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和宇慶むつみさん、玉那覇有勝さんを訪ねて 「琉球染織ツアー2023」レポート(前編)

作り手の思いに触れる ~和宇慶むつみさん、玉那覇有勝さんを訪ねて~ 「琉球染織ツアー2023」レポート(前編)

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2023年はじめ、4年ぶりとなる京都きもの市場主催の「琉球染織ツアー」が開催されました。首里花織作家の和宇慶むつみさんや、琉球紅型・玉那覇有勝さんの工房を訪れ、作り手の思いに触れるツアーの模様を前後編にわたってレポートします!

4年ぶりとなる琉球染織ツアーへ

和宇慶むつみさんの花織

和宇慶むつみさんの花織

新型コロナウイルスの感染状況がようやく落ち着きを見せ、遠方への旅行もしやすくなってきた2023年。京都きもの市場は実に4年ぶりとなる「琉球染織ツアー」を開催しました。

「琉球染織ツアー2023」案内状

国が指定する「伝統的工芸品」全240品目のうち16品を占め、全国3位の品目数を誇る沖縄。また、壺屋焼、琉球漆器、三線以外の13品目は染めと織りからなる染織物となっています。

かつて琉球王国と呼ばれ、豊かな自然と共に独自の文化を築き上げてきた沖縄の個性が反映された13種の染織物は、多くの着物好きを虜にしてきました。その伝統を受け継ぐ人たちは普段何を思い、どのような姿勢で染織に向かっているのかーー

色挿し

紅型の色挿しのようす

すばらしい作品で私たちを魅了し続ける染色家・染織家たちの工房を訪れ、作り手の思いに触れるツアーの案内人は、横浜店店長の明神、京都店店長の髙島、博多店店長の横尾をはじめとした6人のスタッフたち。

彼らとともに、関東から関西、九州まで全国から集まってくださった15名のお客さまが沖縄へ。今でも胸が高鳴るような3日間にわたる旅の思い出を写真とともに振り返ります。

着る人のことを一番に考えたものづくりの姿勢に感動

沖縄の景色

旅の始まりは沖縄の玄関口、那覇空港から。

そこから一行は琉球一美しいと称される離島・久米島に渡り、約2kmにわたって久米島北東部に続く断崖「比屋定バンタ」からの絶景を眺めたり、久米島紬の歴史や魅力を知れる「久米島紬の里 ユイマール館」を見学したりと充実した一日を過ごしました。

そして、お待ちかね。2日目はいよいよ、美しい染織物が日々生まれる工房の見学です。

和宇慶さんとご対面

和宇慶さんとご対面

最初に訪れたのは、沖縄南部に位置する染織家・和宇慶(わうけ)むつみさんのご自宅兼工房。

まずは今回のツアーを組んでくださった産地問屋の社長さんからみなさんに、和宇慶さんのご紹介をしていただきました。

和宇慶むつみさん

和宇慶むつみさん

和宇慶さんは、昨年3月にこの世を去られた故・宮平初子さんの一番弟子

第二次世界大戦下で衰退の一途をたどった首里織物の復興に尽力し、1998年に県内から女性初の重要無形文化財保持者(技術保持者)に選ばれた宮平さんをそばで支えました。

そして、18年間を経て独立。ご自宅で染から織まですべて一人でこなす染織家としてたくさんの作品を生み出し、いくつかある首里織の中でも花織の発展に現在まで貢献されています。

ご自身の技術を披露してくださった和宇慶さん

花織とは、経糸(たていと)を浮かせ、そこに緯糸(よこいと)を入れることで模様を浮かび上がらせる織物のこと。

言葉だけで聞いても理解するのは困難ですが、今回はなんと目の前で和宇慶さんが反物を織っているところを見学させていただきました。

機織り中の複雑な足の動き

機織り中の複雑な足の動き

その複雑な機の動きにみなさんの視線は釘付け。こんなにまじまじと職人技を眺められる機会はそうそうありません。しかも、ご本人の解説付き!

