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冬至:「一陽来復」一年で一番昼が短く夜が長い日! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

冬至:「一陽来復」一年で一番昼が短く夜が長い日! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

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「冬至」は旧暦の中でも特別な意味を持つ節気。別名を「一陽来復(いちようらいふく)」とも呼びます。これはこの日極まった陰が、陽に転じるという意味で、冬至を境に日が長くなり太陽の光が戻ってくる様子をあらわしたもの。やがて「悪いことが続いたあとに幸運がやってくる」という意味でも使われるようになりました。

(1) 二十四節気とは

「二十四節気」とは、旧暦(太陰太陽暦)における太陽暦であり、2月4日の「立春」を起点に1年を24等分し約15日ごとの季節に分けたもので、いわゆる「暦の上では…」のもとになっているものです。
どこかで見聞きしているものの、いまひとつなじみがないというあなたにこそ知ってほしい「二十四節気」。

いにしえの知恵「二十四節気」に親しむことで、

□ 季節を感じる感覚が豊かになる
□ 着物コーディネートが上手になる
□ 着物を着る機会が増える

こんな素敵な毎日がはじまりますよ。
月2回アップするこちらの連載で「旧暦着物美人」をめざしてみませんか。

(2)「冬至(とうじ)」とは

さて、今回訪れる二十二番目の節気は「冬至(とうじ)」。
「一年で一番夜が長い日(北半球)」です。
「冬至」は、旧暦の中でも特別な意味を持つ節気です。
この日太陽は真昼になっても高い位置まで昇らないため、影が最も長くなります。
夏至に比べて約4時間~5時間も昼が短く夜が長い「冬至」は、一年を一日であらわすと
すれば真っ暗な真夜中にあたります。

「冬至」は別名を「一陽来復(いちようらいふく)」とも呼びます。
これは「この日極まった陰が陽に転じる」という意味で、冬至を境に日が長くなり太陽の光が戻ってくる様子をあらわしたもの。

やがて「悪いことが続いたあとに幸運がやってくる」という意味でも使われるようになりました。
冬至の日といえば、南から伝わった野菜・南瓜(かぼちゃ)を食べて柚子湯に入るという風習がありますが、これは、日照時間の少ないこの日に、太陽に見立てた黄色いものを身体の内外に取り入れようとしたいにしえの知恵です。

「ゆず」の読みが「融通」に、また色が金に似ていることから、この日柚子風呂に入ると「金運に融通がつく」とも言われています。
柚子の黄色を見たら、「陰」の気の中に芽生えた「陽」の兆しを感じてみましょう。

(3)「冬至」のアンティーク着物コーディネート

冬至のアンティーク着物コーディネート

◎ 着物…錦紗縮緬地 黒地におもちゃづくし文様(袷)
◎ 帯…錦紗縮緬地 餅搗き兎文様 付け帯 
◎ 帯留…白蝶貝 兎図
◎ 半襟…縮緬地 羽子板に宝尽くし刺繍
◎ 帯揚げ…縮緬
◎ 履物…塗り下駄・畳表 黒ボア鼻緒(現代物)
◎ 袋物…縮緬巾着 百徳つなぎ

かつて中国では、冬至に長い棒を立てて一太陽年の長さを観測したことから、冬至は暦の起点(一年のはじまり)として特別視されていたといいます。

日本ではちょうど年の瀬にあたるこの時期、「歳の市」や「羽子板市」がにぎやかに開かれます。
正月を迎える品物をあつかう「歳の市」は、江戸時代中期までは男の市で女性や子どもはでかけることができなかったとか。
そのかわりにでかけたのが、縁起ものの「羽子板」をあつかう「羽子板市」だったそうです。

羽子板は、もともと邪気をはね(羽根)のける厄払いの意味のある、平安時代の宮中の正月の遊び道具でした。
羽子板で突く羽根の黒くて堅い玉は「むくろじ」という大木の種ですが、これを漢字で書くと「無患子(子どもが患うことがない)」と書くことから、病気を遠ざけるという縁起担ぎが生まれ、江戸時代になると公卿・大名・旗本などの間で、生まれた女児が無事に成長するようにと願って初正月の贈り物とされるようになりました。

