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きもので〝観劇デート〟はいかが? 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」vol.16

きもので〝観劇デート〟はいかが? 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」vol.16

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4月は、歌舞伎座『四月大歌舞伎』に心躍ります。坂東玉三郎の魅力を堪能する第三部へ。仲睦まじい伊織・るん夫婦にあやかって、パートナーや親しい方と、きものを一緒に着て観劇、というのはいかがでしょう。〝一緒に装う〟楽しみを味わいましょう。

さりげなく都会の喧噪に溶け込む

年が明け、寒さも本番です。渋谷で、熱気あふれる舞台を楽しみませんか?クドカンこと宮藤官九郎の脚本となれば、歌舞伎になじみのない方も気軽に見られそう。コートの下にわずかな春をしのばせる、そんな楽しみもありそうです。

玉三郎を見る4月

寒かった冬もようやく終わり、一気に春めいてきました。

重いコートを脱いで、軽やかに羽織を楽しむ季節の到来です。桜のたよりももうじき聞かれることでしょう。

4月は、歌舞伎座『四月大歌舞伎』(4月2~27日、11・19日は休演)に心躍ります。

坂東玉三郎の魅力を堪能する第三部はいかがでしょうか。

『ぢいさんばあさん』は夫婦の歳月をしみじみと描く物語。
『お祭り』は赤坂・日枝神社の山王祭を舞台にした舞踊劇で、芸者の玉三郎が若い者(中村福之助・歌之助)と踊ります。

『ぢいさんばあさん』は昨年、『十二月大歌舞伎』でも上演されました(伊織・るん夫婦は中村勘九郎と尾上菊之助)。

今回は、片岡仁左衛門と玉三郎が伊織とるんを演じます。
原作は森鷗外の短編小説で、宇野信夫が作・演出を担当した新歌舞伎。初演は昭和26年、東西同時上演でした。戦後ほどない時代の気分を色濃く感じさせる名作です。

旗本の美濃部伊織は、妻・るんを残し、二条城在番のため京都へ赴任します。
ところが、伊織は刃傷沙汰を起こして他家へお預けとなり、越前へ。夫不在の間、るんは一人息子を亡くし、大名家の奥女中として長い年月を過ごします。やがて伊織はゆるされて江戸へ戻ってきます。

若い甥夫婦が守っているかつての屋敷で、老夫婦は37年ぶりの再会を果たすのでした。そして、ふたりの〝新しい暮らし〟が始まるのです。

一緒にきものを着る楽しみ

そんな仲睦まじい伊織・るん夫婦にあやかって、パートナーや親しい方と、きものを一緒に着て観劇、というのはいかがでしょう。

劇場では街中以上に、きもの姿の男性を見かけます。最近では、お若い方が着ているのも目にするようになりました。

「着ていくところがないから」ときものに手が出ないのなら、ぜひ、劇場を「着ていくところ」になさってください。

ふだんは自分だけが和装という女性も、男性もきものとなれば、いつもとは違ったコーディネートが生まれてくると思います。

〝一緒に装う〟楽しみを味わいましょう。

男性のきものは女性ほど色柄のバリエーションは豊富ではありませんが、そのぶん生地の質感や微妙な色合いの違いを吟味します。

羽裏や羽織紐、履物に凝る方も多いでしょう。
女性のきものと同様、コーディネートの楽しみは尽きません。

男性が着物を着るメリットと正しい選び方

男性の着物は、格式高さや高額なイメージからハードルの高さを感じる方も多いですが、実は大いにカジュアルな着こなしを楽しむことができます。今回は、男性が着物を着るメリットと、着こなしのコツをご紹介いたします。日常と非日常をうまく使い分けることで、格好良く着こなすことができますよ。

「お召し」で歌舞伎座へ

歌舞伎座へのお出かけなら、男性は無地や、無地に見えるような細かい柄の「お召し」がぴったりです。

徳川将軍ゆかりの品格あるお召しのきものに羽織でどうぞ。

お対(アンサンブル)はもちろん、茶と薄茶など同系色の濃淡、異なる色など、きものと羽織の組み合わせはさまざまです。

足元は白足袋。

東京の旦那衆は昔から紺足袋ではなく白足袋です。かつての紺足袋は一度洗うと色があせてしまうので、白の方が好まれたようです。

そして、劇場ですから下駄ではなく雪駄を履きます。

手には信玄袋をお持ちになるのがよいでしょう。

さあ、おつれあいは何を着ましょうか。
付け下げ、お召し、小紋、紬などお好みでよいのですが、おふたりそろって調和のとれた姿になるように。

そこが〝江戸っ子らしい〟おしゃれです。

藤の花を纏う

付下げ着尺 「桐に松藤文」

4月、桜が終われば藤が咲きます。優美な藤の花を描いたきものや帯の出番です。

藤は古くから貴族たちに愛され、多くの古典文学にも登場します。

旺盛な生命力や繁栄を象徴する縁起のよい文様として装束に取り入れられてきました。

立涌に藤を組み合わせた「藤立涌」、丸くかたどった「藤丸」のような有職文様もよく知られています。

特に平安時代には、藤原氏の隆盛とともにさまざまな文様としてアレンジされました。

花房が上を向く「上がり藤」、下に垂れた「下がり藤」、菱形になった「藤菱」など、家紋にもなっています。

上がり藤
上がり藤
下がり藤
下がり藤
藤菱
藤菱

このような藤の文様は地紋に用いられるなどして季節を問いませんが、美しい花房を単独で表現するものはやはり、春ならではです。

きものも帯も藤の花ずくめで踊る『藤娘』は、題にこそ「娘」と付いていますが、歌詞は年を重ねて恋を経験した大人の女性のもの。
藤はどこか色っぽさのある柄でもあるのです。

垂れ下がる藤、松にからみながら咲く藤、藤棚…
きものや帯に写実的に描かれるだけでなく、刺繍したものも多く見られます。

季節が限られるきものや帯は着用期間が短いだけに贅沢なものといえ、あれこれ揃えるのは大変です。そんなときは小物で楽しむのもいいでしょう。

藤の花房を刺繍した半衿、帯留め、手ぬぐいなど、探せばいろいろ見つかります。
ちょっとしたものでも、優雅な春を纏っている気分になれそうです。

逼塞(ひっそく)の春を過ごすのも3年目。
心おきなくお出かけするには、まだ少し時間がかかりそうです。

「ああ、今年も藤の帯を締められなかった…」そんな言葉を言わずにすめばよいと思います。

監修:大久保信子
文:時田綾子

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