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パリ五輪へと架ける和製トリコロール feat.阿部詩「きもの、着てみませんか?」 vol.6-1

パリ五輪へと架ける和製トリコロール feat.阿部詩「きもの、着てみませんか?」 vol.6-1

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着物スタイリスト・薬真寺香さんのスタイリング連載第6弾。東京2020オリンピックで史上初の「きょうだい同日金メダル」を獲得した柔道家・阿部詩さんをお招きし、日本の職人技が光る逸品を集めた”少し大人な”振袖コーディネートを提案しました。

金メダリスト・阿部詩さんが纏う振袖

着物や和のこと以外の分野で活躍されている方をゲストにお招きし、着物スタイリスト・薬真寺 香さんによるスタイリングで着物姿に、そしてお話をうかがっていく本連載。

シリーズ6回目となる今回は、東京2020オリンピック金メダリスト、そしてパリ2024オリンピック出場を控えた柔道家・阿部詩さんにご登場いただきました。

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

5歳で兄・阿部一二三さんの後を追い柔道をはじめた詩さん。幼い頃から天才と噂され、数多くの大会で入賞・優勝を積み重ねていきます。

満を辞して迎えた東京2020オリンピックでは、夏季五輪史上初のきょうだい同日金メダルの獲得、そして日本人初の柔道女子52kg級優勝

輝かしい勝利の瞬間が記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

撮影で訪れたのは、阿部詩選手が所属されている『パーク24』の目黒道場

阿部詩さん一二三さんはじめ、数多くの選手が日々汗を流し研鑽を積んでいる神聖な場所です。

着付けを終えた詩さんが登場すると……

撮影現場には感嘆のため息がこぼれ、一気に華やいだムードに。

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

「今回のスタイリングは日本代表である阿部詩選手と、世界に誇る日本の伝統技術、職人さん方の競演をテーマにしました。オリンピック二連覇を狙う詩選手に向けてのエール、また、お守りのような装いになったらと」(薬真寺)

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

「青・白・茜」和製トリコロールに込められた想い

『NISHIOKA PENCIL AW 2022-23』として”Grateful”をテーマに製作されたこちらの振袖は、広告やロゴデザインなどを手がけるアートディレクター・西岡ペンシルさんが京都の工房・職人とコラボレーションし、友禅の新たな魅力を引き出すというコンセプトで製作されたもの。

「もともと西岡ペンシルさんのインスタグラムで拝見して印象に残っていたのですが、今回あらためて目にした時に、フランスの国旗・トリコロールが思い浮かびました赤ではなく茜色なので、”和製トリコロール”とでも呼びたくなるような。今年パリ五輪で世界と闘う阿部詩選手に着ていただけたら最高!と思い、すぐに西岡さんにご連絡しました」(薬真寺)

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

作品名は 『暈景(うんけい)』 青天

その名の通り、突き抜けるような眩しい青から裾へと続くグラデーションが美しく、染め分けられた景色のなかを丹後ちりめんの地に織られた鳳凰が舞っているかのような芸術的な逸品です。

京友禅の伝統的な技術やそれらを扱う職人、素材、道具などが年々減少の一途をたどっている現状、そのような状況において「存在することが稀である」「尊い」技術によって生み出される美意識を残すべく、「未来への宝物」になる着物を制作するという想いによって生み出されました。

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

瑞兆(おめでたいきざし)として出現する「鳳凰」が白生地全面に織り出されている

”Grateful”には「ありがたい」という意味が込められており、西岡ペンシルさんが抱く伝統技術や脈々と受け継がれてきた美意識への敬意、感謝の意もうかがえます。

制作は「EMON」さん、染めは京都の工房「あけ田」さん。

絵羽になった時につながるよう計算しながら反物を染めていく作業は、想像以上に複雑で、熟練の技が求められるところです。惜しみなく手間をかけ幾重にも重なる工程を経て、職人の個性が光る、柔らかく美しいぼかし染めが生み出されています

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

半衿は、アンティークの帯を解いて作ったものです。着た時に見える位置に出したい色柄がくるよう微調整し、左右非対称に仕上げました。鮮やかな色使いと大ぶりな刺繍でお顔まわりを華やかに」(薬真寺)

