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軽やかに突き抜ける春カラー feat. 岡田育「きもの、着てみませんか?」 vol.5-1

軽やかに突き抜ける春カラー feat. 岡田育「きもの、着てみませんか?」 vol.5-1

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着物スタイリスト・薬真寺香さんのスタイリング連載第5弾。文筆家・岡田育さんをお招きし、晴天の東京タワーさながらにハイパワーな、トレンド感ある春の着物コーディネートを提案しました。

文筆家・岡田育さん、東京タワーでの着物姿

着物や和のこと以外の分野で活躍されている方をゲストにお招きし、着物スタイリスト・薬真寺 香さんによるスタイリングで着物姿になっていただきお話をうかがう本連載。

寂聴さんに見せたかった着物姿 feat. 瀬尾まなほ』に続き、シリーズ5回目となる今回は、文筆家・岡田育さんにご登場いただきました。

春らしいライトグリーンの付下げコーデ

『ハジの多い人生』(文春文庫)、『女の節目は両A面』(TAC出版)など、女性の素直な心を綴ったエッセイが共感を呼んでいる文筆家の岡田育さん。

会社員生活を経て、エッセイストとして独立。著作を多数発表するだけでなく、テレビでのコメンテーターを務めたりと多彩な活躍をし、2015年よりニューヨークに移住されました。

着物愛好家であり、最新刊『我は、おばさん』(集英社)巻末のジェーン・スーさんとの特別対談ではスーさんに着物の良さを伝えていらっしゃったりも。インスタグラムにはご自身の着物コーディネートを投稿されており、日々着物を楽しんでいらっしゃる様子が伺えます。

「普段はネットの古着屋さんで買うことがほとんど。ブーツや帽子と合わせるなどカジュアルミックスのコーディネートが多い」とおっしゃる岡田さん。

薬真寺さんが今回、お招きしたかった理由はどんなものなのでしょう。

春らしいライトグリーンの付下げコーデ

「育さんとは友人を介してプライベートでお会いしたのが最初でした。

それほど着物の話ばかりをしたわけではないのですが、『親族の結婚式で色留袖を着た際、やはり”格には格の良さ”があると感じた』とおっしゃっていたのが印象的で。楽に着られるのはすごく良いことなんだけど、時には張り切って装うのも着物の愉しさだと常々感じているので、カジュアル着物の旗手的存在の育さんからその言葉を聞けてうれしくなりました。

それと同時に、普段カジュアル寄りの方にこそ推したいフォーマルスタイリング、というテーマはおもしろいかも、と思ったのがオファーのきっかけです。

仕草や心持ちなど、スタイルの変化が他の部分にも影響する様子を見てみたかったこと、また育さんの言葉でそれを表現してくださるとしたらどんなものになるのか?ということにも興味がありました」(薬真寺)

春らしいライトグリーンの付下げコーデ

「自分の好みや生活様式に合うようにアレンジして着物を着たからと言って、昔ながらの良さや慣習を否定することにはならない。むしろ着物が日常着だった時代にこそ、みなさまざまなアイデアを取り入れていたはず。

”アレンジ”と”セオリー”、どちらをも生かすさじ加減と塩梅がその人らしい着こなしに繋がっていくと考えています」(薬真寺)

そんな今回の撮影に選ばれた場所は…… 東京のシンボル、東京タワー。

「今回は東京タワーさんにご協力いただき、展望台メインデッキや屋上など、塔内のさまざまな場所で撮影をさせていただきました。東京の着物、春めく着物、という趣向をお楽しみください」(薬真寺)

文筆家・岡田育さんの着物姿

古典柄とロケット、フォーマルとリラックス

今回薬真寺さんが選んだのは、訪問着に準じる”セミフォーマル”、付下げ。春を感じさせるライトグリーンが印象的な着物です。

「グリーン系はここ数シーズン、洋服やコスメでも注目されています。特にコスメはシーズン毎にグリーンのバリエーションが増えてぐっと身近な存在に。

そんな”今っぽさ”を感じさせる色味と古典的な魅力が共存したこの付下げは、”セミフォーマルを軽やかに着る”という今回のテーマにぴったりだなと感じました。爽やかで、いかにも春らしい雰囲気を演出できること、そして上質な絹地ならではの優雅な落ち感も決め手のひとつに」(薬真寺)

春らしいライトグリーンの付下げコーデ

通常の帯締めより細く、三分紐よりは存在感がある「四分紐」をあわせて。銀と白の配色が涼やかで上品

鮮やかで多幸感を覚えるカラーが、季節にパッと浮き立ち輝くさま。

京友禅作家・渡辺謙三氏による一枚は、染めつきの良さや加工の美しさから上質感があふれんばかりに。

和の色名で鶸色(ひわいろ)と呼ばれるライトグリーンの絹地には「吉祥宝尽し」文様が、ひとつひとつを慈しむかのように丁寧に、それでいてスマートにあらわされています。

古典柄ながら現代的な気配も香る、都会派モダンな華やかさが感じられます。

春らしいライトグリーンの付下げコーデ

鮮やかに独創性を放つ帯

帯にはなんと「ロケット」の姿が……!

