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心で着る着物、想いを繋ぐ映画  俳優・映画監督 サヘル・ローズさん(インタビュー後編)「きもの、着てみませんか?」vol.11-3

心で着る着物、想いを繋ぐ映画  俳優・映画監督 サヘル・ローズさん(インタビュー後編)「きもの、着てみませんか?」vol.11-3

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薬真寺香さんがスタイリングした着物に中東を感じるというサヘル・ローズさん。映画や舞台を通して親しんできた着物について、そしてサヘルさんご自身が監督を務めた映画『花束』の舞台裏についてお聞きしました。

2025.04.12

インタビュー

きもの、着てみませんか?

旅館の女将役を通して「着物と友達になる」

薬真寺香(以下、薬真寺):映画や舞台など、お仕事で着物を着ることもありますよね。

サヘル・ローズさん(以下、サヘルさん):映画で初めて着たのは『ペコロスの母に会いに行く』(森崎東監督・2013年)でしたね。長崎の旅館の女将の役でした。立ち上がり方、座り方、手首の使い方など、ひとつひとつの仕草をお芝居の中で教えていただいて。同時に長崎弁も覚えなければならなくて大変でしたが、女将として「着物と友達になる」という気持ちで臨んでいました。

薬真寺:「着物と友達になる」って、素敵な表現。着付けもその時に勉強されたんですか?

サヘルさん:着付けは舞台で覚えました。江戸川乱歩の『陰獣』という舞台で静子役を演じたのですが、映画よりも、舞台の方が難しかったですね。

俳優・映画監督サヘル・ローズさんが纏う、アートな着物

サヘルさん:お稽古の時は浴衣で、本番は着物だったんですけど、いろんな動作をしていると崩れてきてしまいます。それをどう直していくのかとか、早着替えのときの紐の順番や巻き方などを覚えたりだとか。

一生懸命覚えました。私が外国人だから、ということで逃げたくはなかったんです。

薬真寺:すごい。かっこいいです。撮影を通して着物に対するイメージ、捉え方は変わりましたか?

サヘルさん:より着物のことが好きになりました。自分にとって、どんな服を着るよりも、着物がすごくしっくりくるな、と思って。

昔はこうやってきていたんだろうな、というのも感じられましたね。私たちが日常の中で洋服を選ぶように、衿の色は何色にしようとか、行く先がフォーマルな場なのか、カジュアルな場なのかとか、そういうことを考えて選ぶ楽しさがあって、着る時の気持ちを考えるようになりました。

俳優・映画監督サヘル・ローズさんが纏う、アートな着物

サヘルさん監督作『花束』の製作を後押しした、岩井俊二氏の言葉

俳優・映画監督サヘル・ローズさんが纏う、アートな着物

薬真寺:サヘルさんが監督をされた映画『花束』を、今年の春に渋谷の映画館で拝見しました。実は、今日衿もとに合わせたスカーフは『りんごのブーケ』という作品なんです。映画のタイトルとも繋がるな、と思いセレクトしました。

あらためて、監督を務めることになった経緯について聞かせていただけますか?

サヘルさん:(映画『花束』の)完成まで7年かかったのですが、当初は自分が監督をするつもりなど全くなく、企画を提供したいだけだったんです。この映画は児童養護施設で育った8人の少年少女が主人公で、ドキュメンタリーとノンフィクションとドラマが融合した作品。このアイデアに対して、いろんな流れがあって、映画監督の岩井俊二さんから「サヘルが撮りなさい」と言われたのがきっかけでした。

俳優・映画監督サヘル・ローズさんが纏う、アートな着物

サヘルさん:岩井さんが「いろんな傷を抱えている人間が、表現者として一番いいものを出せる。自分の傷や闇を抱えている人がものづくりをした方がいい」と声をかけてくださって。私自身の生い立ちと被る部分もあるということで、背中を押してくださいました。

薬真寺:岩井俊二さんの言葉、説得力がありますね。先日開催された、サヘルさんや岩井さんが登壇されていた対談イベント『Hanataba Fes vol .1』にも伺ったのですが、映画に出演していた若者たちの“いま” の言葉を聞けた、貴重な機会でした。

