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春分:昼と夜の長さがほぼ同じになる日・太陽が真東から昇り真西に沈む日! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

春分:昼と夜の長さがほぼ同じになる日・太陽が真東から昇り真西に沈む日! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

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「春はあけぼの やうやう 白くなりゆく」と清少納言の『枕草子』に記された春。淡い白が混ざったようなパステルカラーが似合うこの季節は、やわらかい染めの着物や、自然の色を写し取った草木染の紬などがぴたりと決まります。「暑さ寒さも彼岸まで」着物のお洒落が楽しくなる季節です。

(1) 二十四節気とは

「二十四節気」とは、旧暦(太陰太陽暦)における太陽暦であり、2月4日の「立春」を起点に1年を24等分し約15日ごとの季節に分けたもので、いわゆる「暦の上では…」のもとになっているものです。

どこかで見聞きしているものの、いまひとつなじみがないというあなたにこそ知ってほしい「二十四節気」。

いにしえの知恵「二十四節気」に親しむことで、

□ 季節を感じる感覚が豊かになる
□ 着物コーディネートが上手になる
□ 着物を着る機会が増える

こんなステキな毎日がはじまりますよ。

月2回アップするこちらの連載で「旧暦着物美人」をめざしてみませんか。

(2)「春分(しゅんぶん)」とは

さて、今回訪れる節気は、二十四節気の四番目、春分(しゅんぶん)。
「昼と夜の長さがほぼ同じになる日、太陽が真東から昇り真西に沈む日」という意味です。

菜の花や 月は東に 日は西に

という与謝蕪村の俳句は、まさに昼と夜の長さが同じになるこの頃を詠んだものとして知られています。

この「春分」を境に、6月21日の「夏至」に向けて、少しずつ昼間の時間が長くなっていきます。
太陽信仰を取り入れている国々にとって、この「春分」はスタートをつかさどる特別な日ですね。

「太陽」がキーワードになる「春分」の コーディネートは、春を代表する花「桜」と、太陽を横切る「蝶」を染めたアンティーク帯を中心に組み立ててみました。

(3)「春分」のアンティーク着物コーディネート

春分のアンティーク着物コーディネート

◎ 着物…錦紗縮緬地 薄空け物色に流水に枝垂れ桜文様 小紋(袷)
◎ 帯…平絹地 太陽・雲に蝶・アール・デコ文様 腹合わせ帯
◎ 半襟…縮緬地 色変わり市松文様にしけ引き刺繍半襟
◎ 帯揚げ…縮緬地 空色 
◎ 履物…白木台 ストライフ文様鼻緒(ミナ・ペルフォネン)

この帯はもともと、骨董市で買った帯の”裏地”でした 。

表地がどんな模様をしていたかはもう記憶にありませんが、裏地の、大胆なアール・デコの柄に一目惚れし、糸切りばさみを手に、縫い目を解いて生地を自分で洗い、帯の仕立て専門のお店に頼んで仕立て直してもらった、思い入れのある一本です。

ひっそりと雛祭りを楽しむことにしたいと考えたのがこのコーディネート。
この帯はもともと骨董市で買った帯の゛裏地"でした 。

春分の日の前後3日間すなわち合計7日間は、仏教で「春の彼岸(春彼岸)」といい、先祖のお墓参りをする習慣があります。

仏教では、あの世は西に、この世は東にあるとされています。
太陽が真東から昇って真西に沈む春分の日と秋分の日は、あの世とこの世が最も通じやすい日と考えられ、春と秋の彼岸にお墓参りをするようになりました。

「蝶」は、仏教では極楽浄土に魂を運んでくれる神聖な生き物。
サナギから脱皮して美しい翅(はね)をもつ蝶が飛び立つことから、死後、からだから抜け出した魂を極楽浄土に運んでくれる存在として昔から神聖視され、輪廻転生の象徴とされてきました。
そんないわれにちなんだ帯合わせです。

薄曙色にアール·ヌーヴォー調の小紋

着物は、薄曙色(うすあけぼのいろ)にアール・ヌーヴォー調のしだれ桜と流水の柄を染めた小紋。

初めて京都に一人旅をしたときに、レンタサイクルを漕いでアンティーク着物屋巡りをし、琵琶湖疎水やインクライン、白川の川辺にほころびかけた桜を眺めながら白川通りを北上。
南にある「京都駅」と北にある叡山電鉄「出町柳駅」では、標高差が京都タワー(131m)と同じくらいあるなど知りもせず、ゆるゆるとした上り坂を必死に漕いでたどり着いたアンティーク着物屋さんで求めた一枚です。

