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「ホリ・ヒロシ 人形舞と着物の世界 in 二子玉川」 “華ときもの祭 2020 美の共演” イベントレポート vol.2

「ホリ・ヒロシ 人形舞と着物の世界 in 二子玉川」 “華ときもの祭 2020 美の共演” イベントレポート vol.2

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今年も二子玉川で、華ときもの祭が開催されました。 今回は、人形舞の創設者として一世を風靡しているホリ・ヒロシ氏の特別イベントをレポートしてまいりました。人形舞は私にとっては未知の世界でしたので、ワクワクしながら伺いました。

ソーシャルディスタンス、ニューノーマル…
withコロナという現実を知らない地球人がいたとしたら、何か素敵な習慣かしらと勘違いしそうな響きを耳にしながらのあいかわらずの毎日…
本当の終止符がなかなか打たれない前代未聞の米大統領選…

架空の世界と思いたいような不安な空気も漂う時代ですが、ありがたいことに、ふとすぐ近くに視線を落とすと、おだやかな青い空の下、街路樹や公園の美しく色づいた銀杏や欅が彩る晩秋の景色や、凛とした初冬の気配への移りかわりが目に映り、元気をくれるプレゼントのようです。

第三波が訪れる前には、増えた人出に若干の安心感と温かさを感じて、日常生活を楽しむいつもの感覚が甦っておりました。
お洒落をして楽しむこと、さらには自己表現のひとつとしてファッションをアピールしたくなるという欲求は、いかにいろいろな意味で、安全で安心な平和があることが前提であるのだ…とつくづく思います。

華ときもの祭

まだまだ冬場に向かって心配は尽きませんが、そんな気分を一蹴するような、一年で一番気候の安定した11月、文化の日を少し過ぎた晩秋の数日間。
今年も二子玉川で、華ときもの祭が開催されました。
毎年、見ごたえのあるたくさんの着物工房やブランドの展示、華やかなパフォーマンスや講座等が催され、この季節の大きな楽しみのひとつになりつつありますね。

今回は、スペシャルゲスト、人形舞の創設者として一世を風靡しているホリ・ヒロシ氏の特別展示コーナーとそのイベントをレポートいたします。
人形舞は私にとっては未知の世界。お話をいただいた時から、ワクワクしながら伺いました。

レポーター 松嶋 綾

音大出身、ピアノ教師、フラワーアーティストとして活躍する傍ら、着物好きが高じて着付け講師資格を取得、着物愛好家として日常を通して着物文化の素晴らしさを広めることを使命とし、その着こなしは周囲から熱い支持を得ている。

レポーター松嶋綾)

人形舞の創設者 ホリ・ヒロシ氏

人形舞の創設者 ホリ・ヒロシ氏

催しのパンフレットにも掲載されているものですが、とても素敵なショットなのでこちらをチョイスさせていただきました。少しだけお若い時かしら。
今も、還暦を過ぎたお歳とは到底思えないお若い印象でした!
そのお写真は後ほど。

ホリ・ヒロシ氏プロフィール

1958年1月1日生まれ
人形作家、人形師、衣装デザイナー、着物デザイナー、吾妻流宗家・吾妻徳穂の直弟子で名取・吾妻瑤穂。
人形舞の創設者であり、従来の人形を使う文楽や人形劇とは異なる独自の舞台芸術、人形舞を行う。

1981年 白蛇幻想(ワダエミプロデュース)でデビュー
1986年 シドニー国際ビエンナーレ招聘
1998年 ホリ氏の人形だけで製作された映画『浮舟』(篠田正浩監督作品)が、宇治市『源氏物語ミュージアム』において永久上映
2000年 NHK『源氏物語の世界』放映
    パリ芸術祭招聘公演が『ル・モンド』紙等で絶賛される
2001年 比叡山延暦寺にて富田勲作曲『源氏物語幻想交響絵巻』を上演
2003年 北米7都市で1ヶ月に渡り『源氏物語の世界』を上演 等々

