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霜降:霜が降りはじめ、秋が終わりを告げる季節! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

霜降:霜が降りはじめ、秋が終わりを告げる季節! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

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「秋の日は釣瓶(つるべ)落とし」日暮れが早い秋は、他の季節に比べて帰路を急ぎたくなる気がします。一方で、袷の着物にちょうどいい気温で雨も少ない気候ですから、紅葉の季節までの間、羽織なしで「帯つき」の着物姿を楽しめる時期でもあります。

(1) 二十四節気とは

「二十四節気」とは、旧暦(太陰太陽暦)における太陽暦であり、2月4日の「立春」を起点に1年を24等分し約15日ごとの季節に分けたもので、いわゆる「暦の上では…」のもとになっているものです。

どこかで見聞きしているものの、いまひとつなじみがないというあなたにこそ知ってほしい「二十四節気」。
いにしえの知恵「二十四節気」に親しむことで、

□ 季節を感じる感覚が豊かになる
□ 着物コーディネートが上手になる
□ 着物を着る機会が増える

こんな素敵な毎日がはじまりますよ。
月2回アップするこちらの連載で「旧暦着物美人」をめざしてみませんか。

(2) 「霜降(そうこう)」とは

さて、明日訪れる十八番目の節気は「霜降(そうこう)」。
「霜が降り始め、秋が終わりを告げる頃」という意味の節気です。

「秋の日は釣瓶(つるべ)落とし」という言葉がありますが、これは井戸から水を汲み上げる釣瓶(桶)が暗い井戸のなかに落ちる速さを、日が落ちる速さになぞらえたものです。

日暮れが早い秋は、他の季節に比べて帰路を急ぎたくなる気がします。
一方で、袷の着物にちょうどいい気温で、雨も少ない気候ですから、紅葉の季節までの間、羽織なしで「帯つき」の着物姿を楽しめる時期でもあります。

旧暦ではちょうど十月・神無月を迎え、夜空の月も冴えわたり、心も澄むような感覚を着物のお洒落に取り入れてみたくなる頃。
しっとりとした染めの色が美しいアンティーク着物のコーディネートをご紹介します。

(3) 「霜降」のアンティーク着物コーディネート

霜降のアンティーク着物コーディネート

◎ 着物…錦紗縮緬地 菊文様(袷)
◎ 帯…縮緬地 鳥文様名古屋帯
◎ 半襟…縮緬地 鱗と小菊刺繍
◎ 帯揚げ…縮緬
◎ 履物…変わりビロード草履
◎ 小物…菊文様抱えバッグ

朱鷺色(ときいろ)の錦紗縮緬地一面に染められた、真ん丸の菊。
花の薄紫のグラデーション、葉の緑から黄緑色のグラデーションが何とも言えない柔らかさを感じる小紋です。

朱鷺色は鴇色とも書き、特別天然記念物で国際保護鳥「トキ」の風切羽・尾羽の色から名付けられた色。やや紫に近い淡いピンクを指します。

トキは江戸時代までは日本各地に生息しており、多くの人に親しまれていた鳥。
表面は白い姿であるのに対し、飛んでいる時に見える美しいピンク色が人々の心をとらえ、江戸時代の染色指南書である『手鑑模様節用』に、「とき羽色一名志ののめいろ」と、東雲色(しののめいろ/曙色)と同色として紹介されるなど、特に若い女性の小袖の地色として好んで使われるようになりました。

そんな「色のいわれ」から連想を広げ、トキに見立てた鳥文様の帯を合わせてみました。

アールデコとアールヌーヴォーのミックス

曲線と直線とが見事に組み合わされたデザインは、十九世紀末から二十世紀初頭にかけてヨーロッパで流行した、植物をモチーフにした流れるような曲線が特徴の装飾様式『アール・ヌーヴォー』と、その後1920年代に流行した円・正方形・三角形など単純化された直線的・幾何学的が特徴の『アール・デコ』のミックスだと思われます。

一般的に『アール・デコ』は、『アール・ヌーヴォー』の時代が終わった後に興った潮流として区別されますが、着物では、双方が混在する意匠を多くみかけます。

これは、当時の海外の流行が、日本に船便でゆっくりと時間をかけてもたらされたからと推察されるところ。1920年代以降に作られた着物や帯には、世界でも珍しく、ふたつの芸術思潮が同居する独自のデザインが美しく調和した形で残されることになりました。

着物・帯のインパクトに合わせて、帯結びもひと工夫。
ふっくらとした太鼓の上に朱鷺の羽根のような飾り結びを施してみました。

帯締め帯揚げもくるくると巻いて菊柄にみたてて

帯締め・帯揚げもくるくると巻いて、着物の菊柄にみせかけた、だまし絵のような仕上がりで遊び心を加えています。

(4) 「霜降」の小物合わせ

どこか西洋の香りのする帯のデザインに合わせて、履物は、変わりビロードで仕立てた草履を選びました。

帯のデザインに合わせて、変わりビロードの草履を
ヨーロッパのカーテン生地から誂えた草履

ヨーロッパのカーテン生地から誂えた草履は、まるで絨毯のようにあたたかく足元を飾ってくれます。

ここでも着物と同じピンクと緑の色使いを繰り返すことで、色合わせのお洒落を楽しんで。

着物と同じ色使いをくり返して
友禅染に菊のつややかな刺繍が美しい抱えバッグ

友禅染に菊のつややかな刺繍が美しい抱えバッグは、実は三味線の撥(ばち)入れです。

蓋を開けると赤い布で斜めに仕切られた作りを不思議に思っていましたが、それは三味線の太棹・細棹に合わせて使い分ける象牙の撥を入れるための工夫で、しかもお太鼓結びの中にちょうど納まるサイズとあって、和のすばらしさを感じた、アンティークならではの逸品でした。

