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きものの景色に溶け込む秋のおしゃれ 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.11

きものの景色に溶け込む秋のおしゃれ 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.11

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花魁の装いは夢を見るための世界のもの。私たちがまねするわけにはいきませんが、ここはひとつ、浦里の衣裳にちなんで、紅葉の文様を取り入れるのはどうでしょう。ちょうど、楓が色づき始めるころです。

はじまりはタモリ?

きものの暦では袷になりましたが、今年も単衣が手放せない暑い日が続きました。ようやく秋らしくなり、何を着ようか、どんなものと合わせようかと悩むのもまた楽しい季節です。

深まる秋、『赤坂大歌舞伎』(11月11~26日、18日は休演。TBS赤坂ACTシアター)を見に、芸能の街・赤坂へ参りましょう。
『赤坂大歌舞伎』は、2008年に十八代目中村勘三郎の発案で始まり、勘九郎・七之助兄弟が亡き父の思いを受け継いで公演を続けています。

その中から、『廓噺山名屋浦里(さとのうわさやまなやうらざと)』のご紹介です。

原作は、笑福亭鶴瓶が2015年に高座にかけた新作落語『山名屋浦里』。そして、さらにその元になっているのが、タモリがテレビ局のメイク室で鶴瓶に語った、扇屋の花扇という花魁(おいらん)の実話なのだそうです。

落語を聞いた勘九郎が、ぜひ歌舞伎にということで、2016年の『八月納涼歌舞伎』で初演されました。

男のまことに惚れた浦里

勘九郎演じる酒井宗十郎は、江戸御留守居役を命じられ、国元から江戸へ出てきたばかり。生来の生真面目さから、他藩の御留守居役たちとの交際が苦手で、「野暮天」だの「田舎者」だのと蔑(さげす)まれています。
あるとき、寄合で「江戸(吉原)でのなじみの女性」を紹介し合おうということになりますが、妻一筋の宗十郎は吉原に行ったことさえありません。宗十郎に恥をかかせようというイジワルなのです。

困った宗十郎は、江戸一の花魁、浦里(七之助)のいる山名屋をたずねます。花火の宵に、たまたま浦里を見かけ、心引かれていたのです。

寄合の席に浦里を、と言われた山名屋の主人は、廓の作法を知らない宗十郎の頼みを一蹴しますが、必死に主人に頼み込む宗十郎の話を聞いていた浦里はその思いを意気に感じ引き受けると言います。

そして、当日。浦里の登場に一同は肝を潰し、宗十郎は面目を施すのでした。

花魁の装いは豪華絢爛の極み

衣裳の見どころといえば、なんといっても浦里の花魁姿です。

歌舞伎には多くの遊女が登場し、その艶やかな姿で観客の目を楽しませてくれます。
豪奢な裲襠(うちかけ)に、俎板(まないた)帯といわれる胸から大きく垂れ下がった帯、多くの簪(かんざし)や、櫛(くし)で飾られた髪、三枚歯の高下駄…。背中に伊勢エビを背負った正月飾文様の裲襠や、鯉の滝登りの柄に金糸銀糸を垂らして滝の水を表現した端午の節句の俎板帯など、ファッションというより、もはやインテリアといってもよさそうなデコラティブな装いです。

浦里ももちろん、豪華に着飾っています。初演時の衣裳を見てみましょう。
白地に桜の文様の裲襠、俎板帯は鼓とひょうたんの柄に紅葉をちらしています。
花魁道中では、裲襠は紫、帯は薄い水色でしょうか、柄はともに流水に桜と紅葉です。

山名屋の中では、もう少し気楽な姿です。
紫の裲襠、胴抜(どうぬき=胴と袖に異なる布地を縫い合わせたもの)は菊の文様、白地の博多の半幅帯を前挟みしています。
黒の裲襠もあり、こちらは紅葉に青海波の文様です。やはり、白地の博多帯がのぞきます。

