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「色は染めるのではなく、いただくもの」志村洋子さんが語る、人間国宝・志村ふくみの言葉と染織

「色は染めるのではなく、いただくもの」志村洋子さんが語る、人間国宝・志村ふくみの言葉と染織

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人間国宝・志村ふくみさんの百一寿を祝し、長女の染織家・志村洋子さんをお招きした特別イベントを開催。草木染めと紬織に宿る命の美学、そして言葉と手織りを両輪とする「志村の美」の源流を語り合った貴重なトークセッションをお届けします。

2026.08.03

イベント

イベントレポート

志村洋子さんと語る、染織の美と生命のきらめき。 百一寿 志村ふくみさんを祝うディナートークセッション

植物の命を糸に宿す草木染めと手織りの紬織。着物を形作る数ある技法の中でも特別なものです。その第一人者であり、人間国宝である志村ふくみさん。

迎えられた百一寿を祝し、長女で染織家・随筆家の志村洋子さんを京都からお招きしたのが本イベントです。

志村洋子さん

染織家・随筆家
志村洋子

東京都生まれ。「藍建て」に強く心を引かれ、30代から母・志村ふくみと同じ染織の世界に入る。1989年に、宗教、芸術、教育など文化の全体像を織物を通して総合的に学ぶ場として「都機工房(つきこうぼう)」を創設。2013年に芸術学校アルスシムラをふくみ、息子・昌司とともに開校。

イベントに登壇する志村洋子さん

イベントのメインはトーク・セッション。

洋子さんの鼎談役として、京都きもの市場代表・田中、バイヤー・野瀬が登壇。3人による鼎談を行いました。

京都きもの市場 代表取締役社長 田中敬次郎

京都きもの市場 代表取締役社長 田中敬次郎

京都きもの市場 名物バイヤー 野瀬達朗

京都きもの市場 名物バイヤー 野瀬達朗

2024.10.10

カルチャー

バイヤー野瀬の、きもの産地巡り

書くことと平織りを両輪に。「志村の美」を支える源流

イベントに登壇する志村洋子さん

田中:ふくみさんの歩みにおいて、切っても切り離せないのが「言葉」の存在ですよね。多くの著作を残されていますが、作品のみならず言葉で表現を残そうとされた源流はどこにあるのでしょうか。

志村洋子さん(以下、洋子さん):母はもともと文章が好きな人でした。私が小学校2年生の頃に離婚し、編集者になるか織物の道に進むかで葛藤した時期があったそうです。

その時、ある方から「両方やりなさい。織物だけではダメ、もっと精神を磨くことも同時にやらないと」と助言されたんだとか。それ以来、書くことと織ることは、母にとって両輪であり続けています。

田中:極め方のアプローチがひとつではなかったのですね。

洋子さん:言葉によって物事を深く見つめ、余計な形容詞を使わずに本質を削り出していく作業が、平織りという最もシンプルな技法と結びついていったのだと思います。

2025.11.30

おでかけ

『志村ふくみ 100 歳記念 ―《秋霞》から《野の果て》まで―』大倉集古館 「きものでミュージアム」vol.40

夕日の感動が年月を経て色に出会うとき。「琵琶湖」を描くプロセス

イベントに登壇する志村洋子さん

野瀬:滋賀出身の私にとって、琵琶湖の情景を描いた作品などは特に胸に迫るものがあります。例えば近江八幡から見る夕景のような空気感を作品に落とし込むとき、どのような想いで色へと落とし込んでおられるのでしょうか。

洋子さん:琵琶湖は本当に美しいですよね。母もかつてはよく船に乗り、比叡山に沈んでいく夕日をまじまじと見つめては、深く感動していました。

けど、その感動がすぐに作品として織り上げられるわけではありません。感動を心の中にじっと抱き続けたまま、何年、何十年もの時が流れることもあります。

年月を重ねる中で、その感動を呼び起こす素晴らしい色と出会ったときに初めて「あの琵琶湖の情景を織ろう」となるわけです。

その色彩のきらめきを表現するために欠かせないのが、国産の絹糸の力や、色を引き立てる平織りです。あの光沢と力強さがあって初めて、澄んだ夕日の色になってくれます。

風土が育んだ「色をいただく」土地と空気に宿るグラデーション

野瀬:ふくみさんの言葉で印象的なのが、「色を染めるではなく」「色をいただく」という表現です。この真意を教えていただけますか。

洋子さん:今でも工房で大切にしている言葉ですね。人間が意図して「この色に染めてやろう」と支配するのではないんです。植物が命として持っている色が現れるのを、私たちが「お手伝いする」んです。