実は三味線の撥入れ
半襟は薄紫色の縮緬に鱗文様の刺繍半襟を

半襟は薄紫色の縮緬に、小菊と三角形を並べた鱗文様の刺繍半襟を合わせて。

蛇の鱗を単純に文様化した鱗文様は古典柄のひとつで、蛇は脱皮して成長することから 「厄年には鱗柄を身につけて難を逃れる」という言い伝えが生まれました。
十九歳・三十三歳・三十七歳・六十一歳…と男性よりも一度多い厄年を、せめて腰紐一本・半襟一枚を新調することで綺麗に装い、憂さを晴らす風習も生まれました。

(5) 「霜降」のモチーフ

霜降は「晩秋」にあたる時期です。
自然に目をやると、そこここにみえる秋の実りに、収穫への感謝の気持ちが浮かんできます。

葉を落とした木に下がる熟した「烏瓜(からすうり)」は秋ならではの文様。
種子が打ち出の小槌に似ていることから、財布に入れておくと金運が上がるともいわれています。

烏瓜は秋ならではの文様

豊かな実をつけ、たわわに実る「葡萄(ぶどう)」は、古代ギリシャ時代に文様化され、シルクロードを経て日本にもたらされ、子孫繁栄を象徴する吉祥文様となりました。
多産の象徴でもある可愛らしい「栗鼠(りす)」と組み合わせた「葡萄栗鼠(ぶどうりす)」文様は、意外にも「武道律す(ぶどうりっす)」の語呂合わせから、武士に好まれた歴史を持ちます。

栗鼠が好んで食べる「団栗(どんぐり)」も、懐かしい秋の思い出を呼び起こすモチーフです。つや良く、形の良いものを競って拾い、独楽(こま)ややじろべいを作って遊んだ童心を着物の装いに取り入れて。

そしてそろそろ、だんだんと色づく「紅葉(もみじ)」を取り入れてもいい頃です。

「紅葉」は赤や黄色に色づく樹木の総称で、多くはカエデ科の植物を指します。
「楓(かえで)」は春の花見には「青楓(あおかえで)」、秋は「紅葉」として紅葉・紅葉狩りと、日本人に四季を感じさせる植物として非常に親しまれてきました。葉の形が蛙(かえる)の手のようなことから「蛙手(かえるで)」が転じて「楓」と言われるように。
桃山時代以降、代表的な植物文様となり、

奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき
ー 小倉百人一首・猿丸太夫

など、鹿と並べて秋の風情を表現するのに使われたり、流水文と組み合わせた、

千早ぶる 神代もきかず 竜田川 からくれないに 水くぐるとは
― 小倉百人一首・在原業平

と読まれた「竜田川文様」なども多くみられます。
また、紅葉を「花籠文様」と組み合わせることで、能の「花筐(はながたみ)」、歌舞伎の「紅葉狩(もみじがり)」などの鑑賞にぴったりな装いとなります。

「霜降」の時期には、こんな秋の深まりを感じさせるモチーフを着物姿に取り入れてみてはいかがでしょうか。
着物に親しむことで、身の回りにある植物や花などの自然を再発見できるのも、装いの恩恵のひとつです。
自然や季節と調和した着物姿は、着る人をより美しくみせてくれることでしょう。

(6) 「霜降」の着物スタイルをイメージする

帯つきの着姿も楽しい季節

新暦10月も、半ばまでは汗ばむ気候であったりと着物選びに頭を悩ませますが、さすがに霜降を迎える頃には朝晩の冷え込みが激しく、袷がうれしい季節となります。

また、この時期の寒色系は寒々しく見えるもの。
次第に南下する「紅葉前線」や、夕焼け空の茜色のような暖色が美しく目に映ります。

「紅葉の重なりは錦織のよう」と昔から表現されてきたように、黄色から橙色、そして紅色と色づいていく紅葉の一色をどこかに取り入れるのもコーディネートの妙。ことに、カラー診断で「イエローベース」といわれる黄味がかった肌によくなじみ、顔色を華やかにみせてくれる色が活躍する時期です。

「霜降」の次に訪れる二十四節気は「立冬」で、冬の始まりを告げる節気。
その直前であるこの「霜降」の時期は、「桜と共に脱ぎ、紅葉と共に着る」といわれる羽織を着ずに美しい帯を生かす着姿「帯つき」の最後の季節です。
そんな晩秋をどんな着物スタイルで楽しみたいか…心に思い浮かべるイメージをカレンダーや手帳にメモしてみましょう。
無地や縞・格子の着物に節気のモチーフをひとつ取り入れるだけで、自然と調和した素敵なコーディネートになりますよ。

一年で二十四回、二週間ごとに着物に親しむ、あなただけの「二十四節気の着物スタイル」をお楽しみください。

次回は11月7日に訪れる「立冬」についてお話しします。

前日6日の公開を楽しみにお待ちくださいね!

 
※写真はさとうめぐみ著『旧暦で楽しむ着物スタイル』(河出書房新社)より。

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