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“粋”な手ぬぐいの流儀とは。 落語家 三代目柳亭小痴楽さんの愛用品

“粋”な手ぬぐいの流儀とは。 落語家 三代目柳亭小痴楽さんの愛用品

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インタビューでは、呉服屋に殴り込みへ行くエピソードや初めての着物での失敗談、噺家の粋な着物のお話など披露して下さった三代目柳亭小痴楽さん。今回は、小痴楽さんの愛用品や、思い入れのある品々をご紹介いただきます。

着物の仕立ては、いつでも誰にもあげられるように

柳亭小痴楽””落語家””男着物

若手真打ちの中でも着物好きと知られる三代目柳亭小痴楽さん。前後編のインタビューでは、楽しい着物話をたくさん聞かせてくださいました。

こちらでは、実際に高座で使用しているものや思い入れのある品々について、着物は端切れをお持ちいただいてひとつひとつお話を伺いました。

絹芭蕉

”柳亭小痴楽””落語家””絹芭蕉”

「着物で思い入れがあるものは端切れで持ってきました。どれも自分で作ったときのものです。

これは初めての絹芭蕉だったので、取ってあります。なるべくどこのものだったのか覚えておきたいので、好きなものは取っておいてますね。これは一昨年か、一昨昨年に作ったのかな。お気に入りです。

あと、自分の中で寸法はあんまり狂うことはそこまでないんだけども、人にあげたりするときに、端切れがあると、足せるよ、っていう。
僕、小さいんで、大きい人にあげにくいので。

一番かっこよく仕立てるには、ぴっちり余りなく縫うのがいいんですけど。でもちょっと寸法変わっちゃったら、着られない。そうなったら直さなきゃいけない。
自分の着物はけっこうお金かけて、いいのを着てるつもりでいるので。自分が着なくなって、捨てるのはもったいないから、誰にでもあげられるように、わざとちょっと足して、内側に縫ってもらってるんですよ。

それで、ほどいて縫い直せば、身幅と丈の寸法違う人でも着られるようになる。そういう風に縫って、いつでも誰にでもあげられるように、って。さらに大きい人には、端切れをあげれば、だいたい着られるよね、っていう。あらゆるときのことを考えて仕立てをしています」

白地に縞の小千谷紬

”柳亭小痴楽””落語家””小千谷紬”

「これは、例の(インタビュー前編参照)初めての小千谷紬です。僕の中では派手なほうですね。作ったときはまだ前座だったので、羽織のことをまったく考えていなくて。前座は着流しで羽織を着ないから、羽織の概念がなかったんです。
これ作ったはいいけど、上(羽織)、考えるの面倒せえなぁ、っていう着物がけっこうありますね…(笑)。

こういう着物に黒の羽織を合わせればいいのかもしれないけど、あんまり黒を使うっていうのを洋服でもしないので、滅多にやらない。黒でもおかしいことはないんだけど。
歌丸師匠はこういうのに黒の羽織ってよくやっていたんですけどね。僕は、とりあえず黒のっけとくっていうのはしないかな」

羅の羽織

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落語家は夏でも羽織を羽織る。夏の羽織は贅沢なもの。

「ほんとに、夏の羽織なんてそうですよね。それこそ昔だったら、夏で羽織着てるっていったら、だいたい大店の旦那とかですね。番頭レベルは多分羽織んないですね。でも噺家は羽織るもんだって決まってるから、そこに贅沢という感覚はないかもしれないですね。

これは羅っていう織物で、買ってないんですよ。2、3年前だったかなぁ。呉服屋に、「羅が欲しい」ってお願いして。そしたら、何枚か用意してくれたんです。ただ、機械織りの羅なんですよ。なので、手縫いの羅よりも多少安い。それでよければ、って。

いま、羅を織ってるところが少なくて、残ってるところはかなり高級だっていうんで、手に入らない。機械織りだったらなんとか手に入る、と。僕、それでもいいです、って返事して。そしたら、「呉服屋で落語会やってほしい」っていうときに、ギャラを聞かれたんです。

「だったら、着物一枚作ってくださいよ!」って言ってみたら、「じゃあ羅でいいですか?」って。「え? いいの!?」って(笑)。だから、落語会の出演料で作ってもらったものです」

”柳亭小痴楽””落語家””羅”

「呉服屋さんの落語会ってたまにあるんですけど、楽しいんですよね。呉服屋さんも呉服屋さんのお客さんを呼ぶじゃないですか。イコール、みんな着物が好きな人だからね。だから、演っててすごく楽しいんですよ」

麻の半襟と紬の襦袢

ブルーグレーの半襟に、淡い水色に縞の襦袢。

「今日の半襟は麻ですね。襦袢は紬で、これはこの間作ったもの。夏物で柄あるやつって少なくて。なんかないかなっていうときに、縞だったら出せる、と。これと、麻の黄色のギンガムチェックみたいなものがあるって。化繊だったら、けっこういろんな柄があったりするんですけど、絹物で縞の襦袢はなかったので、ちょうどいいやって作りましたね。かなり気に入っててよく着てます」

