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寂聴さんに見せたかった着物姿 feat. 瀬尾まなほ「きもの、着てみませんか?」 vol.4-1

寂聴さんに見せたかった着物姿 feat. 瀬尾まなほ「きもの、着てみませんか?」 vol.4-1

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着物スタイリスト・薬真寺香さんのスタイリング連載第4弾。昨年永眠された瀬戸内寂聴さんの秘書・瀬尾まなほさんをお招きし、寂聴さんのエピソードもちりばめた秋の京都に馴染む着物コーディネートを提案しました。

寂聴さん秘書・瀬尾まなほさんの着物姿

着物や和のこと以外の分野で活躍されている方をゲストにお招きし、着物スタイリスト・薬真寺 香さんによるスタイリングで着物姿になっていただきお話をうかがう本連載。

“意外性”で自分らしく着こなす feat. 作家・綿矢りさ』に続き、シリーズ4回目となる今回は、瀬戸内寂聴さん秘書・瀬尾まなほさんにご登場いただきました。

瀬尾まなほさん

昨年11月、多くの方に惜しまれつつ満99歳で永眠された瀬戸内寂聴さん。その多岐に渡る活動を秘書として支え寄り添い続けたのが、瀬尾まなほさんです。

寂聴さんに宛てた手紙を「文章が素直で良い」と褒められたことをきっかけに、2017年6月より共同通信社の連載『まなほの寂庵日記』をスタート、同年11月に出版したエッセイ『おちゃめに100歳!寂聴さん』(光文社)がベストセラーに。

他の著書に『寂聴先生、ありがとう』(朝日新聞出版)、『寂聴さんに教わったこと』(講談社)、『#寂聴さん 秘書がつぶやく2人のヒミツ』(東京新聞)などがあります。

「年齢差66歳、”作家と秘書”という関係でありながら、軽口を交わし合うおふたりの姿をテレビや雑誌で目にされた方も多いのではないでしょうか。まさに私もその一人なんですが、まるでおふたりが姉妹か女子高生みたいで、でも、強い信頼で結ばれているのが伝わってきて。画面に釘付けになってしまったのを覚えています」と薬真寺さん。

瀬尾まなほさん・寂庵の門の前で

瀬尾まなほさん・寂庵の門の前で

撮影で訪れたのは『寂庵』。寂聴さんの開いた寺院であり、住まいでもあった場所です。

さらに寂庵のある奥嵯峨の街並みにも足をのばし、秋晴れの空の下、寂聴さんの”俤(おもかげ)”とともに撮影はスタートしました。

寂聴さんに恥じないスタイリングを

毎回ゲストにまつわる下調べを重ねたうえで、独特な視点からイメージをふくらませてスタイリングをする薬真寺さん。

「今回いつものスタイリングと違ったのは、瀬尾まなほさんご本人はもちろん、寂聴さんにもいいね、と思っていただけるものを目指そう、と考えたところです」

花織を着た瀬尾まなほさん

「寂聴さんの小説や随筆には着物が出てくることが多いんですが、その描写の力がとにかく強くて。着姿やその場の情景、空気感…、書かれていない匂いまでがくっきりと浮かび上がったりするんです。相当着物のことを知っている方なんだろうなと感じる反面、子どもの目で見たまま、そのまんまに書かれてるようでもある。

何よりすごいなと感じたのは、足さばきなどの着物の仕草や、“無造作にざくざく着た” ”柔らかな和服を皮膚のように着こなして”など、色柄や技法以外の表現でも登場人物の性格や状況、背景を伝えてくれるところ。

いつの間にか、瀬戸内作品は着物の描写を待ち侘びながら読むようになりました。

そんな寂聴さんが今回の撮影を覗いてくださっているとしたら……『まなほ、それ全然似合ってない』などと言わせるわけにはいかない、と思って。

寂庵という空間にも馴染むように、そして寂聴さんにも気に入っていただけますようにと。そんな気持ちでのぞみました」

選んだのは日本最西端の島で産まれた、与那国花織の紬。

「まなほさんのご著書やインタビューを拝見し、ピュアで優しい、周りの人みなを元気にしてくれる方という印象を持っていたので、黄色や橙、ライムグリーンなど柑橘を思わせる色味を取り入れようと考えました。肌の色や雰囲気にもお似合いになるだろうと思って。

なかでも黄色は寂聴さんもお好きな色だったこと、今年刊行されたまなほさんの最新著作の装丁にも使われていたことなどからイメージが膨らんでいたなか、この花織に出会い、これだ!となりました。

淡く優しい風合いの黄色ですが、野生味やたくましさ、それから南国生まれ独特の朗らかさも感じられます。

例えば家の箪笥にこの着物があればさぞ頼もしいだろう、そんな部分もまなほさんのイメージに合うと感じています」

嵯峨野の町並みにて・瀬尾まなほさん

素朴で気取りがないのに洗練された、どこか都会的な雰囲気を感じさせる着物。

与那国の草木で染められた生地は、寂庵の庭や奥嵯峨の街並みにもおだやかに調和します。天然染料ならではの落ち着いた趣のある色合いは、子どもっぽくならず上品な印象を与えてくれます。