『源氏物語』は、ホリ氏のライフワークのひとつにもなっているそうです。

その他、舞台作品、映画、CDのジャケットまで、列挙しますときりがないので省略させていただきますが、現在に至るまで、日本のみならず海外20ヵ国45都市、ニューヨークのリンカーンセンター、ロンドンのロイヤルアルバートホール等、憧れそのものと言える舞台で多数公演され、国内外で高い評価を受けています。
また、日本における次のような主な受賞歴も数々の輝かしい経歴を形作っています。

1978年 青山学院大学在学中『楊貴姫』創作人形公募展入選
1979年 『福助猿』日本創作人形協会優秀賞
1987年 着物文化賞
1991年 人形舞創設により東京都民文化栄誉賞を史上最年少で受賞

幼い頃から人形創りをはじめ、大学在学中「人形に動きをつけたい!」という意欲が湧いて遂には、『人形舞』という独自の舞台芸術を完成させたというわけです。
着物デザイナーとしても、ほぼ同時進行で活動されています。
今回は主に人形舞についてフォーカスしますが、もちろん「きもの祭」ですもの、素敵なお着物も後でご紹介しますね。

トークショーとともに、人形舞の一部が上演されるということで、舞台の前に着席して心待ちにされているみなさま、もしかしたら久しぶりのお着物という方も多いのでは。なおさらコーディネートに力が入ったり?
素敵な上級者の着姿の方が多いように思いました。
ソーシャルディスタンスで満席にできないのがもったいない!

なかには熱烈なファンの方もいらっしゃるかもしれないみなさまの後ろから、人形舞初心者の私は、上手いアングルを捉えきれず格闘しながらお写真を撮らせていただきました。

トークショースタート
ホリ氏の解説が始まりました!

解説されるホリ氏。
ねっ、キリッとした袴姿も素敵で、お若いでしょう!!

数々の実績を積み重ねていらしただけに、風格がおありですが、若々しく気さくで優しいお人柄。

私もファンの仲間入りをしそうです…!

さて、お待ちかねの人形舞。
この日観せて下さったのは、江戸川乱歩原作『人でなしの恋』という演目の中から『焔(ほむら)』という舞。

江戸川乱歩原作 「人でなしの恋」という演目の中から、焔 (ほむら) という舞。
思わずうっとりと引き込まれる人形舞

思わずうっとりと、引き込まれました。

人形を使った舞台やお芝居は洋の東西を問わず数知れずあれど、このような美しい形に昇華したものとは!

お写真だけではその素晴らしさをお伝えしきれないのが残念です!

人形は、「張り子細工」という手法で作られているそう。
張り子細工とは、型に紙を貼り重ねて成型し、糊が乾燥してから型を抜き取り塗装仕上げしたもの。中が空洞なので仕掛けを入れることができるとか。
基本的には、人形の衣装の裾のあたりに脚を入れて一緒に踊るそうです。

人形のお顔は、竹久夢二寄りのうりざね顔で妖艶な美しさを湛えています。
人形の衣装も生地の図案からデザインし、髪型、髪飾りに至るまで全てオリジナルの作品だそうです。

ひとつの演目の上演時間は1時間10〜30分くらいあり、人形の大きさは身長約170㎝、重さ18〜23kgもあるそうですから、写真のように踊りながらリフトするのは特にかなりな体力が必要。
ふと小耳に挟んだ情報では、ボクシングなどもされて筋力や体幹を鍛練し維持していらっしゃるとか。
そのようなハードな努力が、優雅な舞と若さの秘密だったようです。

江戸川乱歩原作「人でなしの恋」

原作の江戸川乱歩の小説。
耽美な感じの素敵な装丁のもの。

『人でなしの恋』あらすじ

昔、京子という娘が、街の名士であり驚くほどの美男子の門野という男に嫁入りした。

門野は世間の亭主がとても真似できないほど京子を可愛がったが、実はそれは、門野には人に言えない秘密がありそこから立ち直ろうとする努力に過ぎなかった。
しばらくすると京子は、門野が夜な夜な部屋を抜け出し、蔵にこもっていることに気付く。