「技」の光る立役者たち

まばゆい輝きを放つ帯は、西陣の名門・川島織物による「絢爛大宝相華文」正統派の古典文様を織り上げた丸帯です。

表裏両面に柄のある丸帯は、制作にも倍の手間がかかり、昨今ではなかなか作られなくなった大変貴重なもの。しっかりと織り出されたオフホワイトの帯地に華やぎあふれる箔糸使いにて大きな宝相華の意匠が大胆かつ緻密に織り上げられています。

帯結びは文庫結びのアレンジに。今回のような別格級に上質な帯ほど、極力シンプルな帯結びにした方が良さが引き立つように感じます。

振袖=成人式というイメージが強いですが、もっといろいろな機会で着てもらえたらいいのに……と常々感じていて。成人式よりやや大人っぽい、落ち着いた振袖スタイルです」(薬真寺)

ヘアアクセサリー・帯留

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

上質な絹糸が何層にも重なった贅沢な美しさのあるヘアアクセサリー 『emi takazawa』「結(中・小)」「夏子」

ヘアアクセサリー、帯飾りとして用いたのは『emi takazawa』の刺繍花。群馬桐生市を拠点に制作を行う刺繍作家・高澤恵美さんが手がける横振(よこぶり)刺繍のアクセサリーです。

横振刺繍とは、群馬県桐生市の伝統工芸のひとつで、横振りミシンを使って製作される刺繍のこと。主に婚礼衣装などの刺繍をする際に用いるもので、一度縫った部分にまた色を重ねることで、まるで絵画のような立体感のある刺繍が生まれます

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

「『emi takazawa』の刺繍花は私にとって特別な存在です。はじめて作品を目にしたのはもう7、8年ほど前ですが、いつか、何かの機会で依頼できたらと切望していました。絹の光沢の美しさ、デザインのすばらしさはもちろん、細部にまで高澤さんの意志が行き届いているようで、温かさや、お守りのような効果を感じます」(薬真寺)

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

帯飾りには「秋子(小)」を。ヘアと帯の両方に刺繍花を配して凛とした気配を生み出す

ヘアメイク

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

「着物の裾の色、半衿の刺繍にあわせてアイメイクは茜色のグラデーションに」(薬真寺)

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

「リップは指原莉乃さんプロデュースの『Ririmew(リリミュウ)』ミューテッドシアーティント”02 ピンクフォンデュ”。しっかりと発色するけど透け感もあり、みずみずしく仕上がります。

メイク序盤に『TATCHA(タッチャ)』のリップマスクを薄くのばして唇の状態を整えるのも欠かせないひと手間」(薬真寺)

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

「詩さんがゲストで来てくださると決まった直後からメイクプランを練り始めましたが、当初は印象的なまなざしや凛とした表情をより強調するために、赤を効果的に使いたいと考えていました。衣裳が決定した後、より統一感を出すためにキーカラーを赤から茜色に

赤よりもインパクトは弱く柔らかい色味ですが、朝日を想起させ、”何かが始まりそうな予感”や”希望”という雰囲気をもたらしてくれたと思います」(薬真寺)

阿部詩さんが纏う、振袖・撮影で使用したブーケ

「中目黒の『FLOWERS NEST』さんにお願いしました。『阿部詩さんだったら、目力が印象的だから……』など、詩さんの魅力や衣裳の色味が活きる組み合わせをイメージしてくださったこと、また、花粉のない八重咲きのユリをセレクトいただくなど道場での撮影にも配慮いただきました」(薬真寺)

日本に古来から伝わる伝統技術、様々な産地・職人さんの想いを重ね合わせたような、特別感のあるコーディネート。

試合の時とはまた少し異なる柔らかな魅力で、素敵に着こなしてくださった阿部詩選手でした。

阿部詩さんが纏う、職人技が光る振袖

インタビュー編もお楽しみに

次回は、インタビュー前編を近日公開予定。詩さんの着物にまつわる思い出や、ファッションについての考えを伺いました。どうぞお楽しみに。

振袖

NISHIOKA PENCIL / 制作:EMON / 染め:あけ田
https://www.instagram.com/nishiokapencil_official/

刺繍アクセサリー

刺繍作家・高澤恵美
https://www.instagram.com/emi.takazawa/
http://emitakazawa.com/

構成・文/青葉鈴 greenery_aoba
撮影/坂本陽 minami.camera
ディレクション・スタイリング・着付け・ヘアメイク/薬真寺 香 ___mameka_

※半衿、帯締め、帯揚げはスタイリスト私物

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