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“四十八茶百鼠”をまとう 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」vol.17

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「四十八茶百鼠」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。それぞれに、歌舞伎役者などの人名や花鳥風月からとった名前がつけられており、バラエティーに富んだ色の数々は、現代でも十分通用する素敵なものばかり…江戸の人たちが楽しんだ色を、私たちもまとってみましょう。

藤花 訪問着

4月は、歌舞伎座『四月大歌舞伎』に心躍ります。坂東玉三郎の魅力を堪能する第三部へ。仲睦まじい伊織・るん夫婦にあやかって、パートナーや親しい方と、きものを一緒に着て観劇、というのはいかがでしょう。〝一緒に装う〟楽しみを味わいましょう。

團菊祭は5月の風物詩

歌舞伎座の5月は、恒例『團菊祭五月大歌舞伎』(2022年5月2~27日、10・19日は休演)です。
一昨年と昨年は行われず、3年ぶりの開催となりました。

明治期に絶大な人気を誇った九代目市川團十郎と五代目尾上菊五郎の功績をたたえたもので、両家の得意演目などが並びます。

今年は、第二部で市川家の『暫(しばらく)』、尾上家の『土蜘(つちぐも)』が上演されます。

『暫』は、市川海老蔵演じる鎌倉権五郎(ごんごろう)が、罪のない人たちを悪人から救う物語。

「しばらく~」の大音声とともに現れ、悪人を退治し意気揚々と花道を引き揚げます。

『土蜘』は、能『土蜘蛛』をもとにした演目。病に伏す源頼光(尾上菊五郎)のもとに僧が祈祷にやってきます。

この僧は土蜘の精(尾上菊之助)で、本性を顕わすと千筋の糸をまき散らします。頼光配下の四天王がこれを退治するのです。

歌舞伎役者の名前の色

権五郎の衣裳に注目してみましょう。
衣裳も髪形も隈取もハデで、権五郎のスーパーヒーローぶりを強調しています。

なかでも衣裳は独特です。
柿色の大紋(だいもん)の袖は極端に大きく、市川家の定紋「三升(みます)」が白く染め抜かれています。柿色の大紋は、二代目團十郎が『暫』に用いて以来のものだとか。多くの浮世絵にも、現在と同じ権五郎の姿が描かれました。

柿色も市川家の色です。

さて、この柿色です。秋に赤く色づく柿の実の色、朱色に近い色を思い浮かべるかと思います。ところが、歌舞伎の世界で柿色というと、柿渋色をいい、團十郎茶がまさにこの色といえます。

團十郎茶
團十郎茶

團十郎が好んで用いたので「團十郎茶」と名がつきました。

歌舞伎役者たちの茶色好みは世間にも影響を与えたようです。

役者の名がついた茶色

初代尾上菊五郎(俳名·梅幸)が衣裳に愛用した「梅幸茶」、二代目瀬川菊之丞(俳名·路考)がはやらせた「路考茶」、ほかにも初代嵐璃寛の「璃寛茶」、三代目中村歌右衛門(俳名·芝翫)が好んだ「芝翫茶」など、役者の名がついた茶色はいろいろあります。

緑がかっていたり、赤みがあったりと色相もそれぞれです。

「四十八茶百鼠」は庶民の心意気

みなさまは「四十八茶百鼠」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

江戸時代の中ごろにかけて、都市部の町人たちは富を蓄え、衣服も贅沢になっていきました。幕府はたびたび、紅や紫、金糸·銀糸、総鹿子などの華美な衣裳を禁じるお触れを出します。

庶民は茶や黒、藍といった地味な色しかまとえなくなりましたが、その中で微妙な違いを追求していったのです。そうして生まれたのが四十八茶百鼠というわけです。

茶には48、グレーには100の色があったといわれていますが、実際の色数というより、それほど多かったということなのでしょう。

そして、それぞれに、歌舞伎役者などの人名や花鳥風月からとった名前がつけられました。

このようなバラエティーに富んだ色の数々は、現代でも十分通用する素敵なものばかり。銀座の洋服ブランド店のウインドーにもある色なのです。江戸の人たちが楽しんだ色を、私たちもまとってみましょう。

