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みずみずしい新緑と調和する花々 「光をはらむ、季節の着物コーディネート」 vol.2

みずみずしい新緑と調和する花々 「光をはらむ、季節の着物コーディネート」 vol.2

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新緑の恵みを存分に受ける季節がここまできています。心地良い空気感と明るい日差しのもと花々だけでなく、草木も芽吹き、色づきはじめました。この時期の緑は明るく、柔肌のような質感と透明感を感じる色味が特徴です。生きるパワーを感じ、癒しを与えてくれる緑と共に調和する花々を想像し、着姿に反映してみましょう。

4月も半ばを過ぎ、百花繚乱の美しい花々の競演の舞台裏からみずみずしい緑がすくすくと顔を見せてきました。暦としては穀雨の時期となります。
漢字の通り穀物の種の成長を助ける雨のことを表します。

2月4日の立春から春がはじまり、5月6日の立夏までが春です。4月20日くらいからはじまる穀雨の期間は春として最後のステージとなります。この時期の雨は春雨と言われ、細かいシャワーのようで穀物を潤すのにちょうどいい穏やかな雨です。

お花の市場では芍薬の季節がやってきます。シャクヤクと片仮名であったり、Peony(ピオニー)とも言われています。
芍薬はさまざまな品種がありますが、つぼみのときから可愛らしくまん丸あたまで、咲いた姿は花弁が幾重にも重なりとても華やかです。
新緑の軽やかな緑ととても相性が良く、それらと合わせたときの調和が絶妙です。

花は自分が咲き誇る季節を愛でながら、自分だけが主張し目立つのでなく、周りの緑とも溶け合い調和しながら、見るものに癒しと潤いを与えてくれます。
着物コーディネートにおける調和美の感性に通じるところがあります。

有名な芍薬にまつわる言われがあります。”立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花”
美人の象徴として女性を花にたとえ、女性の立ち居振る舞いを形容したようです。

残念ながら作成者は不明ですが、女性の理想像と同時に女性の印象の変化を表しているようです。

・芍薬、牡丹、百合コーディネートのコツ

新緑の明るい光のもと、みずみずしく透明感を感じる緑と空気感を背景に、それらと優雅に調和する花々をイメージしてみます。
”立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花”もヒントにします。
これらのお花の柄の着物や帯をお持ちの方はそれを生かすのも一つです。
芍薬や牡丹の開花は5月6月、百合は5月から8月なので季節も先取りすることができます。

女性を花に見立てて、芯はありながら柔らかで優しげな雰囲気を醸し出したいので、濃い深い色味よりも淡く明るい色味を使ってみます。
今回は優美(きれい)、可憐(かわいい)がお好きな方は得意な感じかもしれません。

濃い深い色で表現する場合は、白っぽいものをどちらかで取り入れてみてください。
濃い色、特に黒は後退色といって、陰影を作る性質があります。
一方白は進出色といって、前に飛び出す性質があります。
よって白っぽいものを取り入れるだけで着こなしに奥行きが出て、より濃い深い色が引き立ちます。

立ち姿の芍薬はしゅっと縦ラインを感じるように、座り姿の牡丹は近くで見るインパクトを感じるように、歩く姿の百合は一緒に歩いてて寄り添う柔らかさを感じるように。
こちらは皆さんの自由な妄想と想像力で楽しく考えてみてください。

着物3枚に帯1本で3パターンご紹介します。
お好みに近い感じはありますでしょうか。

・着物コーディネート 芍薬

・淡い緑の現代柄の江戸小紋
・撥鏤(ばちる)尺柄の織の名古屋帯
・純白の帯揚げ
・左右が薄紫と淡いブルーの丸組の帯締め

カジュアルでありながら凛として綺麗

・着物コーディネート 牡丹

・グレーの琳派の牡丹柄の型染めの小紋
・撥鏤(ばちる)尺柄の織の名古屋帯
・薄空鼠色の帯揚げ
・白と銀の三分紐
・グレーパールの帯留め

可憐でありながら小粋でハンサム

・着物コーディネート 百合

・薄い緑の小花柄の付け下げ
・撥鏤(ばちる)尺柄の織の名古屋帯
・若草色の帯揚げ
・白に銀亀甲の貝の口帯締め

優雅でありながら品よく清楚

・”立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花”とは

美人の象徴としてのご紹介した言われは、江戸時代の後期である天保・嘉永年間(1830年~1854年)の都々逸(どどいつ)という三味線と共に唄われる俗曲の中で生まれました。
都々逸は男女の恋を唄ったものが多かったようです。

