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江戸の粋・不自由のなかの自由 「自分らしさを解き放つ、シーン別着物コーディネート」 vol.1

江戸の粋・不自由のなかの自由 「自分らしさを解き放つ、シーン別着物コーディネート」 vol.1

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粋は江戸時代の庶民生活の中から自然と生まれてきた美意識です。継続的に贅沢が禁止され倹約を推進されていた時代の中で培われました。豪華絢爛な安土桃山時代が続いていたら、生まれていなかったかもしれません。制限がある中で工夫して着物を楽しんでいた江戸の人たちにならって、令和の粋を再現してみましょう。

江戸の粋は今から約400年前から始まった江戸時代の中で生まれた感性であり美意識です。
令和を生きる私たちが普段何気なく使っている粋という言葉には歴史的背景が含まれています。

江戸時代は徳川家康が1603年江戸に幕府を開き、第15代の徳川慶喜が1868年大政奉還するまでの265年間になります。通称徳川時代とも言われ、大変長い時代でした。

一方その前の安土桃山時代はたった30年間の短い時代ではありましたが、織田信長、豊臣秀吉と豪華絢爛な時代であり、様々な分野の文化的促進がされた時代でした。

千利休の茶の湯文化、詫び寂びが生まれた時代でもありましたが、粋はその中では生まれることはありませんでした。

江戸時代は贅沢を禁止して倹約を促進するような法令が長きにわたり、何度も出されました。
内容によっては農民だけではなく、士農工商身分問わず色々なことが制限されました。

衣装にはじまり、食生活、交際時のお土産の内容まで、ある意味現在の企業の法令遵守や服装規定に近いようにも感じられます。

身に纏う衣装に関しては、布の素材から、色、施される技術、柄、値段まで幾度となく規制がかかるという今では想像できない細かい縛りを受けていました。

そのような窮屈な中においても江戸の人たちはめげませんでした。
知恵を絞り、工夫を凝らし、センスを磨き、一層着物を楽しんでいました。

きっとそれは徳川家康が遺訓として残した「不自由を常と思えば不足なし」という言葉が、江戸の人たちの心にも響いていたのかもしれません。

令和の粋コーディネートのコツ

江戸の粋にならって、まず着用する色味を「茶」「鼠」「藍」で考えてみてください。
藍は紺色と読みかえても大丈夫です。
お持ちでない場合はご自身がお持ちの中で渋い、深い、落ち着いた色調と思われるものを見てみてください。

またこれら色味をお持ちでない場合ややっぱり明るい色や華やかな色が好みという場合はコーディネートに使う色を限定してみてください。

令和に生きる私たちは使える色柄も素材も多くあるので、あえて色味や色数を絞ってみて、令和の粋を再現してみましょう。

いつもは可憐(かわいい)、優美(きれい)な雰囲気が多い方やお好きな方は、今回を機にぜひ新たな感じを見つけてみましょう。

限定された色味の中で、ご自身が好きな雰囲気を演出してみましょう。
難しく考えず、ご自身がドキドキわくわく楽しくあることを大切にしてください。

今回は「茶」「鼠」「藍」の色を着物に反映させて3枚の着物と3本の帯で3パターンご紹介します。
たくさんの色を使わずとも、地味な色味だけでも合わせ方次第で印象が変わりますね。お好みに近い感じはありますでしょうか。

着物コーディネート 鼠系の小紋

・鼠色格子柄の花織の小紋
・白黒の植物柄のたたき染めの袋帯
・紺鼠色の帯揚げ
・紺鼠色の帯締め


カジュアルでありながら小綺麗

着物コーディネート 茶系の小紋

・赤茶色の植物柄の型染めの小紋
・紬地の流線柄の染めの帯
・胡桃染色(グレージュ)の帯揚げ
・胡桃染色(グレージュ)の帯締め


シックでありながら華やか

着物コーディネート 藍色系の小紋

・本藍染の藍色グラデーションの小紋
・本藍染の織の袋帯
・真白の帯揚げ
・鼠色の帯締め


清楚でありながら凛々しげ

江戸の粋とは

「粋」を辞書で引いてみると「意気」から転じた語で気性、態度、身なりがあか抜けていて、自然な色気が感じられること(さま)、人情・世情に通じていること、そして反対語は「野暮」と説明されています。

制限ある生活の中から生まれてきた粋は美意識と言われるだけあって、たしかに芯があり、潔くてかっこいい江戸っ子のイメージを感じられます。
着物の色に限ると「茶」「鼠」「藍」などの地味な系統の色味しか纏うことができませんでした。

そうであるならその中で微妙な違いの色を作ればいいと多くの茶系や鼠系の色味が作られました。それが比喩として四十八茶百鼠と言われています。
実際は48色以上の茶色、100色以上の鼠色があったようです。

粋と聞くと可憐(かわいい)、優美(きれい)ではなく、かっこいい系と思ってしまうのはこういう色味の印象があるからですね。
けして華やかな色や明るい淡い色に粋とは使いません。
感覚的になんとなく分かると言うのは潜在的な日本人のDNAでしょうか。

四十八茶百鼠とは

“しじゅうはっちゃひゃくねずみ”と読みます。
先述の通り、着物の色は「茶」「鼠」「藍」のみと限定されていました。
一方で「紫」「紅」などの華やかな色は禁止されていました。

その中で江戸の人たちは工夫して微妙な色味の違いを繊細な感性から作りだし、結果茶系統、鼠系統、藍系統と多様な色を生み出しました。

当時茶色は植物のタンニン、鼠色は墨やどんぐり、藍は本藍を染料としたようです。
今は化学染料もありますが、当時は天然染料のみでしたので相当な時間と労力を要したと容易に想像できます。

江戸時代後期には歌舞伎役者の衣装の色にも使われ、当時の流行色になったり、役者の名前がついたりしたようです。
例えば芝翫茶、団十郎茶です。
現代の私たちは漢字を見ただけでは色がわかりかねますが、逆にどんな色かと想像を膨らますことができます。

このように江戸の人たちは不自由の中に自由を見出し、知恵と工夫から粋という美意識を作りました。
そのような姿勢や心持ちの先代たちから私たちは多く学ぶ事があります。

江戸の人たちに思いをはせ、今回のコーディネートから令和の粋を感じていただけましたでしょうか。

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