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「”強い”では満足できない。”怪物”と言われたい」 柔道金メダリスト・パリ五輪代表 阿部詩さん(インタビュー後編)「きもの、着てみませんか?」 vol.6-3

「”強い”では満足できない。”怪物”と言われたい」 柔道金メダリスト・パリ五輪代表 阿部詩さん(インタビュー後編)「きもの、着てみませんか?」 vol.6-3

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日本柔道史上最速でパリ五輪代表に選出された阿部詩さん(パーク24所属)。きょうだいでの二連覇を狙います。スタイリング編、インタビュー前編に続く最終編では、兄・阿部一二三選手との新たな取り組みや、柔道を志す子どもたちに向けての想いをお伺いしました。

インタビュー

パリ五輪へと架ける和製トリコロールの振袖 feat.阿部詩「きもの、着てみませんか?」 vol.6-1

インタビュー

キラキラした未来を見据える瞳 柔道金メダリスト・パリ五輪代表 阿部詩さん(インタビュー前編)「きもの、着てみませんか?」 vol.6-2

後進を育てる『ABE CUP』を主催

阿部詩さんが纏う職人技が光る振袖

2023年6月、出身地である兵庫県で兄・阿部一二三選手とともに『ABE CUP 2023 -JUDO School&Friendly Match-』を主催した阿部詩さん

小学生を対象とした柔道教室と大会は大盛況のうちに幕を閉じ、会場全体が熱気に包まれました。

開催のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

阿部詩さんが纏う職人技が光る振袖

阿部詩さん(以下、阿部さん):「自分たちの名前がついた大会ができたらいいね」と、以前から家族で話していました。

引退してからそういった活動をされる選手はいらっしゃいますが、現役中にというのはなかなかないので「いつになるかな」と思っていたくらいだったんですが、周りに話しているうちに次々と協力してくださる方が現れて……現役の間に実現できたのはうれしかったですね。

とても楽しそうな子どもたちの様子を間近で見れて、私も楽しかったです!

薬真寺香(以下、薬真寺):現役のスター選手に会えるなんて、子どもたちにとっては本当に特別な出来事ですよね。

阿部さん:私自身、小さい頃一緒に練習してもらったり声をかけてもらった選手のことは、今でもよく覚えています。だから私もできるだけたくさん声をかけるようにしていて、少しでも子どもたちの”頑張れるパワー”になったらいいなって。

阿部詩さんが纏う職人技が光る振袖
阿部詩さんが纏う職人技が光る振袖

阿部さん:最近は小学生の試合を見る機会もなかなかありませんでしたが、みんな上手でびっくりしました!

競技人口自体は減ってしまっていますが、技術は落ちていない。むしろレベルアップしていると思います。私が小さい頃は、小学生なら一つの技を覚えてそれだけで戦ったり、道場の特色が出やすかったりもしたんですが、小学生でも寝技ができたり、いくつも技が出せたりとレベルが高かったです。

薬真寺:『ABE CUP』で出会った子どもたちのなかから、世界で戦う選手も出てくるかもしれませんね。

阿部さん:出てくると思います!いつか「世界選手権に出ました」「五輪選手になりました」と声をかけられる日が来たらものすごくうれしいですね。2023年が初めての開催でしたが、今後も続けていけたらいいねと家族で話しています

引退したら子どもたちを教えたい

阿部詩さんが纏う職人技が光る振袖

薬真寺:引退後も指導者として子どもたちと関わりたい、とおっしゃられていますね。

阿部さん:自分の道場を持って小さい子たちに教えたいです。普通の道場じゃおもしろくないので、少人数制でアカデミー的な。身体を動かすだけでなく、考えるようなことも取り入れた新しいスタイルが作れたらな……なんて考えています。

柔道の楽しさ、すばらしさを伝えられる指導者になりたいです。「仕事」というよりも、私はずっと柔道に関わって生きてきたので、今後もそうでありたいなという気持ちです。

阿部詩さんが纏う職人技が光る振袖

阿部さん:ただ、言うのは簡単ですが、実際に行動する、実現するというのは大変なことだなと『ABE CUP』主催を通じて実感しました。

『ABE CUP』は周りの方のたくさんの協力があって実現できましたが、段々とそういった部分も自分でしていかなきゃ、と感じています。引退した後の方が大変そうだなと。

薬真寺:以前テレビで、タフティング(タフティングガンで布に糸を通し、ラグなどを作る手法)に挑戦されている姿を拝見しました。完成したラグを前にして「普段、柔道という完成することのない競技に向き合っているから、日常で小さな完成形やゴールを感じられるものが好きなのかも」とおっしゃっていたのがすごく印象的でした。

阿部さん:あはは、そんなこと言ってましたかね。ちょっと恥ずかしいですけど、我ながらかっこいいこと言ってますね(笑)。タフティングは楽しかったです。作業している間、無になれるのがよかったですね。

阿部詩さんが纏う職人技が光る振袖

薬真寺:他にも「無になりたい時にはこれをする」というのはありますか?

阿部さん:なんだろう……お皿洗いとか!?

薬真寺:”無になれる感”がありますね!水が流れていく感じや流水音も良いのかも。

阿部さん:確かに!温泉とかサウナも、頭のなかをすっきりさせたいなと感じた時に行ってますね。

阿部詩さんが纏う職人技が光る振袖

普通の”強い”では満足できない。”怪物”になりたい

阿部詩さんが纏う職人技が光る振袖

薬真寺:今日いろいろとお聞きするなかで、詩さんは質問へのお答えがすごく早いなと感じました。お話しもわかりやすくて。

阿部さん:ありがとうございます。でももともとは、自分の気持ちを伝えるのは苦手なタイプなんです。ある意味取材で鍛えられたというか、質問してもらって答えていくうちに「ああ、自分ってこんなこと考えていたんだ」と気づくことも多いです。(考えが)整理されていくような感じ。

阿部詩さんが纏う職人技が光る振袖

薬真寺:「阿部詩は強すぎておかしい、怪物だって言われたい」っておっしゃってたの、すごく好きです。

阿部さん:普通の”強い”じゃ満足できないってことなんです。ほんっとに負けず嫌いなんですよね、私。日常生活にあまりこだわりがないのも、柔道以外のことにパワーを使いたくない、というのが大きいと思います。柔道のことでは誰にも、何にも、負けたくないんです。

柔道は自分そのもの。私の人生は柔道で作られているという感じです。だからしんどくても辞めたいとか、嫌だとか思ったことは一度もないです。

阿部さん:でもそれは同時に、すごく幸せなことなんだと思います。自分の好きなことが見つからず苦しいという人もたくさんいるなか、私は5歳で出会えていますから

阿部詩さんが纏う職人技が光る振袖

薬真寺:詩さんを通して、柔道という競技の面白さに出会った方もたくさんいると思います。私もそのうちの一人です。パリ五輪が今からとても楽しみです!今日は本当にありがとうございました。

阿部詩さんが纏う職人技が光る振袖

振袖

NISHIOKA PENCIL / 制作:EMON / 染め:あけ田
https://www.instagram.com/nishiokapencil_official/

刺繍アクセサリー

刺繍作家・高澤恵美
https://www.instagram.com/emi.takazawa/
http://emitakazawa.com/

構成・文/青葉鈴 greenery_aoba
撮影/坂本陽 minami.camera
ディレクション・スタイリング・着付け・ヘアメイク/薬真寺 香 ___mameka_

※半衿、帯締め、帯揚げはスタイリスト私物

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