浮気を疑うが、蔵から出てくるのはいつも1人。
不可思議さと、やがては恐ろしさを感じるようになり、ついにある日、追い詰められた京子は蔵に乗りこみ、箱に収められた人形を見つける。
信じ難いが、門野は人形との逢瀬を重ねていたのだ。
京子は思わず、人形を滅茶滅茶に壊してしまう。
その夜、なかなか戻ってこない門野に胸騒ぎがした京子が蔵で見たものは、血の海に折り重なった門野と人形の骸であった。

人の情念と、ありえない幻想の世界が交錯する、妖しくも美しい、そして悲しい物語。
なんとも不思議な感覚の余韻に浸らされてしまう…
江戸川乱歩らしい作品のひとつですね。

今回の音源は生演奏ではありませんでしたが…
『焔』は、蔵で戯れ踊る門野と人形の愛の舞、情念を掻き立てるような琴や胡弓の激しく美しい調べに乗って流麗な舞が繰り広げられました。

琴はご存知の方がほとんどだと思いますが、胡弓という楽器、そしてその音色、ご存知ですか?

このような形をしています。

アジアの、弦を擦って演奏する擦弦楽器の総称ですが、日本古来の伝統楽器でもあり、明治以降は尺八が胡弓に代わることも多くなりました。
江戸時代には、琴、三味線とともに三曲合奏という形式で盛んに演奏されました。

胡弓という楽器をご存知ですか?

出典:(一財)民主音楽協会
https://museum.min-on.or.jp/collection/detail_G00229.html

独特の哀切な響きが、この物語と舞の特徴をより切なく訴えかけてきます。
胡弓や尺八、日本人の音楽の世界観を象徴する楽器のひとつですから、このような舞に他のどんな楽器よりもぴったりなわけだとしみじみ思いながら聴いていました。

実際の公演で、プロローグとエピローグで京子の役を演じるのは、人形ではなく女優の三田佳子さん。
その他に色々な俳優さんからのオファーを受け、そこから作品ができることもあるそうです。

共演者⁈のお二人

舞い終わられた共演者?のおふたり。

人形の美しい立ち姿…

ズームしてお目にかけます。
綺麗に作り込まれた人形の中に心や魂…?を感じてドキッとしてしまいます。

ズームにしてお目にかけます
舞い終わられた後に、アップでお目にかかることができました。
人形の中に心や魂…?を感じてしまいます。

ウィキペディア等からの抜粋ですが、究極の和の美の表現のみならず、その作品は古今東西バラエティーに富んでいます。その中からいくつかの舞台写真をお見せします。

編みゆく糸
『編みゆく糸』
源氏幻想人形絵巻
『源氏幻想人形絵巻』
『鳳凰』
エキゾチックなお顔の部分のアップ。
黒蜥蜴〜予感
『黒蜥蜴〜予感』

黒子として人形を操る場合と、このように共演者として踊る場合とがあるそうです。
それぞれ、どんな物語が繰り広げられているのか…
ぜひ、生の舞台を観てみたいです!

日本舞踊家、人形師、着物デザイナー。
それぞれの卓越した才能と技術、創造力、そして美を追求する姿勢が結集されて確立した独自の芸術分野…
大がかりな舞台装置や多くの出演者等は必要とせず、象徴的に表現される唯一無二の世界、素晴らしいエンターテイメントですね!

