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清明:世界が清く朗らかに見え…さまざまな花が咲く時期! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

清明:世界が清く朗らかに見え…さまざまな花が咲く時期! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

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さて、今回訪れる節気は、二十四節気の五番目清明(せいめい)。 新暦も四月に入ると、ソメイヨシノはもう見納め、八重桜の季節です。そこで「清明」の時期には、錦紗縮緬に八重桜を描き、刺繍が施されたアンティーク着物中心のコーディネー トにしてみました。 着物の地色は「桜鼠(さくらねず)」と呼ばれる落ち着いた雰囲気の色です。

(1) 二十四節気とは

「二十四節気」とは、旧暦(太陰太陽暦)における太陽暦であり、2月4日の「立春」を起点に1年を24等分し約15日ごとの季節に分けたもので、いわゆる「暦の上では…」のもとになっているものです。

どこかで見聞きしているものの、いまひとつなじみがないというあなたにこそ知ってほしい「二十四節気」。

いにしえの知恵「二十四節気」に親しむことで、

□ 季節を感じる感覚が豊かになる
□ 着物コーディネートが上手になる
□ 着物を着る機会が増える

こんなステキな毎日がはじまりますよ。
月2回アップするこちらの連載で「旧暦着物美人」をめざしてみませんか。

(2)「清明(せいめい)」とは

さて、今回訪れる節気は、二十四節気の五番目「清明(せいめい)」。
「世界が清く朗らかに見える」という意味で、さまざまな花が咲く時期です。

お隣りの中国では、この「清明」をはさんだ三日間は連休、沖縄でも清明祭(しーみーさい)という行事が行われる特別な節気です。

さまざまな花が咲き春爛漫のこの時期は、新年度のスタートを実感する時期ですね。
そんな「清明」には、盛りの花に遠慮して、控えめなアンティーク着物のコーディネートで装いを楽しみます。

(3)「清明」のアンティーク着物コーディネート

清明のアンティーク着物コーディネート

◎ 着物…錦紗縮緬地 灰鼠色 八重桜文様 小紋(袷)
◎ 帯…縮緬地 ヱ霞に桜雲取り文様 名古屋帯
◎ 半襟…揚柳地 遠山桜に源氏車刺繍半襟
◎ 帯揚げ…縮緬地 モーヴピンク色
◎ 履物…真紅エナメル台 二石(にこく)鼻緒
◎ コート…流水に桜と柳
◎ 帯留…八重桜図(自作)

着物の装いの世界では、着物と帯だけの姿を「帯つき(姿)」といいます。
ちょうど「清明」の頃から気温が上がってくるため、街には軽やかな「帯つき」 姿の着物美人が増えてきます。

「清明」の頃に行われた行事のひとつに、「踏青(とうせい)」があります。
中国の古い行事が日本に伝わったもので、「春の野に出て青草を踏んで遊ぶ」というなんとものどかなもの。
暖房器具の乏しかった時代…暖をとるために重ねて着ていた重い上着を脱ぐ季節の喜びを身をもって味わえる行事だったのでしょうね。

盛りの花に遠慮して、抑えめなアンティーク着物のコーディネート。
新暦も四月に入ると八重桜の季節です

新暦も四月に入ると、ソメイヨシノはもう見納め、八重桜の季節です。
そこで「清明」の時期には、錦紗縮緬に八重桜を描き、刺繍が施されたアンティーク着物中心のコーディネー トにしてみました。
着物の地色は「桜鼠(さくらねず)」と呼ばれる落ち着いた雰囲気の色です。

鼠色は江戸時代に「四十八茶百鼠」といわれ、百種類を超えるほどのバリエーションを生んだ人気の色でした。

江戸時代後期幕府は贅沢禁止法、いわゆる奢侈禁止令(しゃしきんしれい)を発令し、「どんな身分であっても贅沢な着物を着てはいけない」とされました。
庶民の「着物の色・柄・生地」にまでも細かく規定を設け、きものに関して身につけられる物と言えば…素材は「麻」または「綿」、色は「茶色」「鼠色」「藍色」のみと限定されてしまいました。

そこで江戸の町人たちは、茶色や鼠色といった暗い色のなかに繊細微妙なこだわりを取り入れることにより「四十八茶百鼠」と言われるほどに多様な色のバリエーションを生み出したのです。
特に茶系統と鼠系統の多彩な色合いと、その都度つけられる新しい「色名」が次々と生まれました。

