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大暑:真夏こそ原色の着物を楽しもう! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

大暑:真夏こそ原色の着物を楽しもう! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

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明日訪れる十二番目の節気は「大暑」「本格的な夏が到来し、暑さが最も厳しくなる時期」という意味です。 新暦では6月が一年の折り返し地点となりますが、旧暦では2月の「立春」から一年がはじまるため、この「大暑」が折り返し地点となります。 ちょうど新暦のお盆が終わったころに訪れる大暑は、お中元シーズンでもあります。

(1) 二十四節気とは

「二十四節気」とは、旧暦(太陰太陽暦)における太陽暦であり、2月4日の「立春」を起点に1年を24等分し約15日ごとの季節に分けたもので、いわゆる「暦の上では…」のもとになっているものです。

どこかで見聞きしているものの、いまひとつなじみがないというあなたにこそ知ってほしい「二十四節気」。
いにしえの知恵「二十四節気」に親しむことで、

□ 季節を感じる感覚が豊かになる
□ 着物コーディネートが上手になる
□ 着物を着る機会が増える

こんな素敵な毎日がはじまりますよ。
月2回アップするこちらの連載で「旧暦着物美人」をめざしてみませんか。

(2)「大暑(たいしょ)」とは

さて、明日訪れる十二番目の節気は、

「大暑」

「本格的な夏が到来し、暑さが最も厳しくなる時期」という意味です。
新暦では6月が一年の折り返し地点となりますが、旧暦では2月の「立春」から一年がはじまるため、この「大暑」が折り返し地点となります。

ちょうど新暦のお盆が終わったころに訪れる大暑は、お中元シーズンでもあります。

これは道教の思想から来ているもので、

上元…一月十五日は人々に福を与える日
中元…七月十五日は人々の罪を赦す日
下元…十月十五日は災厄を除く

という三元思想によるものです。

そのため中元の時期には、半年間お世話になった人たちにお礼を兼ね、知らないうちに何か悪いこと・失礼なことをしてしまっていたかもしれない…という罪滅ぼしのおみやげを持っていくので、訪問着やおでかけ着を着ていく、という訪問文化がありました。

そんな風習を今に繋ぐように、

「水に流す」
「久しぶりに会う人との会話のきっかけになる着物」

をテーマにアンティーク着物をコーディネートしてみました。

(3)「大暑」のアンティーク着物コーディネート

大暑のアンティーク着物コーディネート

◎ 着物…ジョーゼット地 赤・黄・青の観世水文様
◎ 帯…水玉と赤蜻蛉文様 絽 名古屋帯
◎ 帯留…ガラス製千鳥図 
◎ 半襟…麻地絽 金魚に水草文様刺繍半襟
◎ 履物…塗下駄・絽縮緬鼻緒 爪掛け
◎ 小物…紙入れ・蜻蛉文様

夏に映える色といえば「原色」。
アンティーク着物の夏物にも原色を大胆に使ったものが多く見られます。

この着物もその一枚で、赤・黄・青の三原色が目に飛び込んでくる奇抜な意匠です。

色相環で正反対に位置する関係の色の組み合わせのことを「補色」と呼びますが、
この薄物の三色はまさにトライアングルの関係性。

大きな水玉に赤蜻蛉の半巾帯

しかもその色で描かれているのは、古典柄中の古典柄「観世水(かんぜみず・かんぜすい)」。

この大胆さがアンティーク着物の面白さです。

観世水文様とは…
将軍・足利義満が能楽の観世大夫に与えた西陣の屋敷には名水の誉れ高い井戸があり、持ち主の名にちなんで観世井(かんぜい)と名付けられました。
その井戸にできる渦(うず)を意匠化したものが「観世水」です。

常に新しく変わりながら姿をとどめている水の姿に、人間の理想の姿を重ね合わせ、また災厄をよけ、けがれを洗い流すとされる吉祥文様・観世水。
この夏にぴったりな文様です。

観世水のぐるぐるとした渦巻からの着想で、帯には蜻蛉柄を配してみたくなりました。
大きな水玉のなかを飛ぶ赤蜻蛉が着物の赤とぴったり合って、原色ながら涼しげにまとまりました。