映画に出演されていたお一人が、施設で暮らした子ども時代を「先生がコロコロ変わることが悲しかった。⚪︎⚪︎先生はもう来ないよと突然告げられるのが辛かった」と振り返り、「これが一番問題なんじゃないかと感じ、現在は児童養護施設職員の雇用に関する仕事をしている」と話していたのが印象に残りました。

俳優・映画監督サヘル・ローズさんが纏う、アートな着物

薬真寺:他にも心を揺さぶられた発言がいくつもあって。彼らの言葉を聞き、会場の熱気を肌で感じながら、このすべては映画『花束』から始まったんだなと思うと、いち視聴者として感慨深かったです。

そもそも、この企画自体はどんなことから着想を得たんですか?

サヘルさん:私個人として15年以上、児童養護施設の支援をさせていただいています。でも、この支援というのは私自身が亡くなったら途絶えてしまうんですよね。それに、個人で支援をしていても全員を救えるわけではありません。社会もそう簡単に変えられるものではない。だけど、ロールモデルを作ることはできると考えたんです。

俳優・映画監督サヘル・ローズさんが纏う、アートな着物

サヘルさん:映画という作品であれば、たまたま映画館で出会って、社会問題に気付くきっかけになるかもしれません。それに、映画だったら100年後にも残せます。

薬真寺:たしかに。私自身も漫画(『Sunny』松本大洋・作)がきっかけで児童養護施設で着付けをさせていただく活動に繋がっているので、視聴体験・読書体験が人生に与える影響はひしひしと感じています。

2025.07.18

ライフスタイル

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映画を通してなくしたい差別や偏見

薬真寺:これまで俳優として活躍されてきたサヘルさんが初めて監督を務めた映画『花束』ですが、制作において特に大切にしたのはどんなところでしたか?

サヘルさん:出演者の8人が、自分の生い立ちを否定するのではなく、この映画が自信につながったらいいなと思っています。自分たちの人生を、これから誇りに思ってもらえるような機会をプレゼントしたい、という思いで『花束』を制作しました。

同時に、彼らの人生を預かったという責任もすごく感じています。彼らは自分の顔と名前を出してスクリーンに出てくれていて。撮影されるまでの間にどんな準備をして、どんな気持ちで関わってくれたのかがわかっている分、やっぱりたくさんの人に見てもらいたいなと思いました。映画が完成してから、監督って急に一人ぼっちになるんですよ。でも、少しずつでも上映してくださる映画館や機会を増やしていけるように努めています。

俳優・映画監督サヘル・ローズさんが纏う、アートな着物
俳優・映画監督サヘル・ローズさんが纏う、アートな着物

薬真寺:俳優としてのご経験が生かされた点もありましたか?

サヘルさん:私自身、これまでイラン人という理由でテロリストの役を与えられる機会がとても多かったんです。そういう作品が増えてしまうと「イラン人=テロリスト」というような印象を抱いてしまう人が増えますよね。

同じように、ドラマや映画で描かれる犯人の生い立ちとして、児童養護施設の出身者という設定が多くあります。私はそれに気づいたとき、とても悔しくて。施設の子たちがそういう偏見や差別にさらされているわけです。彼らは、生まれてくる環境を選べなかった。そういう現状を知ってもらいたい、という動機が芽生えたのは、俳優としての経験があってのことだと思います。

俳優・映画監督サヘル・ローズさんが纏う、アートな着物

サヘルさんが感じた、着物が紡ぐ絆

薬真寺:映画『花束』には着物のシーンもありますよね。印象的でした。

サヘルさん:嬉しいです!主人公のうち一人がお琴を弾いているんですけど、やっぱりどうしても着物を着てもらいたくて。スタイリングとして取り入れてもらいました。私が着物が好きすぎる、という理由もありますが(笑)。