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扇子

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「扇子は、僕は自分のを使いますね。赤唐木のものも、白い竹のものも、自分が真打になったときに作ったやつです。真打になったときに扇子を作るので。
職人さんも、すごいこだわってやってくれて。あっちは黒字にならないんじゃないかってくらい値段も抑えてくれたんですよ。すごくいい竹を使って、紙もいいものを使ってくれて。白の竹も、いまは中国産を使ったりするんですけど、国産のやつを使ってくれて。すっごい使いやすくて、思い入れありますね」

畳地の雪駄

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「親父のもあるけど、いつも僕は、雪駄も下駄も花川戸の問屋さんで買ってます。これも自分で組んでます。
雪駄は、畳が好きで。あと、紐は、僕は小さいから、細めがいいな。で、色に関しては、何足も持ってるものではないので、だいたい着物の邪魔にならないやつ、というのが基準。なんでも合いそうなやつにする、っていうぐらいかな。こだわりは、鼻緒は細くて、畳がいい、っていうぐらいですね」

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手ぬぐい

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「手ぬぐいっていうのは、暗黙の了解で、自分のは使わないんですよ。粋かどうか、そういう意味での暗黙で、仲間うちのを使う、人のものを使う。自分でデザインするんで、自分のを使いたくなるときもあるんですけど、基本的には自分のは使わない。自分で自分のを使うのは野暮だ、っていうのがある。

二つ目昇進すると、自分の手ぬぐいを作れるんです。僕は、前の師匠、文治師匠の真似をしてるんですけど、二ツ目から新しい手ぬぐいをもらったら、 たとう紙から出して、広げて。人によって畳み方が違うんですけど、自分のサイズに畳んで、もらったときにそれを使う、というのがあります。お祝いの意味も込めて、枕で触れる人もいれば、触れなくても、高座でずっと使う、っていう。

そういうルールなんですよね。これは勧之助兄さんという、柳家勧之助師匠のものです。色がおしゃれなんですよね。またこれ、お金かかってるな〜(笑)」

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「高座に上がるときにお腹に入れてるのが、この3つの手ぬぐい。これ(左上)が四代目痴楽、うちの親父の師匠のですね。これ(真ん中)がうちの親父の手ぬぐい。で、これがうちの師匠の、楽輔の手ぬぐい」

「これを3セット、お腹に入れます。気持ち的には文治師匠も入れたいんですけど、もう弟子じゃないからね。ほかにも弟子がいて、僕が入っていい場所じゃないのでそれはしないけども、この人たちのおかげでいま、落語ができているので、いつも腹に入れてます」

”柳亭小痴楽””落語家””男着物”
柳亭小痴楽の手ぬぐい

「で、これが自分の手ぬぐいです。自分のは、だいたい裏で汗拭いたりするのに使うぐらいで。今日は持って来ましたけど、あんまり持ち歩かないです」

「真打上がったときに柄を変えて、これは菖蒲です。菖蒲にしたのは、僕は菖蒲の柄が好きなのと、昔、武士が勝負事の戦いく途中に菖蒲をつけてた、っていう話があったので。戦闘する感じがいいな、というので菖蒲を。

できればこの「三代 柳亭」、抜きたかったんですけどね(笑)。っていうのは、柳亭の紋が入って、小痴楽、のほうがわかりやすくていいじゃない、四代目柳亭痴楽の手ぬぐいみたいに。
ただこれは、紋を入れてないから、「三代 柳亭」入れたんですけど。出来上がってから、「これじゃなかったな、名前だけでよかったなぁ」って。この型がダメになったら、直そうと思ってます」

博多献上の帯

博多献上の帯

「帯は基本、浅草の帯源っていう帯屋さんのしか使わないですね。一応、博多献上なんですけど、鬼献上っていって、寸法がちょっと細くて。中に芯が入ってて、締め心地がいい。

噺家は帯源率が高いですね。鬼献上は、素人があんまり買わないので帯源さんのホームページにも、「鬼献上をご所望の方は店頭へ」みたいなことを書いて載せてないんですよね。
さっき歩いてて見かけた、木馬亭から出てきた着流しのスラーってしたおじちゃんが、鬼献上つけてたので、「ああ、これは地元浅草の人だな」って思いました」

取材協力:浅草演芸ホール

「一回、同級生の女の子たちが集まって、浅草で浴衣着て遊びたい、「案内してよ」っていうから、「いいよ!」と。出番終わって、「あんたも着物で来てね。揃いなんだから」「わかった」って言って。
ホッピー通りでみんなで飲んでたら、おじちゃんおばちゃんから、「お兄ちゃん、女の子5、6人はべらして、景気いいじゃねぇか!」って。
「ああ、どうも!」ってやってると、「ところでお前、いい帯締めてんじゃねぇか!」って言われて。帯源の鬼献上、締めてるから。
「私、噺家なんです」「ああ、だから、帯源な! 出してやるから!」って、全部、勘定出してもらったことがある。それで、「ああ、浅草好きだなぁ〜」と思って。

その代わり、知らないおじさんに「千円ちょうだい!」って言われたこともあるけど(笑)。「兄ちゃんたち楽しそうだね! 千円ばかり会計が足りないんだ!」つってね! それが一回ありますよ! でも、そういうところ、すっごい好き。浅草のそういうところが落ち着くんですよ。みんなバカっていうのがね(笑)」

取材協力:浅草演芸ホール
(取材協力:浅草演芸ホール)

企画・構成/渋谷チカ
撮影/五十川満

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