「四十八茶百鼠」とは、茶色が48色、灰色は100色もあることからつけられた呼び方といわれていますが、茶系統・鼠系統ともに実際には100色以上の色名があります。
つまり「四十八」や「百」は色数ではなく「多色」という意味であり、言葉の語呂遊びで「四十八茶百鼠」と言われたという説もあります。
控えめななかにニュアンスを込める色の加減が、江戸前の心意気だったのでしょう。

墨模様が染められており、モダンさが加わった雰囲気が漂います。

この着物はそんな灰鼠の地に、刷毛ではいたような墨模様が染められており、大正ロマンのモダンさが加わったなんともいえない雰囲気が漂います。

落ち着いた着物には、少し華やかな染め帯を福良雀(ふくらすずめ)のようなかわいらしい変わり結びにしてみました。
菜種色(なたねいろ)の鮮やかな黄色地に、臙脂色と空色の「ヱ霞」さらには桜色と藤紫の「花霞」。

霞づくしの帯は、黄色というビビッドな地色ですが、藤紫色が含まれているため着物に自然になじみます。
「藤紫色」は明度の高い紫色で、文明開化のハイカラ趣味とあいまって着物によく使われるようになった色です。

染め帯を福良雀のような可愛らしい変わり結びにしてみました。

「ヱ霞文様」はカタカナの「エ」の字形、漢字の「王」のような字形などであらわされる文様で、遠近を表現したり、霞の奥のものを直接あらわさずに想像させる効果をもたらす図柄。
また「花霞文様」は、満開の桜の花が遠くから霞がかったように淡く見える様子をあらわしたもの。
いずれも実際には形のない「霞」を文様としたもので、和の感覚のすばらしさといって良いでしょう。

(4)「清明」の小物合わせ

源氏車の色と着物の地色を同じ灰鼠でそろえてシックにまとめて。

帯の花霞文様とのつながりで、半襟は、揚柳(ようりゅう)縮緬に遠山桜と源氏車の刺繍の半襟をかけました。
源氏車の色と着物の地色を同じ灰鼠でそろえてシックに。

「遠山桜」と「源氏車」の構図が暗示するのは、歌舞伎の演目『義経千本桜』です。

源義経の妻・静御前とそれを警護する配下の佐藤忠信に化けた源九郎狐が、吉野(奈良県)の千本桜の中を道行きする名場面で知られる『義経千本桜』。
舞台いっぱいの桜が見もので、佐藤忠信をあらわす「金の源氏車」と、狐忠信をあらわす「銀の源氏車」の家紋が物語の謎を解く鍵となっています。

清明の着物コーディネートと道行コート

「道行き」とは「道を行くこと・旅行」をあわらす言葉ですが、浄瑠璃や歌舞伎では「男女が連れ立って旅行などをする場面」のことを指します。
着物用語では、コートのことを「道行き」と呼びますね。
それは、道路が舗装される以前の悪路を着物で移動する際、着物と帯を守るために塵除け(ちりよけ)として必ず道中着、もしくは道行きコートを羽織ったからです。

今回のコーディネートに合わせたのは、紫色の紋錦紗に流水と桜そして柳を染めた、まさに「春の道行きコート」。

道行きコートは塵除け・屋外での寒さ除けが目的のため、どんなに模様が美しくても、羽織とは違って「室内では脱ぐもの」とされています。
そのため現代ものの道行きコートは無地や大人しい柄が多く、オールシーズン・雨晴兼用のものがほとんどですが、着物が日常着だった時代には、季節感あふれるコートでお出かけを楽しんでいたことが偲ばれます。

紫色の紋錦紗に、流水と桜、柳を染めたまさに春の「道行」。
着物用語ではコートのことを「道行」と呼びます。

「花冷え」に羽織るコートの美しさ。
陽光のあたたかさにコートを脱ぎ片腕にかけて携える姿も麗しい…
大正ロマンのお洒落が、ここにはあります。

大きな桜が散らされた着物・コートに合わせて、花霞文様の帯のポイントとして、桜の帯留を。

この帯留は、文房具店でマグネットとして売られていた「和菓子シリーズ」の桜の落雁をかたどったものに帯留用の金具を瞬間接着剤で着けた自作の品です。
落雁の和三盆の白さが桜色を引きたて、甘く可愛らしいワンポイントになりました。

