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陽恋しい向寒 「光をはらむ、季節の着物コーディネート」vol.9

陽恋しい向寒 「光をはらむ、季節の着物コーディネート」vol.9

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空気がキリリと乾燥し、肌寒さが冷たさに変わる頃、真白な冬がだんだんと近づいていることを感じます。寒さの中の温もりは極上の癒しと艶を与えてくれます。湯船に浸かって、人肌に触れて、羽毛布団に包まれて、絹を纏って。乾いた季節に潤いに満ちた着姿で颯爽と登場してみましょう。

紅葉真っ盛りの中、朝晩冷え込んできました。
秋から冬の変化は、暖かい日もあれば寒い日もあって、まるでグラデーションのように季節が移り変わっていきます。

気づけば年末まで1ヶ月ほどとなりました。
今年は思いがけずの出来事で”ニューノーマル=新しい生活様式”という新しい言葉が生まれ、世界そして社会全体に色々な変化の波がありました。
普通が普通じゃない、いつも通りに安住できない、今まで通りが通用しない世界。
しかし従来の「こうあるべき」などの価値観の呪縛から解き放たれ、周りの変化に対して自分らしくしなやかにチューニングできる時代になったのかもしれません。

海外系の某ファッション雑誌に書いてあった文言を思い出しました。
まさしく今だからこそ、この文言が刺さりました。

” FREE YOURSELF ”
” CREATE YOURSELF ”

” 時代は追うな ”
” 時代をつくれ ”

意訳されていましたが、自分を解き放って、自分をつくっていくというそのままの意味でも十分心に響きます。

変化多く不確かで、複雑で曖昧な時代に生きる私たちは、未来を予測するのは到底難しく、そうであれば未来はこうしたいと作るくらいな気持ちでいる方が良いのかもしれません。

今回「調和美」の中で、季節を愛でることに焦点をあててみます。
自分らしくしなやかにチューニングする意味を込めながら、秋から冬と変化する自然の色味を意識してみます。
季節を愛でながら自身も愛で、今っぽく進化を促してくれる大柄帯を活用したコーディネートをご紹介します。

目次
・大柄帯を活かすコーディネートのコツ
・着物コーディネート クラシカルモダン
・着物コーディネート シックモダン
・着物コーディネート ウルトラモダン
・大柄帯の魅力
・センスを磨くには Part.13

大柄帯を活かすコーディネートのコツ

着回しが色々できますよ」 「何にでも合わせやすいですよ」 とアドバイスをいただいて、とてもコーディネートしやすい帯を手にすることもあるかと思います。
実際そういう無難な帯をお持ちですと、迷った際にとても重宝します。

今回は、主役級とも言える”大柄帯”をぜひおすすめします。
目に飛び込んでくるような主役級の帯は、デザインや色味にインパクトがあり惹かれますが、実際の着物とのコーディネート、使い回しを考えた際には購入を躊躇することもあります。

しかしコーディネート次第では、着回しもできますし、いつもの感じにインパクトをもたらすこともできます。特にお下がり着物においては、そしてもちろん今の着物においても。
祖父と伯母のお下がり、そして私の着物でコーディネートをご紹介します。

お下がりアイテムをより活かしたいと思った時、想像以上に寄り添ってくれ、古典とモダンが絶妙にチューニングされ、纏うのも楽しくなります。
ぜひお手持ちにインパクトのある大柄帯などがありましたら、取り入れてみてください。
もしそうでない方は、帯をお求めになる際にそのような帯もぜひ選択肢に入れてみてください。