トークショーと『焔』上演の前にインタビューさせていただいたところによると、人形舞は「人形での表現、人形の動きに適した内容の物語を探すところ」がまず一番のポイント。
プロデュースや音楽は依頼し、それ以外のほとんどをご自分の手で創作されているそうです。
いろいろな俳優さんからのオファーがきっかけで作品が作られることもあるというのは先述の通りですが、若尾文子さん、大原麗子さん、三田佳子さん、田村正和さんなど、どなたも昭和の日本を代表する俳優さん女優さんのお名前ですね。

さて、着物作家としてのお顔にスポットライトを当ててみましょう。

会場にもう一体、お着物姿の人形が立っていました。

こちらは、人形舞『風の夢〜越中おわら幻想〜』という演目で使われるようです。

次は着物作家としてのお顔にスポットライトを当ててみました。
米倉涼子さんが黒革の手帳でも着用した友禅染めの訪問着。

広げた絵羽状態は、こちら。

米倉涼子さんが、ドラマ『黒革の手帳』でも着用した友禅染めの訪問着です。
カラーのお花が思いっきり鮮烈な色と柄で表現されていて、とても目を引きます。
舞台衣装としても活躍している作品ですが、モダンで現代の風景にもマッチ。パーティーの華になれそうです!

もうひとつ、なんとも美しい訪問着が飾られていました。

もう一つ飾られていた訪問着もパーティーの華の風格でした。

鮮やかな薊(アザミ)の花、やはりパーティーの華の風格ですね!
いずれの作品も、大輪の華に!
着物づくりも、最高の生地と染めの技法で丁寧なお仕事をされています。
発色の素晴らしさには目を引くものがあり、触れると丈夫でしなやかな上質感が伝わってきます。

ただこのような華やかな訪問着は、多少TPOを考えてしまいますね。
もう少し着やすい粋なデザインの作品も、いろいろとラインナップされていましたよ。

いくつかの帯や小紋をご紹介いただきました。

=着やすく粋なデザインのラインナップもありました。
いくつかの小紋や帯が紹介されました。

こちらは、同じ柄の色違いです。

ウサギがモチーフの帯

お気づきですか?
すべてモチーフは、ウサギさんです。

柄の中にうまくウサギさんが入り込んで散りばめられています。
月に住むとされるウサギは「月を呼び込む→ツキを呼び込む、招く」もの。
ゲンを担ぎ、『月うさぎ』としてブランド名に冠しているのだそうです。

なるほど!
他にも色々ありますが、ホリ氏の着物ブランドの代表的なものです。

ウサギさんモチーフも、伝統的な柄行きと豊かな色彩で仕上げるとこうなります。
だいぶ印象が変わり、フォーマルにも使える帯ですね。

伝統的な柄行きで仕上げると、だいぶ印象が変わります。
お客様にお見立て中

お客様にお見立てするホリ氏。

『月うさぎ』ブランドの素敵なコーディネートが完成したようです。

素敵なコーディネートが完成。

サインもいただけるなんて、この会だけのスペシャルな機会ですね!

お人形の八頭身のプロポーションの横でお恥ずかしい限りですが、せっかく撮っていただいたので…

お人形と並んで

最後に、ホリ氏の若々しく凛々しいお姿を!

今日は「人形舞」と「着物」というふたつの和の世界の魅力にしばし時を忘れて(取材を忘れて)堪能させていただきました!眼福でございました。
本当にありがとうございました。

これからも人形舞が、歌舞伎や文楽、その他素晴らしい日本の伝統文化と肩を並べて、永遠に世界中の人々を楽しませてくれる確固たる地位を築いていってくれることをお祈りしています。

あとがき

広大な宇宙で、人間として生まれる確立は何百兆分の一とか。
唯一無二の存在として生まれたからには不可抗力の苦しみや不幸はあったとしても、日常を楽しみ、文化を享受し、生きることを謳歌する姿勢を忘れたくないですね!
今日もそんなことを、しみじみと思わせる素敵なイベントでした。

もうしばらくはソーシャルディスタンスやオンラインに馴れ親しみ、マスクをおともに、いつもよりは密やかに、でも確実に、to be continued…
未来の文化への橋を渡って行きましょう!

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