撥水を極めた…パールトーン本社見学レポート・後編 実践!汚れの対処法と気になるパールトーン一問一答
お着物や帯に触れる際に目にする「パールトーン加工」。 早速かけてみたんだけど…実際着物が汚れたときに、どうやって対処すればいいの? パールトーン加工のことをより深く知るべく、京都きもの市場社員一同、パールトーン本社にお邪魔してまいりました。
パールトーン加工をしていれば水を弾いてくれるけど、お醤油、ワイン、ソース…お食事中にお気に入りの着物にかかってしまった時には大丈夫なんでしょうか?
今回、見学させていただいた株式会社パールトーンの営業本部 副統括部長・今井さんに詳しくお話を伺いました。
パールトーンについて知らない事はない!と言っても過言ではありません。
「では実際に水溶性の汚れの落とし方を説明しますね」と言うが早いか、躊躇なく着物に注がれるお醤油!
どうやらこのお着物、パールトーン加工がかかっているためか、一見お醤油を弾いているように見えます。
更に生地にお醤油を刷り込んでいく今井さん。
「こういう時ってよく間違えてゴシゴシ拭いてしまうことがあるんですが、これは実はあまり良くないんですよね」
こ、これは流石にシミになってしまうのでは…
まず水溶性の汚れが付着してしまったら、
・着たまますぐ
・乾いたタオルやハンカチで
・軽く抑えるように
水分を拭き取きとるのがベスト、と今井さん。
掃除の時のように、「シミには濡れたタオル」という方もいらっしゃるのですが、余計シミを拡げてしまったり、汚れが繊維の奥まで入り込んでしまうので避けたほうが良いとのこと。
あらかた表面の醤油の液体は取れましたが、どうしてもシミのように残ってしまっている気がしますが…
今井さん曰く「まずは着たままでも良いので、あらかた表面に浮いている水滴を取ってしまうこと。
その日帰宅して着物を脱いだら、すぐ表面に先程の箇所に少量の水をかけてください。
霧吹きでも良いですよ。」
水をかけて指の背で優しく表面を撫でていくと…
なんと先程うっすらシミになって残っていたお醤油が取れてきました!
若干茶ばんでしまった水を、こちらも乾いたタオルで押し拭きすると…
見事にお着物は元どおりになりました。
パールトーン加工は表面にかけるのではなく、繊維一本一本をコーティングするため、水溶性の汚れが繊維の隙間に入り込んでしまったとしても、生地そのものが汚れと接触することがありません。
だから水に汚れを溶け出させて取り去ることができるんです。」
ちなみにこれは帯も同じ。
分厚い織、立体的な織であっても同様の方法で汚れを浮き出させることができます。
こちらの写真は、一枚の正絹の縮緬生地の真ん中にのみパールトーン加工を施し、水を満遍なくかけたもの。
最初は綺麗な長方形だったものが、パールトーン加工のかかっていない上・下端が縮んでしまっているのがお分かりいただけますでしょうか?
更にこちらは水性の蛍光ペンで同じ正絹縮緬生地に線を引いたもの。
一見全ての面が同じように見えますが…
水をかけてみると一目瞭然。
真ん中のみ水を弾き、しかも水性ペンの跡が綺麗に落ちています!
これがパールトーン加工がかかった箇所。
加工を施していない上下端は、水で洗うと当然のことながら、水性ペンが染み付いてしまっています。
「この水性ペンを殆ど汗と捉えてもらったら良いですよ。」と今井さん。
汗は成分の99%が水。
残り1%は皮脂などの油性の汚れですが、大半が水で落とせてしまうもの。
パールトーン加工をしておけば、汗をかいてしまった後のお手入れが非常に楽になるんですよ、とのことです。
また、パールトーン加工、実は撥水性のみならず、撥油性にも優れており、油性の汚れにも強いのが特徴というデータが出ております。
他の撥水効果と比べられた時の
・水
・オリーブオイル
・焼酎
の染み出し方をまとめたものです。
生地に垂らしておよそ5分ほど。
水についてはどれも同じに見えますが、その他のオリーブオイルと焼酎は歴然とした差です。
パールトーン加工は撥油性にも優れています。
その場合は早くお手入れにお出しするのをお勧めしますね。
油性の汚れは水では落ちませんので…」と今井さん。
かつて薬剤の精製時に発生していたPFOAという有害物質を削減するため、薬剤の切り替えを余儀なくされたこともありました。
試行錯誤を繰り返し、2013年には以前と遜色のない効力を発揮する薬剤の開発に成功。新しい加工薬剤に切り替えておられます。
環境に配慮しつつも、いかに長くお客様に綺麗に着物を着つづけていただけるか、という使命に真摯に向き合ってくださったからこそ、現在のパールトーン加工の素晴らしい技術があるのですね。
Q&A形式でお伝えして行きたく思います。
パールトーン加工がかかりにくい生地ってどんな生地ですか?
