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空澄んで秋めいて 「光をはらむ、季節の着物コーディネート」vol.7

空澄んで秋めいて 「光をはらむ、季節の着物コーディネート」vol.7

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さらさらと乾いた涼しい風に撫でられて、だんだんと早く暗くなる夜に急かされて、ふわふわと穏やかな秋の空気感に包まれます。空も大気も澄みわたる中、景色は濃く深まり、すっかり秋めいてきました。この透明感と濃厚感のハーモニーをコーディネートに取り入れて、秋のはじまりを喜んで迎えましょう。

朝晩涼しく、過ごしやすい季節となりました。朝の日の光は柔らかく、空気は広く澄みわたり、遠くの景色は濁りなくくっきりと、花々が鮮やかに香り立ちます。晩夏から初秋の変化は少しづつではありますが、五感で多く気づかされます。
秋は着物をお召しになる方にとっても、これからお召しになる方にとってもベストシーズンです。薄物、単衣をへて、袷本番の季節はもうすぐです。暑くも寒くもなく、爽やかに軽やかに心地よく纏いましょう。

いつどこへ行こうか、何をしようか、どなたとご一緒しようか、想像を巡らすのはとても楽しく、そこにどの衣装を纏おうかと着物も含めて、選択の自由を持てることは究極の贅沢です。(『香る余韻』参照)
人と直接会うことが減っている今だからこそ、いざ対面で会うときには思いっきりおしゃれして、豊かな時間を過ごしましょう。今秋は春夏に色々控えていた分含め、存分に楽しみたいと思っています。みなさまはいかがでしょうか。

今回「調和美」の中で、季節を愛でることに焦点をあててみます。
袷の着用は10月がはじまりと一般的に言われていますが、昨今の気温の上昇に伴い単衣をお召しになってもよろしいようです。
初秋における、澄みわたる大気の透明感と深まりつつある豊潤な自然をコーディネートの中に取り入れてみましょう。

透明感を感じさせるとしたら、薄い清らかな色味をどちらかに。
そのまま清らかな色味を取り入れてもいいですし、清らかさを感じさせるように、あえて濃い色味とのコントラストで透明感と濃厚感のハーモニーで感じさせてもいいかもしれません。

秋の透明感をあらわすコーディネートのコツ

透明感と聞くと、化粧品のコマーシャルやお肌の印象などを連想される方もいらっしゃるかと思います。透明感は漢字で表す通り、濁りやくすみがなく明るく透き通った感じとのことです。

この時期の大気はまさしくそんな感じで、さらさらと爽やかで涼しく、それ自体は目に見えないけれど、目に入るいつもの情景を映えさせるように感じます。
主張は無いけれど、なんだか心地よくて気持ち良くて、主張ある深くなりつつある自然や香り立つ花々ともうまく調和できていて、そのやわらかな存在感に心惹かれます。

そのような透明感をあらわすとしたら、ご自身がお好きな薄い清らかな色味を取り入れてみましょう。お好きな色味に水を加えたようなイメージです。また色濃くなりつつある自然を濃い色として一部に取り入れて、薄い濃いのコントラスト、または薄い濃いのハーモニーを楽しんでみましょう。

透では 清らかな透明感を
凛では 華やかな透明感を
粋では 淑やかな透明感を

みなさん自由に想像して、楽しく考えてみてください。
着物3枚に帯3本で3パターンご紹介します。お好みに近い感じはありますでしょうか。

着物コーディネート 透

透前後横

・小花柄の小紋
・印伝の花柄の袋帯
・鳩羽鼠の縮緬の帯揚げ
・薄いブルーの冠組の帯締め

清らかな透明感を

着物コーディネート 凛

凛前後横

・大花柄の小紋
・流れのある柄の袋帯
・遠州茶の縮緬の帯揚げ
・淡い黄色の冠組の帯締め

華やかな透明感を

着物コーディネート 粋

・絞りの小紋
・竹柄の染めの名古屋帯
・純色の縮緬の帯揚げ
・グレーの貝の口の帯締め

淑やかな透明感を

わびさび

おもしろいもので、日本の伝統文化にひとつでも触れる機会があると、その延長線上で他にも惹かれるということがありませんか。わたしの場合は着物を通して、新たな興味が湧いたり、新鮮な発見ができたり、新しい経験をさせてもらっています。

