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春を運ぶ装いで、桜姫を満喫 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.4

春を運ぶ装いで『桜姫』を満喫 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.4

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第三部の『桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)』は四世鶴屋南北による、ちょっと官能的な作品です。清玄と釣鐘権助には片岡仁左衛門、白菊丸と桜姫には坂東玉三郎。ふたりがこの演目で共演するのは1985年以来とのこと。初日が待ち遠しいですね。

春の訪れとともに歌舞伎座へ

歌舞伎・桜姫を満喫する

東京は桜の開花宣言も間近、今年は春の訪れが早いようです。

4月は歌舞伎座へと参りましょう。
「四月大歌舞伎」(4月3~28日、9・19日は休演)の話題はなんといっても、36年ぶりとなる仁左衛門・玉三郎の『桜姫東文章』です。

四世鶴屋南北作『桜姫東文章』

第三部の『桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)』は四世鶴屋南北による、ちょっと官能的な作品です。
清玄と釣鐘権助には片岡仁左衛門、白菊丸と桜姫には坂東玉三郎。ふたりがこの演目で共演するのは1985年以来とのこと。初日が待ち遠しいですね。

桜姫は激動の人生を歩みます。自分を手籠めにし、家宝を盗んだ強盗・権助に恋をしてしまうのですが、その時に身ごもった子供と権助を最後には手にかけるのです。でも、それは父と弟の敵討ちでした。
至極簡単にいうとこんな話ですが、その間に、それはもう、いろいろなことが起こります。
4月には、この物語の前半の「上の巻」が上演されます。

そもそものはじまりは、僧・清玄と稚児・白菊丸の心中事件です。白菊丸に後れを取った清玄は生き残りました。
17年後。出家を決意した桜姫が、今は高僧となった清玄のもとを訪れた際に、清玄は桜姫が白菊丸の生まれ変わりだと気づくのです。そして、桜姫と権助は再会します。桜姫、清玄、権助―。3人はどうなっていくのでしょう?

装いのテーマはもちろん桜

見どころのひとつは、運命に翻弄され漂泊の人生を歩む桜姫のキャラクター。しかし、桜姫は流されているようで、決して自分を見失ってはいません。お姫さまらしい華やかな赤の衣裳と、きらびやかな髪飾りを身に着けた桜姫。その名にちなんだ装いとなれば、やはり「桜」がテーマとなりましょう。

桜の柄はさまざまです。枝に咲く桜を写実的に描いたものから、紋様化した桜、風に舞い散る桜に水面に散り敷く花筏…。

きものは季節の先取り、がセオリーではありますが、うっかりすると一度も身に着けられないまま花の季節を逃してしまいかねません。昨今、開花はどんどん早まり、初日を迎えるころ、東京はすっかり葉桜になっていそうです。
それでも、春らしい、「桜姫」を思わせる取り合わせに心ひかれます。桜はソメイヨシノだけではありません。遅咲きの八重桜や枝垂れ桜など、まだ桜の季節は続きます。南北に長い日本列島を思い、少しばかりおおらかに考えてもよろしいのでは、とも思いますが、いかがでしょうか。

小物で楽しむ桜モチーフ

それでもやはり気になるという方は、小物で桜をおおいに楽しみましょう。

桜色の帯締めや帯揚げ、桜をモチーフにした帯留め、桜の刺繍をほどこした半衿…。バッグに桜柄の手ぬぐいや風呂敷をしのばせる、というのも春ならではのお楽しみです。そこでぜひおすすめしたいのが、桜色の帯揚げです。

桜色の帯揚げは、どんなきものにも映えるのです。
いくつになっても、いつでも使える、とても便利な色なのですよ。

紬には濃い色の帯揚げもよいですが、やわらかものには薄い色が似合います。きものの地色より薄ければ、なおいいでしょう。

だいぶ以前、歌舞伎座帰りに素敵な方をお見かけしました。白髪の、少しお年を召した方の後ろ姿だったのですが、薄い桜色の、縮緬の帯揚げをしているのが目に入りました。とてもいい感じでしたので、さっそく取り入れ、愛用するようになりました。いまも重宝しています。

それから、刺繍半衿を縫い付けるときは、少し注意が必要です。刺繍のどちら側を出すのかをよく吟味すること、そして左右の刺繍の高さをきっちり揃えないことです。上前の模様の方がほんの少し(5㎜~1㎝くらい)上になるように、背中心をずらすとよいのです。
これは、きものデザイナーでアンティークきもの収集家でもあった、今は亡き池田重子さんから教わりました。池田さんは「シンメトリーでは面白みがない」とよくおっしゃっていました。ちょっとずらして、美しく見えるポイントを追求しましょう。

”春を装う心”が、春を運ぶ

また、王朝文化では衣の色の組みあわせで季節などを表現しましたが、こうしたところからヒントを得るのもいいかもしれません。「桜の襲(かさね)」といわれるものには、白と赤をかさねてほんのりとピンクを表すだけでなく、異なる赤をあわせて色の濃い桜を、紫を用いて花と葉が同時に出る山桜の風情を表現するなど種類も多く、いかに桜が愛されてきたかが分かるというものです。
緑系の色で葉桜をイメージしたものもあるそうです。これなら、時期にぴったりかもしれませんね。
『有職の色彩図鑑』(八條忠基、淡交社)、『王朝のかさね色辞典』(吉岡幸雄、紫紅社)などを参考になさってはいかがでしょう。

つまるところ、(人からは分からなくても)桜を身に着けているという、心もちこそ肝要といえるのではないかしら。
4月は寒暖の差が大きい時期です。はおりものが手放せない上旬と打って変わって、下旬には、はや夏かという陽気にもなります。下着などでも上手に調節して、快適にお過ごしください。

監修:大久保信子
文:時田綾子

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