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神無月、文様に想いを寄せて 「現代衣歳時記」vol.3

神無月、文様に想いを寄せて 「現代衣歳時記」vol.3

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京都祇園の禅寺に生まれ、東京でサロン「enso」を主宰する伊藤仁美さん。一児の母でありながら着物を日常着として暮らしておられます。移ろいゆく季節の中、着物を纏い五感の美を暮らしに取り入れることで心地よく豊かに過ごすヒントを綴る…美しい禅語とともに語られる連載をお楽しみください。

澄み切った空気の中、風に香る金木犀の香りが秋の深まりを知らせてくれる頃になりました。日毎に色づく木々、青い空に浮かぶ鱗雲に赤トンボ、そんな彩り鮮やかな風景に映る装いは、ほかの季節とはまた違った楽しみをもたらしてくれます。
季節の巡りに感謝しながら秋の実りを祝い纏うことでその瞬間を謳歌しながら、想いを装いに託せること。これこそ着物の醍醐味といえます。

吉祥文様訪問着の胸元

先日、以前から楽しみにしていたイベントがありオンラインでの出演だったため、上半身しか見えないというなかで、どれだけその日の感謝を衣装に込められるかと思い悩みました。
オンライン上でも季節を感じていただき感謝の心を伝えられるもの…
そこで私の目に留まったのは、一枚の吉祥文様の訪問着でした。

胸元から肩にかけて「組紐文様」が刺繍により施されています。
「縁結び」の意味をもつ「組紐文様」―
会のみなさまとのステキなご縁に祈りをこめて纏うことにしました。

想いを文様に込めることができる、着物。
その楽しみを覚えてから、実はあまり得意ではなかったコミニケーションが円滑に進められるようになりました。

言葉にうまくできなくても、纏うことで心を伝えることができる。私にとって「文様」は、その日会う人へのラブレターのようなものです。

宝尽くし帯
all photos by mika kibata

帯は「宝尽くし」にしました。「宝尽くし」は、いろいろな宝物を並べた縁起のよい吉祥文様ですが、もともとは中国の文様だと言われています。それが室町時代に日本に伝わり、日本独自の柄にアレンジされて宝尽くし文様となりました。

隠れ蓑や隠れ笠などのように危険から身を守るようなものや、打出の小槌のように願いをかなえるもの。さらに金嚢・宝鑰などのお金に困らないように願いを込めたものなど。様々な祈りを衣装に込め、それを纏う。古来から人びとの切なる想いは変わることなく、日々の生活は祈りの中にあることがわかります。

いにしえから日本人は自然と調和し四季を愛で、見事なまでに衣食住の中にそれらを取り込み、日常の中に美を見出してきました。
その類稀なる感性は今を豊かに生きるヒントにあふれているように思います。

先人の叡智や美意識の結晶ともいえる着物。
そのなかにある「文様が繋ぐストーリー」がこれから先もずっと続いていくことを願いながら、今日もお会いする人へ想いを纏い、玄関の扉を開けいちにちがはじまりを告げます。

臥月詠花眠雲 (つきにふしはなをえいじくもにねむる)

禅写真

「月のひかりを浴びながら横になり、花を眺めながら歌を詠み、雲を纏って眠る。」

花鳥風月とともに暮らす豊かさを。
日本に四季があるからこそ、その時、その瞬間、その人の為に纏えるものがあることを。
今を、心と体すべてで愉しむということを。
着物は私たちにそっと教えてくれています。

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