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「墨染居 ~墨に遊ぶ~ 山本流石の世界」 “華ときもの祭 2020 美の共演” イベントレポート vol.4

「墨染居 ~墨に遊ぶ~ 山本流石の世界」 “華ときもの祭 2020 美の共演” イベントレポート vol.4

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「墨に五彩あり」と謳われたように、白と黒というモノクロームの世界に留まらずみずみずしく発色する墨の美しさ、また無限の色彩は、その奥深さゆえに多くの作家たちの心を捉えてきました。究極の洒落者・山本流石先生が演出する『墨染居』の世界で、映画女優の気分を味わってみませんか。

「墨に五彩あり」

古来「墨に五彩あり」と謳われたように…

白と黒というモノクロームの世界に留まらず、みずみずしく発色する墨の美しさ。
モノクロームからあふれだす無限の色彩は、その奥深さゆえに、多くの作家たちの心を捉えてきました。

『墨染居(ぼくせんきょ)』を手掛ける山本流石(さすが)先生もそのひとり。

「墨染居」山本流石先生
二色のモノクロームを表すブース

私の色、二色のモノクローム
モノクロームからあふれだす無限の色彩、幾重にも重ねられた墨の色がより多くの言葉を紡ぎ出す

『墨染居』のブランドリーフレットに記載された文章からも、山本先生の「墨」に対する深い愛情を感じます。

レポーター / 手弱女 安里(たおやめ あんり)

職人の手技に恋して十数年。洋の東西を問わず、逸品との出会いを求めて、気の向くまま、心のままに、美術館、展示会、劇場、工房等を訪問させていただいております。
着物美人を目指して日々、奮闘中。

手弱女 安里(たおやめ あんり)

着物は完成品ではない

落款のない着物

通常、作家ものの着物には落款がございますが…
山本先生の着物には落款がありません。
これは、着物は完成品ではない、という先生の考え方によるもの。

(「墨」が生み出す)「無限の色をまとって、私のきものを完成品へと導く最後の最も大切な色。それは、あなたの「紅」の色。鮮烈な赤の色と、端然とした漆黒の色、その対象の妙が、ひときわな女の香りを漂わせてくれる」

出典:「墨染居」ブランドリーフレット

なんと艶のある表現なのでしょう。

赤色を一切使わない『墨染居』の着物は、唇に塗られた紅の赤色をもって、はじめて完成品へと昇華する、う~ん、大人の女性の魅力を感じます。

山本流石(さすが)先生プロフィール

まずは山本先生に経歴をお伺いしました。

島根県出雲大社の近くで宮大工をしていた父親のもとに生まれた山本先生。
高校卒業後、京都の染着物製造業者に入社、住み込みでの職人修行がはじまります。
約10年間の修行時代には、振袖・留袖・訪問着などのフォーマル品を中心に「逸品もの」と呼ばれるクラスの作品を扱い、徹底したものづくりを教わったそうです。

約50年前の当時、着物と言えば「友禅」。
次第に「お道具」としての着物に違和感を覚えるようになった先生は、「ファッションとしての着物を製作したい」という気持ちが強くなり独立されたそうです。

墨染居として独立

「漆の帯」にかけた情熱

漆の糸を使用した帯

今や先生の作品のトレードマークともいえるのが、漆を用いた糸を織り込む「漆の帯」。

光の当たり具合によって様々な表情を見せて…
まるで宝石のような輝きを放ち、見るものを魅了します。

それまで誰も考えもつかなかった「漆の帯」は、住み込み職人時代、先輩から繰り返し言われ脳裏に焼き付いている「知恵をしぼれ」という言葉がきっかけになり誕生しました。

若かりし日の山本先生は、「漆の帯」を作りたくて西陣中の機屋さんを回りましたが、「漆を入れた糸を作るなんてとんでもない」と全ての機屋さんに断られたそう。

ならば自分の機屋を作れば作りたい作品が作れるだろう、と考え、機屋を買うことを決めたとか。そこから山本流石先生独自の世界観を表現する作品づくりがはじまりました。

その特徴は、繊細さと大胆さを兼ね備えたデザイン、そして細部へのこだわり。まさに「粋」という言葉がぴったりの作品ばかりです。

先生の理想を実現した逸品
先生自身で使用し評判を呼ぶ

こちらの角帯は、山本先生自ら締めて宮川町のお茶屋さんへ行ったところ、その洒落た装いが評判となり製作の依頼が舞い込んだこともあるそう。

六瓢(むびょう)=無病息災

いくつか作品をご紹介いたしましょう。

こちらは「漆の帯」の代表柄でもある「角つなぎ」。
表面の凸凹は、人生の浮き沈みをあらわしています。

代表作「角つなぎ」
代表作「角つなぎ」の裏は「ひょうたんつなぎ」

「角つなぎ」の裏はどうなっているかというと…
「瓢箪(ひょうたん)つなぎ」に!