その時々の植物の命と向き合い、授かり、いただくような感覚を持っています。特に藍染めのグラデーションには神聖な気配を感じますね。

イベントに登壇する志村洋子さん

野瀬:そのぼかしやグラデーションの繊細さは、海外の染織を見渡しても極めて独自性が高いと感じます。

洋子さん:私たちの工房がある京都の奥嵯峨は、水が多く湿潤で、朝もやが立ち込める場所です。まるで源氏物語の亡霊が出てくるような雰囲気(笑)。

どこかしっとりとした空気のなかで、色と色が自然に溶け合っていく。あの環境こそが「ぼかし」の絶好の手本なんです。

たとえば砂漠のような乾燥した土地では、この曖昧で美しいグラデーションは生まれないと思うんです。日本の風土と四季が、私たちの美意識を育ててくれたのだと思います。

2025.07.06

カルチャー

京藍染師 松﨑陸さん【YouTube連動・インタビュー編】「元芸妓 紗月が聞く!京都、つなぐ世代」vol.11

正倉院の旅路と、日本のすずし(生絹)がもたらす新たな可能性

イベントに登壇する志村洋子さん

田中:かつてふくみさんと洋子さんは、世界の伝統染織文化を調査するため、シルクロードに沿ってイランやトルコ、シリアといった国々を巡る旅に出られていましたね。

洋子さん:はい、奈良の正倉院に眠る美しい裂(きれ)のルーツが、西の地にあるのではないかと思って出かけました。けれど、実際に行ってみると現地にはほとんど残っていませんでした。長年の戦争があり、王朝が変わり、宗教が変わっていく中で、かつての美しき布たちは消えてしまっていたんです。

日本はひとつの朝廷が続き、使う言葉もずっと同じ。だからこそ、正倉院にすべてが守り残されてきました。

日本という国は、本当に色や物を大事にする素晴らしい文化を持っているのだと、世界を巡って初めて気付かされました。

イベントに登壇する志村洋子さん

田中:装いの面で比較しても、日本の着物は独自の文化がありますよね。たとえば柄に柄を合わせるおしゃれや、帯や小物で季節を表現する楽しさだとか。

洋子さん:洋服ではチェックに柄物は合わせませんけど、着物なら粋に決まりますよね。ですけど、現代ではライフスタイルが変わって着物を着る機会が減ったのも、残念ですが事実です。

だからこそお祝いなどの特別な時に「良い着物を着たい」と願う精神は残っていくとも思っています。同時に、温暖化や現代の生活に合わせて、袷から、軽やかな単衣やすずしを生かした着物へと、しなやかに変化させていく必要がありますね。

千利休がかつての豪華な染め物ではなく、もっと本質的な茶の湯の文化を求めたように、時代に合わせた美を紡いでいかねば、と思います。

「この世ならぬもの」で繋がる母娘の魂

イベントに登壇する志村洋子さん

野瀬:洋子さんから見て、母・ふくみさんとの関係性や、共通する芸術観はどこにありますか。

洋子さん:私たち、性格も見た目も趣味もまったく似ていないんですよね。母は『源氏物語』をはじめとする日本の古典世界に深く根ざしていますが、私はイスラム文化やキリスト教など海外の文化に興味が向きます。

ですが「この世ならぬもの」、人知の及ばない美しいものに対する敬意や、目に見えない世界への好奇心という根本の根っこは一致しているんです。私が何か面白いことを始めると、母も「私も混ぜて!」と乗ってくるようなチャーミングさもありました。

田中:根底では常に同じものを見つめていたということなのですね。だからこそおふたりの作品は響き合っているのだと感じました。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

イベントに登壇する志村洋子さん

撮影/五十川満

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