらしさ。
行方不明になっていた44年間はどうしていたのだろう?と想像するのもお楽しみのひとつ。

三部作は東京・京都とも通期展示されますが、今回、展示替えが何度かあり、作品によって展示期間が違います。展示期間をチェックしてお出かけください。私もまだ観ていない作品がありますので、展示替え後また出かけたいと思います。

この日の装い

この日の装い1
羽織を脱いだところ

《築地明石町》を意識して、黒羽織を着たコーディネートです。
ペールブルー地に華紋刺繍を施した小紋に、となみ織物の袋帯を締めました。

帯締めは道明の笹浪組、根付は自作のコットンパールのものです。

この日の装い 帯回り

今回ご紹介の展覧会情報

『没後50年 鏑木清方展』ポスター

没後50年 鏑木清方展

東京国立近代美術館
https://kiyokata2022.jp/

日 時:
2022年3月18日(金)~5月8日(日)
9:30~17:00(金曜・土曜は20:00まで開館)
※入館は閉館30分前まで

休館日:
月曜日(5月2日は開館)

※混雑緩和のため、オンラインチケット(日時指定制)をお勧めしております。当日券は毎日必ず販売いたしますが、ご来館時に予定枚数が完売している場合がございます。
※会期中、一部の作品の展示替えを行います。
※詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。

■巡回予定
京都国立近代美術館 2022年5月27日〜7月10日

その他、おすすめの美術展

※日時など変更になる場合があります。おでかけ前に公式サイトなどで最新情報を確認してください。

『シダネルとマルタン展』ポスター

シダネルとマルタン 展最後の印象派、二大巨匠

SOMPO美術館
https://www.sompo-museum.org

日 時:
2022年3月26日(土)~ 6月26日(日)
10:00~18:00
※入館は閉館30分前まで

休館日:
月曜日

『日本画トライアングル』ポスター

日本画トライアングル

泉屋博古館東京
https://sen-oku.or.jp/tokyo/

日 時:
2022年3月19日(土)~5月8日(日)
11:00~18:00 (金曜日は19:00まで開館 )
※入館は閉館の30分前まで

休館日:
月曜日

山田秋坪《柘榴花白鸚鵡図》1920年 泉屋博古館東京
山田秋坪《柘榴花白鸚鵡図》1920年 泉屋博古館東京
《白秏孔雀図》 ※広報画像
望月玉渓《白秏孔雀図》右隻 1917年 泉屋博古館東京

◆ 読者プレゼント ◆

さて、ここでうれしいお知らせです。
今回はリニューアルした泉屋博古館東京で開催中の『日本画トライアングル』の招待券を5組10名の方にプレゼント!
ぜひ、きものでお出かけくださいね!
今回はご応募期間が短いですのでぜひお早めに。

下記リンクより、お使いのSNS経由にてご応募くださいませ。

◆Facebook
https://www.facebook.com/kimonoichiba/

◆インスタグラム
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◆Twitter
https://twitter.com/Kimono_ichiba

※応募期間:2022年4月14日(木)まで

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