花霞文様の帯のポイントとして、桜の帯留。
真紅に二石(鼻緒が二本どり)の鼻緒の草履

全体的にしっとりした色合いなので、足元は、真紅に二石(鼻緒が二本どり)の鼻緒の草履で愛らしさと艶やかさをプラスしてみました。
高さが二寸(約7.6cm)のこの草履は、江戸の粋として愛された赤坂叶屋製のもので、今はKOSMOS屋のみで入手できるものです。

赤坂の芸者衆が料亭の玄関で履物を脱いだ時、台が大きく鼻緒が広がった履物(とくに駒下駄)は、同朋や下足番に「まな板」と呼ばれて恥ずかしい思いをしないように、足が小さく姿よく見えるように仕上げているのがそのこだわりだそうです。

(5)「清明」のモチーフ

弥生三月春四月…と唄われる「清明」のころ。
「染井吉野」は3月が盛りですが、「八重桜」「山桜」は4月が見頃です。

関東では結納や結婚の挨拶の際に八重桜の塩漬けに湯を注いだ「桜湯」が供されます。
これは「お茶を濁すことのないように」との意味合い。
また八重桜でも京都の仁和寺に咲く「御室桜」は、その木が低いことから花も低い、そこから「鼻が低い」と転じて「お多福桜」とも呼ばれます。

帯や帯揚げ、小物などに「名残りの桜」を満喫しましょう。

やがて「散りゆく桜」、「花びらのみの桜」…

縦長の日本は、春分前に咲く沖縄から、北海道の桜が散る5月中旬まで、桜を存分に楽しむことができます。
お住まいの地域の桜の季節が過ぎたら、帯や帯揚げ、小物などに桜をあしらった「名残りの桜」…と桜の季節を満喫しましょう。

我が国は 草も桜が 咲きにけり

と小林一茶が詠んだ「桜草」は、江戸時代より愛された鉢物で、4月がちょうどその季節にあたります。

遠山桜の咲く山では「水芭蕉」もほころびかけます。
♪夏がくれば 思い出す のフレーズが有名なため、夏の花と思われている「水芭蕉」は
実は北国に春の訪れを知らせる花です。

水辺で色を濃くするのは「柳」。
桜とともに「春の錦」と詠われた柳は、芽吹きの緑が目にも鮮やかです。
柳とおなじく風に房をなびかせる「藤」は、「不死」に通じる生命力あふれるモチーフ。
里山では黄色の「菜の花」も見頃。
八百屋の店先にも、小さな黄色い花をつけた菜の花がお浸し用に並ぶ頃です。
菜の花の蜜を吸いに集まる「蜜蜂」、新入園・新入学の花園に咲く「チューリップ」は洋花なので季節を問わずに使えるモチーフですが、フレッシュなかわいらしさは、春のこの時期が一番かもしれません。

縦長の日本は5月中旬まで桜を楽しむことができます。

(6)「清明」の着物スタイルをイメージする

心に思い浮かんだイメージをカレンダーや手帳にメモしてみましょう

自然界は芽吹きや花の盛りの季節。
そんな時期の着物は、落ち着いた色や無地感覚の着物が調和します。
着物の生地も空気を含みあたたかさを感じるシボの高い縮緬よりは、一越縮緬の軽い感じ、
お召しのようなしゃっきりした素材が気分です。
単衣の着ものに袖を通すのは5月の立夏を待ちますが、長襦袢など見えない部分は単衣や胴抜き(裏地なし)の袖無双(袷)など、体温調整を考えて切り替えはじめていい頃です。

残りわずかな春をどんな着物スタイルで楽しみたいか、心に思い浮かんだイメージをカレンダーや手帳にメモしてみましょう。
無地や縞・格子の着物に節気のモチーフをひとつ取り入れるだけで、自然と調和した素敵なコーディネートになりますよ。

一年で二十四回、二週間ごとに着物に親しむ、あなただけの「二十四節気の着物スタイル」をお楽しみください。

次回は4月20日に訪れる「穀雨」についてお話しします。
本連載も丸一年を迎え、最終回となります。
前日19日の配信を楽しみにお待ちくださいね!

(5月からは、アンティークの半襟に注目した新たな連載がスタートいたします。こちらもご期待くださいませ!)

『旧暦で楽しむ着物スタイル』河出書房新社
 

※写真はさとうめぐみ著『旧暦で楽しむ着物スタイル』(河出書房新社)より。

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