今回のツアーならではの醍醐味をたっぷり堪能しました。

和宇慶さんの作品

和宇慶さんの作品を拝見

和宇慶さんの作品

工芸展などに出品された作品もあり、眼福なひととき

和宇慶さんが生み出す花織の反物はカラーバリエーションが豊富。配色センスが抜群で、ずっと見ていたくなるような繊細な文様も女性から大人気です。

とても貴重な生地の見本帳も見せていただきました

とても貴重な生地の見本帳も見せていただきました

また、和宇慶さんが織物を絵羽にして保管されているのは仕立てのことを鑑みてとのこと。

ただ反物を作るのではなく、それを誰かが仕立てて着たところまでしっかりイメージした上で設計されています

だからこそ、織物の風合いが最大限活かされた着物に仕上がるのです。

和宇慶さんのご自宅にはやちむんの食器が棚にずらり

和宇慶さんのご自宅にはやちむんの食器が棚にずらり

和宇慶さんの思いに耳を傾ける参加者の皆さん

和宇慶さんの思いに耳を傾ける参加者の皆さん

ご自身も着物をとても愛していて、着る人のことを第一に考えたものづくりを心がけている和宇慶さん。

その熱い思いに触れた参加者の皆さんは、すっかり和宇慶さんのファンになってしまった様子。

「それほどまでに着る人のことを考えてくださっている和宇慶さんの作った反物でいつか着物を仕立てたい」

「和宇慶さんにお願いするならぜひ絵羽で」

という声も挙がりました。

和宇慶さんとの集合写真

最後はたくさんの草木に囲まれた工房の前で集合写真を撮影。和宇慶さん、素敵な時間をありがとうございました!

自分が身にまとう着物の誕生秘話を聞く

玉那覇有勝さん

和宇慶さんの工房を後にして、次に向かったのは沖縄県本島中部の読谷村にある『玉那覇紅型工房』

2022.10.31

まなぶ

玉那覇紅型工房(沖縄県那覇市・琉球紅型)「バイヤー野瀬の、きもの産地巡り」vol.1

ここで数名の職人さんたちとともに、創作活動に打ち込んでいる玉那覇有勝(たまなはゆうしょう)さんがお出迎えしてくれました。

有勝さんのお父様は、紅型の分野で最初の人間国宝に認定された玉那覇有公さん。有公さんが1962年に設立した玉那覇紅型工房を、昨年有勝さんが継承されました。

型附け

琉球紅型は染料ではなく、鉱物や土から得られる顔料を使った沖縄独自の染物。生地に重ねた型紙の上から糊を置き、防染しながら色付けしていく糊置防染手法をとります。

琉球王朝時代に誕生したと言われており、その鮮やかな色使いと、色を挿した文様の縁をなぞってぼかす(隈取)ことにより、まるで浮かび上がってくるかのような文様の立体感が人々を魅了してきました。

琉球紅型は顔料を使用する
有勝さんがデザインしたもの

こちらも首里織と同様、琉球王国が日本に組み込まれると徐々に衰退していくも、戦後に復興。そして紅型三宗家のひとつ、城間家の栄喜氏に従事した有公さんから息子の有勝さんへと、現代に受け継がれてきました。

有勝さんはお父様から注がれたデザインや一切妥協を許さないものづくりの精神を今でも大事にしていらっしゃいます。

玉那覇さんの工房で生まれた琉球紅型にはファンが多く、こちらのお客様もその一人。玉那覇紅型工房の作品をお召しになり、聖地とも言えるこの場所に戻ってまいりました

『玉那覇紅型工房』の着物で有勝さんと記念撮影

『玉那覇紅型工房』の着物で有勝さんと記念撮影

その記念に有勝さんとツーショットで撮影!

工房の職人さんたち

印象的だったのが、工房で働く職人さんたちがその着物を見て、

「これを作った時はあれが大変でね〜」

と当時の思い出を振り返っていたこと。お一人お一人が思い入れを持って作品づくりに挑んでいるため、どの着物や帯にもストーリーがあるのです。

これまでの作品のはぎれ

これまでの作品のはぎれ

通常はそうしたストーリーが着る人のもとに届くことはありません。今回のように現地を訪れて初めてわかることです。

他にもたくさんの作品をご披露いただくとともにそこに込められたストーリーを語っていただき、以前よりもさらに、この工房から生まれる琉球紅型に温かみを感じられるようになりました。

若き工房の職人さんたち

ちなみに、手前で色挿しをしている方が有勝さんの息子さん。こうして未来に玉那覇さん達の技術や色柄、そしてものづくりへの思いは受け継がれていくのでしょう。

後編では、この工房見学の続きからお届け。

『玉那覇紅型工房』の次は、首里織作家として活動されている段上育子さんの工房を訪れます。

構成・文/苫とり子
撮影/田里弐裸衣 @niraiphotostudio

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