以前より(『みずみずしい新緑と調和する花々』参照)着物コーディネートは完璧や精緻に考えつくされたものでなくその時の感性で”いい加減”をおすすめしていますが、これは元々仏教用語の”中道”を引用させてもらっています。
極端に偏らず張りつめ過ぎず、緩み過ぎずという意味で、なるほどなと共感し、こういう考えもあることに心癒されました。

前回は(『香る余韻』参照)、記憶に残る忘れえぬ人を「ありのままのその人らしさ」と説いていますが、これは元々茶の湯の世界における、茶室に続く道である”露地”を引用させてもらっています。
茶室に行くまでの”露地”を歩き進めながら、一旦日常の役割や立場を脱ぎ捨てて、心を裸にする、露わになる、そういう特別な時空間は大切だなと、心動かされました。

今回は数年前にいただいた本に、今更ながら感銘を受けましてご紹介させてください。
”わびさび”とは何ですかと質問を受けて、皆さま答えられますでしょうか。私は正直答えられません。

『わびさびを読み解く』 レナード・コーレン著

レナード・コーレンはニューヨーク生まれの作家であり、編集者であり、雑誌の刊行以外にデザインや美学に関する著作を数多く執筆されいます。この本は1994年に発売以降、世界を魅了した美の哲学として、世界で読み継がれています。日本語訳の初版は20年後の2014年という、逆輸入のような本です。

心に響いた一節をお伝えします。

わびさびは
不完全ではかなく未完成のものが織りなす美
謙虚で慎ましやかなものが織りなす美
ありきたりでないものが織りなす美

美の定義はそれぞれ。
”わびさび”の美を感じられるよう繊細な感性を持ち合わせていたいものです。

センスを磨くには Part.9

センスを磨くには

以前(『口説かれ着物の纏い方』参照)「センスを磨くには」の初回において、コツはないけれど、3つおすすめをしました。

1.想像力を養うこと
2.一般的な概念や型に囚われないこと
3.自分を知ること

今回はその中で、3において「調和美」を改めてご紹介したいと思います。

季節の移ろいを着姿に反映させることは着物コーディネートの醍醐味のひとつであり、「調和美」という感性であると以前ご紹介しました。(『うららかな春の装い』参照)

今でも”美しい装いは一日にして成らず”ということを痛感しており、そのような際に必ず立ち戻るのは「調和美」であり、机上の知識や技術のことではありません。
自己演出に偏らず、他者を思いやり、自然を愛で、シーンまで想像しながら纏う着物を通して、「調和美」という感性を自然と磨くことができると信じています。

しかし着物の枠など一切無くても、生きていく上でこの感性が大切なのだと、最近気づかされました。

アメリカの思想家であり哲学者であるラルフ・ワルド・エマーソンが、少し飛躍はしますが、同様のことを説いていて驚きました。ご存知の方も多くいらっしゃるかと思います。

It is easy in the world to live after the world’s opinion; it is easy in solitude to live after our own; but the great man is he who in the midst of the crowd keeps with perfect sweetness the independence of solitude.

世の中で人々の意見に沿って生きるのはたやすい。また独りで自分の意のままに生きるのもたやすい。しかし大勢の中で周囲と調和しながら、自立した個人でいられる人こそ偉大である。

周囲と調和しながら、みなと一緒でも無く、自己満足でも無く、”自分らしい美しい装い”でいられたら…
きっとエマーソンは素晴らしいと称賛してくれるかもしれません。

美しい装いは人それぞれ、”自分らしい美しい装い”を。

周囲と調和しながら、みなと一緒でもない
自分らしい美しい装いを

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