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江戸の暮らしに思いを馳せて 料理家・和田明日香さん(インタビュー前編)「きもの、着てみませんか?」 vol.7-2

江戸の暮らしに思いを馳せて 料理家・和田明日香さん(インタビュー前編)「きもの、着てみませんか?」 vol.7-2

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料理家・食育インストラクターとして、テレビやラジオなどメディアでも引っ張りだこの和田明日香さん。薬真寺 香さんによるスタイリング編では、普段着としての最高峰ともいわれる結城紬を自然体で着こなしてくださいました。「着物は番組で着させていただいて以来」と話す和田さん。着物との関わり、興味のある江戸文化についてお話を伺いました。

2024.02.04

インタビュー

結城紬でおもてなし feat.和田明日香「きもの、着てみませんか?」 vol.7-1

学生時代に浴衣を一から縫い上げて

薬真寺香(以下、薬真寺):人生で最初に着物をお召しになったのは、いつぐらいだったか覚えていらっしゃいますか?

結城紬を纏って。料理家・和田明日香さん

和田明日香さん(以下、和田さん):最初は7歳の七五三のときですね。写真は残っているんですけど、あまり記憶がなくて。

むしろやり直したいのは、成人式ですね。叔母の着物を着させてもらったのに、チャラチャラした髪の毛にふわふわのファーを肩にかけて。早く着物を脱いで、二次会に行くことを考えていました。大事に思っていない着物の着方をしていて(笑)。

そういえば着物じゃないんですけど、中学のときに学校で浴衣を作る授業があったんですよ。それこそ反物を一反で買って、裁断も自分でして。それで着方も習ったんです。

薬真寺:すごい! その浴衣は何度か着られました?

和田さん:はい、昨年も着ました。そのときの浴衣ではないですが、夏に娘が「お友達と浴衣を着て出掛けたい」というので、一緒に着て

なので、着物を着た経験はあまりありませんが、浴衣は気が向いたら自分で着る、ということをしてきていますね。

結城紬を纏って。料理家・和田明日香さん

手ぬぐいを前掛け代わりに。江戸時代の粋を感じて

和田さん:今回、割烹着を着るものだと思っていたら、帯の隙間に手ぬぐいを挟んでいるんですね。江戸時代の人は手ぬぐいをエプロンや前掛け代わりにしていたんですか?

薬真寺:江戸後期あたりですと、町人の女性は小袖にたすき、前掛けや手ぬぐいを着用していたとされています。

今回は、前掛けの研究をされている方からアドバイスをいただいたこともあり、このスタイルを取り入れました。手拭いを挟んで前掛けの代用とする場合の資料写真も見せていただいたのですが、前掛けより手軽な印象だったので、”飾らない日常”を表現できるかな、と。スッと帯に引っ掛けて、ササっと手を拭く感じといいますか。

和田さん:粋ですねえ、こなれていますねえ……

薬真寺:実際に料理をするシーンの着こなしとしてリアルだなあと思ったのが、黒木華さんが出演されたNHKのドラマ『みをつくし料理帖』でした。黒木さんが着用されているたすきや前掛けが、擦り切れてしまった古い着物のまだ丈夫な箇所をリメイクしたのかな、と思わせる風合いや色味で、物語の世界に溶け込んでいて。

和田明日香さん料理風景

和田さん:いいですねえ。私は江戸時代が好きなので、時々そういう江戸の風俗がわかる作品に出会えると、本当にうれしいですよね。

薬真寺:いつから江戸時代を好きになられたのですか?

和田さん:本当にここ2〜3年なんですよ。六本木ヒルズの森美術館で、2020年に『おいしい浮世絵展 ~北斎 広重 国芳たちが描いた江戸の味わい~』という江戸時代の浮世絵に描かれている食べ物のシーンだけを集めた展覧会があったんです。料理家なので、食べ物の絵を見たくて美術館に行ったんですけど、もうそこで「ズキューン!」って(笑)。

薬真寺:江戸の風俗や暮らしを見て、ですか?

和田明日香さん土鍋をもつ

和田さん:そうです、そうです。浮世絵にきれいな女性が窓辺で湯豆腐をつついて、熱燗を飲んでいるところが描かれている。もう、かっこいい!! 私も畳の上で着物を着て、湯豆腐をつついて熱燗飲みたい(笑)!