餅搗き兎文様の付け帯

現代でも初正月の羽子板飾りには手毬が添えられていますが、そこにも、鞠(まり)のように角のない素直な子に育つように…との願いが込められているといわれています。

江戸時代になると浮世絵師が図案を描き、押絵(布で立体的な絵を描く手芸)を施した豪華な羽子板が作られるようになりました
人気の歌舞伎役者の似顔絵やお姫様の押絵のついた羽子板は、子どもが元気に育つ縁起ものとして、その年に生まれた女児の出産祝いに用いられることもあった ようです。

そんな年の瀬の風物詩「羽子板市」におでかけのイメージで選んだのが、おもちゃ文様の着物です。

おもちゃ文様の着物

黒地に御幣(ごへい・神祭用具のひとつで紙や布を細長い木に挟んでたらしたもの)、達磨(だるま)や梟(みみづく・ふくろう)・やじろべいに駒・鯛車・折鶴・鳩笛・兎の土鈴・狐のお面と…
おもちゃづくしの着物は、もともと肩上げがされた子どもの着物でした。

幟旗(のぼりばた)の世界的コレクターである「幟屋」(2012年閉店)を訪れた折、

「とってもかわいい子供の着物があるんだけれど…細工もの用に解くのは切ないから、そのまま着てくれるならぜひ着てほしい」

と奥から引っ張り出してくれたのがこの着物でした。
肩上げを解けば裄もちょうど、という寸法だったので、

「もっけの幸い!一生大事に着ます!」

と約束。洗い張りに出し、同じ時代の胴裏を探してつけて、もとの着物の味をそのままに仕立て直し…お気に入りの一枚になりました。

合わせる帯は、「望月(もちづき)」 =転じて「餅搗き(もちつき)」となった、月の中で餅を搗く(つく)兎がなんともかわいい帯です。

この帯は、締めてしまえばわからないかもしれませんが、胴とお太鼓が別々になった「作り帯」です。

人影まばらな地方のホールで開催された骨董市で、床にそのまま放りだされていた品物で、お値段を聞くと「付け帯は人気がないし、子どもの柄だから」ということで、子どものおこづかい程度のお値段で手に入れました。

月で餅をつく可愛い作り帯

たしかに一本の帯として染型を置いて柄付けしたり、織り上げたりする帯の定型の美しさは侵しがたいものがありますが、長く愛用して傷みはじめた帯の再生方法として、「作り帯」の知恵はまさにサスティナブル。
時代の先を行く活用の仕方だと感心します。

またよく着物をお召しになる芸妓さんや女優さんも「いくら高くて良い帯を持っていても、使わないと意味がないから」と、袋帯を思い切って「作り帯」「ひっつけ帯」などに加工して愛用しているという話もよく聞きます。
急いでいる時や旅行先での帯結びの手間の要らない「作り帯」の良さ、見直してみたいものです。

(4) 「冬至」の小物合わせ

貝細工の白兎

餅搗き兎の「作り帯」に合わせた帯留は、貝細工の白兎です。
赤い目がかわいらしく躍動感のあるスリムな体つきは、まるで月の中から飛び出てきたよう。

日本では月の世界でお餅を搗いているといわれている兎ですが、中国では不老長寿の薬草を搗いていると信じられているとか。
日々満ち欠けを繰り返す月は、永遠の命の源とされているのだそうです。
終わることのないお仕事も年の瀬くらいは、ひとやすみ。
そんな働き者の兎をイメージしてみました。

百徳つなぎの巾着袋

その帯留のすぐ脇に結びつけたのは巾着袋です。

羽子板市といえば楽しい露店が立ち並びます。
おこづかいをしまう巾着袋は「百徳つなぎ」と呼ばれるパッチワークです。
これは、

「百軒からもらい集めた布で着物を縫って、子供が丈夫に育つのを祈る」
「子宝に恵まれますように願ってお寺に奉納する」

という言い伝えにしたがって、「小豆三粒ほど包める布は捨てるな」といわれるほど大切にされた小さな布片を継ぎ合わせた、そして「祈り」を形にした袋です。

刺繍半襟はずばり「羽子板」文様。
金糸・銀糸と、ポイントになる橙色の絹糸で、見えないところにまで松竹梅や宝尽くしの柄が刺繍されています。

百徳つなぎの巾着袋
花手毬を配した道行き

黒い着物に羽織らせたのは、黒地に緑の横段を背景に、花手毬が配された錦紗の道行きコートです。
花手毬のオレンジ色を太陽に見立て、冬至の「一陽来復」の縁起をかつぐのも良し、羽子板につきものの手毬に見立てるのもまた良しです。

