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小寒:寒さがもっとも厳しくなる時期。寒の入り! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

小寒:寒さがもっとも厳しくなる時期。寒の入り! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

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「小寒」は寒さがもっとも厳しくなる時期です。新暦の正月を迎えると、まもなく「寒の入り」。年賀状を出し遅れたら「寒中見舞い」と してご挨拶することになります。「小寒」から15日後の「大寒」までが、寒さのピークとなります。「寒の入り」から節分までの約30日間は「寒の内」といわれ、厳寒期にあたります。

(1) 二十四節気とは

「二十四節気」とは、旧暦(太陰太陽暦)における太陽暦であり、2月4日の「立春」を起点に1年を24等分し約15日ごとの季節に分けたもので、いわゆる「暦の上では…」のもとになっているものです。
どこかで見聞きしているものの、いまひとつなじみがないというあなたにこそ知ってほしい「二十四節気」。

いにしえの知恵「二十四節気」に親しむことで、

□ 季節を感じる感覚が豊かになる
□ 着物コーディネートが上手になる
□ 着物を着る機会が増える

こんな素敵な毎日がはじまりますよ。
月2回アップするこちらの連載で「旧暦着物美人」をめざしてみませんか。

(2)「小寒(しょうかん)」とは

さて、今回訪れる二十三番目の節気は、小寒(しょうかん)。
「小寒」は寒さがもっとも厳しくなる時期です。
新暦の正月を迎えると、まもなく「寒の入り」。
年賀状を出し遅れたら「寒中見舞い」と してご挨拶することになります。
「小寒」から15日後の「大寒」までが、寒さのピークとなります。
「寒の入り」から節分までの約30日間は「寒の内」といわれ、厳寒期にあたります。

わらべうた(北原白秋採譜)の「おおさむこさむ」の歌詞に、

♪ おおさむ こさむ 山から小僧が泣いてきた
なんというて ないてきた さむいというて ないてきた ♪

とうたわれているように、一年で一番寒い時期に突入です。

しかし、この寒の時期の水には若さを保つ力があるといわれ、寒中に汲み上げた水を使って仕込むお酒が有名です。
ご近所に名水のある方は「寒のお水とり」などをしてみて一年の健康祈願をしてみてはいかがでしょうか。

また「門松は七日の風にあてるな」という言葉があるように、お正月飾りは6日までには外すのがならいとなっています。
ハレの日と日常を上手に切り替えるいにしえの知恵に従って、新暦新年をスムーズに軌道に乗せたいですね。

(3)「小寒」のアンティーク着物コーディネート

小寒のアンティーク着物コーディネート

◎ 着物…紋錦紗縮緬地 抹茶色に星とスポットライト文様 散歩着(袷)
◎ 帯…変り織繻子地 紅梅刺繍帯 
◎ 帯締め…縮緬地 桜刺繍 丸ぐけ
◎ 半襟…縮緬地 紅色に南天と松竹梅刺繍
◎ 帯揚げ…縮緬
◎ 履物…エナメル台 真紅に白二石鼻緒(現代物)
◎ 小物…アールデコ柄 切りビロードショール
◎ バッグ…ラビットバッグ(現代物 ジャマン・ピエッシェ)

年始は自然の色をなくした街に、着物姿が美しく映える季節。
重ね着の楽しさを満喫しましょう。

今回ご紹介するのは、「星とスポットライト」が描かれた「散歩着」です。

「散歩着」は、ちょっとした外出や観劇のために着るお洒落着として、大正時代の中流上級階級の女性の生活スタイルにあわせて生まれた着物のジャンルです。

未婚女性は振袖、既婚女性は留袖といった正装では仰々しい社交の場にふさわしい、軽めの着物として作られた「散歩着」は別名「プロムナード」とも呼ばれています。
生地は、当時流行していた手ごろな絹地・錦紗縮緬、裾にモダンな模様を配しているのが特徴で、関東よりも関西で多く手がけられていたようです。