A
正直「この生地は難しい」というのは一概に言えません。
同じ糸を使っていても、使われている染料や糊、織り方などで異なってきます。
白生地の状態であれば1回でかかるものも、染めた後だと撥水の効果が出にくい…ということもあります。(図参照)
パールトーン加工は動物性の繊維と相性が良いため、絹のお着物のほかに、動物の革製のバッグや毛皮のコートなどにもお勧めしていますね。
長襦袢ってパールトーン、かけなくても問題ないですよね?
A
良くお着物を着用される方に対しては、むしろお勧めしています。
長襦袢は外から水やお醤油などがかかってしまう可能性は低いのですが、身体に近い分、汗を吸収しやすくなっています。
汗は水溶性の汚れです。
パールトーン加工を施していると、着用後、霧吹きをかけてすぐ乾いたタオルで軽く押し拭きし、その後軽く陰干しをしていただくだけで、汗のお手入れができ、気持ちよくすっきり着用していただけます。
着用ごとに汗抜きに出す必要がありませんので、加工代はかかるものの、長い目で見ていただくと経済的です。
パールトーンって撥水性がありますが、湿ったまま置いておいても大丈夫ですか?
A
あくまでも「撥水」とは瞬間的なもの。
「防水」ではありませんので、できる限り早く水分を拭き取っていただく必要があります。
湿った状態で放置することや、濡れたタオルをずっと当てて置くことなどは、シミや縮みの原因になります。
パールトーン加工をしていても、年に1~2回の虫干しは必要です。
お手入れが楽だと着ることへのハードルが下がります。
そして折角だから綺麗な状態で着続けていただきたいし、きものをお召しになる方は「綺麗に保ちたい」という意識の高い方が多い。
きもの文化を守るためにも、皆さんに着物を楽しんでいただくためにも、この仕事があるんだと思っています。」と今井さん。
我々も、パールトーン社さんの掲げる理念をお客様にも日々お伝えしていきたく思います。
今井さん、パールトーン社の皆様、貴重な学びの時間をありがとうございました!
シェア
BACK NUMBERバックナンバー
-
2024.03.11
連載記事
静岡店店長と行く!きものでおでかけレポート
-
2024.03.05
連載記事
ゲスト・紗月さんときもので愉しむ!静岡店オープン記念パーティ
-
2023.09.20
連載記事
着物への愛で繋がる ~段上育子さんを訪ねて~ 「琉球染織ツアー2023」レポート(後編)
-
2023.11.12
連載記事
作り手の思いに触れる ~和宇慶むつみさん、玉那覇有勝さんを訪ねて~ 「琉球染織ツアー2023」レポート(前編)
-
2023.09.12
連載記事
知念冬馬氏トークショー in 銀座店 「ものづくりの極意」イベントレポート
-
2023.08.08
連載記事
京都きもの市場 銀座店8周年記念パーティー 〜紡ぐ〜 in 明治記念館
-
2023.06.08
連載記事
島田史子さん × 西川喜優先生 日本舞踊披露&トークショー 「和と粋の世界へ繋がる扉」
-
2023.05.26
連載記事
特別公演 鎌田由美子さん ×『美しいキモノ』 日本最大級きもの展示会2021@東京丸の内KITTE イベントレポート vol.6
-
2023.05.23
連載記事
山崎陽子さんトークショー「きものを着たらどこへでも」 日本最大級きもの展示会2021@東京丸の内KITTE イベントレポート vol.5
-
2023.02.22
連載記事
元劇団四季 齋藤舞さんの歌声が祝福する― 京都店10周年記念パーティー
-
2023.02.08
連載記事
佐竹美都子さんトークショー「オリンピックと西陣織」 日本最大級きもの展示会2021@東京丸の内KITTE イベントレポート vol.5
-
2023.02.15
連載記事
京都きもの市場 銀座店7周年記念パーティー 〜紡ぐ〜 in ホテル雅叙園東京
-
2023.01.23
連載記事
きものでおでかけ! ~横浜店スタッフとゆく!アフタヌーンティー編~
-
2023.01.23
連載記事
九州初!みずのしのぶ先生の着付け教室 「名古屋帯・ミズノの銀座結びレッスン」イベントレポート
-
2023.01.23
連載記事
みなさまの温かい声援に包まれて。京都きもの市場 横浜店オープン記念パーティー in横浜ベイシェラトン
-
2023.01.23
連載記事
きものでおでかけ!~横浜店スタッフとゆく!浄妙寺編~
-
2023.02.15
連載記事