当時「どどいつどいどい」と言うはやしは「どどいつ節」と呼ばれ、その節回しを完成させたのが、都々逸坊扇歌(どどいつぼうせんか)とのことです。
独特の節回し、しゃれた歌詞を即興で作って唄い、名声を博したようです。
本名は岡福次郎といい、当時の常陸(茨城県)出身、医者の息子でした。

残念ながら”立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花”は作者不詳です。
しかし医者の息子であった岡福次郎が関わっているのではと想像してしまう他の説があります。

一説では漢方薬の用い方に例えたとも言われています。
芍薬も牡丹も百合も生薬の一つです。
今でも血行障害や筋肉のこわばり、婦人科系などに処方されています。「芍薬甘草湯」(しゃくやくかんぞうとう)、「当帰芍薬散」(とうきしゃくやくさん)「大黄牡丹皮湯」(だいおうぼたんぴとう)、「桂枝茯苓丸」(けいしぶくりょうがん)など聞いたこと見たこと飲んだことある方も多くいらっしゃるかもしれません。

”立てば芍薬”は気の立っているイライラとした女性、”座れば牡丹”は腰の重たい女性、”歩く姿は百合の花”はひょろひょろとした虚弱の女性を表しているようです。
そんな不健康な女性もそれぞれの生薬で症状が緩和、改善されるとのことです。
当初の美人の象徴とは印象ががらりと変わります。
表だけでなく裏に深い意味を込めていたのかと想像しますと先代の博学さに大変驚かされます。
美人は健康であってこそ、心身ともに健康であることが大切ということを改めて実感させられます。

・着こなし美人とは

着こなし美人と聞くと、皆さんはどういう方を思い浮かべますか。
または想像しますか。先ほどは心身共に健康な美人の象徴とされている言われをご紹介しました。
こちらでは着物美人ではなく着こなし美人を一緒に考えてみましょう。
着こなし美人であれば着物美人になれますが、着物美人は着こなし美人であるとは限りません。

現代の私たちの多くは日常の普段着は洋服です。
かつて着物は普段用、おでかけ用、礼装用と分かれていたと想像します。
しかし多くの現代人にとっては着物は日常普段着ではなく、おでかけ用と礼装用になってしまいました。

冠婚葬祭時の礼装用とおでかけ用の大きく2パターンになります。
洋服に例えると、スーツ(もしくは制服)とそれ以外のイメージです。

礼装用の着物はルールや礼を尽くす要素があり、コーディネートが制限されます。
よってルールさえ知っていてば、どなたも美しく装うことが容易です。
一方でおでかけ用はルールがなく自由度が増すので、調和美の概念を知っていてもなかなか再現するのは難しいと言われます。

スーツ(もしくは制服)姿がビシッときまっていても、私服である日常普段着が素敵とは限りません。
逆も然りですが、日常普段着が素敵な方は、スーツ(もしくは制服)姿でも再現できる可能性は高くなります。
着物も同じです。
おでかけ用のコーディネートが自分らしく再現できるようになると、礼装用も楽に対応できるようになります。

私の周りの着こなし美人は皆さんそろって、その時の自身の気持ちやテンションから全体のトータルバランスでコーディネートされているように見えます。
点ではなく面のイメージでしょうか。程よくこなれ感があって、纏う空気感や雰囲気にハッといたします。

おそらくコーディネートは、完璧や精緻に考えつくされたものよりもその時の感性からなんとなくといういい加減さがちょうどいいように感じます。
いい加減は仏教用語で言うと”中道”と言われ、極端に偏らず張りつめ過ぎず、緩み過ぎずの意味となります。

それが女性のしなやかさ、柔らかさ、優しさにつながり、目を引く着こなし美人になるのではないかと思われます。
シーンに応じてばっちり決めるのもいいですが、ほどよく力が抜けていて自分らしい装いをされている方は見ていて惹かれませんか。

それでも着物コーディネートに迷った時には、調和美に立ちもどってみてください。
(着物コーディネートVol.1参照)
そしてその時の自身の感性をもとに、けして華美にもならず野暮にもならないセンスで、
いい加減にできれば、あなたも着こなし美人の仲間入りです。

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