数々の功績を残した染織家の巨匠・山鹿清華氏の図案を元に織り上げられた、綴れ織りの袋帯です。

ロケットの意匠の個性的な帯

『手織錦山鹿清華作品集(1972年)』にもおさめられた「噴花」の意匠。ロケットが煙の代わりに花を吹き出す独創的な図案は、”ロケット帯”としても知られる逸品です。

宇宙に飛び立つロケットと大輪の花が、小さな粒つぶを集めたような相良刺繍(さがらししゅう)にてあしらわれて。多彩の絹糸が使い分けられた刺繍ならではの立体感が、サーモンにも近いオレンジ色の綴れ地に際立ちます。

「着物とのバランスを考慮したのはもちろんですが、今回のキーアイテムである東京タワーとの相性が抜群で運命を感じました。春めいた雰囲気も出せるし、みつけた時には『もうこれしかない!』と」(薬真寺)

ロケット、と何度言い聞かせても、東京タワーのようにも見えるんですよね。ロケットも東京タワーもキラキラした未来の象徴としてたくさんの人が夢や憧れを抱いた対象であって、共通するイメージを感じたり。

高級感がありながら大胆でマニアック。ユニークで茶目っ気があって……というこの帯ならではの魅力はまさに、育さんのご著書やパーソナリティーから受ける印象にも通ずるものを感じました」(薬真寺)

春らしいライトグリーンの付下げコーデ

春めく大人の"こなれ感"ヘアメイク

付下げに合わせた春メイク

「”着物ヘア=アップスタイル”というイメージを持っていらっしゃる方も多いと思いますが、”ショートヘアに着物”もとてもステキです。

特にフォーマル着物の場合、ショートやボブならコンサバになりすぎず軽やかなスタイルが叶います」(薬真寺)

付下げに合わせた春メイク

「今回のヘアメイクは、”こなれ感”をテーマに。内側からじゅわっと発光するようなツヤを纏った肌に仕上げ、軽やかさと春の日差しのような柔らかさをイメージしました。

ヘアスタイリングに使用したのはグロスジェル。オイルよりしっかり、かつワックスより軽い仕上がりとなり、自然な抜け感や上質な濡れツヤ感を演出できます。

リップは”オレンジだけどオレンジすぎない”がポイント。オレンジすぎて浮いてしまうのは避けたく、赤みがあり、ちょっとくすみ感もある色で洒落感アップを狙いました」(薬真寺)

付下げに合わせた春メイク

着物で春を告げるおしゃれ

東京タワーでの撮影を終えた育さん、薬真寺さんのスタイリングについてこう語りました。

春めいたカラーの着物姿

「実際に着てみると内側から輝くようなグリーンでびっくりしました。

ショーウィンドウに映った自分の姿が、『私が春よ!』と言っているような、まさしく春を先取りした着物姿。

これは春の装いなんだって、東京タワーですれ違った外国人観光客や子供たちなど、着物のことをご存じない方にも伝わったと思います。ひと目でわかるのはすごいことですよね」(岡田さん)

着物には「何月には〇〇柄」「こういうシーンで〇〇は着ない」などといった慣習が多数あり、そこが着物を着るハードルをあげてしまっている場合も多いもの。

「こうしなきゃいけないという”ネガティブなルール”ではなく、梅の花を見れば春の訪れを感じる、風鈴の音を聞けば夏を思い出す、といったように、見る人の目を喜ばせ、みんなで季節を感じるための工夫や心配りなのだなという気づきがありました。

普段の着物は自分の都合で選びがちですが、花束を抱えて歩くときのように、周りの人に春を振りまくというおしゃれの仕方があることを体感させてもらいました」(岡田さん)

東京タワーをバックに・岡田育さんの着物姿

インタビュー編もお楽しみに

次回は、インタビュー前編を3月下旬に公開予定。

岡田さんが40歳になって着物を着るようになったきっかけや、岡田さん流の着物の楽しみ方についてお伺いします。

※半衿、帯締め、帯揚げはスタイリスト私物

構成・文/青葉鈴 greenery_aoba
撮影/坂本陽 minami.camera
ディレクション・スタイリング・着付け・ヘアメイク/薬真寺 香 ___mameka_

撮影協力

「東京タワーで、あいましょう。」計画
https://tta-keikaku.jp/

特別協力

株式会社TOKYO TOWER
https://www.tokyotower.co.jp/

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