「星とスポットライト」が描かれた、「散歩着」
スポットライトのなかに浮かびあがる丸印と星印

それにしてもこの斬新な柄!
ステンシルのようなタッチで染められたのは、スポットライトのなかに浮かびあがる丸印と星印。

時代をふりかえってみれば、1920年代から1930年代はソビエト(現ロシア)とアメリカでロケットの開発が進み、「宇宙旅行」が現実のものになるかもしれない…という話題で持ちきりだった時代です。
大正・昭和初期の日本はそんな大国の夢に憧れを抱き、着物という日本的な衣装に宇宙への憧れを表現したのかもしれません

また1920年代から30年代といえば、日本は映画花盛りの時代。
時代劇映画スターの新作を観にいくために誂えたと想像するのも、またおもしろいものです。

この着物の襟裏に使われているのは、なんと緋縮細。
普通は紅絹(もみ)の襟裏が多いことを考えると、たいそうお金持ちの方の誂え品だったことがうかがえます。

緋縮細の襟裏

さて、裾模様から引きで全体を見てみると、この着物は綺麗な抹茶色をしています。

この抹茶色を、正月飾りには欠かせない「竹」の緑に見立てました。
成長が早く、まっすぐに勢いよく伸びる竹は健やかな生命力の象徴。
竹の中にある空洞には清浄な「気」が宿るとされ、神事に用いられる特別な植物です。

ひと節ずつ区切りをつけて成長していくことから、「節目(ふしめ)」(=変化する箇所や時期)という言葉が生まれ、1年間、約15日間ごとに24回で変化していく季節を「二十四節気」と呼ぶようになったのも、実は竹の節が由来です。

(4) 「小寒」の小物合わせ 

正装に用いる「丸ぐけ」を合わせ、長寿の象徴「松」の葉のような変わり結びに

着物の裾模様のスポットライトの斜線を竹の節に見立て、凛と伸びる青竹のような着姿に。
帯締めは「松の内」らしく正装に用いる「丸ぐけ」を合わせ、常緑樹で長寿の象徴「松」の葉のような変わり結びにし、前帯のアクセントにしてみました。

「松」「竹」とくれば残りは「梅」。
帯と半襟に「紅梅」の刺繍を持ってきて、おめでたい「松竹梅」の完成です。

帯は、左側五分の一が白金色、残りが黒の繻子地で、モダンなダイヤ文様が織りだされています。
左側の白金の立線を竹に見立てて、金駒刺繍で「竹」を、ふっくらとした刺繍で「紅梅」を表現した意匠と手仕事はアンティークならではのもの。

帯結びは「柳」と呼ばれる結び方で、東京(江戸)の芸者衆だけが締める特殊な形です。
ことに年末の『事始め』やお正月の松の内期間中、あるいは催事、式典など紋付きの着用が求められる正装時に結ばれます。

風にそよぐ柳の中にこそある強さを着姿に込めて

かっちりと形を決めた「お太鼓結び」に対して、帯が揺れる「柳」は、後ろ姿にやわらかな風情をもたらしてくれます。
「柳に雪折れなし」
ということわざがあるように、風にそよぐ柳の中にこそある強さを着姿に込めて。

飛行機柄の煙草ケース

襟元にはさんだのは、飛行機柄の煙草ケースです。
飛行機がサーチライトを照らして飛ぶ様子を漆で描いた、和洋折衷のアールデコの逸品。
そのサーチライトの放射状の光が着物に届いている物語を作ってみました。