俳優・映画監督サヘル・ローズさんとスタイリスト薬真寺 香さん
俳優・映画監督サヘル・ローズさんとスタイリスト薬真寺 香さん

薬真寺:わかります、私も着物が好きすぎるんです(笑)。映画やドラマに着物のシーンがあると嬉しくなっちゃう。『花束』はまさか着物が出てくると思っていなかったので、余計にぐっときました。

サヘルさん:香さんは着物に愛されていますよね。香さんも着物を愛してるけど、同じように着物から愛されてるなって感じる。だから今日のようなコーディネートも選べるんだと思いました。

サヘルさん:私は着物という文化が、もっともっと大事にされたらいいのに、と常々思っていて。糸を紡ぐ人、染める人、デザインを考える人、そして着る人がいてこそ、代々受け継がれていくものですよね。

お母さんが着ていたものなど、家族の思い出でもあると思うんです。着物のそういう役割を通して、祖先との絆を感じられるのはすごく大事だなと。

薬真寺:「もの」だけでなく、「こころ」も一緒に受け継ぎますよね。私は昔からお下がりをいただくことが本当に多いんですが、着物を始めてからはなおさら、自分の祖母から始まり、友達のお母さん、同じ誕生日だからと目をかけてくださった方、同業の先輩、ご近所でお世話になった方など、あらゆる方から帯や着物などを受け継いでいます。

もともと所有していた方の美学や背景と、いまの自分が好きなものが混在するコーディネートが出来上がるのは、説明しがたい達成感と嬉しさがありますね。サヘルさんがつけてらっしゃるリングも、今日の衣装にもぴったりだし、ストーリーを感じさせる魅力があるなと思い、「そのまま、撮影中も外さないでいただけますか?」とお願いしました。

俳優・映画監督サヘル・ローズさんが纏う、アートな着物

サヘルさん:まさに、このリングは養母のひいおばあちゃんのものなんです!香さんが選んでくださったこの帯留めも、モスクのタイルのようで、このリングにもピッタリ合うなと思っていました。

薬真寺:ありがとうございます。「その格好で家から来た」と思われるくらい自然な仕上がりを理想としているんです。だからご本人に「馴染む」と感じてもらえるのは何より嬉しい。

今日はサヘルさんの着物への愛、映画への愛、たくさんお話を聞かせていただきました。

サヘルさん:着物も映画も、どちらも作り手の想いも深いですし、語り合うコミュニケーションのきっかけになるものですね。私は本当に着物が好きで、外国の人が着ているとかではなく、日本の心を感じ取りたいという気持ちが大きな背景としてあります。

俳優・映画監督サヘル・ローズさんが纏う、アートな着物

サヘルさん:やっぱり、“何人”であるとかは関係ないと思っていて。心からその国の文化を愛していたり、尊敬を持つということが大事なんじゃないかな、と思っています。今日のお着物は、セレクトも本当に素晴らしくて「心で着る」という体験ができた気がします。

薬真寺:なんていい言葉。いま気がつきましたが、私もいつも「心で着てほしい」って思っているのかも。そう願いながらスタイリングや着付けをしているような気がします。

宝物のような言葉をたくさんいただきました。今日は本当にありがとうございました!

俳優・映画監督サヘル・ローズさんとスタイリスト薬真寺 香さん

スカーフ・バッグ:HERALBONY
LOOK1
シルクスカーフ『りんごのブーケ』(Yuh Mitani)
スカーフコンビレザーミニバッグ
シルクスカーフ『青春のバラード』(Keisuke Mori)
LOOK2
スカーフコンビレザートート
シルクスカーフ『ヴェネチアのフルーツ船』(Hiroshi Yoshida)

撮影協力/Shinzone表参道本店

構成・文/山本梨央 dejane_rio
撮影/坂本陽 minami.camera
ヘアメイク/尾口佳奈
ディレクション・スタイリング・着付け/薬真寺 香 ___mameka_

※かんざし、コート、襦袢、半衿、帯留、帯締め、帯揚げはスタイリスト私物

2023.02.15

インタビュー

イチゴイニシアチブ主宰 市ケ坪さゆりさん

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