モデル・川原亜矢子さん トークショー「きもの姿で逢いに行く」 日本最大級きもの展示会2022@東京丸の内KITTE イベントレポート vol.4
-
2023.02.08
連載記事
「スレンダー着付け®️ ミニ講座」 加藤咲季さん 日本最大級きもの展示会2022@東京丸の内KITTE イベントレポート vol.3
-
2023.02.15
連載記事
「日本舞踊と“恋するWafure”」 尾上博美先生 日本最大級きもの展示会2022@東京丸の内KITTE イベントレポート vol.2
-
2023.02.15
連載記事
『デュヴァル=ルロワ』日本公式アンバサダー ドゥヴィッレ アントニー 麻由良夫妻 「シャンパーニュ4種飲み比べ&パーティに映える着物コーデ」 プレミアム銀座2021 イベントレポート
-
2023.02.08
連載記事
「すなおさんのリアルレッスン」 きものすなおさん 日本最大級きもの展示会2022@東京丸の内KITTE イベントレポート vol.1
-
2023.01.23
連載記事
きもの文化検定 合格者表彰式&記念パーティ @京都ホテルオークラ
-
2023.01.23
連載記事
京都きもの市場 銀座店リニューアル記念パーティ 拓く【hiraku】 〜その先へ〜 in 明治記念館
-
2023.02.08
連載記事
オープニングアクト&トーク「凜と美しく」 日本舞踊家・花柳凜さん 日本最大級きもの展示会2021@東京丸の内KITTE イベントレポート vol.4
-
2023.02.08
連載記事
着付けポイントレッスン「みずのしのぶの秘密の小技」 日本最大級きもの展示会2021@東京丸の内KITTE イベントレポート vol.3
-
2023.02.15
連載記事
「三代目 柳亭小痴楽」落語公演&トークショー 日本最大級きもの展示会2021@東京丸の内KITTE イベントレポート vol.2
-
2023.02.08
連載記事
「着物で楽しむお花レッスン」 日本最大級きもの展示会2021@東京丸の内KITTE イベントレポート vol.1
-
2023.01.23
連載記事
「ヘアアレンジレッスン 〜実践編〜」 銀座6周年特別催事” 紡ぐ”2021 イベントレポート vol.1
-
2023.01.23
連載記事
芸妓・佳つ雛「舞披露と撮影会」 京都店8周年 特別イベントレポート
-
2023.01.23
連載記事
「墨染居 ~墨に遊ぶ~ 山本流石の世界」 “華ときもの祭 2020 美の共演” イベントレポート vol.4
LATEST最新記事
-
まなぶ
知念紅型研究所 知念冬馬さん (沖縄県那覇市・琉球紅型)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.10
-
よみもの
昔ながらの道具にふれる 「都留詩織のきもので下町おでかけ帖」vol.14(最終回)
-
よみもの
見えないところで大活躍!たかはしきもの工房のインナー 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.83
-
まなぶ
長谷川普子さんが挑む!茶筅の糸かけ体験 「茶筅師の手しごと」vol.3
-
まなぶ
あをによし 〜小説の中の着物〜 永井路子『美貌の女帝』「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第三十六夜
-
まなぶ
きものすなおさんと訪れる着物海外縫製工場(ベトナム・ホーチミン)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」番外編
RANKINGランキング
-
まなぶ
半衿(はんえり)とは?着物との組み合わせ方・選び方や縫い付け方法まで解説
-
まなぶ
名古屋帯とは?袋帯との違いと種類ごとの使い分け・最適な仕立て方まで解説
-
まなぶ
肌襦袢(はだじゅばん)とは?長襦袢との違いは何?
-
まなぶ
着物の種類と、初めての着物を「付け下げ」にするべき5つの理由
-
まなぶ
留袖とは?結婚式などフォーマルな場での黒留袖の着用マナーと柄の選び方
-
まなぶ
小紋・江戸小紋とは?柄の種類や選び方【着物の種類 基本中のき!カジュアル編②】
-
まなぶ
着物の下着は何を着ればいい?おすすめのブラ・ショーツ・下着を紹介!
-
まなぶ
「訪問着」を徹底攻略!~6つのお悩み実例・解決いたします〜
-
まなぶ
辻が花とは?幻と称される染め物の特徴をご紹介
-
まなぶ
袋帯の多様な種類 丸帯・袋帯・洒落袋帯 シーンや着物に合わせたコーディネート解説