江戸前の田舎握りの寿司だからシャリも今の2倍ぐらいあって、ものすごく大きい。お蕎麦屋さんも大八車に火鉢から何から全部乗せて、作ってはまた移動して別の場所でお店を開く。

薬真寺:髪結いもそうですし、店を持たず移動型が多いんですよね。

和田さん浮世絵に醤油も描かれているんですけど、当時の醤油は今、私たちが食べている醤油と同じ味がするのかなと想像したら、もうワクワクしてきちゃって(笑)。

薬真寺:江戸時代への興味にも、やはりご職業である食のことが関わっていたんですね。

和田さん:やっぱり食べ物が入り口になりましたね。

江戸の循環型社会に思いを馳せて

薬真寺:江戸時代に興味を持たれたのは展覧会がきっかけとのことでしたが、そのほかにも落語や講談などは聴いていらっしゃいましたか?

和田さん落語は高校生のときから好きで、寄席に聴きに行っていました。DVDも買ったりして。

薬真寺:高校生で落語を! 渋いですね。

和田明日香さん

和田さん:柳家喬太郎さんが好きで。喬太郎さんは、新作落語も古典落語もやられる方なので、噺が面白いなと思って聴いていましたね。噺をきっかけに江戸の風俗までは考えていなかったというか。

むしろ展覧会で江戸に興味を持ってから、昔読んだ司馬遼太郎さんの本を引っ張り出してきて、『燃えよ剣』などを読み始めたんです。でも男性が好みがちなイデオロギーのぶつかり合いよりも、町民の文化や市井の人の暮らしぶりに興味がいってしまう。

この季節には何をして、何を食べていたのか。どうやって子どもを育てていたのか。そういうことを知るほうが、ものすごく楽しくて。

2021.10.08

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和田さん:あとは、循環型社会がすごく理にかなっていたというか。着物も仕立てて、ほどいて、また仕立て直して。古着が基本だったんですよね。

和田明日香さんビールを飲む

薬真寺:今回お召しになっていただいた結城紬もリユースなんです。ひと昔前は「着物好きならリユースなんて邪道」とか、「着物をネットで買うなんて」という空気を感じる場面が稀にありましたが、今はほとんどないですね。昔ながらの循環の流れが蘇ってきた感があって、すごく良いなと私は思います。

ただ、脈々と受け継がれた技術を持つ職人さんが立ち行かなくなる事態も避けたいので、古いものと新しいものをうまく組み合わせていけるといいな、と。

結城紬を纏って。料理家・和田明日香さん

和田さんこのたすきは、たすきとして売っているんですか?

薬真寺:いえ、このたすきは腰紐なんです。私が着物を着て水仕事をしたときから、とりあえずで使ってみたら、なんとなく良いなと。女物の腰紐だと色味が合わなかったので、今日は男物の腰紐にしました。

和田さん:水ハネや油ハネが気になったら仕事にならないので、料理中に着物を着る機会って、なかなかないじゃないですか。だからもう、憧れのたすき掛けでしたね(笑)。うれしかったです。

和田明日香さんたすきがけ

薬真寺「和田さんはたすき掛けがきっとお似合いになるはず!」と思って取り入れたので、喜んでいただけて良かったです。結び目を蝶々結びにするとちょっと可愛くなりすぎちゃうので、「和田さんにはこの結び方かな……」と工夫しました。

襦袢のおしゃれも江戸風に

和田さん:今回、襦袢がとてもかわいかったです。小さいおかめがいっぱい描かれていましたよね?

結城紬を纏って。料理家・和田明日香さん

薬真寺:現代では白っぽい色やさりげない色柄の襦袢が多いんですが、江戸中期頃〜昭和初期頃までは多彩な色柄のものが好まれていました。

おかめも験担ぎで着るものですが、商売をしている方は大福帳の柄の襦袢を着たりして。贅沢を禁止して、倹約を奨励した奢侈禁止令の時代は、見えない部分のおしゃれを楽しんでいたんですね。

和田さん:ああ、裏地が派手とか!

薬真寺:そうなんです。あの時代に裏地や襦袢のおしゃれがものすごく進化したらしいです。制約があったらあったで、できるところでおしゃれをする。

和田さん:展覧会でも、琵琶をひく先生と生徒の3人の浮世絵があって。まさに奢侈禁止令の頃の浮世絵で、裏地がド派手で。真っ赤な生地が袂から覗いていたのが、もう、ゾクゾクして、たまらなかったですね(笑)。

和田明日香さん

インタビュー後編もお楽しみに

次回のインタビュー後編は、近日公開予定。

着物と食の親和性や、和田さんが日々大切にしている考え方について伺います。

半幅帯

メコンの国の手織り布 PONNALET
http://www.ponnalet.com/
https://www.instagram.com/ponnalet_hayama

構成・文/横山由希路 yukijinsky
撮影/坂本陽 minami.camera
ディレクション・スタイリング・着付け・ヘアメイク/薬真寺 香 ___mameka_

※帯揚げ、三分紐、帯留、長襦袢はスタイリスト私物

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