着物に描かれた、白の直線の途中でカーブを見せる青いライン。
一体何を意味しているのか分からず頭の中に「?」が点灯したものの、ふと、つい今しがた見てきた琵琶湖疎水やインクライン、そして白川に散りかかる桜の景色が思い浮かび、日本の伝統文様である「流水」をアール・デコの発想で描いたものではないか…とパッとひらめきました。
「着物なのに、こんな変わったデザインがあるんだ!」と大感激したことは、今でも鮮明に覚えています。

「アール・デコ」は、植物をやわらかな曲線で描いた世紀末の「アール・ヌーヴォー」芸術に対抗して1920年代に生まれた芸術で、「直線と幾何学的な造形で美を表現する」特徴を持った芸術思潮です。
海外の美術史では、アール・ヌーヴォーとアール・デコの時代はきっちりと分けられていますが、日本では双方の流行が船便によってもたらされたため、それぞれの特徴が融合して伝えられることになりました。

なかでも手軽に楽しめる芸術品である着物や帯には、いち早く時代の流行が取り入れられたため、アール・ヌーヴォー とアール・デコが同居しているものが多々あります。
この特徴は世界でも他に類を見ないもので、日本の着物ならではの芸術性といってよいものなのです。

一枚の着物、一本の帯でふたつの芸術の潮流を楽しむことができる幸せ…
それが、大正・昭和初期のアンティーク着物のすばらしさなのです。

またこの着物は、仕立てもアンティーク着物ならではのひとあじ違ったものになっていました。
それは…袖の前側が縫い綴じられていない、ひらひらとした仕立てになっていることです。

指先でその部分を丁寧につまんで首をかしげていると、お店の方が、「それは子どもの着物なのよ。子どもは体温が高いから、昔は袖を閉じないで風通しを良くする仕立てにしていたのよ」と、とても丁寧に教えてくださいました。

後で調べてみるとそれは「広袖」仕立てといい、平安時代の装束から、子どもの着物・長襦袢・夜着などに用いられた仕立てのことでした。
昔ながらの着物のありかたや風俗を伝えてくれるアンティーク着物…本当に奥が深いです。

「広袖」仕立ての小紋

(4)「春分」の小物合わせ

コーディネートのコツは、着物の中の一色と帯の中の一色を合わせること。

こんなにも個性的な「柄もの」同士のコーディネートをうまくまとめるコツは、着物の中の一色と、帯の中の一色を合わせること。

青い縮緬の帯揚げを花のような変わり結びに。

今回は、どちらにもアクセントとして使われている鮮やかな「青」をポイントにまとめてみました。

青い縮緬の帯揚げを、花のような変わり結びに。

半襟も、鮮やかな青に、青と紫のグラデーションの市松文様を選び、直線の芸術とも呼ばれるアール・デコの雰囲気にしてみました。
刺繍に施されたシケ引きのような繊細な刺繍は、春の霞から漏れる陽光のようです。

半襟もアール·デコの雰囲気にあわせてみました。
シルクジョーゼットに丸文様とギザギザを刺繍した羽織

「紅葉とともに着、桜とともに脱ぐ」といわれる羽織を脱いだら、ショー ルの季節です。

シルクジョーゼットに、丸文様とギザギザを刺繍したアール・デコ文様を太陽に見立てて。
帯が傷むことや埃除けのため、アンティーク着物の時代には、こうしたショールがよく用いられました。
これも、当時の日本が誇った養蚕技術の賜物。質の良い細い生糸でこそ出せる繊細さと言って良いでしょう。

バッグは、着物が本来は少女用のものだったことから、ロシアの民芸品「マトリョーシカ人形」の形を模したビーズ刺繍バッグを合わせて遊び心を演出。

大きな木製の人形の中から、次々小さな人形があらわれる「マトリョーシカ人形」。
その原型は、箱根のお土産品であった入れ子式の七福神だったとか。
正式なマトリョーシカ人形は大小合わせ7体といわれるもの、七福神に由来しているからだそうです。
素朴な木彫りに、手描きの絵付け…
どこか日本の「こけし」に似た風貌で、着物にも不思議にマッチします。

「マトリョーシカ人形」のビーズ刺繍バッグを合わせて遊び心を。
白と青のストライプの鼻緒の下駄

履物は、春の日の夕暮れ、下駄を飛ばして明日のお天気占いをする子どものイメージです。
白木に白と青のくっきりしたストライプの鼻緒を挿げた、軽やかな下駄を選んでみました。
銘仙など、アンティーク着物から着想を得て新たなデザインを生み出すデザイナー・皆川明さんのブランド『ミナ・ペルホネン』の小物は、アンティーク着物との相性も抜群です。