横段に大きな丸紋という大胆な柄付けは、関西に多く見られるもののようです。

羽織の裏地・羽裏(はうら)、コートの裏地・肩裏(かたうら)といえば、お洒落さんのこだわりの見せどころ。
赤い平絹に御所車が描かれて、表地の黒と緑のモダンな色の取り合わせに古典の雰囲気を添えています。

着物も帯もあまりにかわいくて、コートなしで歩きたいような、でもコートを着た姿も見せたいような。
思案が募る、羽子板市までの道のりです。

花手毬は大きな丸紋で大胆に

(5)「冬至」のモチーフ

季節のものをコーデして毎日を楽しむ

ちょうど年末の時期に入り、その翌日から日が長くなる=光が射すということから、「吉祥文様」も冬至にはおすすめのモチーフです。

冬至といえば「柚子」に「かぼちゃ」。

「かぼちゃ」は今ではすっかり10月のハロウィーンのモチーフとされていますが、本来は小豆とともにかぼちゃを甘く煮て食し、身体を温め英気を養う「冬至かぼちゃ」にちなんだ文様でした。

今回の半襟の中の文様として使わている「宝尽くし」は…

 ・持つだけで願い事が叶う「宝珠(ほうじゅ)」
 ・体が隠れておもいのままにできる「隠れ蓑(かくれみの)」
 ・「隠れ笠(かくれがさ)」
 ・打てば宝がでてくる「打出の小槌(うちでのこづち)」
 ・大切なものを守る土蔵の「鍵」
 ・砂金や金貨を入れる「金嚢(きんのう)」
 ・ありがたいお経の巻物「宝巻(ほうかん)」「巻軸(まきじく)」
 ・宝巻・巻軸の入れ物「筒守(つつまもり)」
 ・金の重さを計る道具「分銅(ふんどう)
 ・仏宝(貴重な薬・香料)とされる「丁子(ちょうじ)
 ・仏宝とされる七宝文様の原型「花輪違い(はなわちがい)」

吉祥文様で楽しむ

そして、今回の着物にも染められた「達磨(だるま)」も、七転び八起きの吉祥文様です。

クリスマスシーズンと雪の季節にちなんで「雪だるま」、「ポインセチア」や「西洋柊」などのモチーフも年末の着物姿に映えることでしょう。
「冬至」は、新しい年の訪れの気配を感じさせるモチーフで、着物のコーディネートをお楽しみください。

着物に親しむことで、身の回りにある植物や花、などを自然と再発見できるのも、装いの恩恵のひとつです。
自然や季節との調和した着物姿は、着る人をより美しく見せてくれることでしょう。

(6)「冬至」の着物スタイルをイメージする

道行きもあわせてスタイルを

一年で一番昼が短く、夜が長い冬至は、「陰」から「陽」にむかう祝いの日です。
昭和三十年代ころまでは、冬至の前後は金銀融通の「柚子」の色である黄色の長襦袢を着て、黄色の帯揚げ・帯締めを締めるという習慣が残っていたそうです。

二十四節気の「節」とは、植物の竹の「節」と同じ意味を持ちます。
成長してはとどまり、また伸びてはとどまる…その間が「節目」となります。
巡りくる節気にちなんだ色・モチーフを取り入れた着物を着ることは、一年一年の節目を実感する良い機会になります。

年末のせわしない毎日の中で着物に思いを馳せる、袖を通す機会を増やす計画を立ててみるのも、着物に親しむ近道です。
この冬をどんな着物スタイルで楽しみたいか、心に思い浮かべるイメージをカレンダーや手帳にメモしてみましょう。

無地や縞・格子の着物に節気のモチーフをひとつ取り入れるだけで、
自然と調和した素敵なコーディネートになりますよ。
一年で二十四回、二週間ごとに着物に親しむ、あなただけの「二十四節気の着物スタイル」をお楽しみください。

次回は1月5日に訪れる「小寒」についてお話しします。前日4日の公開を楽しみにお待ちくださいね!

『旧暦で楽しむ着物スタイル』河出書房新社
 
※写真はさとうめぐみ著『旧暦で楽しむ着物スタイル』(河出書房新社)より。

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