まだまだ煙管煙草が日用品だった時代、紙巻煙草は高級品で、上流階級か粋筋の女性に愛された嗜好品でした。

兎の毛皮のカクテルバックとアール・デコ柄の切りビロードのショールで、コーディネートにあたたかさを添えて。

兎の毛皮のカクテルバックバッグと、アール·デコ 柄の切りビロードのショール
まとう羽織は、大胆な鈴柄

最後にまとう羽織は、大胆な鈴柄。
初詣の神社の鈴の音が聞こえてきそうなひとそろえに。

鈴は大きな音を鳴らすことから、「良く鳴る(良くなる)」にかけた縁起物です。

裾模様がポイントの今回の散歩着ですが、無地の部分は手毬文様の地紋が織りだされているのが、光の加減でわかります。

羽織の鈴の丸さと、着物の地紋も丸でそろえて…「カドの絶たない円満な一年」を。

鈴は大きな音を鳴らすことから、「良く鳴る」にかけた縁起物です

(5)「小寒」のモチーフ

お正月に欠かせない「松竹梅」

鈴は大きな音を鳴らすことから、「良く鳴る(良くなる)」にかけた縁起物です。

裾模様がポイントの今回の散歩着ですが、無地の部分は手毬文様の地紋が織りだされているのが、光の加減でわかります。

羽織の鈴の丸さと、着物の地紋も丸でそろえて…「カドの絶たない円満な一年」を。

「松」は常に緑を保ち神が宿る木で生命力をあらわし、
「竹」はまっすぐ伸びることから「成功運」をもたらすもの、
「梅」は花の美しさと香りのよさ、そして実を結ぶ「産め」に通じる

縁起の良さがあるといわれています。

おめでた柄のモチーフ

財宝と幸せをもたらすといわれる「宝船」、その宝船に積み上げられた「宝尽くし」、幸せを捉える「網目」、正月二日にその年を占うといわれる「初夢」、魔を破り心身堅固としてくれる「破魔矢」、正月の街を明るく盛り上げる「獅子舞」…

子どもの正月遊びの「凧」「独楽」「カルタ」、「双六」遊びに欠かせない「さいころ」も楽しいモチーフです。

子どもの正月遊びのモチーフ

かつて正月の御膳の箸に使われ、現在でも祝いの赤飯に必ず添えられる「南天」は「難を転じる」という縁起を担いだ吉祥柄です。
そうそう、年の初めには「干支」のモチーフも大活躍しますね。
2021年の干支「丑」を上手に着物に取り入れてみてはいかがでしょうか。
「小寒」は、新しい年の訪れを寿ぐモチーフで、着物のコーディネートをお楽しみください。

着物に親しむことで、身の回りにある植物や花、などを自然と再発見できるのも、装いの恩恵のひとつです。
自然や季節との調和した着物姿は、着る人をより美しく見せてくれることでしょう。

(6)「小寒」の着物スタイルをイメージする

巡りくる節気にちなんだ色・モチーフを取り入れた着物を着る

一年のはじまりである元日は「元旦」。
「元」は「初め」という意味、「旦」は「水平線・地平線から太陽が昇る日の出」を意味する漢字です。

旧暦に基づいた本来の初詣は、月の出ない闇夜の大晦日を寝ずに夜明かし(年越しそば・除夜の鐘)、その年初めて昇る太陽・日の出(ご来光)を、晴れ着という正装で拝むという習わしでした。

そんな新年にふさわしいのは、引き締まった黒やおめでたい金や赤などの色です。
またかつては大晦日までに、半襟・下着・足袋など直接身に付けるものを新たに用意し、着物や帯の新調は難しくても帯揚げ・帯締めの一本は新調し、気持ちを新たにする習慣があったそうです。

巡りくる節気にちなんだ色・モチーフを取り入れた着物を着ることは、一年一年の節目を実感する良い機会になります。
年始の晴れやかな雰囲気は着物に袖を通す気持ちを呼び起こしてくれるハレの時期です。
一年のはじまりに袖を通す機会を増やす計画を立ててみるのも、着物に親しむ近道です。

この冬をどんな着物スタイルで楽しみたいか、心に思い浮かべるイメージをカレンダーや手帳にメモしてみましょう。
無地や縞・格子の着物に節気のモチーフをひとつ取り入れるだけで、自然と調和した素敵なコーディネートになりますよ。

一年で二十四回、二週間ごとに着物に親しむ、あなただけの「二十四節気の着物スタイル」をお楽しみください。

次回は1月20日に訪れる「大寒」についてお話しします。前日19日の公開を楽しみにお待ちくださいね!

『旧暦で楽しむ着物スタイル』河出書房新社
 
※写真はさとうめぐみ著『旧暦で楽しむ着物スタイル』(河出書房新社)より。

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