”俤(おもかげ)”を感じながら

日本を代表する伝統的な型染めの技法である紅型(びんがた)のもの。インパクトの強い柄を淡く優しい紫でそっと包んでいるような、奥行きを感じさせてくれる帯です。

紅型の名古屋帯

独自の染技で育まれてきた沖縄の染物は、鮮明な色彩、大胆な配色、図形の素朴さが特徴で、琉球独特の雰囲気を放ちます。

何度となく衰退の危機を辿りながらもその世界を守り続け、今なお生み出される新しい感性。そんな紅型三宗家の一家、城間栄順氏の紅型九寸名古屋帯です。

2022.03.20

よみもの

城間栄順 米寿記念 「紅(いろ)の衣」展 沖縄・京都に続き、東京へ

描き出されたのは松梅に蝶という、城間家を代表する意匠のひとつ。刺繍や金箔を使わず、顔料の発色の鮮やかさと型のデザイン性で勝負した琉球紅型の力強さが感じられる逸品です。

「寂聴さんは『源氏物語』紫式部とも縁の深い方でしたが、86歳のとき匿名で”ケータイ小説”を書いて投稿し話題になっていたことがあります。そのときのペンネームが『ぱーぷる』だった。そんなあれこれがあって、紫も今回のコーディネートに取り入れたい色として意識していました」

嵯峨野の町に馴染むきもの姿

「また、蝶には亡くなった方の魂が宿るとも言われています。今回の撮影を寂聴さんにも見守っていてほしいなという希望も込めて、この帯を選びました」

そんな話をしていると、お庭に大きなアゲハ蝶が。まるで撮影を見届けようとしているかのごとく、長い間留まってくれていました。

お庭の蝶々

撮影 薬真寺 香

帯留め・帯揚げ

ともに瓢(ひさご)のモチーフで揃えられた小物たち。帯留めはアンティークのもので、珊瑚色の三分紐が清楚な可愛らしさを添えています。

帯留め、帯揚げは瓢で

着用時には無地のように見える帯揚げですが、実は六つのひょうたんが刺繍であらわされています。六揃いの「六瓢箪(むびょうたん)」は、「無病息災」の語呂合わせで長寿や健康の象徴、縁起物とされてきました。

「ひょうたんは酒器としても使われるものなので、お酒がお好きな寂聴さんに寄せた部分でもあります」と薬真寺さん。

ヘアスタイル

瀬戸内寂聴さん秘書・瀬尾まなほさん

「さりげなさ、素朴な可愛らしさを表現できるようなスタイルを目指しました。作り込みすぎない控えめなスタイルですが、左右で表情が変わるように工夫しています」

瀬尾まなほさんのきもの姿、ヘアアレンジ
瀬戸内寂聴さん秘書・瀬尾まなほさん。きものヘア

大切な人に見せたい着物姿

カメラに収められた着物姿の自分を見て、「瀬戸内に見て欲しかった」と呟いた瀬尾さん。

寂庵にて。秘書の瀬尾まなほさん

「着物のスタイリングって、こんなにもいろんなことを考えるものだとは思ってなかった。驚きました!瀬戸内にまつわるエピソードも、パッとネットで調べて出てくるものではないものばかり。

今すぐ瀬戸内が使っていた部屋に駆け込んで『先生見て!先生と私のことたくさん考えて選んでくれたんだよ!』って言いたい」と笑みをこぼしました。

インタビュー編もお楽しみに

次回は、インタビュー前編を10月下旬に公開予定。瀬尾さんと寂聴さんの出会いや、印象的なエピソードについてもお伺いします。

追悼 瀬戸内寂聴展

追悼瀬戸内寂聴展

会期:2022年10月12日(水)→31日(月)
会場:京都高島屋 7階グランドホール
ご入場時間:午前10時〜午後6時30分(午後7時閉場)
https://www.takashimaya.co.jp/store/special/setouchijakuchou/index.html ト
※最終日は午後4時30分まで(午後5時閉場)
※都合により、催し内容・会期等が変更または中止になる場合がございます。最新の情報は本ページをご覧ください。

主催:NHKサービスセンター、京都新聞
協力:新潮社、講談社、朝日新聞社、朝日新聞出版、岩波書店、エニー、KADOKAWA、河出書房新社、光文社、集英社、小学館、中央公論新社、日本経済新聞社、文藝春秋 後援:京都市、NHK京都放送局 企画協力:瀬戸内寂聴事務所、徳島県立文学書道館

※半衿、帯揚げ、髪飾りはスタイリスト私物

構成・文/青葉鈴 greenery_aoba
撮影/坂本陽 minami.camera
ディレクション・スタイリング・着付け・ヘアメイク/薬真寺 香 ___mameka_

取材協力

曼陀羅山 寂庵 
京都府京都市右京区嵯峨鳥居本仏餉田町7-1
定例行事の日以外は閉門
https://www.jakuan.jp/

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