「茶」と「鼠」をまとう

取り入れやすいのは「百鼠」。

鼠01

桜鼠、梅鼠、深川鼠、鳩羽鼠…美しい名前がついています。グレーには無彩色ならではのよさがあります。

鼠02

黒みが多いものより、断然明るいグレーが美しいのです。紫みのあるグレー、青みのあるグレーとさまざまですから、お好みでお選びください。

【石原工芸】付下げ 「絢爛春秋花・白鼠」

また特に便利なのは、グレー地の名古屋帯。
どんなきものにも合うのです。季節を問わない柄を選べば長く締められるでしょう。

グレーのきものもまた、いろいろな帯と相性が良いのでTPOに合わせてお楽しみいただけます。

そして、グレーは八掛でも威力を発揮します。
「八掛に困ったら鼠色」というくらい万能ですから、八掛選びの参考になさってください。

案外難しいのが茶色です。

茶色01

お顔立ちにもよりますが、ある程度年齢が行ってからのほうが茶色は似合うのではないかと思います。

以前見かけて印象的だった茶の紬をキリリと着ていた方も、少々お年を召していました。
また、どちらかといえば、体格のいい人に似合いやすいという印象もあります。

ふだんはあまり茶色に手が伸びないという方も、秋にはぜひお召しになってください。
茶色は、秋も深まるころに着たい、秋の色です。

初夏の花をまとう

風薫る5月

風薫る5月です。

第一部で上演される『あやめ浴衣』にちなんで、この季節らしいアヤメ・カキツバタ・ハナショウブの柄をご紹介しましょう。

アヤメ、カキツバタ、ハナショウブの区別はつきますか? 
咲く場所や時期が少し違いますが、いずれもアヤメ科の植物で、花もよく似ています。

きものや帯に描かれるときには単純化されるので、さらに区別がつきにくくなるようです。取り合わせるものや柄全体の雰囲気から、アヤメだな、カキツバタだな、と区別しているのではないでしょうか。

アヤメ

アヤメというと思い出すのが、芸者衆の黒の絽の引き着です。アヤメが描かれ、博多の献上帯を柳に結んだ姿が涼しげでした。

ほかに、ゆかたの柄としても人気があります。やはり紺・白の組み合わせが素敵です。こちらも博多の献上帯が似合います。

カキツバタ

カキツバタは、帯にも印象的なものがあります。

群れ咲くカキツバタを配した金地の帯が、グレーのきものによく映えました。尾形光琳の「燕子花(かきつばた)図」(屏風)のような帯です。ピンクベージュに金彩を施した訪問着との取り合わせもよいものです。

また、カキツバタと八つ橋との組み合わせもおなじみです。
「八橋模様」といって、これも尾形光琳の「八橋蒔絵螺鈿硯箱(やつはしまきえらでんすずりばこ)」から始まったといわれています。

型染めで表現された八橋模様の帯も爽やかで、5月の風を感じるようでした。
これらの柄は着用する期間は短いけれど、初夏ならではの贅沢なお楽しみ。でも、アヤメ柄のゆかたなら、もう少し気軽に、長く楽しめます。

ハナショウブ

友禅紬九寸帯「花菖蒲」
友禅紬九寸帯「花菖蒲」

東京では、三社祭(5月)がゆかたの解禁です。
そして、端午の節句には菖蒲湯に入って、邪気をはらいましょう。

ちなみに、お湯に浮かべるショウブはアヤメ科ではなく、ハナショウブとは別の植物。
がまの穂のように小さな花が咲きます。

監修:大久保信子
文:時田綾子

 
 

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