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文様を探す〝連想ゲーム〟を楽しんで 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.6

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6月は歌舞伎座「六月大歌舞伎」から舞踊二題をご紹介しましょう。第一部の『夕顔棚』、第三部の『銘作左小刀 京人形』です。舞踊だからといって、特に決まりなどはありません。小紋でも付け下げでも、お好みのお召し物でお出かけください。

6月は舞踊二題

初夏の日差しがまぶしい、さわやかな季節ですが、思うように外出できない日々が続きます。せめて、劇場で楽しいひとときを過ごせれば、と願うばかりです。

6月は歌舞伎座「六月大歌舞伎」(6月3~28日、7・17日は休演)から舞踊二題をご紹介しましょう。

第一部の『夕顔棚』、第三部の『銘作左小刀 京人形』です。

舞踊だからといって、特に決まりなどはありません。小紋でも付け下げでも、お好みのお召し物でお出かけください。それぞれからモチーフになるような柄を考えてみましょう。

夫婦仲よく夕涼み

まずは『夕顔棚』。
これは比較的新しく、川尻清潭(かわじりせいたん)によって第二次大戦後に作られた舞踊劇です。1970年代までは時折見られましたが、久しぶりに上演された前回が2015年なので、あまりなじみのない演目かもしれません。農村で夕涼みをしている老夫婦が、昔を思い出してちょっと色っぽく踊るという趣向です。

江戸時代の絵師、久隅守景(くすみもりかげ)による国宝『納涼図屏風』―上空に満月がふんわりと浮かび、夕顔の棚の下で夫婦と子供が涼んでいるーそんな世界が想起されます。また、歌川豊広の『夕顔棚納涼図』にも、夕顔咲く棚の下で、ちょっと一杯やりながら涼む男女が描かれています。
まるで絵から抜け出たように、婆(尾上菊五郎)と 爺(市川左團次)が踊ります。ちょっとユーモラスで、ほろりとさせられるような郷愁が味わえることでしょう。

こうした雰囲気には、やはり夕顔をモチーフにした帯やきものがぴったり。

京の工芸染匠・京友禅付下げ「夕顔」
京の工芸染匠・京友禅付下げ「夕顔」
錦工芸・唐織九寸名古屋帯「夕顔」
錦工芸・唐織九寸名古屋帯「夕顔」

ほかに、団扇(うちわ)など夕涼みを連想させるもの、夏の宵を思わせる、しっとりとした風情が感じられるものもよいかと思います。

夕顔と源氏物語

夕顔といえば、源氏物語を忘れてはいけません。
第四帖「夕顔」では、若き日の源氏の君と夕顔の女君の恋が描かれます。この帖にちなんで、御所車や扇が夕顔と一緒に描かれます。御所車は源氏の君の乗り物、扇は、ふたりの出会いのモチーフです。

乳母の見舞いに出掛けた源氏の君は、隣家に夕顔が美しく咲いているのに目を留めます。和歌が書かれた扇の上に夕顔が載せられ、源氏の君のもとに届けられたことから、恋が始まりました。
農村の夕涼みの夕顔とはだいぶ趣が異なりますが、こんな雅な世界をまとうのも素敵です。

美しい京人形が踊り出す

そして、もうひとつの『銘作左小刀 京人形』は、日光東照宮の眠り猫で有名な、伝説の彫刻師・左甚五郎がモデルです。

甚五郎(松本白鸚)が、恋い焦がれた小車太夫を等身大の京人形に彫り上げますが、魂を込めたために京人形の精(市川染五郎)となって踊り出す、というものです。はじめは甚五郎のように無骨な男性の動きをするのですが、太夫の鏡を懐に入れるとたちまち女性らしい仕草になるのが楽しいですね。

本来はなかなか長い物語だったようですが、現在では、人形の踊りと、後半の立廻りを見せる舞踊劇になっており、どうしてそうなるのかは深く考えずに楽しむのがよさそうです。

人形に魂が吹き込まれるという話は、自分が作った彫像に恋をするギリシャ神話のピグマリオンや、人形が踊り出すバレエ『コッペリア』など、西洋にもあります。人間が考えることはみな同じなんですね。

ちなんだ柄といえば、まずは人形。
人形柄には唐子や御所人形など愛らしいものも多く、西洋人形などはアンティークで見かけることがあります

そして、鏡。
女性の魂が鏡に宿るというのは興味深いですね。舞踊『黒髪』なども連想されます。さらりと手鏡を描いた染めの帯もありますが、鏡裏紋、古鏡、鏡裏といわれる、古代からある銅鏡などの裏面に刻まれた模様は、礼装向けの帯などに用いられています。三種の神器のひとつに八咫鏡(やたのかがみ)があるように、鏡には呪力を感じさせる何かがあるように思えます。

梅雨の装いと雨支度

さて、6月は梅雨の季節です。雨に関わる柄、梅雨ならではの柄で装うのもいいですね。

たとえば雨縞。織物ではかすりの柄で、染め物では斜めの線で、雨脚をあらわします。

また、雨蛙、青梅、紫陽花など雨が似合う柄もさまざま。

中でも、雨蛙などは印象がとても強いので、毎度毎度身につけるにはちょっと…となるのが難点といえば難点でしょうか。厳選した枚数で過ごすようになった現在では、こうした柄をあまり見かけなくなりました。もちろん、ふんだんにお召し物をお持ちの方の一枚としては、季節らしい楽しい装いになるでしょう。

最後に、雨支度を少しご紹介しましょう。
何はなくとも雨ゴート。雨ゴートを選ぶときの条件は、なんと言っても小さく畳めて軽いことです。バッグに入れて持ち歩くことを考慮しましょう。素材は絹ものから化学繊維のものまで、さまざまなものが出ていますから、お好みでお選びください。
足元は、底から水が染みない草履に、雨よけのカバーをつけて。雨下駄は風情がありますが、劇場には不向きですからご注意ください。

京都きもの市場 雨コート

雨ゴートの下のきものは、心持ち、短めに着つけるとよいのですが、しっかり降っている時は、きものだけを端折ってクリップなどで帯に留めてしまいましょう。裾が汚れないように注意することが何より大切です。目的地についたら、コートを着たままで、サッと元に戻します。うっかり、先に脱いでしまわないように!

雨の日のきものでのお出かけは、いろいろ気を使います。
それでも、雨の日ならではの楽しみもあります。雨だからといって、着るのをためらわないようになれば、きものの世界はさらに広がることでしょう。

※2021年5月15日現在の『歌舞伎美人』発表の公演情報によります。
今後上演形態や演目などに変更が生じることも考えられますので、随時ご確認ください。

監修:大久保信子
文:時田綾子

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