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長月、単衣の私的な愉しみ「現代衣歳時記」 vol.2

長月、単衣の私的な愉しみ「現代衣歳時記」 vol.2

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京都祇園の禅寺に生まれ、東京でサロン「enso」を主宰する伊藤仁美さん。一児の母でありながら着物を日常着として暮らしておられます。移ろいゆく季節の中、着物を纏い五感の美を暮らしに取り入れることで心地よく豊かに過ごすヒントを綴る…美しい禅語とともに語られる連載をお楽しみください。

夜になると虫の声が秋の気配を伝えてくれる頃になりました。
朝晩は心地よい風が吹くようになり、装いがますます楽しくなってきます。
とはいっても、まだまだお昼間には暑さが残るので着こなしには工夫が必要です。

9月中はお着物は単衣を着ても、肌着や長襦袢は絽で涼をとります。長襦袢のお襟は袷にしておきますが、お着物の中は夏物にしておくだけで風が通ります。
そしてスタイリングでは、私にとって一年で最も色重ねを楽しめる時期でもあります。
紅葉の美しいグラデーションの景色が後押ししてくれ、普段のコーディネートの色合わせよりも少し大胆にし、奥行きを意識します。

日常着として着物で生活するなかで、この温暖化とうまく折り合いをつけていくために単衣は強い味方となってくれます。6月9月のみならず、盛夏以外のすべての月で単衣は選択としてあります。
礼装以外の場面では「心地よく着る」ことを大切にしているので、「体感」を一番に着るものを選んでいます。
そうすることで、今まで以上に1日1日を大切に過ごすことができるようになりました。

9月は色重ねを楽しめる時期

着物を着はじめたばかりの頃は、反物からお仕立てする際に「単衣と袷どちらにしたらいいのか」は、何を基準に決めたらいいのかさっぱりわかりませんでした。

そんな時、ある出会いによって謎がすっきりしました。

普段に気兼ねなく着れる木綿の着物を探していた時、濃い紫色に黄色の縞模様が入った会津木綿と出会ったのです。カジュアル過ぎず、絶妙な色合わせの粋な雰囲気に惹かれました。
すぐに反物は決まったのですが、さあ問題はお仕立てです。袷にするべきか単衣にするべきか…
その時にお店の方に、「普段着として着られるようなら、生地自体に厚みがありますから単衣で充分だと思います」とアドバイスをいただき、今から考えるとそれがどういうことなのか理解していたわけではなかったのですが、知識がないだけにおっしゃるままに身を委ねてみることにしました。

その意味は、お仕立て上がってきた瞬間に理解できました。
お着物自体とてもすっきりとしていて、普段に着るのにちょうどいい厚みであることが体感できたのです。

それ以来、私にとって会津木綿の着物は、ジーンズのように生活に寄り添ってくれるようになりました。スタイリストとしてお仕事をさせていただく時・ハイキング・子育て…様々な場面で着用しても、さらには汚れても、そしてなんと洗濯機で洗ってアイロンをかけなくてもさまになってくれる。しかも、洗いざらしの質感が個人的には好みです。

会津木綿の着物でスタイリングのお仕事へ
旅の着物・搭乗前

メンテナンスが簡単なだけに、自然と使用頻度が高くなります。
またお太鼓結びにしなくとも、半幅帯や男帯などを巻くだけで充分です。
季節は盛夏以外何度も登場し、寒い冬には中にタートルを入れると暖かいし、足元はブーツだと旅にも快適です。

お仕立ての際に、どんな場面で着たいかを丁寧にイメージし、袷か単衣を選ぶことが大切だと感じた体験でした。

お着物のお好みも着方も楽しみ方も様々。
ご自身のライフスタイルに寄り添ってくれる一着に出会うには、ルールよりも「どんな場面でどのようにその一着と過ごしたいか」が大切なのかもしれません。

雲出本無心 (くもいずるはもとよりむしん)

禅語とともに着物を楽しむ

「どこからともなくわいてきた雲は何に抗うでもなく、風まかせで悠然としている。」

風のまにまに行き交う雲をぼんやりとみていると、自分自身の硬くなっている部分に気づかされます。もっと柔らかなこころで、時には流れに身を任せるように在りたいものです。

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