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千差万別、縞の魅力を味わう。 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.9

千差万別、縞の魅力を味わう。 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.9

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歌舞伎座が初日を迎える2日は、まだ夏の暑さが残っています。二十四節気の「白露」のころまでは、きものも帯も夏もので構わないと思います。今年(2021年)の白露は9月7日。白露を過ぎたら、少しずつ秋の装いへとかえていきましょう。

ホロリとする一世一代の恋

8月も後半となりましたが、今年は天候不順が続いています。みなさま、お変わりございませんか?
暑さが落ち着く9月まであと少し、夏きものを楽しみながら、歌舞伎座の「九月大歌舞伎」(9月2~27日、9・21日は休演)を待ちたいものです。

昭和を代表する小説家で劇作家、川口松太郎作の、第一部『お江戸みやげ』はいかがでしょう。楽しくて、ちょっと切ない幕切れが胸に染みる物語です。

中村芝翫演じる後家(未亡人)お辻は、反物の行商のため結城の里から江戸へやって来ます。同行するのは、同じく後家のおゆう(中村勘九郎)。

湯島天神で一休みしていたお辻は、宮地芝居(臨時に許可を得て、寺社の境内で興行する小屋掛け芝居)の役者である栄紫(中村七之助)を見て一目惚れ。本来は倹約家のお辻ですが、行商で稼いだ金子をすべて栄紫のために使ってしまいます。

最後に得たのは、栄紫の襦袢の片袖。お辻はそれを〝江戸みやげ〟に、結城へと帰って行きました。

江戸人は縞が大好き

この物語の登場人物の多くが、縞(しま)のきものを着ており、バラエティーに富んでいます。今回は、縞の装いを考えてみましょう。

ひとくちに縞といっても、太さも間隔もさまざまで、印象がまったく異なります。
たて縞、よこ縞、格子縞(格子も縞の一種なんですね)、よろけ縞、棒縞、矢鱈(やたら)縞、鰹(かつお)縞、子持ち縞、大名縞、千筋、万筋、歌舞伎役者の名を冠した団十郎縞、芝翫縞…と名前をあげればきりがありません。

木綿や麻、紬などの織りのものもあれば、やわらかものに染めた縞もあります。農村などに残された「縞帖」(自家用の織物のはぎれを張った柄覚え)を見ると、当時の工夫の跡がうかがえます。

また、政治の方針によって着るものが左右された江戸時代でも、縞については規制の外だったようで、庶民はオリジナリティーを追求していきました。それは、江戸の人々の美的感覚にもかなっていたのでしょう。

中でも、結城紬の縞は通人(粋な人)などに大人気。値段も高くなり、ブランドとして確立しています。

『お江戸みやげ』のお辻も、さぞや大きな売り上げがあったに違いありません。それをパーッと使ってしまうとは、なんとも豪儀なことです。

縞の魅力とは

縞のきものの魅力はどこにあるのでしょうか?

人間の丸みのある体に巻き付けることで、直線の縞がよろけたように波打ち、しなやかに、色っぽく見えるところにあると思います。もっとも、太い縞は太って見えますから、ほっそり見せたい方は、どうぞ細い縞をお選びくださいね。

縞のきものには、染めの名古屋帯が似合います。黒地に季節の柄を描いたものなどと合わせると、都会的でおしゃれな着姿になるでしょう。

とはいえ、縞によってはカジュアルな雰囲気がありますから、少し工夫が必要です。

以前、知人からきものを頂戴しました。それは無地の大島紬に縞を染めたものです。縞を織り出したのではなく、後染めで、レンガ色の地に茶や薄い緑の縞模様。これがオシャレで、とっても便利なのです。こういったものを探してみるのもよいかもしれません。

それから、「お召し」の縞もエレガント。

合わせるのは、縮緬でも塩瀬でも、お好みの染めの名古屋帯に、季節の柄や役者由来の柄、隈取りの柄なども劇場にはお似合いです。

将軍さまは何を着る?

お召しは「お召し縮緬」のことで、11代将軍・徳川家斉がお召しになったことから、その名が付いたといわれるのはよく知られています。江戸時代からすでに「お召し縮緬」の名は、世に出回っていました。

では、家斉がどんな柄を着ていたか、ご存じですか?

「くすんだ藍地に細い白のたて縞、6ミリごとによこ筋の入った格子柄」だったそうです。たいそう地味です。ところが、中には「緑の地に、白の3本線の格子柄」というのもあって、どうやらプライベートでは、将軍さまは「三筋格子」が大好きだったらしいのです。

三筋格子
三筋格子

これ、団十郎縞ですね。お芝居は大奥でも人気がありました。もしかしたら、将軍さまは團十郎を意識していたのかも、なんて想像するのも楽しいですね。

ここまで、ストライプを意味する柄を「縞」と表記してきました。今では「縞」が使われますが、かつては「嶋」でした。東南アジアの島々からもたらされたことに由来する、といわれていますが、どうやらもっと深いいわれがあるようなのです。
ご興味のある方は『近世のシマ格子 着るものと社会』(広岩邦彦著、紫紅社)をご覧になってください。

迷う9月の装い

さて、公演が行われる9月の装いを考えてみましょう。

従来のきもの暦では9月から単衣ですが、上旬は暑くて、とても単衣は…というのが本音です。さらに長雨や台風など気候も安定せず、9月は何を着たらいいのか分からない、迷う、という声もよく聞きます。

歌舞伎座が初日を迎える2日は、まだ夏の暑さが残っています。二十四節気の「白露」のころまでは、きものも帯も夏もので構わないと思います。今年(2021年)の白露は9月7日。白露を過ぎたら、少しずつ秋の装いへとかえていきましょう。
初秋のころには、無地の織りの帯や、季節の柄の染め帯などがぴったりです。

きものを単衣にしても、半衿や帯揚げなどの小物は、9月いっぱいは絽でよいのです。もっとも、秋の訪れが早い地方では10月を待たずに塩瀬の半衿にするそうですから、これも気候次第。寒々しく見えるのはいただけません。臨機応変ですよ。

いずれにしても、小物類は10月1日にはキッパリと切り替えましょう。

気候と体調とシチュエーションを考慮し、少しでも快適になるよう工夫して、きもの暮らしをお楽しみください。少々時季にかなわなくても、「私は、ちゃんと知っていて、あえてこうしているんですよ」と堂々と振る舞えるようなら、もう上級者です。

千穐楽は27日。秋の単衣を存分に楽しむ気候になっていることでしょう。

京都きもの市場 単衣一覧

監修:大久保信子
文:時田綾子

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