(4) 「ジョーゼット」という絹織物 

この着物は「薄物」といわれる夏着物で、まさに向こうが透けて見えるほど薄い「ジョーゼット」という生地でできています。

「ジョーゼット」の正式名称は「ジョーゼット・クレープ」、または「クレープ・ジョーゼット」といいます。
クレープとはシボのある織物のことです。

「ジョーゼット」の生地というとドレスの素材を思い浮かべますが、経・緯糸に強撚糸を2本ずつ交互に使用した平織の生地は、日本の縮緬とほぼ同じ織り方です。
業界でいう薄地のちりめん生地に似た織物です。

「ジョーゼット」の名称の由来は、フランスの婦人服商、ジョーゼット夫人の名からとか。
ナイロンが発明される以前のフランスでは、ガーターストッキング用にデニール数の少ない
上等な絹糸が求められており、日本の絹糸がもてはやされていました。

そんな細く丈夫な絹糸だからこそ可能になったのが、「ジョーゼット」生地。
ジョーゼットの着物は、フランスと日本が織り成す文化と技術のコラボレーションの結晶なのです。

(5)「大暑」の帯結びと小物あわせ

赤蜻蛉を追う童心をテーマにしたコーディネートの帯結びは、名古屋帯ですが、半幅帯の「一文字」のような変わり結びにして遊び心を。

赤蜻蛉つながりで、蜻蛉柄の「紙入れ」を胸元にあしらって、小紋をお出かけ着風に上品に。

蜻蛉は前にしか進まないことから「不退転の勇姿」。
武家のあいだでは「勝虫」と尊ばれてきた益虫です。

帯と合わせた赤蜻蛉の紙入れ

骨董市で求めたこの紙入れ、桐箱には現存する京都・四条の小間物屋「井澤屋」の印がありました。

紙入れとはいわば「ポケットティッシュケース」のようなもの。
「ちり紙」を持ち歩くための入れ物です。

こんなちょっとした小物にまで、切り嵌め(パッチワーク)と刺繍をほどこすお洒落心、昔の女性のこだわりに驚きます。

観世水から覗く金魚の半襟

半襟は、水にちなんで金魚の刺繍を施した麻絽に。
金魚は「尾ひれがつく」縁起物としても知られています。

水辺には鳥がつきものと、帯留にはガラス細工の千鳥を。

ガラスの細工の千鳥帯留め
刺繍であしらわれた千鳥の帯揚げ

たっぷり見せた帯揚げにも小さな刺繍の千鳥が飛んでいます。

履物は小判型の真紅の二枚歯に絽縮緬の鼻緒をすげた、女らしい一足。

雨除けの爪皮をかけた後丸の下駄

雨が降りそうな日は、後丸の下駄に履き替えて、雨除けの爪皮をかけて雨の日の外出も楽しく…
赤蜻蛉を見つけたら駆け出しそうな童心を秘めたアンティーク着物コーディネートに
仕上げました。

暑さが盛りになる大暑の時期は、こんなふうな個性的なモチーフが素敵にうつります。

流水・金魚・団扇・扇・蜘蛛の巣・夕顔・月下美人・ダリヤ・鷺草・合歓(ねむ)・薊(あざみ)・鰻・蛇籠・蝉・月下美人など…

季節のモチーフを取り入れて「大暑」のお洒落を楽しんでみてはいかがでしょうか。

(6)「大暑」の着物スタイルをイメージする

着ている側は暑い一方の和装ですが、涼しげな顔できりりとまとっていれば、「涼しげですね」との言葉をかけてもらえる着物姿。

とくに、透ける着物は目にも涼やかにうつります。

自分も涼しく・見てくださる方にも涼感を…
そんな気持ちで「大暑」にどんな着物スタイルを楽しみたいか、心に思い浮かべるイメージをカレンダーや手帳にメモしてみましょう。

無地や縞・格子の着物に節気のモチーフをひとつ取り入れるだけで、自然と調和した素敵なコーディネートになりますよ。
一年で二十四回、二週間ごとに着物に親しむ、あなただけの「二十四節気の着物スタイル」のはじまりです!

次回は8月7日に訪れる「立秋」についてお話しします。
前日6日の配信を楽しみにお待ちくださいね!

『旧暦で楽しむ着物スタイル』河出書房新社
 
※写真はさとうめぐみ著『旧暦で楽しむ着物スタイル』(河出書房新社)より。

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