「ペルホネン」はフィンランド語で「蝶」。
帯に染められた蝶文様と履物で「蝶」をそろえて、コーディネートの完成です。

(5)「春分」のモチーフ

2月3日の「立春」からはじまった「春」。
それがまっさかりとなるのがこの「春分」です。

桜前線の話題が出始めたら「桜」モチーフの出番です。

桜前線の話題が出はじめたら「桜」のモチーフの出番です。
まずは、「蕾(つぼみ)」の柄、満開の「染井吉野(ソメイヨシノ)」。
それから、風流な「枝垂れ桜」、「夜桜」に「篝火(かがりび)」。
やがて、「散りゆく桜」、「花びらのみの桜」。

縦長の日本では、春分前に咲く沖縄から北海道の桜が散る5月中旬まで、存分に楽しむことができます。
お住まいの地域の桜の季節が過ぎたら、帯や帯揚げ・小物などに桜をあしらった「名残りの桜」と、桜の季節を満喫しましょう。

見上げる桜の足元にも、春の息吹がそこここに。

身の回りにある植物や花、などを自然と再発見できるのも、装いの恩恵のひとつ

「蒲公英(たんぽぽ)」は、その昔、春の野で子どもたちが「鼓」の形を作って、鼓を打つ真似遊びをしたことからつけられた名前だとか。
黄色と緑色の心弾むコントラストが、着物に映えるモチーフです。

同じく春の野に目を出すものといえば「蕨(わらび)」。
くるりと頭を巻き込んだ形がユニークな蕨は、のし袋のデザインに「蕨熨斗」として用いられるなど、ささやかなお祝いの気持ちをあらわす文様です。

歌舞伎などでは、田舎家の暖簾にあしらわれるこの文様。
鄙びた(ひなびた)中に、春ののどかさを感じさせてくれます。
同じく山菜として数えられる「筍(たけのこ)」は、成長が早く一旬(いちじゅん・十日間の意)」で竹になってしまうため、愛らしいその形をモチーフに取り入れるなら…まさにこの時期です!

田舎といえば、太田道灌(おおたどうかん)の伝説で知られる、

七重八重 花は咲けども 山吹の 実の(蓑)ひとつだに なきぞ悲しき

の和歌に読み込まれた「山吹」の、目に鮮やかな黄色も春の風景のひとつです。

地味ながら、花の丸紋などに用いられるとハッとする美しさを発揮する「春蘭」。
枯れた木に突如咲き、香気を漂わせる「木蓮」は洋名「マグノリア」。作家ものの着物などにみつけることができます。
そして「菜の花」や「蝶」も、三月中に身につけておきたい春のモチーフです。

着物に親しむことで、身の回りにある伝統文化・植物や花、などを自然と再発見できるのも、装いの恩恵のひとつ。
自然や季節との調和した着物姿は、着る人をより美しく見せてくれることでしょう。

「蝶」なども三月中に身につけておきたい春のモチーフです。

(6)「春分」の着物スタイルをイメージする

心に思い浮かべるイメージをカレンダーや手帳にメモしてみましょう

「春はあけぼの やうやう 白くなりゆく」と清少納言の『枕草子』に記された春。

曙(あけぼの)は夜が明けはじめ、空が明るくなりはじめる頃のこと。
曙は「夜が明ける」と「ほのぼのと明ける」という言葉が組み合わさってできた言葉です。どこか、淡い白が混ざったようなパステルカラーが似合うこの季節は、やわらかい染めの着物や、自然の色を写し取ったような草木染の紬などがぴたりと決まります。

「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉があるように、着物のお洒落が楽しくなる季節です。

「春分」から「立夏」まで残り45日間の春は、どんな着物スタイルで楽しみたいか心に思い浮かべるイメージをカレンダーや手帳にメモしてみましょう。
無地や縞・格子の着物に節気のモチーフをひとつ取り入れるだけで、自然と調和した素敵なコーディネートになりますよ。

一年で二十四回、二週間ごとに着物に親しむ、あなただけの「二十四節気の着物スタイル」をお楽しみください。

次回は4月4日に訪れる「清明」についてお話しします。
前日3日の公開を楽しみにお待ちくださいね!

『旧暦で楽しむ着物スタイル』河出書房新社
 

※写真はさとうめぐみ著『旧暦で楽しむ着物スタイル』(河出書房新社)より。

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