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茶道に欠かせない茶筅(ちゃせん)とは何か? 「茶筅師の手しごと」vol.1

茶道に欠かせない茶筅(ちゃせん)とは何か? 「茶筅師の手しごと」vol.1

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500年以上に亘って茶筅づくりの中心地である奈良県生駒市高山町。かの地では、徳川幕府より名を与えられた茶筅師13家中、3家がいまなお高山茶筅をつくり続けています。そのうちのひとつである「谷村家」を訪ねました。

まなぶ

「気になるお能」

日本独自の茶道具「茶筅」とは

茶筅

茶筅(ちゃせん)とは、言わずと知れた茶道具のひとつ。茶道において抹茶を点てるために使用する竹製の道具です。

茶席では茶碗や棗(なつめ)、軸(じく)や花入(はないれ)が作家の名とともに愛でられるのに対して、茶筅は会記に記されることがありません

茶筅は、茶道具の中では末席です。必需品であるにも拘わらず、消耗品である茶筅の日本での地位は低い」

と、20代当主・谷村丹後さんは言います。

丹後さん

2010年頃からの”MATCHA”ブームにより、とりわけ海外において”MATCHAラバー”が急増中。日本を訪れる外国人の多くが”日本を象徴する場”として茶室に興味をもち、造形の美を有する茶筅を高く評価していることは、

「ここ数年で海外からの注文が随分と多くなりました。”MATCHA”だけでなく”CHASEN”も世界で通用するワードになりつつあります

という丹後さんの言葉が証明しています。

コロナ前にはロンドンで実演を披露し、昨秋には台湾でのイベントにも参加するなど、国外からのオファーもひっきりなしです。

2010年頃からのMACCHAブーム

中国から茶が伝来したのは平安時代初期。その後、鎌倉時代に抹茶法が成立したといわれています。

室町時代に入って宇治が茶の名産地になると喫茶の風習が拡がっていき、千利休の登場で一気に武将たちの間で茶の湯文化が花開くのです。

茶筅

茶席で使われる茶道具も、その役割ごとに腕のある職人や作家が現れ、用の美が追求されていきます。

なかでも茶筅は、茶の発祥地でもある中国にもないカタチで親しまれるようになります。

500年も続いてきた「高山茶筅」

日本国内で販売されている茶筅のうち、国産のものは約3割。なんと、そのほぼ全てが高山産だといいます。

茶筅

高山茶筅の歴史は室町時代後期まで遡ります。茶の湯の祖と称される村田珠光の助言を得て、大和鷹山城主の次男が創案したと伝えられています。

農業の傍ら、余技として茶筅づくりの技術を受け継ぎ、鷹山家没落後には地名を「鷹山」から「高山」に改め、茶筅づくりが生業となりました。

現在、高山茶筅を家業とするのは18軒

茶筅づくりは”一子相伝”で伝えられてきた秘技

茶筅づくりは”一子相伝”で伝えられてきた秘技でしたが、昭和30年代後半になって、どれだけ手がこんでいるかを伝えて茶筅そのものの価値を上げようという狙いもあり、少しずつ情報を公けにしていきます。

丹後さん

(茶筅だけで)生計を立てられるようになったのは、祖父の代からですね。私が小学生の頃には、土日に観光バスがやってくるほどでした。

その後、ビデオカメラの普及に伴って、韓国や中国へ情報が流出していきました

原材料となる竹が自生していた韓国や中国で、録画をもとに見様見真似で茶筅づくりが始まり、いまでは日本で売られている茶筅の7割が外国製だといいます。

「しかしながらやはり、外国製茶筅は明らかに質が落ちます。竹の質や乾燥方法も違いますし、細かい製法も違います。

そして何より、作り手たちが抹茶を慣習的に飲まないし、茶筅を使ってお茶を点てることもないという点が大きな差異なのです。良い茶筅とはどういうものか? 分かるはずもないですよね」

谷村家の茶筅づくりについて

茶筅

裏千家と武者小路千家に直接納入する谷村家は、古くは徳川将軍家御用達で、禁裏仙洞御所や公家、諸大名にも品を納めてきた茶筅師の名家です。

近年では、NHK大河ドラマにも丹後さんの手がけた茶筅が幾度も登場しています。

茶筅刃物だけで形づくっていく作業

茶筅づくりの工程は、大きく分けて5つの分業制です。

茶筅の寸法にカットされた1本の短い竹を刃物だけで形づくっていく作業は驚くほど繊細で、「全て一通り出来るようになるまで10年はかかります」(丹後さん)とのこと。

茶筅

工程1 片木(へぎ)
 原竹の節から上半分の表皮を削り、主に16片に割って内側の肉を切る

工程2 小割(こわり)
 外穂になるものは太く、内穂になるものは細くなるよう交互に割っていく

内穂と外穂の二重構造

工程1の片木(へぎ)

工程3 味削り(あじけずり)
 内側から穂先に向かって薄らと光が透けるほどまで削り、形を整える

内側の肉を切る

最も大切な作業である味削り(あじけずり)。穂先に向かって薄く薄く削る

工程4 面取りと糸かけ
 一本一本外穂の両側の面を取り、糸をかける(薄茶用の場合3周)

工程5 仕上げ
 検品も兼ねて穂先の間隔や凹凸を整頓する

穂先を薄く削ることで生まれるしなり

一本一本丁寧に、外穂の両側を削る面取り(工程4)

穂先を薄く削ることで生まれるしなりと、内穂と外穂の二重構造によって、きめ細かい泡が立つ「単純だが、よく出来た道具」になるのです。

「なかでも、味削り(あじけずり)が茶の味だけでなく、”家の味”を決めます。つまり、跡取りとして最も大切な作業。私も茶筅づくりを始めたとき、まずは味削りから学びました」

丹後さん

そう話してくれた丹後さんが、家業を継ぐ決心をしたのは29歳のとき。

次回は、茶筅づくり30年となる20代目 谷村丹後さんの半生に迫ります。

茶筅

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