”クラシカルモダン” 明治生まれの祖父のお下がりの紬と
”シックモダン” 昭和生まれの伯母のお下がりの江戸小紋と
”ウルトラモダン” 私の小紋と

みなさま自由に想像して、楽しく考えてみてください。
着物3枚に帯1本で3パターンご紹介します。お好みに近い感じはありますでしょうか。

着物コーディネート クラシカルモダン

クラシカルモダン前後横

・節がある紬
・円形柄の袋帯
・ベージュの地紋入りの縮緬の帯揚げ
・薄黄色の冠組の帯締め

紬が粋な雰囲気に

着物コーディネート シックモダン

シックモダン前後横

・道長取りの江戸小紋
・円形柄の袋帯
・黒の地紋入りの縮緬の帯揚げ
・黒の三分紐
・楕円の石の帯締め

江戸小紋が垢抜けた雰囲気に

着物コーディネート ウルトラモダン

ウルトラモダン前後横

・デフォルメされた松柄の小紋
・円形柄の袋帯
・鼠色の縮緬の帯揚げ
・丸組みの片方に柄入りの帯締め

小紋が洗練された雰囲気に

大柄帯の魅力

大柄帯の魅力

先のコーディネートで「大柄帯は意外と着回しができる」「おもしろい」と思っていただけましたでしょうか。
大柄帯の魅力は、何といってもそのインパクト。
柄や色にもよりますが、人目を惹き、コーディネートのポイントになったり、印象の掛け算になったり、全体の雰囲気に変化をもたらすことができます。

無地や無地感のある着物にはもちろんのこと、小紋と合わせて柄と柄の組み合わせも楽しめます。
前回柄on柄のコーディネート(『豊潤のススメ』参照)をご紹介しましたが、大柄帯が一番おもしろく仕上がるのは、実は柄on柄ではないかと思っています。
なぜなら柄に柄を合わせることは、実際合わせてみるまでなかなか想像がつきにくいからです。

柄on柄は、合わせ方によっては調和がとれずうるさくなったりしますが、絶妙なバランスを表現することは醍醐味であり、洋服ではなかなかできない楽しさです。
“いい感じ”に仕上がるとコーディネートに立体感がうまれ、スタイルを整えてくれるようにも感じます。無地には無地の良さがあり、柄には柄の良さがあります。

着回しやコーディネートのしやすさを考えると、印象が強い帯を手にとることは少ないかもしれません。柄の印象が強い小紋も同様です。
一度着用したら覚えられてしまうのではと心配される方もいらっしゃいますが、心配は無用です。

むしろ周囲の方に覚えてもらえ、記憶に残る着物や帯であれば、とてもすばらしいと思いませんか。着物をお召しにならない方からすれば、着物の人程度が大体の方の印象です。
着物をファッションとしてより楽しむのであれば(『甘美な誘い』参照)、余韻すら残せる印象(『香る余韻』参照)を与えられたらと思っています。

はっと目に入る出会いがあったら、ぜひお手にとってコーディネートを想像してみましょう。難しいと思うほど、きっとあなたの心強い味方になってくれます。

センスを磨くには Part.13

以前(『湿感と戯れる』参照)、センスを磨くにあたり、着物や帯を購入する際の具体的な事例を3つ挙げさせていただきました。

1.たくさん見る触れる
2.自分しか似合わないような幻想を抱く
3.着装シーンや他アイテムとのコーデを考える

今回は3.において、コーディネートをセンスよく進化させるための心持ちをお伝えします。

” 買う時は点で、装う時は面で ”

着物や帯・小物類を購入する際、「まとめてコーディネート一式で購入する」方、「単品で購入する」方、またその時々によっても異なると思います。
どちらであっても、お伺いできる機会があれば、その作品が生まれた背景やストーリー、技術の話などぜひ耳を傾けてみてください。作り手の方もお店の方も喜んで教えてくださると思います。

オンラインで購入する際も同様で、説明書きはしっかり拝読しましょう。
またお下がり着物や帯を譲っていただく際も、購入時のお話をお伺いしてみましょう。
それによって作品に愛着と特別感をより抱くことができます。

海外生産があたりまえの時代に、日本国内において人の念い(おもい)と温もりで作られたものを手にできる、そして選択できることは究極の贅沢です(『香る余韻』参照)。
購入する(譲っていただく)際に一つ一つと向き合うことはとても有意義であり、またその時点から、装うあなたのストーリーははじまっています。

そして装う時には、大切な一点一点を繋げ「線」として、そして「面」としてコーディネートを捉えてみましょう。
一点一点はすばらしい逸品なのに、バラバラした感じでコーディネートが纏まらないことがあるかと思います。そのような際には今回何を主役にしたいのかを考え、着物なのか帯なのか、もしくは小物なのかを決め、思いきって引き算をしてみましょう。

百花繚乱の色柄が楽しめるのは醍醐味ですが、点を繋げ、線として流れを作り、面としての纏まり感を意識してみるといつもの装いも少し変わってくるかもしれません。

点から優美な線へ、そして優雅な面に。
美しい装いは一日にしてならず。

着物コーディネートは、点から優美な線へ

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