「瓢箪」は末広がりをしたその形から古来より縁起のよいものとされています。
それがつながった「瓢箪つなぎ」は、隙間(空席)がないように…という、歌舞伎から発生している柄だと教えていただきました。

「瓢箪」と言えば、『墨染居』のロゴマークにもなっています。
「6つ揃った瓢箪」はすなわち「六瓢(むびょう)=無病息災」もあらわします。

モノクロームでカッコいいですね!

「墨染居」ブランドロゴマーク。
陶芸家原案の反物

ひときわシックなこちらの反物は、知り合いの陶芸家の方に描いていただいた図案をもとにしたものだそう。

依頼の際には、「きもの」のデザインに捉われることなく、いらないものは乗せないようにとお伝えされたそうです。

”シンプルで無駄のない引き算の美学”

これが、山本先生のデザインの幹となっている世界観なのだと感じます。

こんなかわいいデザインも

エレガントでクールな印象が強い『墨染居』のデザインの中で、反物を広げた際にその意外性から思わず「かわいい!」と叫びたくなるのが「くじら」柄の名古屋帯。

先生、遊び心のあるデザインもお好きなのですね。

「墨染居」くじら柄の名古屋帯
黒地の着物と合わせてキュートに

こうやってシックな黒地のきものにあわせると、キュートでカッコいい!

先生のおすすめは、ブルーの裏芯を入れ、大島紬などとあわせてカジュアルに装うスタイル。
帯揚げ・帯締めの合わせ方でガラリと印象が変わりそうな、きもの上級者の方にピッタリのコーディネートですね。

着物ファンに寄り添うものづくりの姿勢

「墨染居」山本流石作品

「30~40年前は売れるものを作りたかったけれど、今は好きなものしか作らない」

こうおっしゃる山本先生。

センスと美意識の塊のような山本先生が思い描く「『墨染居』が似合う女性」について伺いますと、意外にも「僕が(僕の作品が)選ばれたい」との回答。

芯の通った作品づくりでありながらもそれを押し付けるのではない先生の姿勢に、一層魅力度が増して感じられます。

購買者の7~8割はリピーターが占めるそう。

なじみのお客様の中には、きものを着る日時・場所・用途のみ伝えて、デザインを依頼する方もいらっしゃるとか。

まさにお誂えの醍醐味ですね。
先生がいかに信頼されているかが伺えます。

お客様のためを考えた品の数々

映画のワンシーンを彷彿とさせて

「墨染居」着物をまとうことについて

ここであらためて先生に、「墨」のもつ魅力をお伺いしました。

「きものに赤・桃色・紫などの色彩があると、きものを着ていらっしゃる方を見るより先に、どうしてもきものの色に目がいってしまう。無彩色である「墨」は、その奥深さゆえに、様々な色の色彩以上に多彩な色を表現することができる。『墨染居』のきものは色がないからこそ、個性が生きる」

取材中、先生の口から紡ぎだされる言葉や表現がなんとも艶やかで色っぽく…
まるで「僕はこういう人間ですが貴女はどうですか」と試され見透かされているようで、ドキッとする瞬間が何度もありました。

無彩色こそが「墨染居」の真髄

例えば、きものを「まとう」という表現。山本先生は、

「きものは「まとう」ものであり、「着る」ものではない、きものを「まとう」ためには土台が大切で、長襦袢をきちっとする、また襟の抜き具合も大切で着方に意味がある」

とおっしゃいます。

墨の奥深さが凝縮された『墨染居』のきものを「まとう」ことにより、五感が研ぎ澄まされ、香りや空気をいつもより鋭敏に感じることができる。後ろ向きの着姿のあまりの美しさに正面からの姿を想像し、そしてそのきものを「まとう」人がふりかえると、あざやかな唇の紅があなたを魅了する―

映画のワンシーンのような光景を想像してしまいます。

『墨染居』の力を借りて、映画女優になったような気持ちを味わいたい。そんな気持ちにさせてくれる大人の女性のための究極のお洒落きもの。それが『墨染居』なのかもしれません。

シャネルとグッチの間にブティックを

最後に、山本先生に今後の目標をお伺いしました。

「シャネルとグッチの間にブティックを作りたい」

街を歩いていたらふと素敵なブティックがあり、店内に足を踏み入れたら、インスタレーションのように『墨染居』の作品が展示されている空間…

『墨染居』は、着物ありきではなく、「まとう人」を楽しませるブランドなのだと感じました。
あなたも『墨染居』が作り出す時空に迷い込んでみませんか。

「墨染居」山本流石の作品

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