秋はやっぱり紅葉

花魁の装いは夢を見るための世界のもの。

私たちがまねするわけにはいきませんが、ここはひとつ、浦里の衣裳にちなんで、紅葉の文様を取り入れるのはどうでしょう。ちょうど、楓が色づき始めるころです。

春はお花見、秋は紅葉狩り、と日本人は桜と紅葉を愛でるのが大好き。

楓(紅葉)のきものや帯も数多く見られます。さまざまなものと取り合わせて秋の景色をつくりだすのです。皆さまも、おひとつはお持ちなのではないかしら。

袋帯「紅葉賀」
袋帯「紅葉賀」

「鹿と紅葉」なら「奥山にもみじ踏み分け鳴く鹿の…」の和歌を、「鳥兜(かぶと)と楽器と紅葉」なら『源氏物語』第七帖「紅葉賀」を、「笠と紅葉」なら謡曲『紅葉狩』を連想します。

紅葉の文様は文芸作品と深く結びついているようです。

なんといっても紅葉には「竜田川文様」という素晴らしい意匠があります。
紅葉の名所、竜田川にちなみ紅葉と流水を合わせたものです。古今和歌集の「竜田川もみじ乱れて流るめり…」から来ているそうですが、百人一首の「ちはやふる」の歌のほうがなじみ深いかもしれませんね。落語にもなっているくらいです。

浦里は、紅葉と青海波の裲襠を着ていますが、これもまた『源氏物語』。「紅葉賀」で、源氏の君は舞楽・青海波を優美に舞うのです。

袋帯 源氏物語千年絵巻「紅葉賀之の帖」
袋帯 源氏物語千年絵巻「紅葉賀之の帖」

紅葉は秋だけではありません。
桜と合わせたり、青楓とともに描いたりすることで、春でも秋でも身につけることができます。こうしたものを秋らしく着こなすには、紅葉の柄の帯揚げや、紅葉をかたどった帯留めなどを加えて、紅葉を強調するといいですね。色以上に柄の効果は大きいのです。

具象柄で季節を表現するのは、きものの特徴です。
自分が、きものや帯の景色の中にいるようなつもりで装いましょう。風景に溶け込むのは、きものの醍醐味であり、見る人にも季節を感じさせる日本ならではのおしゃれだと思います。

生菓子「高雄」

旬の食材を取り入れるだけでなく、見た目の季節感も大切にする和菓子の世界。季節を少しだけ先取りするところも、きものと通ずる心があります。共通する意匠やモチーフを通して、昔から大切にされてきた人々の想いに触れてみませんか。「一客一亭」のおもてなしを大切に上生菓子は予約制を貫く「亀廣脇」の秋の定番『高雄』をご紹介します。

秋の着物や舞台など

京都はGoToキャンペーンのおかげか、お昼間は観光の方が増えてきました。舞妓時代の知恩院さんにて行った撮影会の写真は、とっても赤く綺麗に紅葉していて…衣装もとても映えてお気に入りの一枚どす。

〝吉原の気分〟を味わう

吉原の遊女たちは、雲龍、飛龍、唐獅子、鯉の滝登りといった唐様趣味の裲襠や帯で、人の目を引きつけました。清朝の皇帝が着た「龍袍」の意匠を取り入れたのも吉原の女たちだったそうで、豪快な文様を着こなすさまが多くの浮世絵に残されています。

帯やきものに唐様趣味をチラリと入れて、ちょっぴり花魁気分を味わうのもいいかもしれません。

また、吉原ゆかりの文様としては「吉原つなぎ」があります。四角の隅をくぼませ、鎖のようにつないだもので、「郭(くるわ)つなぎ」ともいいます。吉原の引手茶屋ののれんに用いられたことからついた名で、男性のゆかたや小物の柄などに用いられています。

吉原つなぎの手ぬぐいをバッグにしのばせて、「廓噺」を楽しんではいかがでしょう。

綿麻浴衣「吉原繋ぎに鎌輪ぬ」
綿麻浴衣「吉原繋ぎに鎌輪ぬ」
手染め浴衣「吉原つなぎ」
手染め浴衣「吉原つなぎ」

そうそう、紅葉といえば。

「もみじが赤くなったら着て、桜が咲いたら脱ぐものはなんでしょう?」

答えは、「羽織」。
そろそろ、羽織のおしゃれを楽しむ季節でもあります。

監修:大久保信子
文:時田綾子

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